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序章 選定の儀

ワイウイ16開幕!

楽しんでいただけたなら幸いです

 広いホールを輝くような眩しい光が満たしていた。

見上げると、ドーム状の天井に巨大なシャンデリアが浮かび、火が灯されているのが見えた。どうやらこの広いホールの光源はこのシャンデリアがまかなっているらしい。

眩しい光に目を凝らすと、その天井には無数の突起に覆われ、そのすべてが鏡だった。鏡はシャンデリアの光を乱反射させ、白い花畑のようだ。

床は、磨き込まれたマーブル模様の大理石で、そこに映る自分の姿は、別の次元に引きずり込まれたと錯覚してしまうほど鮮明に映っている。

獅子王宮――そう呼ばれる場所に、自分が足を踏み入れることになるなんて思わなかった。

 クローディアは、亜人の国との国境近くの、人間の国にある小さな村出身だ。

1週間前までは、家族と共に、果樹園の面倒を見ながら暮らしていた。

今年で19才になるクローディアは、人間の国の王都にさえ、産まれてこの方行ったことはない。

クローディアも両親と同じく、ここで結婚して子供を産み、生きていくのだと思っていた。それなのに今、クローディアは、人間、獣人、亜人すべての民の上に立つ獅子王の王宮に立っていた。

 グロウタースにあるこの大陸、青き翼の獅子大陸には、様々な人種が暮らしている。

東西南に国を築き、各種族は多くは固まって暮らしているが、その中心にある地、獅子の瞳と呼ばれる湖には、すべての人種が揃った都がある。

そこにいるのが、この大陸の王だ。獅子王と呼ばれ、任期があり、3つの国から順番に王が立つ仕組みになっている。

しがない平民の田舎娘のクローディアには、難しいことはわからない。

わかっているのは、クローディアには一定以上の魔力があり、そのせいで、この獅子王宮に呼ばれたということだけだ。

 クローディアは、自分の姿を見下ろした。

そうすると1番に目に飛び込んでくるのは、寄せて上げられた胸の谷間だった。……寄せて上げると、それほどでもない胸もこんなに見栄えがするとは思わなかった。

肩を大きく出すデザインの、フンワリと腰から広がって足下を隠すスカートのドレス。黄色のサテンの生地の上で光が踊り、金色の光沢が目を楽しませてくれる――美人だったら似合っただろうなと、クローディアはため息を漏らした。

クローディアは、黒髪に紅茶色の瞳の、平凡な顔立ちの娘だ。こんな、お姫様ような恰好は不釣り合いだ。

しかし、ここまできたら腹を括るしかない。いつまでもウジウジしていたら、相手となる人に迷惑がかかってしまう。……そう思って、まだ選ばれたわけじゃなかったとため息を付いた。

 このままそっと抜け出しても、きっと支障はないだろう。そう思って、出入り口の大きな扉をチラチラと見るが、足をそちらに向ける勇気が出せないまま、ゆったりと場を和ませるように奏でられていたオーケストラが、不意に途切れた。

クローディアが顔を上げると、ホールの奥の壇上に、獅子王が姿を現していた。

ホール中を埋め尽くしていた人々が、サッと壇前を空ける。

どうやら、選定の儀が始まるらしい。もう逃げられない。腹を括ろうと思っては、括るほどの腹もないかと泣きたくなった。だが、せっかくの機会なのだから、今期の獅子王様の顔を見ておこうと俯きたい顔を俯かせずに王の姿を見た。

