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第197話 カミルへの伝言 ★カミル SIDE

 地下の部屋は石で出来ているため、外の気温は暖かくなりつつある季節とはいえ、窓の無いこの部屋は夜になると足元が少し冷える。近くには全く人の気配がしないのだが、念の為に話し声が漏れない様、防音膜を部屋全体に張り、爺と2人で思い出話しや近況報告をしながらソファの上でのんびりしていた。


「ふっ、賢者様が遊んでおられますな」


「ん?あ、本当だ。少し魔力を感知しやすくしている?」


「その様ですね。聖女様と……もう1人?これは精霊でしょうか?お二方の魔力が違う場所で一時的に感じられましたので、賢者様はそれをお隠しになりたかったのでしょうな」


「精霊?シルビーもソラも、この国が危ないと分かっているはずだから、婆やの家でお留守番してくれているんじゃ無いかなぁ……?精霊が使う転移魔法じゃ無くて、空飛ぶ物体で迎えに来てくれたのだし?」


 リオの近くに精霊がいるとしたら、ソラである可能性が高いけど、ソラを大事に思っているリオが、この国にソラ達精霊を連れて来ているとは思えない。


「精霊の魔力ってだけで、誰かまでは分かりませんからなぁ。それに、少しですが聖女様と精霊が横に移動している様です。ほんの少し……歩数で言うと5歩とか10歩程度ですな」


「何をしているんだろうね?ん?爺は師匠とリオの魔力を感知しているんだよね?師匠とリオは一緒に居ないって事かい?精霊とリオだけ別の場所にいて、移動しているんだね?」


「ええ、そうなりますな。賢者様は数分前に謁見の間から移動はなさいましたが、移動した先は客間です。あの客間は、一応……魔法が吸収される素材で作られておりますので、彼らを閉じ込めるつもりでしょうか」


 魔法を吸収する事が出来る素材?師匠の魔力を全て吸収する事は不可能だと思うんだけどなぁ。師匠は面白がってその素材を切り取って持って帰って研究したいとか言い出すんじゃ無いかな。デュークが来ていたら、師匠と一緒になって大騒ぎしてそうだよね。


「閉じ込める、ねぇ……デュルギス王国最強と言われる師匠を?……あれ?師匠と一緒に来たのは誰だろうね?リオの護衛である、元影のリューと騎士のサイラスだろうか」


 誰が来たかによって、師匠の行動は変わって来るだろうからね。サイラスは魔法が殆ど使えないから、師匠もそこまで無茶は出来ないと思うけれど。


「聖女様と賢者様以外の2人であれば、1人はデューク殿ですな。もう1人は、恐らく元影でしょう。他に気配を消しているであろう影が10人おりますな」


 流石は爺だね。気配を消している影の数まで分かってしまうなんて。それも、『大体それぐらい』では無くて言い切るのだから。敵じゃ無くて良かったよ……


「デュークが来てるんだね。あぁ、サイラスは飛べないからかなぁ?確かにこの国に来るなら魔法が使えた方が有利だから、師匠が指示したのかな」


「恐らく、そうだと思われますな。そして、魔法が使えて飛べる者を護衛として連れて行くのであれば、影達も連れて行く様にとギルバート様に言われたのでしょう。それで、あの巨大な物体で飛んで来た、と。個々で飛ぶよりは魔力も温存出来ますし、素晴らしい発明ですなぁ」


 ふふん。まだ会った事の無い爺もリオに興味を示しているね。恐らくリオは、魔力の温存なんて考えていなかったと思うけどね?発案する事のスケールが大きいから、その中で出来る事が増えたってだけで。でもまぁ、リオが凄いって事は事実だからね。僕の婚約者は凄いんだって自慢したくなる。


「だよね。リオは突拍子もない事を思い付いてはデューク達と形にしているからね。『車椅子』もそうだけど、世の人々が、あれば助かると思う物を、どんどん発案してくれるから、今のデュルギス王国は少し前に比べても、経済力や武力なども更に強くなっているんだよね」


「えっ?!あの車椅子を考案なさったのが聖女様なのですか?」


「うん、そうだよ?この国にも車椅子があるの?」


「はい、あります。王妃が滑って転んで足の骨を折ってしまわれた直後に、たまたま隣国へ(おもむ)いた宰相が車椅子の存在を知ったそうで。王妃の為にと手に入れて来たそうですが……」


「へぇ、そうなんだね。まさかザラカン王国にまであるとは思わなかったよ。リオは婆やの為に車椅子を作ると決めたんだけど、それからまだ半年ぐらい?1年も経っていないのに、この普及率は凄いね。世の中には自由に動けなくて困ってた人が沢山居たって事だね」


