第64話 デュークと婆や ★リオ SIDE
朝から王太子妃教育の勉強をしていたのだが、もう太陽が高い位置に来ている。そろそろ昼食の時間だろう。
ググーッと凝り固まった体を伸ばしていると、廊下からバタバタと走る足音が聞こえて来る。この部屋に来るのかしらと扉を見ていると、コンコンとノックの音が響いた。
「どうぞ」
「リオ殿、おはよう御座います!」
勢いよく挨拶をしてくれるデュークは、ニコニコ笑顔で部屋に入って来る。
「デューク、もう昼よ?」
「ははは、徹夜したら出来上がったので、お知らせに参りました!」
「え?車椅子が!?もう出来たの!?」
「作ってたら楽しくなってしまいまして……つい?」
「この前も徹夜して『練習装置』増台してたわよね?体は大丈夫なの?無理する事に慣れちゃ駄目よ?」
「はい!お気遣いありがとうございます!『車椅子』は婆やだけでは無く、必ず人の為になると思いましたので、どうしても早く作りたかったのです。魔導師団でも、騎士団でも、治療が間に合わずに体の不自由な者が一定数はおりますので……」
「そうなのね。デュークの気持ちが嬉しいわ。私の無茶振りに付き合ってくれて、ありがとう」
デュークの気持ちが嬉しくて微笑むと、デュークは照れた様に頬をポリポリと掻きながら急かせてきた。
「この様な無茶振りでしたら、いつでも大歓迎ですよ!さぁ、早く私の自信作を見に来てください!」
徹夜のハイテンションで陽気なデュークと魔導師団の建物に向かう。作業場は散らかったままで、出来上がって直ぐに私の所へ向かったのだろうと分かる。
「こちらです!どうでしょうか?」
「素敵ね!イメージ通りの車椅子だわ!座ってみても良いかしら?」
「勿論です!クッションの性能も高めて普通の椅子より座りやすく、動きもスムーズになりました!」
「もしかして、試作品を作った後に改良までしたの?」
デュークが本気になると、未知の道具ですら半日で出来上がるんだなぁと感心していたのに、改良まで終わっているなんて……
「えぇ、勿論ですとも!これは婆やがご利用になるのでしょう?全力で取り組むに決まっている!」
「ふふっ。婆やの事が大好きなのね。私も嬉しいわ」
婆やの笑顔を思い出して、きっとデューク達にもあの優しい笑顔を向けていたのだろうと嬉しく感じた。近いうちに持って行けるだろうから、初めて車椅子を見た時の、婆やの驚く顔が楽しみね。
「私も殿下もキース達も、クソガキの悪ガキだったので……滅茶苦茶お世話になったんです。私は恩返しがしたいと、ずっと思ってたから……この様な機会をくださったリオ殿には頭が上がらんのです」
「ふふっ。そうなのね。私でお役に立てたなら良かったわ」
婆やが聞いたらきっと喜ぶだろう。今度、ひっそり教えてあげようかしら。悪ガキの恩返し……微笑ましいわね。
「どうしますか?今日持って行かれますか?」
「婆やにお伺いをしないとね?急に行ったら驚いちゃうわよ」
「構わんぞー」
「師匠!いつからそこに?」
「ホッホッホ。ワシの隠密魔法を破れんようでは、まだまだだのぉ、デューク。嬢ちゃんは気がついておったようじゃぞ?」
あー、私が気づいてる事にも気づいてたのね……デュークに言うタイミングを逃しただけなのだけど。
「あ……えぇ、言わない方が良いのかなって……」
「えぇ――、そこで気を遣わなくても……」
「だって、爺やがあまりにも楽しそうで……」
爺やは今まで見た中でも1番のニコニコ笑顔で、私とデュークの会話を見守っていたのだ。昨日の今日で車椅子を徹夜で作ってくれた事や、婆やへの感謝の気持ちが、とても嬉しかったのだろう。
「あぁ……なるほど。まぁ、師匠の許可も得ましたし?持って行くなら梱包しますよ。リボンとかつけます?」
「良いわね!誰だってプレゼントは嬉しいものだわ!」
「かしこまりました。直ぐに準備します」
「ありがとう、デューク」
デュークは車椅子を軽々と持ち上げると、建物の中に走って行った。デュークの行動って、デュークが魔導師という事を忘れてしまいそうになるのよね……見た目が厳ついのもあるんだけど、力持ちでもあるからかな?
