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第181話 ご機嫌な王太子と不機嫌な狐 ★カミル SIDE

 先日の温室デートは幸せ過ぎて、実は夢なのでは無いかと心配になるほどだった。そんな僕の左手の薬指には、それが現実であったという証拠が美しく輝いている。


「カミル殿下、何か良い事でもございましたか?」


 執務室に向かう廊下を歩いていた僕に声を掛けて来たのは、リズの父親であるエイカー公爵だ。彼は僕のちょっとした感情を理解してくれるんだよね。プロポーズの時にはとてもお世話になったから、今では昔より更に信頼していたりする。


「ふふふっ、分かりますか?先日、リオに生涯を共にすると誓った指輪を貰ったんですよ。それも、リオが自分で作ってくれたらしくて。それがまた嬉しくて」


 僕達が仲睦まじい事を、エイカー公爵には宣伝して貰わないといけないからね。少し大袈裟に説明する事にしたよ。


「それはそれは、貴重な贈り物ですなぁ。大聖女様からのプレゼントで、それも手作りだなんて!」


 周りに人が数人いたから、少し大きめの声で公爵も話し始めたね。公爵は僕の意図も理解してくれるから毎回助かるよ。


「ふふっ、そうなんだ。だから嬉しくてね。僕は先日からとっても機嫌が良いんだよ」


「そうでしたか。その指輪を見せてもらう事は出来ますか?もちろん、指から外さない状態で。逆に、外して見せてもらってるうちに落としたりした日には、きっと命がいくつあっても足りないでしょうからね?ククッ」


「もう、大袈裟……でも無いかな?ふふっ。でもやっぱり公爵も気になるんですね。どうぞ、僕の左手で輝く宝物を見せて差し上げましょう!ふふっ」


 僕は左手の甲を上にして、公爵の前に差し出した。公爵は目を丸くして驚いている。これも演技なのかな?公爵は何でも出来るし要領も良いから、凄いと思うよ。


「で、殿下……?こちらをリオ様がお作りになったと?」


 公爵がヒソヒソと耳打ちして来る。あれ?本気で驚いていたのかな?


「あぁ、そうなんだけど……何か不都合な事でもあったのだろうか?」


「いいえ、不都合と言いますか……」


 悩んだ末に公爵が僕の目を見て話しを続けた。


「殿下、この指輪には細工もされてますよね?国宝級……いえ、世界遺産になるレベルの代物(しろもの)ですよね?」


「あ……あぁ、そうなるだろうね?まぁ、精霊が居ない人間には使えないから意味も無いと思うけどね」


「な、なるほど……精霊関係でしたか。その指輪、私が集めた珍しい魔道具などのコレクション全てよりも価値があると断言出来ますよ」


「そ、そこまでなんだね。うん、覚えておくよ。そうなると……あの箱も、もっと厳重にしまう必要があるね」


「殿下?箱とは?」


 目をキラキラとさせて聞いて来る公爵は、魔道具のコレクターで有名なのだが……初めて見るであろう物に興味があり過ぎて、興奮し過ぎだと思うが仕方ない。ただ、ここでは話しづらいね。極秘事項だろうし。


「公爵、これから少しお時間ありますか?僕の執務室に招待しましょう」


「ありがたき幸せ!!」


 前のめりになりつつ返事をする公爵は、いつもの穏やかで飄々とした紳士のイメージが崩れ過ぎている。それもまずいので、シルビーに念話で公爵と執務室に転移して欲しいと頼み、バレない様に転移してもらった。


「殿下!早速ですが見せて貰えますか?!」


 執務室に到着したのと同時に発した言葉がコレだったのだが、リオが作る物が普通な訳が無いとさっきの指輪で理解したのだろうね。まぁ、今更(いまさら)か……


「公爵様?どうしたのですか?かなり興奮気味ですね」


「あぁ。リオに貰った指輪と箱を見たいと……」


「あー、なるほど!コレクターの血が騒ぐのですね」


 キースもクリスも納得して頷いている。皆んなリズとは幼馴染だから、公爵の趣味も知っているんだよね。僕は鍵のかかった机の引き出しから青い箱を取り出して机の上にソッと置いた。


「この箱だよ。触っても大丈夫だから、好きに弄ってみると良い」


「ありがたき幸せ!!」


 公爵が興奮状態なので、キースに目配せしてリズを呼んで来て貰う事にした。こうなった公爵は、何時間も箱の前から動かないだろう。梃子(てこ)でも動かないってやつだね。それを動かせるのは、リズか公爵夫人ぐらいだろう。力では皆んな(かな)わないしね。


