第61話 婆やに起こった奇跡 ★リオ SIDE
応接室のソファに婆やが腰掛ける。私は床に膝をつき、慎重に婆やの脚を診察、触診した。
「これは……魔物か何かに?」
「いいえ、婆の使い魔が暴走してしまった時に、魔力と魔法が暴発して出来た傷なの。だから、爺さんでも治せなくてねぇ……」
足の全体を優しく触診しながら手を動かして行くと、指先がチリッと痛んだ。
「爺やでも治せない……痛っ!あれ?んー?これは……ソラ、ちょっと手伝って貰えるかしら?」
「良いよ〜。オイラは何をすれば良い〜?」
「ここの歪みが見える?」
「あぁ!本当だぁ〜。『狭間』みたいな歪みがある〜」
「ここを、こう抑える事は出来る?」
「ん〜〜、こう……こうかなぁ〜?」
「そうそう!そのままでちょっと待ってね」
私は歪んだ場所をソラにズラしてもらい、歪みの所為で治らなかったと思われる傷へヒールをかけた。深く傷付いていた場所は綺麗に治り、歪みも消えていった。
「婆や、痛くは無いですか?」
「えぇ、えぇ!痛く無いどころか……痛くて辛かった場所の痛みが消えたわ!痛くて膝が上手く曲げ伸ばし出来なかったのよ」
「あぁ、やっぱりここが原因でしたね。これなら治せるかなぁ?ソラ、ありがとう。もう大丈夫よ」
「リオ、凄いねぇ〜。オイラでも、その歪みは見つけられなかったと思うよ〜」
ふふっと微笑んでから婆やの脚全体にエクストラヒールをかけた。白くキラキラした魔力が婆やの脚を包む。
「わぁ、キレイな魔法ねぇ。とても暖かくて……心地が良いわぁ」
「ついでに疲労回復魔法もかけておきますね」
普段から体を支えるために力が入っている様で、動きがあまりにもぎこちないので気になっていたのだ。
「あぁ、気持ち良いわぁ。座りっぱなしだから、腰や背中が痛かったのよ。ありがとうねぇ」
治療した婆やの脚を再度触診する。うん、これで立てる様にはなったと思う。
「婆や、立てるか試して貰っても?爺や、支えてあげて貰っても良いですか?」
「えっ?えぇ、分かったわ。爺さん、肩を……」
婆やは少し不安そうに爺やを見上げ、肩に手を回す。爺やも少し腰を落として、婆やが掴まりやすい様に体勢を変えてあげていた。
「あぁ、ほれ。ゆっくり、ゆっくりじゃぞ!」
婆やはその場に立ち上がる事が出来た。爺やに支えられてではあるが、しっかり婆やの足で立っている。2人とも無表情で固まっていた。
「ば、婆さん!!婆さんが立っておる!」
急に時間が動き出した様に、爺やが大きく目を開いて驚き、婆やに抱きついている。
「爺さん!!自分の足で立ってるわ!痛みも……痛くも痒くも無いわ!何て事!奇跡が起こったわ!」
「あああ!駄目ですよ!傷が治っただけなのですから!まだ、脚の筋力が落ちたままなので、リハビリ……えっと、何日もかけて、ゆっくり慣らして行かないと、脚を痛めてしまいますからね!」
飛び跳ねそうな勢いの婆やを見て、慌てて無理をしない様に注意する。
「そうね、焦る必要は無いわね!あぁ、80年以上座り続けていたから、視界が高くてちょっと怖いわねぇ」
婆やは嬉しそうに視野の高くなった景色を侍女さん達と楽しんでる様だ。年老いた侍女さんなんて、泣きながら喜んでいる。
「ソラ殿、これは何をしたのじゃ?歪み?ワシには見えんかったぞ!?」
「あ〜、それはオイラにも見えなかったから、精霊の加護を持たないジーさんには無理だよぉ〜。膝の少し上、太もものココら辺に、本当に小さな歪みが出来てたよ〜。恐らく、精霊の魔力が刺さった状態で長年放置されてたから、歪みとなってたんだろうね〜」
「魔力って刺さるの?」
「う〜ん、実際に刺さったかは分からないなぁ〜。もしかしたら、バーちゃんの使い魔のカケラだったのかも知れないよ〜。ただ、精霊の何かが変化した物が、傷付いた足の傷に埋まってた?くっついてたのは確かだとしか言えないねぇ〜」
ソラはフワフワと浮いたまま説明をしてくれた。初めて見た現象らしく、「王様に報告しなきゃかな〜?」と呟いていた。
「そっか。まぁ、治ったから問題無いわよね?」
喜ぶ婆やを眺めながらのほほんとしていると、爺やが激しく肩を揺さぶって来た。
「ありがとう!嬢ちゃん!ワシの全財産をやろう!」
「うわっ!え?いえ、要りません……」
即答すると、爺やが驚いた顔をして慌てている。
「沢山の魔道具とか、お宝もあるぞ?」
「私には必要無い物ですから……」
「そ、そうか……残念じゃのお……」
爺やがガックリと肩を落として落胆したのを見て、婆やが話し掛けて来る。
「お嬢ちゃん、リオちゃんと呼んで良いかしら?」
「えぇ、勿論です」
「では、リオちゃん。爺さんのコレクションの中には、便利な物も多いから、見てみたらどうかしら?」
どうやら婆やは爺やの気持ちを汲んだらしい。でも、貰っても仕方ないと言うか……爺やのコレクションなんて、私には無相応では無い物ばかりだろうし?
