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第193話 楽しい空の旅 ★デュークSIDE

 リオ殿の発案なさった『飛行機』は、とても素晴らしいものであった。風の性能を上手く利用して浮かぶ事で、『飛行機』の大きさに対して必要であろう魔力を極端に減らす事が出来るのだ。もう少し時間があれば、私1人の魔力でザラカン王国まで飛ばす事が出来ただろうから悔しい。まぁ、今回は魔力を増幅出来る杖を使って、師匠が1人で飛ばしてみたいと仰るから譲る事になったのだが。


 リオ殿のいた世界では、動力だけで飛ばしていたと言うのだから、研究すればこの世界でも魔力を使わずに魔石を使って飛べるのではないだろうか?そうなれば、平民達も気軽に遠くへ行く事が出来る。経済効果は計り知れないのだから、夢は膨らむな。『飛行機』を撃ち落とさない様に、殿下達の結婚式でお披露目するのも良さそうだ。


 そんなこんなで予定通り、半日程度で『飛行機』は完成した。今回は魔力で浮かせる為、師匠が操縦(そうじゅう)する事になる。緻密な魔力制御が出来る師匠であれば、まぁ墜落(ついらく)する事は無いだろう。念には念を入れて、試しに飛ばして来ると言って10分ぐらい経っただろうか?やっと帰って来た師匠は楽しそうだ。羨ましい……


 この『飛行機』は、横が2人掛けのソファが2つ並んでいて、ソファの間は人が歩けるくらいの隙間がある。それが縦に5列あるから、20人運べる事になる。あぁ、運転席は1番前にあるから21人が移動出来るな。急激な天候不良などで揺れた時の為に手すりがついていたり、細かい配慮がされていて面白い。


 その他にも、馬車の様に雨風を凌げる外壁があるから、移動中に風が強かったり、物が飛んで来たりしても、人が怪我する可能性は低い。だからこそ、運転手が乗車している人間の事を気にせずにスピードを上げられる所がとても素晴らしいと思う。


 戦っている時もそうだが、他の事に気を取られると碌な事にはならないんだよな。運転に集中出来る環境があるのは良い事だ。


 おっ?やっと出発する様だ。1番前の運転席の後ろの列の右側にリオ殿とリューが。その左の席が私と補佐官の男が。男と2人ではちょっと窮屈だから改良の余地があるな。リオ殿が仰った『肘かけ』は確かにあった方が楽かも知れない。今回は間に合わなかったのだ。まぁ、出発まで半日しか無かったからな。


 ふむふむ……しっかりメモを取って、完成させなければ。デュルギス王国が先進国である事を知らしめるには持って来いの乗り物だからな。結婚式までひと月を切ってはいるが、私と師匠が本気になれば余裕で出来上がるだろう。うん、とても楽しみだ。さっさとカミル殿下を返して貰って、魔導師団に(こも)りたい……


 影達も乗り込んだ飛行機が、少し前進したか?うぉ、ふわっと浮いたな……安定するまでは慣れない感覚が気持ち悪いが仕方ない。ちょっと耳の中も痛いか?師匠が必要の無い高さまで一気に浮かせたからだろうが……補佐官がとても辛そうだが、大丈夫だろうか?


「あら、リュー?耳が辛いの?」


「あ、はい……申し訳ありません、リオ様」


 どうやらリューも辛いらしい。リオ殿や師匠は問題無さそうだが……


「いえ、これは仕方ないわよ。爺や、高く飛び過ぎよ。気圧で耳が痛くなってるみたいだから程々にしてね?リュー、私が(あめ)を持ってるから、これを舐めて。小まめにつばを飲み込むと、少しは楽になるからね」


「ありがとうございます、リオ様」


「デューク達は平気?」


 リオ殿は我々の後ろの席に座っている影達に向かっても声を掛けている。賢者であるリオ殿には影達が見えてるからだろう、いつも当たり前に話し掛けるのだ。リオ殿の耳元で「4つください」と言う影の小さな声が聞こえた。


「う、うーっ!私にもくだされ!」


 補佐官はとても辛いのだろう、頭を抱えて(うめ)いている。心優しきリオ殿は、補佐官に直接飴を渡そうとなさったが、リューが慌てて受け取り、補佐官に与えていた。王太子妃候補のリオ殿から直接、他国の者に物を与える訳にはいかないのだ。


「やっぱり慣れない人は大変なのね。デュークは平気なの?爺やもね」


「私は飛行魔法で飛べる様になったのが幼少期でしたので……誰が1番高く飛べるか競争して苦しんだので、この辛さを知っております。そして師匠は、そんな私達が落ちない様に、同じぐらいの高さまで一緒に飛んでくださっていたので、恐らく大丈夫かと……」


 恥ずかしかったが、運転に集中している師匠を煩わせない為にもきちんと説明した。今更隠しても仕方ないだろうしな。勿論、カミル殿下も競争していたのだから、いつかは情報が漏れるだろうし。


「ふふふっ、可愛らしい思い出ね。駄目だと言わないのが爺やらしいわね。飛行魔法は難しいと思うのだけど、キースもクリスも飛べるの?カミルは一緒に飛んだ事があるから知っているけれど」


「あぁ、キース達は飛行と言うよりは浮遊魔法ですね。前には進めないけれど、浮く事は出来るって感じです」


「あぁ、なるほどね。ここに居る皆んなは飛行魔法が使えるじゃ無い?職業柄かも知れないけれど、本当に凄いわよね。飛べる人が多いのも、私の周りがおかしいだけなのね、きっと」


