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第195話 王への謁見 ★爺や SIDE

 慌てて戻って来た騎士に連れられて、ワシらは謁見の間に向かった。ゆっくりと長い廊下を歩いていると、『見えている』魔術師達が5人、後ろを着いて来る様だった。隠密魔法をかけている(はず)の彼ら……正直、彼らの隠密魔法は、リューと同レベルの魔導師であれば見えてしまう程度のもの。魔法を使える者が(ほとん)ど居ないと聞いてはいたが、ここまでとは思わんかったのぉ。


 リオは困った顔をして、ワシにチラッと視線を寄越した。言わんとする事は分かるが、我が国は魔法の先進国じゃからな。他国とは元々レベルが違う。ワシが作った魔導書の存在が大きい。誰でも基礎から魔術を勉強出来るからのぉ。やはり、基礎知識は大事じゃな。


「〝準備は出来たか?〟」


「〝あぁ、問題無い〟」


 案内の為に先頭を歩いていた騎士が、扉の前に立つ騎士に話し掛けると、騎士は扉をゆっくりと開いた。


「どうぞ、お入りください」


 何の準備をしたのか気にはなるが、ここで立ち止まる訳にはいかない。ワシが堂々として見せる事で、勘のいいリオが動きやすい状況を作らなければなるまい。


「デュークとリューは王と目線を合わせない様に頭を下げておくのじゃよ」


 風魔法を使って、デュークとリューに声を届けた。デュークは王族の作法は立場上習っているとは思うが、リューは影として行動していたから知らない可能性もあるからのぉ。説明の為に少し後ろを振り返る際に、床に細工されているのが見えた。どう見ても落とし穴じゃろうな。ワシは通り過ぎているから、ワシ以外の誰かを落とす気なのじゃろう。


 リオに視線を向けると、少し引き攣った顔で苦笑いしている事から、罠には気づいている様じゃな。リオはワシをチラッと見ると小さく頷いた。二手(ふたて)に別れて調べたいとは言っていたし、その方がワシも好き勝手する口実(こうじつ)が出来るからかまわんが。城の中にライトの気配も感じたし、問題は無かろう。そして、リオがその床の上を通った瞬間、パカンと床が開き、リオだけがフッと穴に吸い込まれる様に落ちたのだった。


「リオ様!」


「リオ殿!」


 2人は気がついていなかったか。まだまだじゃのぉ。デュークは王国へ戻ったら、ちと鍛え直してやらねばなるまい。リューが怒りに任せて、国王へ向かって足を踏み出そうとした瞬間にスッと止めに入ったのはデュークだった。王族に手を出したり、先に口を開くだけでも(とら)えられてしまう可能性があるからな。その点では、デュークはカミルの付き添いで他国へ行った経験もあるから頼りになるのぉ。


「リュー、リオは気付いておったぞ?声も上げず、スーッとスムーズに吸い込まれて行ったじゃろう?ワシに許可を求める余裕もあったぐらいじゃから、暴れたかったのでは無いかのぉ?ホッホッホ」


 風魔法で声を届けると、リューはスッと落ち着いた様に見えた。少し目を輝かせた様に見えたから、これからリオが何を起こすのか楽しみになったのじゃろう。


「賢者、久しいな」


 玉座の前に進み出た我々が足を止めるのと同時に、国王が声を掛けて来た。前に会ったのが百年以上前なのは間違い無いから久しいのは確かじゃが、リオだけ別行動にさせておいて、ワシに謝罪すら無いとはな。


「王よ、我が娘を落としておいて、何のつもりじゃ?」


 我々が落とし穴に気付いていなかったと思わせる為に、大袈裟に怒って見せる。我が国の聖女様を危険な目に遭わせたとなれば、それなりに手も口も出せるからな。面倒ではあるが、ここは他国。あくまでも口を出す為の建前(たてまえ)は必要なのでな。


「な、なんだと?賢者の娘?お主、娘なんぞおったのか?と言うか、結婚した事すら知らなかったぞ?」


 そっちに驚いたのか。娘が出来たのは最近じゃが、婆さんと一緒になったのは200年以上前なのじゃがな?前回この国に来たのは更にその前じゃから、結婚した事を伝えられなかったのは仕方のない事じゃろう。


