第74話 婆やの忠告 ★リオ SIDE
「リオちゃん、話したい事があったから呼んだのよ。アンタレス帝国の皇太子が来てるでしょう?カミルちゃんがね、皇太子は精霊を連れていたとリオちゃんから聞いたって言うのよ。どんな姿だったか教えてくれるかしら?」
「はい。ソラが私の前に現れた時と同じで、白いフワフワした雲の様な姿でした」
「そうなのね……恐らく、連れて来た精霊はソラちゃんに近い上位の精霊よ。精霊はね、契約した時点で姿を変えている事が多いの。契約者に触れたり出来る様にね。なのに雲の姿に戻っている……雲の姿に戻れるのは、精霊の中でも上位じゃ無いと無理だからねぇ」
ソラも雲の姿に戻れるって事なのかしら?今度聞いてみようかな?精霊にも色々あるのね。
「契約してないと連れて来れないだろうから、契約はしてるって事で合ってますか?」
「えぇ。契約せずに連れて来るのは難しいわ。ソラちゃんもそうだったと思うけど、この国は精霊が居ないから食事である魔力が契約者からしか貰えないでしょう?」
「はい。そう言ってましたね……皇太子が帰るまでは、ソラには部屋に居て貰う事になりましたが、他にも何か婆やが気になる問題があるのでしょうか?」
精霊が近くに居なくても、何かしら私に不利益があると思ってるから私達を呼んだ様に思えた。
「精霊は人間が使えない魔法を使えるのは知ってる?」
「はい。私も『空間魔法』を教えて貰いました。ソラの魔力も使うから、こちらも皇太子が帰るまで使っちゃ駄目だとソラに教わりました」
「えぇっ?もう『空間魔法』が使えるの?リオちゃんは凄いわねぇ。婆は精霊が居ないから今は使えないけど、昔習得した時にはひと月ぐらいは掛かったわよ?」
「婆や、リオ殿は超級魔法まで、全て1発でクリアなさいましたので……」
「まぁまぁ、凄いわねぇ!魔法のセンスが抜群に良いのでしょうけど。『天才型』でそんなにセンスが良いなんて……デュークは形無しねぇ?ふふっ」
「はい……私は魔導士団の団長の座をいつでもお譲りするつもりでいるぐらいです……」
「あははっ、さすがは『純白の魔力』が選んだだけはあるわねぇ。リオちゃん、この世界の人間なら、生まれる瞬間に魔力の色が決まるのよ。リオちゃんは召喚されて、この世界に来た瞬間に色が決まったと思われるのだけど、その色は、魔力の色側が決めるのよ?」
「えぇっ?魔力にも意思があるのですか?」
「えぇ、そうなの。殆どは魂の質に左右されるのだけど、最初は誰でも薄い色で、努力をする事で濃くなって行くのよ。デューク、見せてあげれる?」
「はい」
デュークは両手の掌に自分の魔力を溜めた。綺麗に澄んだ赤色で、引き込まれそうな美しさだ。
「デュークは赤の魔力。王族の『金の魔力』の次に強いと言われているわ。努力したから今は真っ赤だけど、魔法を習い始めた頃は……」
「透明がかった薄い赤でしたね。苺の汁より薄い赤でしたよ」
「…………例えが微妙だと思ったけど、まぁそんな感じなのよ。魔力は透明度と色の濃さが重要でね。悪い事に魔法を使うと、濁った色になるのよ?」
「まぁ!では、デュークは良い事にしか魔法を使って無いから透明度が高いのですね!デューク、良い人なのね」
「見た目が厳ついからねぇ……」
ぶふっ!と吹き出してしまった。婆やの一言は辛辣だけど、とても愛情がある様に感じた。
「リオ殿、笑い過ぎですよ……婆やも!見た目はどうしようも無いでしょう!?私も殿下までの良い男とは言いませんが、せめてもう少し愛嬌の良い男に生まれたかったですよ……」
デュークがしょぼんとしている。そこまで見た目は悪く無いのにね?