「うーん、私の持論なのですが……今無くても困らない物は、特に必要無い物なのだと思うんです。だから、本当に必要な人が使えば良いかなぁって……」
「「「…………………………」」」
「それに、私に使い熟せるか分からないですしね?」
「確かにそうだのぉ。ワシも必要無いからしまってある訳だからなぁ。ふむ、真理をついておるなぁ……」
「リオちゃんは達観してるわねぇ。面白いわぁ」
ただ単に、部屋を片付けるために断捨離した時に、今使って無い物……数年使って無い物は、便利そうでも不必要な物が多くて、結局は取って置いても使わないと知ってるからなんだけどね……だから衝動的な買い物はしない様にしてたのだ。
「さて、食堂へ移動しようかのぉ。婆さんはまだ浮いて行った方が良いじゃろう?」
爺やが私を振り返る。
「そうですね。車椅子は作りますので、半年ぐらい掛けてゆっくりと歩けるように毎日少しずつ訓練してくださいね」
「あぁ、分かった。ゆっくり進めて行こうな。立てる上に、脚も伸ばして寝れるのじゃ。婆さんも先ずは今の状態に慣れないとなぁ?」
「あぁ!そうねぇ!脚を伸ばして寝れるのね……本当に夢を見てるみたいだわ!」
それから食堂へ移動し、美味しい食事をご馳走になった。婆やの好物と、爺やの好物をそれぞれ勧められて、お腹いっぱいになった頃、カミルが迎えに来たのでお開きとなった。
「婆や、リオを返してもらうよ」
「えぇ、坊ちゃん。貴重な時間をありがとう。リオちゃん、また来てね。婆は待ってるわぁ」
優しい笑顔で手を振ってくれる。
「はい!是非またお邪魔させてください。もっと色んな話しを聞きたいです!」
「えぇ、えぇ。いつでも大歓迎よぉ。爺さん、リオちゃんの望む事は教えてあげてねぇ?」
爺やの袖を引き、婆やは爺やに強請るように言った。
「あぁ、言われずとも。嬢ちゃんは恩人じゃからの」
「………………」
カミルが黙って考え込んでいる。
「馬車で帰るのかのぉ?ワシが飛んで帰ろうか?」
「オイラが移動させてあげるよ〜。カミル、リオ、オイラに捕まって〜」
「待て待て!御者に言って帰らなきゃ可哀想だろう」
「あぁ、そちらはワシから言っておこう。気を付けて帰るのじゃよ」
「はい……それでは失礼しますね。師匠、婆や、また」
「えぇ、また会いましょう」
手を振りながら微笑んでいると、ソラが転移して王宮のカミルの執務室まで連れて帰ってくれた。ちょっと酔ったかも……
「リオ、大丈夫?転移魔法は酔うよね……先に言っておけば良かったのに、ごめんね?」
「大丈夫よ、カミル。それにしても凄いわね!私初めて転移魔法で空間移動して貰ったわ!ソラ、ありがとうね」
「いえいえ〜」
頑張ってくれたソラに魔力を両手いっぱいに溜めて食べさせてあげる。
「ご馳走様〜。オイラはリオの部屋で寝てるね〜」
「えぇ、お疲れ様。今日は来てくれてありがとうね」
「ううん。オイラも楽しかったよ〜。おやすみ〜」
「おやすみなさい」




