第8話 努力の人 ★カミル SIDE
やっと解放されて、リオの部屋のソファに身体を預けてホッとする。リオの侍女達がお茶やお菓子をテーブルへ置くと、「何かありましたらお声掛けください」と言い残して部屋を出て行く。
今部屋にいるのは僕と僕の補佐官2人とリオの4人だ。初めましての挨拶を終え、向かいに補佐官を座らせた。この2人にも手伝って貰わなければならないからね。
「キース」
茶髪の優しげな補佐官の1人に声を掛けると書類を渡される。
「リオ、先ずは全属性おめでとう!全ての属性を上級まで扱える様になれば、大聖女の称号も狙えるよ」
「カミル、上級魔法は魔力量も多くなきゃ使えないって書いてあったわよ?」
不安な表情のリオににっこりと微笑む。
「魔力は増やせるから大丈夫。それに魔力が多い人間はやりたがらない練習法もあるんだ。これこそ魔法の基礎にして最高の……身につけたら誰にも真似出来ない最強の力となる。リオは全属性だからね」
何か方法があると分かったリオは、パァっと表情を明るくした。さっきも「努力で何とかなるかしら?」と呟いていたくらいだから、方法があれば全力で練習するのだろう。
魔力測定までの10日間でリオが読んだ本の数は100冊を軽く超えていた。興味がある事には集中力が途切れないタイプらしい。努力家である事も分かっている。恐らくリオならコツさえ掴めば大丈夫だと信じている。
「殿下、さすがに厳しいのでは……」
もう1人の補佐官であるクリスが糸目を更に細めて困り顔をしている。全く可愛く無い。これで女の子に人気があるのも解せない。
「リオに僕の幼馴染の魔導士デュークをつける。リオ、デュークは我が国の魔導士団団長で実力は申し分ない男だ」
「性格に難ありですけどね」
クリスがボソッと余計な事を口走る。リオは嫌がるだろうかと視線を向けると、キラキラとした顔にドキッとするが、何を喜んでいるのだろうか。
「カミル、ありがとう!沢山質問しても大丈夫かしら?本で読むだけでは分からなくて……大気中の魔力を集めるやり方とか、実際見なきゃ分からないわ」
僕を含め男3人が固まる。魔法理論の本は最初に渡したから読んでいるのは知っていたが、ピンポイントとは。リオ凄過ぎだろ……
「リオ、その大気中の魔力を集める練習が、最強の練習法なんだよ。自分の中にある魔力はほんの少しバランスを取る為に必要だけど、大気中の魔力を集めて操る事で魔法を使う方法なんだ」
「やっぱり!その方法で魔法を使っていれば、魔力量も増えて一石二鳥なのね!使わないと魔力は増えないって書いてあったけど、私の魔力量じゃ初級魔法すら数発も扱えないものね」
一を聞いて十を知るとはこの事だろう。説明する前に全て理解されてしまった。補佐官2人は固まったままで呆然としているのを横目に捉えつつ話を先に進める。
「さすがはリオ。全て理解していると思って良さそうだね。練習はデュークの予定に合わせる事になるだろう。リオはそれでも大丈夫だろうか?」
「えぇ!勿論よ。魔導士団の団長様だからお忙しいでしょうし、団長様に合わせるわ。今すぐにでも練習したいけど、魔法を使うなら建物の中では無理よね?最初は団長様の指示に従うわ。物を壊しても困るしね」
ふふっと輝く笑顔を見せるリオに、補佐官2人も顔を赤くする。閉じ込めて誰にも見せたくないと心から思うが、リオは望まないだろう。共にした時間は短いが、リオの性格や行動力は理解してるつもりだ。
「夕食後はゆっくりと休んで備えると良い。本は足りてる?読み終えたなら、僕のお勧めを読んで欲しいな」
「そうね……でも、今日から図書館には私も入れる?」
「あぁ、正式な婚約者になったからね。魔力測定で顔も覚えられただろう。何か困った事があれば僕を呼んで?いつでも駆けつけるよ」
「ありがとう、カミル。これまでお手を煩わせてごめんなさいね?私に出来る事は、出来るだけ自分でやりたいと思っているわ。この国の人とも会話して、色んな事を知りたいと思うの」
「それは素晴らしい心意気ですね!殿下が手を離せない時には私共がお手伝いさせていただきますので、気軽に声をかけていただければと存じます」
キースは胸に手を当て、恭しく頭を下げる。クリスも頷き、リオの賢さを認めてくれたように感じた。