「あら、私はデュークの見た目は嫌いじゃ無いわよ?」
「「「えっ?」」」
婆や、デューク、リューが揃って声を上げる。デュークの見た目は少し怖く見えるかも知れないけど、日本で言うところのちょいワル系?ワイルド系?決して顔は悪く無いのよね。
「恐らく、私のいた国ではモテるわよ?デューク」
「えぇー?本当ですか?モテた記憶すら無いのですが」
「毎日のように部屋に籠って魔道具ばかり作ってたら、出会いが無くても仕方ないと思うんだけど?」
呆れてデュークに突っ込む。モテないのでは無くて、恐らく姿を見た人が少ないから、噂だけが知られてるタイプだね。
「ふふふ、確かにそうねぇ。リオちゃんの言ってる事は間違って無いから実はモテるかもねぇ、デューク?これから次第って事ね。リオちゃんって本当に面白いわぁ」
「話しが逸れておりますが……」
リューが申し訳無さそうに声をかけて来る。
「そうだったわね。ふふっ、楽しくってつい、ね?魔力の色の話しだったわよね?それでね、リオちゃんの魔力はこちらの魔法陣に願いを込めたカミルちゃんの意思に応じてリオちゃんを呼び、魔力を与えたはずなのよ」
「え?魔法陣は描くだけでは無いの?」
「それは私が説明しましょう。先ず、異世界から召喚する為の魔法陣を描く訳ですが、召喚したいと思う人間のイメージを思い浮かべながら、王子達は血を染料に入れ混ぜ合わせます。それで我々魔導士がその染料で魔法陣を描きます。因みに王族レベルの濃い血でしか異世界からの召喚は不可能です」
「なるほど、ありがとう。分かりやすかったわ。要するに、カミルは意思を持って私を呼んだと言う事ね?」
「えぇ、そうなります。殿下の求める人物像にリオ殿が一致した為、この世界へ召喚されたのです。ただ、珍しい事に、カミル殿下の魔法陣だけは召喚されるまでに随分と時間が掛かったのです。普通なら、詠唱が終わったら直ぐに魔法陣が光って現れるのですが、殿下の場合は10分ぐらいでしょうか?魔法陣が光続けました」
「あぁ、女神様が色々と質問して来たのよ。それに答えてたからかしらね?この前、刃物で刺された時にやっと思い出したけど……あぁ!教会で祈れば会えるって言われてたのに忘れてたわ……」
3人が固まっている。私は全く気付かずに考え込んでしまった。『立太子の儀』が終わるまでは教会にも行けないわよね?近くの教会って何処にあるのかしら?
「えっふん、またお話が逸れておられますよ?」
リューがわざとらしく咳をした。少し声が裏返ってたけど大丈夫かしら?立ってるの疲れちゃった?
「リュー、大丈夫?少し座ったら?」
「お心遣いありがとうございます。私は大丈夫ですので、どうぞお話の続きを……」
「えぇ、そうね。ちょっとややこしくなって来るんだけど、リオちゃんの『純白の魔力』は、精霊に由来してるのは知ってるわね?」
「はい。ソラに聴きました」
「それでね、この国は女神信仰の国なのに、精霊の加護を持ち、『純白の魔力』を持ったリオちゃんが現れた」
私もデューク達もコクンと頷く。
「今代に1人だけの『純白の魔力』を持つリオちゃんが、この国で召喚された事が問題になる恐れがあるのは分かる?」
「精霊の魔力を持つ私が、精霊と繋がりの深い国に居ない事がおかしいと?」
「えぇ、そう考える人間が多いと言う事ね。特に婆の母国は信仰する者達が……ちょっと怖いのよ……」
「婆や……」
「デューク、大丈夫よ。これはリオちゃんには話しておかないと、皇太子やあの国の行動を理解出来ないでしょう?リオちゃんを守るためにも必要だわ」
デュークは少し苦しそうに婆やから視線を外した。
「リオちゃん、怪我を治して貰った時に少し話したと思うんだけど、婆には使い魔が居たの。その子は婆や仲間を守る為に、最後の力を振り絞って……魔物の中に突っ込んで行って自爆したのよ」
「えっ!?」
「精霊達は、精霊同士でお互いに傷つけ合う事は出来ないの。唯一傷付けられるのは、自爆……要は精霊だけで無く、他にも沢山巻き込む事で倒せるかは分からないけど攻撃が出来なくもないのよ」
「それは……相手が精霊だったと言う事ですか?」
