第66話 カミルの苦悩 ★カミル SIDE
リオにプロポーズをすると決めてから、既に10日過ぎていた。何度もリオと話そうと試みるも、どのタイミングでプロポーズすべきか全く分からない……
相談するにも、僕の周りにいる既婚者は国王陛下と師匠ぐらいだ。父親である陛下に相談するのは気恥ずかしいし、師匠は突拍子も無い事を言って突っ走られても困るから相談しづらい。
執務室で籠っていても良い案が浮かばないので、少し散歩でもして気分転換しようと王城を出た。裏庭の薔薇園でも行ってみようかな。
ボーッと考えながら歩いていると、後ろから声を掛けられて少し驚く。
「カミル殿下、ご機嫌麗しく……」
「あぁ、エイカー公爵。裏庭に居るなんて珍しいね?」
「えぇ……その、どうかなさいましたか?殿下には珍しく、何か深く考えておいでだった様でしたので、気になりまして」
エイカー公爵は人の機微に聡いから気づかれてしまった様だ。幼少期から僕らを見て来ているから余計に分かったのかも知れない。
「気を遣わせてしまったんだね。それにしても、良く気付いたねぇ?そんなにボーッとしてたかなぁ?悩みは大した事じゃ無いんだけどね……」
「えぇ、背中に哀愁が漂っていたと言いますか……ただ単に、いつもより目線が下を向いていただけなのかも知れませんが」
「ふふっ。そんなに分かりやすかった?自分で思ってるより、重症なのかも知れないなぁ」
エイカー公爵は既婚者だし、少し話しを聞いてみようかと思えた。彼なら余計な事を口外しないだろう。他に聞ける人もいる様には思えないしね……
「私が聞いてもよろしい事でしたら、お力になれればと存じますが……?」
「ありがとう、公爵。ひとつ聞いてもいいだろうか?」
公爵の方から聞いてくれたから話しやすい。ここはサクッと本題をぶつけてみようかな?
「えぇ、何でもお聞きください」
「公爵は、公爵夫人にプロポーズしたんだよね?」
「えぇ。あぁ……中々タイミングが掴めませんか?」
「良く分かったね。何度も話そうとしたんだけど、何だか今では無いって気がして言えないんだ」
悩んでる事まであっさりとバレてしまった。誰もが通る道なのだろうか……
「私もそうでした。こんなにも度胸が要るとは思わなかったですよ……プロポーズすると決めてから、実際にするまで半年掛かりましたから」
「公爵でもそうだったんだね。少し安心したよ」
「えぇ、私も妻に惚れ込んでおりましたから、快く受けて貰えるにはどうしたらいいかと毎晩悩んでましたよ」
ははっと爽やかに笑う公爵は、当時の事を思い出しているのだろう、とても幸せそうだ。公爵と公爵夫人が熱愛の末に結婚した事は貴族では有名な話しだからね。
「それで、アドバイスとしましては……殿下は指輪はもう準備されましたか?」
「はっ!そうだな、指輪が要るじゃ無いか!後は花とかロマンチックなのかな?」
すっかり指輪の存在を忘れていた。プロポーズと言えば、やっぱり指輪は必需品だろう。他に何が要るだろうかと頭を悩ませる。
「プロポーズの時は、指輪だけの方が良いですよ。花は邪魔になるようです。友人が、花束を大きくし過ぎて、指輪を嵌めてあげるのが大変だったと聞きました」
「ほう!なるほど。確かに邪魔になりそうだね」
「指輪を渡す場所は決めておられますか?」
「いや、決めて無いよ。リオは城外に出すのが難しいのもあるけど、下手に出歩けないからねぇ……」
「確かに……せめて、薔薇園などでは如何でしょう?普段と場所を変えるだけでも、プロポーズしやすくなりますよ。プロポーズするために薔薇園に行くのだと、覚悟が決まると言いますか……」
「なるほど!それは良い事を聞いた。うん、そうしようかな。ありがとう、公爵。とても助かったよ」
「お役に立てた様で良かったです。成功をお祈りしておりますね」
「あぁ、ありがとう。頑張るよ」
公爵と別れて執務室に戻る。先ずは指輪を買いに行きたいなぁ。プロポーズのための指輪だから、自分で選びたい。陛下に許可を得て、城下に行こうか。
「キース、明日の予定はどうなってる?」
「いつも通り、書類の量次第です」
「陛下に城下におりる許可を貰ってくれるか?書類は帰って来てからでも間に合うだろうからね」
「かしこまりました。直ぐに伺って参ります」
キースが執務室を出たタイミングで師匠がひょっこりと現れた。
「カミル、城下へ行くのかの?」
「えぇ、明日にでも買い物に行こうかと」
「ワシが付き合ってやろう。『認識阻害』が必要なのでは無いのか?」
「…………まさか、さっきの会話、聞いてましたか?」
「ホッホッホ。公爵が慌ててお主を追いかけて行ったでのぉ?気になって、公爵を追いかけたんじゃ。そしたら深刻な顔をしたお主がおって、何を悩んでるかと思えば……のぉ?ホッホッホ」
「グッ……まぁ、僕もそんなに酷い顔をしてるとは思っていなかったので仕方ありませんが……」
「ここ数日、悩んでおったのは皆気づいておったぞ?お主から話してくれるのを待っておったのだろう」
まさか皆が気づいていたとは……何だか皆に悪い事をした気になってしまう。
「ありがたい事ですね。僕もこんなに周りが見えて無かったとは……自分でも驚きました」
「ホッホッ、お主も人間なのじゃ。思い通りにならず、悩む事もあるじゃろう。ずっと完璧な人間なんておりゃせんからのぉ?考え事に集中し過ぎて周りに目が向かない自分がいる事も、知れて良かったと思うぞ?」
「そうですね……僕もリオの事だけは冷静で居られないという事実が嬉しくもあるんです。泣く事も、悩む事もそんなに無かったので……リオの前だけでは、人間らしく居られる気がするんです」
「そうじゃのぉ。気づいておらんかも知れんが、嬢ちゃんと出会ってから、お主も人間らしい顔をする様になっておるぞ?王位継承権第一位だったせいで、感情を出さない様に躾けられているとはいえ、人形のように完璧な人間だったからのぉ……心配しておったのじゃよ?」
「そうでしたか……」
完璧な王子になる事ばかりに囚われていたのは理解していたが、周りが心配しているとは思わなかった。皆が求める完璧な王子にならなければと、日々努力して来たのだから当たり前なのだが。
「完璧である事が悪い事では無い。ただ、ずっと完璧でいる必要も無いのじゃ。公には完璧な王子でも、身内には甘えても良いのでは無いかのぉ?お主の周りには、頼れる仲間がおるじゃろうて」
「えぇ、そうですね。今度からは皆に心配をかける前に相談したいと思います」
「あぁ、そうするが良い。街へはいつ行くのじゃ?」
「明日の午後を予定していますが、陛下からお許しが出れば早めに行きたいですね」
「うむ、では明日の午後にお主の執務室に行くからの」
師匠は今回の買い物について来てくれるつもりらしい。1人では不安なので、ありがたく申し出を受けようと素直に思えた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「うむ、ではまた明日の昼にな」