 しみじみと出会ってからのエピソードを思い出していると、爺がガバッと勢い良く立ち上がった。


「ぼ、坊ちゃん!私めを聖女様のお付きにして貰えませんでしょうか?まだ会った事はありませんが、とてもお優しくて賢く、心も強い方なのでしょう。仕えるなら是非とも聖女様に!聖女様の仕事だけでは無く、王太子妃となられるのですから、きっと人手が足りなくなると思われます!」


 自らリオの為に働きたいと言ってくれるとは思わなかったけど、やっぱりリオは魅力的なんだろうね。ここはあえて、こちらの思う通りに動いて貰おうかな。


「うーん、そうだねぇ……表向きはリオが育てている若い執事の教育係なんてどうだい?ルトって子なんだけどね?10歳なのに賢くて、師匠が魔法を教えている。勉強はノルト侯爵が。彼はルトを気に入って、養子として迎えたんだよ」


「ええ?!ノルト侯爵が養子を?本当ですか?信じられませんなぁ……」


「ふふっ。それが普通の反応だよね。リオが孤児院から連れて来た子で、家は継母に乗っ取られていたんだけど、ノルト侯爵が全力で……ふふっ、続きは侯爵に会った時にでも聞くと良いよ。彼もリオをとても気に入っているからね。色んな話しを聞けると思うよ」


 全てをここで話すには時間が足りないしね。それに、中途半端に話すのもルトに悪い気がするんだよね。ちゃんと正しく伝わらない可能性があるなら、直ぐには伝えない方が良い事もある。


「おぉ!それは楽しみですな!早く精霊達を助けて、デュルギス王国へ帰らなければなりませんぞ!」


 ふふっ、爺もルトやリオに興味津々だね。本当はちょっと嫉妬しちゃいそうだけど、こっちの世界ではリオに沢山の人に愛されて過ごして欲しいからね。元の世界ではどうだったのか知らないけれど、この世界に来て幸せだと思って貰えたら嬉しいよね。


「坊ちゃん、精霊がこちらへ近付いて来ますぞ」


「精霊だけ?」


「はい。聖女様は逆方向へ向かっている様です」


 この地下にある石牢は、外に見張りなどが全く居ない。爺が信頼されているからなのか、そうする知識が無いのか、ただ単に寒いのが嫌で上に居るのか……まぁ、お陰で簡単に侵入は出来そうなんだよね。


「来ましたな」


 足音が止まったね。扉の前で立ち止まったのだろう。どうすべきか悩んだのか、少ししてから扉をノックする音がした。


「カミル、吾輩だ」


 ノック出来て、歩く足音がする精霊……人の姿をしている精霊はライトだけだから、直ぐに答えは出るよね。この国に来ても大丈夫な精霊という意味でも納得したよ。恐らく、精霊王が寄越したのだろうからね。


「いらっしゃい、ライト」


 爺が扉を開けてくれ、ライトは爺にペコッと頭を下げてから僕の前にゆっくりと歩いて来た。何も言って無いのに、ライトは爺が味方である事も理解している様だ。流石は精霊だよね。爺の事を信用出来ると思っているのが態度から分かる。


「久しぶりだね、ライト。元気だったかい?」


「吾輩は元気だ。今回はカミルの護衛として先にこの国に来ていたのだが、このお爺さんがカミルと仲良さそうだったから、リオのサポートに回った」


 凄いね、自分で判断して動けるまでに成長したのか。見ていたのに話し掛けて来なかったのも、特に何かを伝える必要も、要件などもなかったからだろう。


「そうだったんだね、ありがとうライト。それで、状況はどんな感じかな?」


「謁見の間で、リオだけ落とし穴に落とされた。穴の途中に脱出用の扉があって、リオはそこから弱い精霊達の元へ向かった。そして伝言を預かった」


「ありがとう、ライト。今、弱い精霊の元へ向かったと言ったよね?強い精霊も居るの?」


「リオが言うには、力を奪いやすい弱い精霊が集まっている場所と、その力を使って魔道具を作っている別の場所に強い精霊が居る。その強い精霊は、弱い精霊達を守る為に人間に従ってる可能性があるらしい」


「な、なんて事だ!精霊の優しさを利用するなんて!」


「リオもとっても怒っていた。だから、焦らず急いで助けるって、弱い精霊達の元へ向かったんだ」


 リオからの伝言には、『精霊達を助けたい。爺やと別行動する事で、敵を安心させて精霊達に近付きたいが、落ちて来なくて居なくなったと気付かれたら大騒ぎになるだろうから、そうなる前にどうにかして欲しい。後は任せた!』と書いてあった。ふふっ、ライトが事情や状況を把握してるとは言え、簡単過ぎる伝言だね。