「えぇ、暴走した隣国の皇子の使い魔がね、魔物を大量に呼び寄せて、婆を襲わせようとした上に、国を混乱させたのよ……」
「婆やは王女でしたよね?お兄様とか?」
「皇子は婆の弟よ。王位継承権を破棄すると言う婆を信じられなかった弟は、私を殺そうとしたの」
「それに精霊を巻き込んだのですか?信じられない」
私はその弟が許せないと思った。婆やを傷つけてまで必要な地位なんて……
「ふふっ。リオちゃん、怒ってくれてありがとうねぇ。婆はその時に足を怪我してね……その前からプロポーズをしてくれていた爺さんには邪魔になる婆は放っておいて欲しいと酷い事を言ったりしたんだけどね?」
「もしかして、王位継承権を譲ると決めたのも、爺やと結婚する為だったのですか?」
「そうなのよぉ。ふふっ、懐かしいわぁ。爺さんは、足がどうであれ、自分が好きなのは婆自身だと言ってくれてねぇ?一生面倒見てやるから俺について来い!って」
うわぁー、爺や何気にロマンチストだったのね?爺やは昔、一人称が『俺』だった事の方がちょっと衝撃だったけど。
「素敵ですね……でも、王女と隣国の魔導士では結婚するのは大変だったのではありませんか?」
「婆が怪我をしたでしょう?その時に弟の精霊も消滅してしまったのよね。弟はそれを婆の所為にして、国外追放したのよ。王女が国から外に出たら何も出来ないでしょう?それでも意地を張って、爺さんに頼らずにいたのよ。そしたら、翌日に婆の前に現れて、『シアの弟に挨拶して来たぞ。シアの事は好きにして良いって言われたから、お前は俺が貰うからな!』って……」
婆やは頬を手で覆うが、既に耳まで真っ赤である。
「爺や、強引さがカッコ良いわね!そこで弟を1発殴ってたら最高だったのにね」
「リオ殿、師匠は弟……隣国の皇子をボコボコにして帰って来た様です。陛下がまだ小さい頃だったらしいのですが、前国王が大変だったとお聞きしてますので……」
「その頃には爺やは『賢者』だったの?」
「はい、どうも婆やにプロポーズする為に頑張ったみたいですよ?王女を嫁に貰うなら、立派な肩書きが必要だと言って……」
「何それ!爺やカッコ良過ぎ!婆や、愛されてるのね。初めて会った日に気づいてはいたけど、それ以上ね!思ってた以上に溺愛されてるし、それを全力で行動出来るなんて爺や、素敵だわー!」
「もう!爺さんと婆の事はどうでも良いのよぉ!婆が言いたかったのは、その弟の息子が皇太子って事実と、婆をまだ恨んでる可能性があるから気を付けてねって事と……恐らく、精霊が上位の子だから、リオちゃんの『純白の魔力』に気づいてる可能性が高いって事よ!」
照れながらも婆やが声を上げる。大事な話しだからと呼んでくれたのだから当然なんだけど……婆や達を守った精霊の事は可哀想だと思ったけど、その寂しさを埋めた爺やを少し見直したわ。
「めっちゃ大事な話しじゃ無いですか!」
「そうよ、デューク!揶揄ってないで、ちゃんとリオちゃんを守るのよ?」
「はっ!勿論、命に代えましても!」
「デュークもリューも、命は大事にしてちょうだい。私は恐らく殺される事は無いと思うわ。利用しようとはして来るだろうけど?何かあっても、カミルが助けてくれると信じてるから、それを全力で手伝ってくれる?」
「…………何も無い事が1番ですが、何かありましたらリオ様の仰せの通り致します」
「えぇ、よろしくね。デュークもよ。婆やの為にも私の為にも怪我しない様に立ち回ってね?デュークが居ないと、私の無茶振りを叶えてくれる人が居なくなるでしょう?それも困るのだからね」
「っ!御意……」
その後は4人でお茶を楽しみ、夕食をご馳走になってから帰る事になった。夕方に爺やが「夕食を食べて帰らなかったら、拗ねて明日から仕事に行かない!」といじけたからなんだけどね。
爺やが私の後見人になった事をつい先日聞いてはいたが、婆やと爺やには子供が居ないからと、私を本当の子供……孫の様に思っているのだと、デュークとお酒を酌み交わしながら話してくれた。この世界でも暖かい家族が出来た様な気がしてとても嬉しかった。