「嬢ちゃん、浮遊魔法はどうじゃった?」
爺やが笑顔で問い掛けてくる。私がここに来たタイミングには、爺やも隠密魔法をかけた状態で居たわよね?午前に練習したと思ったのかしら?
「昼食後に練習する予定だったのですが、明日にしようと思います」
特級の魔法だから、そう簡単には出来ないだろうしね。イメージは出来てるけど、微調整が難しそうだし。
「デクが来るまで、少しやって見るか?」
「はい!やって見ます」
指導して貰えるとはありがたい。地道にコツコツやろうと思ってたしね。爺やのアドバイスは的確だし、とても勉強になるのだ。
私は足元に防御壁を敷いて、その上に座った。防御壁の下に風を当てるイメージで……少し浮いた所に『竜巻』で1mぐらいの高さまで浮かせてみた。
「…………凄いのぉ。1発で浮遊魔法も成功しておる」
後ろから『突風』で、竜巻ごと押し出すイメージのまま前に進む。スーッとスムーズに進んだ。200m程進んだ所で『微風』を使って方向転換しながら、爺やの元へ戻って行く。
「うーん。浮く方に集中すれば安定はしますが、高さやスピードを気にすると、少し注意力が散漫になります」
「いや、最初から前に進めただけでも凄い事じゃよ?その場でグルグル回るだけで、前に進めないのが普通じゃからのぉ……」
「え?竜巻ごと突風を当てれば前には進みますよね?」
「理論的にはな?突風を当てる位置や向きで、前進が1番難しいのじゃが……まぁ、出来た人間に言っても出来るからだとしか言わんからのぉ。天才型の特徴じゃ」
「ええっと、褒められてるのかしら?」
「あぁ、褒めとるぞ。理論が最初からしっかりしておって、イメージが人より優れている証拠だからのぉ」
「それなら良かった……」
運良く出来たというよりは、勘がいいって事かな?まぁ、浮いて移動出来るのは楽しいから良しとしよう。下に防御壁を敷いてるから、透明な床に座って浮いてる感じなんだけどね。魔法の絨毯みたいに。最終的には爺やみたいに、立ったままでも飛行魔法を使える様になりたいわ。
「出来ましたぞ!」
「デューク、ありがとう!とても可愛らしいわね」
デュークのラッピングは、ピンクや黄色のリボンや包装紙を使っていて、とても可愛いく出来ていた。私は飛行魔法のまま、デュークに近づく。
「えぇっ!もう飛行魔法が使えるのですか……」
「デュークはのぉ、1日目で目を回して落ち、2日目には落ちた時の勢いで、腕の骨を折ったんじゃぞ」
ホッホッホと笑う爺や。笑えないと思う内容に、過去の楽しい思い出になってるのだろうと感じた。デュークは苦い顔をしてるけども。
「師匠……」
「ホッホッホ。ちゃんとワシが治してやったろう?」
「えぇ、さすがの実力でしたが……」
「18歳で特級魔法が使えたのだから、素晴らしい事じゃろうにのぉ?属性もデクが1番最初にクリアしておった」
「凄いわね!デューク!さすが魔導師団の団長だわ!」
やっぱりデュークは昔から魔法が得意だったのね。手先も器用だし、車椅子もあっという間に作っちゃったから、きっと理解力も高いのだろうと感じた。
「現状を垣間見ると、リオ殿に団長の座を差し出す必要性を感じておりますが……」
「私はチートだもの」
「チート?」
「えっと、ズルいって事かしら?」
「嬢ちゃんも、魔力量50からの成り上がりじゃろうて?充分、努力しとるじゃろう」
「それでも、最初から加護や全属性持ちだったわ」
慰めてくれるのは嬉しいけど、魔力量を増やせたのも、デュークや皆んなが手伝ってくれたから。1人じゃ何も出来なかった。カミルが魔法理論の本を持って来てくれたから、魔法の知識もあるだけだしね。
「リオ殿、魔法を使う為には努力は必須です。その努力は毎日何時間も集中してなさってました。そして、魔法のセンスが素晴らしいのは才能です!加護や全属性で無くても、リオ殿は素晴らしい魔導師になれたと私が断言します!」
「うむ、その通りじゃ。大体、嬢ちゃんは加護の恩恵すら分かっておらんじゃろう?」
そう言われると……そうね、加護もスキルも良く分かって無いわね。鑑定スキルは毎日使ってるけど。それ以外はどうしたら使えるのかすら不明だ。それに......
