第180話 完成した指輪と意気地無し ★リオ SIDE
メタリックブルーの台座に、七色にキラキラと光る魔石が美しいと自画自賛しては、ペアで作った指輪を並べてニマニマしながら眺めていたけど、眺めてるだけでは駄目ね。私の指輪で亜空間に繋がるか確認する為、魔石に血を一滴垂らし、亜空間が開くイメージをする。すると、ソラが居なくてもおにぎりを取り出す事に成功したわ!ソラにも確認を取って、完璧に繋がってるとお墨付きをもらったから一安心よね。
カミルの指輪も私の指輪が完成したその翌日には出来上がり、後は亜空間と繋ぐだけとなっていた。問題があるとすれば、カミルにいつ渡すかなのよね。カミルは満月の薔薇園と言うロマンチックなシュチュエーションで渡してくれたんだけど、私はそう言うのに疎いから...
そんなこんなで渡さなきゃと思いつつも、指輪が出来上がってから随分と経ってしまった。その間に王妃様を呪った犯人も、元凶の貴族やその他諸々も捕まったらしいわよ。モタモタしている私に、ソラが辛辣な一言を耳元で呟いた。
「ねぇ、リオ〜?それって、いくら考えても無駄だと思うけど〜?」
全身でビクッと反応した。その通りなんだけどね?私には覚悟というか、心の準備をする時間が必要なのよ……
「カミルに肌身離さず持っていて欲しいから作ったんでしょ〜?どこに悩む理由があるの〜?何て言って渡せばいいのか分からないとか〜?リオの場合、上目遣いで手渡すだけで、カミルには何も言わなくても通じるでしょ〜?」
「うっ、痛い所を突いて来るわね、ソラ。非モテ女子の私にはハードルが高過ぎるのよ……」
「非モテ女子?かは分からないけど、『指輪ありがとう!私も用意したから貰ってくれる?』って普通に渡してもカミルは尋常じゃなく喜ぶと思うけど〜?」
「ふふっ、目に浮かぶ様ですわよね、ソラ様」
公務を手伝ってくれていた側近のリズがソラに優しく微笑んでいる。わ、分かってはいるのよ?カミルなら何を渡しても嫌な顔をしないで喜んで受け取ってくれると思うもの。
「そうですよ。殿下は聖女様からの贈り物であれば何であれ、舞い上がって喜ぶのですから気負う必要は無いと思いますよ?」
補佐官であるニーナにまで、背中を押されてしまったわ……分かってはいるんだけどね?何だろう……急に不安?とは違うけど、ただ単に意気地無しなのかしらね?
「もう出来上がったんだし〜?バレる心配はほぼ無いだろうから、結婚式までに渡せば良いんじゃない〜?」
「そ、そうね!それくらいで考えていれば、そのうち渡すタイミングも訪れるわよね!」
「あらあら、現実逃避したわね?リオにしては珍しいわよね。まぁ、慌てる必要も無いし、明日は2人で視察に行くのでしょう?」
「ええ、その予定ではあるんだけどね。いくら風景が良い場所だからって、視察で渡すのもおかしくない?」
ふぅーっと深い溜め息を吐いて、顔を上げると……
「か、か、カミル?!」
「ご、ごめん……シルビーが急に転移したんだ、リオに何かあったのかと思ったんだけど……」
カミルがとても困っているわ……当たり前よね。何処から聞いていたのかにもよるけど、カミルの反応からして指輪を渡そうとしてる事がバレてるわよね?
「あぁ、そうなのね。心配してくれてありがとう。特に問題は起こって無いから安心してね」
「えぇ〜?問題起こって無いの〜?ボク、リオが「うーん、うーん」って言ってたから、何かあったのかと思って〜」
「シルビーも心配してくれてありがとう。体調が悪ければ自分で治せるし、誰かに襲われてもソラがいるから大丈夫よ?」
「あ、そっかー。ソラ様がいるなら大丈夫だねー」
シルビーが何だか棒読みね?ソラにカミルと来て欲しいとでも言われたのかしらね。まぁ良いわ……ここまで来たのだから、ちょっと薔薇園でも散歩しようかしらね?精霊達が動いたみたいだし、何だか今日渡した方が良い気がするのよね。勘でしかないけど、渡す前に何かしら事件でも起こって後悔したくはないしね?