 公爵は剣も扱うし、体術も上手くて、力も強いんだ。それに憧れて鍛えたのがデュークだったりする。魔法も体術も、公爵に憧れて鍛えたのに、公爵にバレるのは恥ずかしいから内緒だって怒るけど、公爵は知っていて、とても嬉しかったみたいだよ。


「カミル殿下、ごきげんよう。失礼しますね」


「あぁ、リズ。悪いね、忙しいのに」


「いえいえ、こちらこそ申し訳ありません。父は夢中になると時間の概念が無くなってしまうので、迷惑をかける前に呼んでいただいて良かったですわ。それで、今日は何に興味を惹かれたのでしょう?」


「リオから貰った指輪も国宝級を超えるらしいんだけどね?箱も凄いんだよ……」


「こ、国宝級?!」


「え?!マジで?」


 キースとクリスの方が驚いているね。リズは顔色ひとつ変えて無い。さすがはリオの側近だね。


「キース、クリスも。そんな事で驚いていてどうするのよ。それ以上の事をリオは既に成し遂げてるのに。これくらい許容範囲内でしょう?」


「ふふっ、その通りだよリズ。リオは制限しなければ、何かしら僕らのためになる物を作り出し続けてくれるのだろうね。まさかダンジョンに潜った理由がコレだったとは夢にも思わなかったけどね」


「ふふふ、リオったらすっごく張り切ってたものね。殿下に戴いた指輪とネックレスが宝物だからと、お返しを自らの手で作って渡そうとするなんてね。プロポーズが相当嬉しかったのでしょうね」


「ふふっ。そう思ってくれていると良いけどね」


「リオは、嫉妬する事は悪い事だと思っているじゃ無い?王子様を独り占めしちゃ駄目だって。殿下からお気付きになって、女性が1m以内に近寄らない様になさっているからリオも平穏な気持ちで居られるのだと思いますわ。わたくしたちには執務中に拗ねて見せたり、殿下に会いに行きたいと……最近では言葉にする事もありますのよ?ふふっ」


「え?!本当に?そんな時は会いに来てくれたら良いのに……」


「殿下、リオは午前中には当日の仕事が終わっているのです。午後には魔導師団にルトの練習を見に行ったり、デューク様達と魔道具の相談をなさっている事が大半です」


「あぁ、うん。そうだね?」


「リオのスケジュールは分かっているのです!殿下の執務がどのタイミングで終わるか分からないからリオも堂々と伺えないのです!夕食の時間だけは必ず空いていると言う情報しか無いでしょう?リオは我が儘になるだろうからと言えないタイプですし、きっと寂しいんだと思いますわ」


「あ……なるほど、そうだね。リオが帰って来たタイミングでは会いに行く様にしているんだけど、リオの会いたいタイミングでは無いよね?そうか、それは考えなきゃ駄目だね」


 幼馴染であるリズは、僕に足りないであろう事を、こうやって考えさせてくれる。女性の気持ちを良く分かっているから助言も的確にしてくれて助かるよ。


「カミル殿下……」


「あぁ、公爵。どうだった?」


「これは開くのですか?」


「かしてみて?」


 僕は箱に魔力を纏わせて、ゆっくりと箱を開けて見せた。公爵は口も目も限界まで開いているよね……?驚き方が個性的なんだね。50年近く見て来たけど、初めて知ったよ……ちょっと衝撃を受けてしまったね。


「なんと、殿下の魔力にしか反応しない?こんな魔道具見た事も無い……いや、確かに文献にはありましたが、賢者様ですら作れないと仰っていたのに!間違い無く、これは世界遺産確定ですな……」


「うーん、僕しか使えないから国庫に置いておくのもおかしな話しなんだよね。やっぱり僕がこっそり大事に持っておくしか無いだろうね……」


「それは指輪が入っていたのですよね?大きさからすると他にも玉璽などを入れるのには使えそうですが……」


「あぁ!それは確かに良いね。僕しか開けられないのだから、僕が王になった時に使おうかな」


 自問自答して納得したので顔を上げると、リズが公爵の元へ歩み寄っていた。


「お父様、満足なさいましたか?これ以上は殿下のお仕事の邪魔になりますからね?」


「うっ!分かってはいるのだが……」


「ごきげんよう……あら?皆んなどうしたのかしら?」


 リオがひょっこりと扉の影から現れた。


「リオこそどうしたの?わたくしに用があったの?」


「ええ、そうなのよ。王妃様にお花を贈ろうと思ったのだけど、ニーナに色彩センスが皆無だと言われたのよ」


「ええ?指輪はとても神秘的だったよね?」


「あー……とても言い難いんだけど説明するとね?指輪は全て素材の色味なのよ。暗めの色って基本的に何を併せてもある程度は合うらしいわ。指輪は台座がブルーだから、石は何でも合うって爺やが言ってたもの。逆に明るい色だとセンスが……ね?」