 リオ殿は影達の事も含めて仰っているのだろう。確かに、ここに居る者達は飛行魔法が使える。王族に何かあった時、彼らを逃す為には隠密魔法と飛行魔法が必須になるからな。要は、彼ら『影』は、エリートなのだ。


「まぁ、王宮にはそういう特化した人間が集まるものですからな。しかし自力で、それも1日目で前に進める様になったのは、リオ殿が初めてだと思いますが……」


「えっ!?流石はリオ様ですね!1日目で前に進めたなんて……私なんて数ヶ月掛かりましたよ」


「リュー、それが普通だからな。殿下ですらひと月は掛かっていたんだから、数ヶ月でも早い方だと思うが。飛べるまで諦めない人間しか飛べる様にはならないのだから、飛べる事を誇れば良い」


「あら、デューク。良い事言うじゃ無い!私もそう思うわ。皆んな頑張ったから飛べるのよね。凄い事だわ」


 そうやって元気な私達はワイワイと楽しく話していたので、ザラカン王国までの5時間はあっという間に過ぎた。グッタリしていた者達にとって5時間は大変だったかも知れないが……着地する時も師匠が遊んでいたので、少し酔った者が出たのは言うまでも無いな。


 そうやって空の旅は終わり、有無を言わさずザラカン王国の正門前に着地した。ザラカン王国の人間……特に城にいる者達に良く見える様、師匠がグルングルンと旋回(せんかい)してみせてから着陸したせいか、王城へ降りる事を最後まで反対するかと思っていた補佐官の彼は、さすがに反対する元気は無かった様だ。


 補佐官の彼は、今回ザラカン王国へお邪魔している全員が飛行魔法を使える事に驚いていた様だし、下手な細工をしないで貰えるとありがたいのだが……師匠が言うには、カミル殿下とリオ殿を交換という条件を出して来るだろうという事だったが。


 当たり前だが、そんな条件を受け入れる事は無いだろう。デュルギス王国での『聖女様』の立ち位置は、国王陛下の次に偉い地位であり、カミル殿下の婚約者ではあらせられるのだが、殿下よりも立場的には偉いのだ。取引の材料に出来ると思ってる方が間違いであって。


「ふむ、デュルギス王国の聖女様が来たというのに、出迎(でむか)えすらないのかのぉ?」


「早く着き過ぎちゃったかしら?国を出る時に、ちゃんと連絡入れていたわよね?」


「はい。私がしっかりと確認して参りましたので、間違いございませんよ、姫様」


「リュー、姫様は恥ずかしいわ。他に呼び方は無かったの?」


「えぇー。姫様の部下で無ければ、姫様に向かって『姫様』と呼べないのですよ?我が国のお姫様なのですから、慣れてくださいな」


「まぁ、聖女様呼びよりはマシではあるけども……」


 全く危機感の無い様に見える2人は、キャッキャと楽しそうだ。恐らく、リューがリオ殿の緊張を(ほぐ)そうと頑張ってくれているのだろう。こういう時、女性の護衛がいると助かるよな。我々ではこうはいかない。


「ここでダラダラしていても仕方あるまい。この手はあまり使いたく無かったが……そこの君、王か宰相……は我が国に来ていたな。王か王妃にデュルギス王国の『賢者』が来たと伝えてくれるか?」


 師匠が城の門を守る騎士に声を掛けている。騎士は慌てて「はっ!お待ちください!」と大きな声で返事をして猛ダッシュで城へ向かった。師匠は若い頃、全国津々浦々(つつうらうら)を旅して回ったと聞いてはいるが、この国でも何かしら問題を起こしたのだろうか?


 しばらくすると、城に向かって走った騎士が、またもや猛ダッシュで戻って来た。ゼイゼイと肩で息をしながら、師匠に向かって勢い良く頭を下げた後、ガバッと頭を上げ、ビシッと直立して声を上げた。


「デュルギス王国の『賢者』様!ようこそおいで下さいました!国王陛下がお待ちです!ご案内致します!こちらへどうぞ!」


 ほぉ、この騎士は肺活量が素晴らしいな。あれだけゼイゼイ言っていたのに、あんなに大きな声でハッキリと伝令出来るのだ。剣術の基本が出来ているのだろう。昔、エイカー公爵が仰っていたから間違い無い。ん?リオ殿が師匠の耳元に風魔法で声を届けているな?私も聞き耳を立てようか。二度手間になるのは面倒だしな。


「爺や、二手(ふたて)に分かれる羽目になったら、そのままにしておいて?あちらの方角だと思うのだけど、精霊達の苦しみや悲しみを感じるの……その子達を探して助けたいわ」


「良かろう。但し、危うくなったらライトを呼ぶと約束しておくれ?」


「ありがとう、爺や!勿論、約束するわ」


「焦るんじゃ無いぞ?急いでもバレたら意味が無い。一切助けられなくなる可能性もあるのじゃ。ここは他国。そこまで自由には行動出来ないからな?」


「ええ、分かったわ。勿論、爺やも手伝ってくれるでしょう?1人じゃ無ければ急ぐ必要は無いわ。あの子達を助けられるのは必然よ」


「ホッホッ、そうじゃな。任せなさい」


 相変わらず仲の良い家族だな。お互いを信頼しているからこその会話だ。私もそろそろ、猛アタックをしてくれる愛しい人に返事をしなければ……とは思っている。リオ殿達の様な、勢いが欲しいなぁ……

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