「カミル、今から少し散歩しない?」
「リオのお誘いなら、何処へでも行くよ。そう言えば、母上の温室の花が見頃だと言っていたから、入室の許可を貰って来ようか?」
「まぁ、そうなのね!見てみたいわ。お願いしても良いかしら?」
「もちろんだよ。シルビー」
「は〜い!」
ポンッ!と消えたシルビーとカミルは2分もせずに帰って来た。カミルの笑顔がキラキラしていて眩しいわね。手には金色の大きな鍵を握っていた。
「リオ、さぁ行こう!」
私の返事を待たずにエスコートの為、肘を曲げて待っている。もう、可愛いわね。カミルが嬉しそうだったり楽しそうにしているとつい、私も笑顔になってしまうのよね。
「ふふっ。では、行きましょうか。リズ、ニーナ、今日もありがとうね。キリの良い所で終わらせてくれて構わないからね」
「ええ。急ぎの仕事は無いし、今日はもう終わりにしましょう。ニーナ、良いかしら?」
「ふふっ、もちろんです。私も今日の分の仕事は終わっているので問題ありませんわ」
「それじゃあ、また明日ね」
「「行ってらっしゃいませ」」
⭐︎⭐︎⭐︎
カミルと王妃様の温室にお邪魔する事になったのだけど、人の気配が2つあるわね。隠す気が無いのかしら?分かりやすい金色の魔力を持っているのは陛下……お義父様ね。そうなるともう1人はお義母様でしょうね。カミルも気が付いてるみたいで、頬の上辺りがヒクッと動いたのを見逃さなかったわよ。
『ソラ、私が隠密魔法を皆にかけるから、一旦温室の奥に転移してくれる?』
『りょ~か~い』
私はカミルと目を合わせてから隠密魔法をかけ、次の瞬間にはソラが温室の奥に転移してくれたわ。カミルは私が見えていないはずだから、手を握って存在を知らせてからゆっくりと歩き出す。軽く手を引く私に、カミルは何も言わずついて来てくれた。
のんびりと散歩を進めて行くと、急に爺やが目の前に現れたわ。カミルは少しビクッとして、驚いているのが分かる。私は『賢者』のスキルがあるから、爺やの事も見えるので驚かないけどね。
「ギル達には邪魔せずに部屋に帰る様に言っておいたからな、ゆっくりすると良い。ここから左に進んだ奥にある四阿に、お茶と軽食を準備させたから楽しむが良い」
爺やはそれだけ言うと、私達の前からフッと姿を消した。どうやらソラが転移したみたいだ。何気に爺やとソラって仲が良いのよね。
「リオ、四阿に行ってみるかい?せっかく師匠が準備してくださったようだから、好意に甘えようか」
「ええ、そうね。少し喉も乾いたところだったし、行ってみましょうか」
爺やの言った通り、左に進んだ奥に可愛らしい四阿があった。これはお義母様の趣味でしょうね。テーブルの上には手軽につまめる軽食とお菓子が置いてあった。四阿に着くと、カミルが長椅子にエスコートしてくれる。そして珍しく、私の隣に座ったわよ?部屋の中やプライベートな空間でしか隣に座らないのを知っているから少し驚いてカミルの顔をまじまじと見つめてしまったわ。
「あはは。リオは分かりやすいね。僕ね、ちょっとだけ拗ねているんだよ?何故か分かる?」
「え?カミルが拗ねてたの?」
「うん。僕はリオの事になると、子供の様に拗ねてしまうらしいよ。ふふっ、実は僕もさっき初めて気が付いたんだけどね」
「ええ?私何かしたかしら?」
「そうだね、リオは悪くないんだ。僕の心が狭いだけだね。答えを言っちゃうとね、ソラ達精霊だけではなく、リズ達も知ってる事を、僕には内緒にしていたでしょう?それで少し拗ねちゃったんだよ」
「まぁ!それで拗ねてたの?ごめんね、私が意気地無しだから……」
「え?意気地無し?」
私は覚悟を決めて、青い小箱をポケットから取り出した。カミルの手をそっと開いて、青い箱を乗せて握らせる。
「その、私が作ったの。何て言って渡せば良いのか分からなくなっちゃって……えっと、あのね?その、カミルが薔薇園で渡してくれた時、とってもカッコ良かったから……」
顔が熱を持つのが分かるほど火照っていた。温くなった紅茶を口に含んで飲み干し、カップの陰からカミルをそっと覗き見ると、カミルも顔を真っ赤にしていた。2人とも真っ赤で余計に恥ずかしいわね……
「あ、ありがとう、リオ。リオが準備してくれたプレゼントなら、何でも嬉しいよ。開けても良いかな?」
気を取り直したカミルが、早速青い箱を開けようとしている。
「ええ、もちろんよ。カミルの為に作ったのだもの。あぁ、カミルの魔力を流しながら開けないと開かないわよ?」
「え?」
「ん?」
「この箱は、僕にしか開けられないって事?」
「ええ、そうよ。特別感があった方が良いんじゃないかって、精霊王が作り方を教えてくれたのよ」
「精霊王が…………うん、そうだね。これは僕が大事に取っておく事にするから大丈夫。さて、じゃあ魔力を流しながら……」
カミルは魔力を放出して箱を綺麗に包み込んだ。凄いわね。カミルの繊細な魔力制御は私も見習いたいわ。青い箱の魔法の鍵が解除されて、カミルがゆっくりと蓋を開ける。
「わぁ……なんて神秘的なんだろう。つけてみても良い?」
「あ、私がつけてあげたいわ」
プロポーズの時、指輪もネックレスも、カミルがスムーズにつけてくれたのよね。私はそこまで器用じゃないけど、きっとカミルなら待っていてくれるもんね。
「うん、お願いするよ。二ホンでは左手の薬指だったよね?」
カミルは左手を出して、つけやすいように指を軽く開いてくれた。お陰様でスマートに嵌めてあげる事が出来たわ。カミルは左手を太陽にかざして指輪を嬉しそうに眺めている。
「不思議な色だね……とても綺麗だ。リングの方も奥行きのある青というか……引き込まれてしまう様だ」
「あ、その指輪は細工がしてあるのよ。コテツさんが研究していたノートにあったのがきっかけだったのだけど、本人に会えるのだからもっと良い物を作ろうと夢の中で話し合って作り上げたのがこの指輪なの。研究していたその頃より、数倍素晴らしい物になっているって言ってたわ」
カミルが固まったわね?また私が何か非常識な事を言っちゃったかしら?