「えぇ……女神様が、スキルの内容は教えちゃ駄目なんだって言ってたから、まだ発動した事も無いんじゃないかしら……?」
「「え?」」
「え?何か可笑しい事を言ったかしら?」
「女神様が、リオ殿がどんなスキルを持っているかを、女神様からは教えられないと仰ったと?」
「えぇ、そうよ?決まり事なんですって」
「「………………………………」」
2人が固まってるのを見て首を傾げる。
「そうですか。それでは、どんなスキルなのか未だに分からないですよねー」
デュークが棒読みで話しつつ、私から目を逸らして遠くを見つめている。爺やもそぉーっと視線を逸らしていた。
「えぇ。だから、一生使わないんじゃ無いかしら?なんて思ってたりするのよ?」
「何事も無いのが1番じゃからのぉ。さて、そろそろ婆さんの所へ行こうかのぉ?」
「えぇ……そうね。何となく話を逸らされた感が否めないけど、行こうかしらね…………」
あからさまに2人ともがホッとしている。知らぬが仏と言うし?どうせ聞いても話してくれないだろうから、気にせず婆やの喜ぶ顔でも想像しよう……
「嬢ちゃん、自分で飛んで見るかの?」
「えぇ、距離も位置も大体覚えているから大丈夫だと思うのですが……」
浮いて移動するだけなら何とかなると思うんだけど、障害物を越えるための高さを維持しなければならないからね。それを安定して出来るのかが少し心配だった。
「危ない時は手を貸すから大丈夫じゃよ」
「えぇ、その時はお願いします」
爺やが一緒なら大丈夫だろうと思える。魔法の腕は爺やの右に出る者はいないだろうしね。
「今回は、ワシが隠密魔法をかけるからのぉ。次回からは全て自分でやって見ると良いじゃろう」
「ありがとう、爺や」
「それじゃあデューク、伝言を頼んだぞー」
「あぁっ!!また殿下に……私が怒られるんですからね――!」
申し訳ないけど、私も早く婆やに車椅子を見せてあげたい。ここはデュークにお願いしよう。
「ごめんなさいね、デューク。よろしくお願いします」
「グッ!リオ殿に頼まれると断れない……」
婆やへのプレゼントを持って……爺やがラッピングされた車椅子を魔法で浮かせつつ移動を開始する。今日は私の初飛行魔法でのお出掛けだ。まぁ、使える様になったのも、ついさっきなんだけどねぇ……
「デュークは頑張っとるのぉ。たった1日……半日?で作ってしまうとは思わんかったぞ?」
「本当に凄いですよね!何やら、婆やに恩があるとかで……恩返しのチャンスだから全力で作ると、昨晩から意気込んでましたよ」
「ほぉ?特にデュークがして貰ったと言う事は聞いて無いがのぉ?」
「えっと、皆んな悪ガキだったから、沢山迷惑をかけたんだって。婆やの存在が有り難かった的な事を言ってましたね……」
「確かに、迷惑と言うよりは……バシバシ怒られて、ガンガン泣かされてた記憶があるのぉ……」
「えぇ?デュークが?」
「いや、カミル以外じゃな。カミルはクリスの所為にしたり、デュークの所為にして遊んでおった。逃げ足も1番早かったでのぉ。ホッホッホ」
カミルにも子供らしい時期があったのね。昔から賢かったから、イタズラも人のせいに出来たのね。まぁ、爺やにバレてる時点で子供のイタズラ程度だったのだろうけどね。
「あぁ、なるほど……だからクソガキの悪ガキ……」
「デュークが言ったのか?真面目で、融通が効かないと言うか……兎に角要領が悪いのがデュークだったのぉ。魔法だけは誰よりも要領良くやってたのだがな?不思議なもんじゃのぉ」
「んー。デュークはお兄ちゃん気質なのでは?他の子達を守ろうとバレる行動を取ったとか……怒られるのは自分だけで良い的な?」
「あぁ!そうかも知れんのぉ。あの中では1番歳上で、面倒見も良かったしなぁ?なるほど、そんな見方もあるんじゃのぉ」
「やっぱりデュークは昔から優しかったのですね」
「あー……人を選ぶぞ、彼奴は。尊敬出来ない人間には容赦ないと言うか……まぁ、いつか分かるじゃろ……」
よく分からないけど、今の所はデュークに嫌われてはいないと思うから問題無いかしら?さて、そろそろ爺やの家が見えて来る頃だ。