「「「なるほど……」」」


 皆が納得して頷いたタイミングで、公爵がガバッと顔を上げてリオに声をかけた。


「聖女様!この箱も聖女様が作られたのですか?!」


「え?!え、えぇ、そうですが……?」


 リオがちょっと公爵の勢いに驚いたみたいだ。普段の公爵しか見た事が無いと、驚くのは仕方ない事だと思うけどね。


「私にも!私にも作っては貰えませんか?!お金ならいくらでも出しますから!」


「それは構わないですけど、素材が足りるか確認しないと作れるか分からないわ」


 困った顔で僕を見上げるリオは可愛いね。材料は師匠が管理してるんだよね。悪い事にも使えちゃうし毒もあるから厳重に保管してあるんだ。


「え?リオ、そんなに簡単に作ってあげても良い物なの?貴重なんでしょう?」


 リズが珍しく驚いた顔をしている。ん?リズも自分しか開けられない箱が欲しいのかな。何か内緒にしておきたい事があるとか?僕も日記帳を入れる箱でも作って貰おうかな。ソラ達は中身も全部知ってるから今更だろうけどね。


「そうでも無いわよ?私と魔力循環してくれたら、箱に持ち主の魔力を覚えさせるだけだからね。因みに私の魔力も少し入っちゃうから、制作者である私も開けれるのが難点なぐらいかしら?」


「リオ、私にも宝石箱をこれくらいの大きさで作って貰えたりする?支払いはキースが出すわ」


 リズが両手の親指と人差し指を直角に起こして、箱の大体の大きさを示している。キースがお金を出してくれるのが前提なんだね。この2人の関係って不思議だよね。


「あー、うん。それは出すよ。リズは滅多に物を強請(ねだ)らないからプレゼントしたい。私からもお願いします」


 キースがしっかりと頭を下げた。リズにプレゼントしたいなんて言われたら、リオは断れないだろうね。まぁ、リズには作る気でいるみたいだけどね。


「そうね……それだと素材を取りに行かなきゃ厳しいと思うのだけど……」


 リオがスーッと扉の上(あた)りに視線を動かすと、間も無くスタッと師匠が降って来たよ……


「ワシは構わんが、リオはそろそろ結婚式の準備も忙しくなるじゃろう?ワシとリューとサイラスで狩って来るからな?」


「…………仕方ないわね。私も行きたかったけど、来週から結婚式関連の準備でスケジュールが凄かったものね……」


「王太子妃ともなれば、準備に数ヶ月は要するから仕方ないですね。リズが全力でお手伝いさせて頂きますので、安心してくださいね」


 公爵が箱の為にもリズの有能さをアピールしてる……様にしか聞こえなくなって来たね。元々良い人だと理解はしているのだけどね。魔道具など、未知の道具が絡むと人が変わるから、ちょっと怖い事もあるよね。


「ええ、リズにはお世話になりっぱなしですわ。リズ、頼りにしてるわね」


「任せて!リオ」


「それじゃあ、そろそろ各自仕事に戻ってくれるかい?僕もまだ少し仕事が残ってるんだ」


「あ、私もだったわ。リズ、今から大丈夫かしら?」


「ええ、直ぐに向かいましょう。王妃様のお好きなお花も知っているから、私も手伝うわね」


「ありがとう、リズ!カミル、それじゃあ夕食にね」


「あぁ、また夕食で」


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 リオ達だけでは無く、キース達も帰った夕食前。無言で擦り寄って来たモフモフが1匹。甘えたいのかな?


「どうしたの、シルビー?撫でて欲しいの?」


「撫でて欲しくもあるよ〜。あのね、ボクが亜空間を繋いであげたかったの〜。ボクのお仕事減っちゃった〜」


 どうやら指輪に仕事を奪われて拗ねちゃってるのかなぁ?僕にとって指輪は『リオが僕に贈ってくれた』事に価値があるのであって、シルビーがやりたいと言ってくれるのであれば、手伝って欲しいのだけどね?


「シルビーが居る時は、シルビーの魔力を使わせて貰うよ?リオも言ってたけど、基本的には有事の際ぐらいしか指輪の機能は使わないと思うから、これからもよろしくね?シルビー」


「そうなんだね〜!うん、ボクもお仕事頑張る〜!こちらこそよろしくね〜、カミル」


 喜ぶシルビーの背を優しくゆっくりと撫でながら、この幸せな時間がいつまでも続く事を切に願うのだった。

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