翼あるライオンを象った金色の王冠を頂いた、壮年の人間の男性――今期の王・アレクセイ陛下の威厳ある姿が目に飛び込んできた。

アレクセイが、壇上で王笏を高々と掲げる。どうやら、選定が始まるらしい。

光が2筋、ホールに注がれる。その光はある着飾った男女を示していた。

「両名、前へ!」

威厳のある低い声が、広いホールに響き渡る。

人混みから壇前にできた広場に進み出たのは、思わず目が釘付けになってしまうくらい麗しい、金色の長い髪の男性だった。

肩甲骨のあたりから三つ編みに結ったその髪が、黒い服に映える。

彼の隣に進み出たのは、これまた相当な美人だった。

ピンク色の髪、意志の強そうな左右で違う、緑と青の瞳の、儚げな女性。2人並ぶと、ホールのどこからともなく、ホウとため息が聞こえてきた。

絵になる。その一言に尽きる1組だ。

 王は再び王笏を掲げる。

クローディアは、選ばれないと心のどこかで思っていた。

だってそうだろう。これだけの人数の中から選ばれるのは。たったの20人なのだ。魔力が一定以上あったって、最初に選ばれたペアがあれなのだ。容姿も選定基準なら、平凡なクローディアが選ばれるわけがない。それに――

 クローディアは、故郷を思った。

亜人の国との国境ということもあり、クローディアの村には亜人種もよく出入りしていた。

彼は、今、どうしているのだろうか。

なじみのウルフ族の青年・カザフサに、巫女候補に選ばれたことを言えずに出てきてしまった。何となく、彼に知られるのが嫌だったのだ。選定に落ちれば、巫女に選ばれなければ、村に帰ることができるのだ。ちょっと村を離れていたと言えば、それでいい。

 俯いていたクローディアは、パアッと自分の周りに光が満ちるのを感じて、顔を上げた。

「両名、前へ!」

え?え?と戸惑ったクローディアの背を、誰かが押した。その手に促されるまま、慌てて細々と開かれた道を通って人々に注目されている広場に足を踏み入れた。

広場には、あの絵になる2人の他に、虎の獣人であるタイガ族の男女と、背の高さが2メートルはあるかと思われる長身な男女――頭に生えた一対の太短い角から、亜人種のエフラの民と思われる男女がすでに並んでいた。どうやら、クローディアがボンヤリしているうちに、3組までの選定が終わっていたらしい。

クローディアは、皆の注目を受けて、足を止めてしまった。行かなければならないのに、足が動かない。

ザワザワとし出したその雰囲気に、クローディアはついに俯いてしまった。

「行くぜ?」

真正面からした声に、クローディアは驚いて顔を上げていた。

クローディアの紅茶色の見開かれた瞳に、金色の光が立ち上るような力強い瞳が飛び込んで来た。彼は、フッと笑った。他意はないはずなのに、クローディアは顔の温度が上がるのを感じた。動けない彼女の手を、彼はムンズと掴むと、クローディアの意志は関係なくズンズンと自分達に与えられた立ち位置に導かれた。

隣の彼をそっと、盗み見る。彼は、10センチほどクローディアよりも背が低かった。こんな大勢の人々の注目されても、その口元には余裕の笑みが浮かんでいた。恐る恐る観察すれば、金色の髪を、無造作に黒いリボンで縛っていて、童顔と見えるその顔立ちだが、黒のカッチリした衣装がよく似合っている。

この人が、わたしの騎士……

夢を見ているような心地でボンヤリしていると、王のよく通る声が響いた。

10組目、最後の巫女と騎士の選定が終わったようだ。

 進み出た女性を目の当たりにした人々から、どよめきが起こった。

何?と視線を送ると、黒髪の女性がこちらに向かって楚々と歩いてくるところだった。

青い光を返す不思議な黒髪、少し大きめな紅茶色の瞳の、可憐な美女。お姫様という人種がいたら、彼女のような人のことをいうのだろうなと思ってしまうほど、美しい所作で、金色の光沢のあるレースをふんだんにつかったドレスを着こなして、人々の羨望を集めて彼女は歩いていた。

彼女の相手の騎士は?興味をそそられて顔を巡らせたクローディアは、ギクリと固まった。

美姫の反対側から現れたのは、灰色の髪の間からオオカミの耳を覗かせた、小柄な男性だった。ウルフ族は、エフラの民とは逆で、背が皆低いのだ。

いや、人間の女性の相手がウルフ族だったから驚いたのではない。

彼は、どっからどう見ても、クローディアのなじみであるウルフ族の青年・カザフサだった。


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