「ザラカン王国は相変わらず国外の情報に(うと)い様じゃな。まぁ、仕方ないから教えてやろう。ワシの妻はアンタレス帝国の皇女であった、アナスタシア姫じゃ」


「な!何だと!?シア姫がお主の嫁!?ゆ、許せん!」


 あぁ、やっぱりこいつも婆さんに気があったのか。婆さんが全く興味を持たず、視線すら向けなかったから、ワシも気にしていなかったが。その頃、この王はまだ15歳だったか?婆さんより80歳も年下の王子が大国の姫に求婚しても、本気に取られなかったのじゃろうが。まぁ長寿故に、80歳でも見た目はお姉さんだからな。美しい隣国の姫に憧れておったのじゃろう。


「お前に許して貰う必要はないじゃろう。大体、何年前の話しをしておるのじゃ?軽く200年以上前の事じゃろうて。シアも既に良い歳になっておるのじゃぞ?」


「年齢など関係ない!シア姫を俺の側妃にと、何度もアンタレスには打診(だしん)したのだぞ!」


 婆さんを正妃では無く、側妃にじゃと?こやつ、ワシに喧嘩を売っているのか?ギル達にはザラカン王国を潰して構わないと言われているし、今回は加減なんてせずに大暴れしちゃおうかなぁーっと。ふんっ。ワシを怒らせたら怖い事を、思う存分知るが良かろう。


「知らん。それよりリオを返して貰おうか」


「グッ、返すもんか!俺の大事なシア姫を奪ったのだ!お主の大事な者を奪っても構わんだろう?」


 滅茶苦茶な理屈じゃが、この国の王である事は間違い無いからな。下手な事は言えない。頭を使って正攻法(せいこうほう)で返さねばなるまい。


「シアはワシを選んだのじゃ。そこは諦めぃ。リオは大聖女で賢者。我が国では陛下と同等の権力を持つ。それがどういう事か、分かって言っておるのか?」


「な、何だって?あの小娘が聖女なのは知っていたが、賢者の称号も持っているだと?デュルギスだけ(ずる)いんじゃないか?国に賢者が2人もいるんだろう?賢者が何を出来るのかは知らんが、お主を見る限りでは何でも色々と出来るんだろう?」


 あぁ、そうじゃった。こやつらには外の情報が無さすぎる。下手すれば国ごと騙されるのじゃろうが、こやつらは基本的に話しを聞かないからこれまでは問題無かっただけで。


「賢者の称号を持っていようとも、努力しない者には無用の長物じゃ。リオは努力を惜しまない性格じゃったから、賢者としても覚醒したのじゃよ。聖女から大聖女へ称号が変わったのも、本人が努力した結果じゃからの」


「そうなのか?称号を持っていても、努力しなければ何も出来ないのか?」


「称号を持つ為の器は最低限必要あるのじゃが、正しくは努力して何かを成し遂げなければ称号はステータス上に現れないんじゃよ。リオは聖女としても、大聖女としても、賢者としても、何かしらを成し遂げたから『称号』を与えられたのじゃ」


 デュークの様に人物を鑑定出来る鑑定スキルを持つ人間が人物に対して鑑定をすれば、称号はステータスボードで確認出来る。称号が無かったとしても、隠れているスキルの数から『称号の可能性』が分かるから、隠れスキルがある者は、国が金を出してでも育てる必要があるのじゃ。


「あの小娘が?あの若さでか?あり得ないだろう」


「リオは若く見えるが、40代半ばじゃぞ?」


「はぁ!?それは詐欺(さぎ)だろう!どう見ても10代半ばから後半にしか見えないじゃないか!」


 詐欺なんて酷いのぉ。リオがカミルに自分は年齢詐称している様だと打ち明けたと聞いていたから、本人も気にしてるのではないかのぉ?ちゃんとフォローしておかねばなるまい。


「異世界からの召喚じゃったからのぉ。リオ達召喚者の見た目が若いのは仕方あるまい」


「あぁ、そうか……この世界の者では無かったのか」


「ん?やけにあっさり納得したな?」


「我が国の古い書物に、召喚された『聖女』の記録があるからな。内容はちょっと……衝撃的過ぎて言いづらいのだが」


 不思議な事を言うのぉ?いつの時代の聖女様なのかにもよるが、衝撃的な聖女様には興味があるな。


「ん?衝撃的で言いづらい?」


「良いか、ここだけの話しだぞ?その『聖女』は男で、女言葉を使う『おネエさん』だったんだ!」


「あぁ……」


 コテツ殿の事の様だな。リオが解決したからすっかり忘れていたが、前の世界に残して来た奥方(おくがた)を想って、女性を近づけない為に『おネエさん』のフリをしていたと言っていたな……本人に会って話しを聞いたから納得出来るが、実際にはあの様に伝わっていると……