「そうなんだね。ライト、ちょっとリオからの伝言に返事を書くから待っていてくれる?今後はどうする予定だったの?」


「リオのお爺さんの所にも伝言を届けに行く。リオが今後はお爺さんに従って欲しいと言ったから、お爺さん次第だな」


 そうであれば、僕が伝言を出すのはリオにでは無く、師匠に出すべきだろうね。


「なるほどね。僕の方で師匠と結託してやって欲しいって事かな。どちらにしろ、僕からも師匠に伝言をお願いするから、ちょっと待ってね」


 ライトは頷いて、爺の方へ体ごと向いて軽く頭を下げた。そう言えば、まだ紹介して無かったね。自分から自己紹介するのかな?人間らしい行動も学んでいる様だ。リオの助けをしたいと言っていたもんね。やっぱり、精霊は優しくて賢い生き物だね。


「分かった。そちらのお爺さん、吾輩はライトだ。精霊と人間のハーフだ」


「ええっ、人とのハーフ?!そんな事が可能なのですか?!」


 ライトは少し考えながら、首をコテンと倒した。そんな所までリオの真似を……素直で可愛いと思ってしまったじゃないか。


「あ、ちょっと違うな。精霊とは言っても、母上は精霊の女王だったし、父上は人間で間違い無いが、異世界から召喚された『聖女』だったからな」


「ええっ!男性の聖女様?!もしかして、あの『おネエさん』の?」


「…………間違っては居ないが、そこはあまり主張しないでやって欲しい。前の世界に残して来たと思っていた母上を心から愛していたから故の『女避けの手段』だったらしいからな。苦し紛れの策ではあったが、お陰で他の女性と結婚せずに済んだらしいぞ」


 真面目に父親の名誉の為に弁明(べんめい)するライトは優しくていい子なのだが、つい吹き出しそうになってしまった。コテツ殿は僕の前世の魂で、この世界を守る為に、僕に魂の記憶が戻ると言われてたんだ。しかし何の役にも立たず……リオが全てを解決してからコテツ殿の考え方や行動を知る事になったんだよね。確かに魔道具についての知識など、大事な情報もあったんだけどね。それ以上に……つい笑ってしまう程、彼は天然と言うか、考え方が変わった人だったって事を思い出してしまったんだよね。だからこそ、『おネエさん』なら女避けになるって発想をしたんだろうなって笑いながらも納得してしまったよ。


「そうでしたか。おっと、挨拶が遅れましたな。私はカミル王太子殿下の祖父で、現王妃であるオリビアの父でございます。どうぞ、爺とお呼びください」


「お爺さん、と呼ぶが良いだろうか?正直、人間のお爺さんであっても、年齢は吾輩の方が上で……ただ、1000年も封印されていたから、実際に意識のある状態でいたのは数十年なんだ。知識も経験も、吾輩よりあるだろうから、お爺さんと呼ばせて欲しい」


 ライトの考え方は少し変わってるけれど、とても気持ちの良い考え方だよね。素直な精霊の考え方なんだろうか?でも、シルビーやソラとは少し違うよね。これは個性なのかなぁ。

 

「それはそれは光栄です。何か知りたい事がありましたら、いつでも聞きにいらしてください。人間の知識で答えられる事であれば、爺が調べて教えて差し上げる事も出来ますからな。ライト殿とお呼びしても?」


「お爺さんもライトと呼んでくれるのか?リオが、名前を呼ぶのは仲良しになる気のある証だと言っていたぞ」


 ライトはまだ自分に自信が無いのだろうか?僕の周りには、学ぼうとする者を好む人間がとても多い。ノルト侯爵がその筆頭だろうね。爺も人に教えたり、人材を育てたりするのが好きだから、きっと仲良くやって行けると思うから安心して欲しいね。


「はい、勿論ですぞ、ライト殿。爺は、ライト殿とも仲良くしたいと思っております。精霊達を助けて早くデュルギス王国へ帰り、ゆっくりお話ししたいですな。チェスなどなさるのであれば、是非、手合わせをお願いしますぞ」


「そうだな。全てはちゃっちゃと解決して、リオが笑顔で居られる様にしてからだ。お爺さんもカミルも、精霊を助ける手助けをよろしく頼む」


「勿論ですぞ」


 爺が笑顔で頷いた。僕も大きく頷いて、書いた手紙をライトに託したのだった。

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