「カミル?」
「あぁ、リオ。この指輪の機能を教えてくれるかい?」
まだ少し固い笑顔のカミルを不思議に思いながら、私は自分の指輪を見せる。
「私のピンキーリングも同じ機能を持っているから、やってみせるわね?」
私は自分の亜空間である『ソラそら』を展開した。相変わらずカラフルなステンドグラスの扉に、質素な取っ手がついている。私の場合はおにぎりやその材料しか入ってないんだけどね。
「ま、まさか……亜空間を自由に開けるの?」
「ええ、そうなの。カミルの場合はシルビーが近くに居なくても、自分の亜空間を自由に開けるようになるわ。何か有事の際に、予備の剣とか入れて置けば役に立つかなって思って」
「これは僕しか使えないの?」
「ええ。これからカミルの血を一滴、この魔石の部分につけて貰って良い?少し光るから、それが収まったら使えるはずなんだけど」
カミルは風魔法で薄っすらと右手の人差し指に切り傷を作り、魔石に血を垂らした。とっても楽しそうで何よりなんだけど、人差し指の傷が気になるから治すわよ。
「あ、ありがとう、リオ。光が収まったみたいだから、亜空間を開いてみるね。イメージするだけで良いのかな?」
「ええ。出し方は精霊がいる時と変わらないわ」
カミルは頷くと、直ぐに亜空間を繋げる事に成功していた。
「凄い!これは便利だね。シルビーがソラの所へ遊びに行ってる時に、呼び戻したりしなくて済むね。いつも申し訳なく思っていたんだよ。大事なものをしまってるから、急に必要になったりするんだよね」
「ふふっ、喜んでもらえて良かったわ。この指輪は、持ち主……正しくは血と魔力の色を覚えさせてあるから、カミルしか使えないので安心してね。精霊と契約していない人は基本的に亜空間を使えないし、セキュリティーは問題無いってコテツさんも言っていたわ」
「絶対に無くさないし、人に預ける事も無いから大丈夫だよ。リオ、ありがとう。ダンジョンに潜ったと聞いた時には不思議に思ってたんだけど、この指輪の素材を取りに行ってたんだね?」
「ええ、そうなの。コテツさんに教えて貰ったのは素材の名前と、採れる魔物の名前だけでしょう?私じゃ分からないから爺やに相談して、ダンジョンで素材集めをしたい事を伝えたら、サイラスとリューも乗り気だったから、皆で暴れて来たの。ふふっ」
「あぁ、その面子なら間違いなく戦力過多だから、陛下も問題無いと許可なさったのだろうしね。師匠もたまには外の世界を見せてあげたいって親心もあったんだろうね」
後半小声になったから聞こえなかったけど、怒られなくて良かったわ。ラドンの討伐に向かったのも、怒られないか心配だったのよね。でも、良く考えると、カミルに怒られた事って無いわよね?私が勝手に怒られる様な事をしているだけで……
「カミル、いつも心配かけてごめんね?出来るだけ自重する……予定ではあるわ」
「ふふっ。良いんだよ、リオ。リオはちゃんと師匠に相談して指示を仰いでるし、陛下の許可も上手く取ったりしてるでしょう?準備もちゃんとしてたのだろうし、危険度が低いと師匠も陛下も納得したから許可が下りているのだしね。でも、次回からは僕にも教えて欲しいなぁ。今回は内緒にして驚かせたかったのでしょう?それは分かったけど、僕だけ知らないのは寂しいよ?また拗ねちゃうからね?」
首をコテンと倒しておねだりポーズをされちゃうと、私が駄目とは言えない事を知ってるくせにね。まぁ、だからこそやるんだろうけども。私が頷くと嬉しそうに微笑んで、また指輪を眺め始めたわね。仕方ないわね……ここでしっかりと機嫌を直して貰って、四阿デートの続きを楽しまないとね。
「カミル、こっち向いてー?」
「ん?」
こっちを向いた瞬間のカミルの唇の端っこ辺りを目指してチュッと可愛らしい音のするキスを落とした。
「カミル、大好きよ。いつもありがとう。これからも、よろしくね。うふふ」
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