「一応、コテツ殿の名誉の為に言っておくが、彼はフリをしていただけで、普通の男じゃぞ」


「『聖女』なのにか?」


「あぁ、それも説明していたな……確か、最初に召喚されて現れたのが女性だったから『聖女』と名付けてしまったが、実は性別は関係無かったのだと」


「そう言う事か……先代の聖女様は大変だったんだな。この際、言い方を変えてやったらどうだ?今後召喚される人間が女性とは限らないって事だろう?」


「流石にもうやらんじゃろう。この世界の危機は去ったし、これからはデュルギス王国が力を示す事で平穏を保つ予定じゃからな」


「はぁ?!何だと?どうやって力を示すのだ?」


「ん?お主は聞いておらんのか?我々が乗って来た『飛行機』と言う名の物体の事じゃな」


「あぁ!話しには聞いたが、現物を見に行こうとしたら側近に止められたんだ。それはどうやって動いているのだ?」


「説明すれば長くなるが、先程お主が落とし穴に落としたリオが発案したのじゃ。全て終わったら教えてやるから、先ずはリオを返すのじゃ」


「嫌だ!彼女を俺の側妃にする!」


『ガンッ!!』


 王が言い終わると同時に殴ってしもうた。王はド派手にひっくり返り、慌てて周りの側近や補佐官達が担架(たんか)で運んで行った。今回は仕方ないじゃろ?ワシの娘を側妃にすると言いよったのじゃからな。それに……ワシの後ろから、(ただ)ならぬ殺気がピリピリとプレッシャーをかけて来ていたからなぁ?


「師匠……手を上げちゃ駄目ですよ……」


「ほぉー?デュークは我慢出来たと?」


「…………いいえ、師匠が動かなければ私めがと思っておりましたが……」


「じゃろうな。リューも2歩前に出ていたからな?今回ばかりは仕方ないじゃろ?ワシならこの国では捕まらんからな。ホッホッホ」


 ワシの周りは皆リオが大好きじゃからな。たとえ王であろうとも、リオに対して失礼過ぎる今回の発言は見逃せん。


「『賢者』様、陛下が申し訳ありませんでした。我々も今のは見なかった事に致しますので……今回はそれで宜しいでしょうか?」


「あぁ、それで構わんよ。すまんかったな」


「いえ。ご納得いただき、ありがとうございます」


 深々と頭を下げる側近の男は、ワシの事を詳しく知っておるのか、大汗を掻いているのぉ。そうじゃ、ついでに一言許しを得ておかねばなるまい?


「あぁ、そうじゃった。聖女の事も、そちらが先に手を出したのじゃからな?聖女リオが何かしら騒ぎを起こしたとしても、文句は言わんよな?」


「えっ?は、はい。勿論でございます」


 普通は聖女が1人で騒ぎを起こせるとは思わんだろうからな。まぁ、守られてばかりのお姫様ならその通りなのじゃが……我が国のお姫様は、こんな時に1番騒ぎを起こす可能性が高いお転婆娘じゃからのぉ。ホッホッホ。それを知っておるのは、我が国の者だけじゃから問題無かろう。特に、カミルは良く知っておるじゃろうからな。


「それで、カミル王太子殿下はどちらに御座(おわ)すのじゃ?」


「只今、準備している最中です。お部屋を準備しましたので、取り敢えずはそちらの部屋でお待ちいただけますでしょうか?」


 ワシは頷き、案内すると言う従者に従って部屋へ向かった。恐らくワシらは閉じ込められるのじゃろう。あちらもワシが魔法を使える事は知っているから、何かしら準備をしたのじゃろうが……リオがプレゼントしてくれたこの杖があれば、デュークが全力で張った防御膜であろうとも突破出来るじゃろう。であれば、間違い無く部屋を破壊出来ると言う事じゃからな。


 何かしら……カミルかリオが動き出すまでは、のんびりしようかのぉ。下手に騒ぐよりも、リオがライトに伝言を寄越すなり、カミルが見つかるなりするまでは、体力を温存しておいた方が(かしこ)かろう。正直、精霊達の事は心配ではあるが、ワシらだけでは何もしてやれんと分かっておるからのぉ。今回は、リオとカミルをしっかりとサポートしたいと思うのじゃった。

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― 新着の感想 ―
[一言] いよいよですね❗️ リオ、カミル、頑張れ❗️❗️
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