第154話 リアのお願いと皇帝陛下の愛 前編 ★カミル SIDE→リオ SIDE
皇帝陛下との話し合いが行われた日から3日経ち、皇族は全員、明日には帝国へ帰る予定らしい。何事も無く無事に済んで良かった。リオが頑張ってくれたから、上手く行く事は分かっていたんだけどね。
特に何事も無くお帰りいただければ言う事は無いのだけどね。なんて事を思っていると、何かしら打診があるのは何故なんだろうね……それも今回は、皇帝陛下が直々に話しをしたいと僕宛に連絡が入ったのだ。
次期帝国の皇帝となるジャン達とは仲良くしておきたいし、皇帝陛下が僕に何の用があるのか気になるよね。明日にはお帰りになるという事なので急ではあるが、皇帝陛下に了解したと返信してもらった。
「先日ぶりですなカミル殿下。本日は急な訪問を受け入れてくださり、ありがとうございます」
「先日ぶりです、皇帝陛下。あれから体調も問題無い様で安心致しました」
「その節はありがとうございました。お陰様で悩ましかった片頭痛や腰痛、関節痛までもが治った様です」
え……?それは加齢による体調の不良も治ったと言う事だろうか?確かに浄化して貰った時には体は軽くなった気がしたけど……それなら慢性的な腰痛持ちの宰相を浄化してあげて欲しいね。きっと飛んで喜ぶだろう。
「それは良かった。それで今日はどの様な御用件で?」
「あぁそうだった。カミル殿下にお願いがあるのです。我々は明日には帝国へ帰るので、聖女様と姉のアナスタシアと娘のアメリアを呼んで話しをしたいのだが、お許し頂けるだろうか?」
何の話しをするんだろうね?皇帝が女の人ばかりを集めて何を話すのか気になるね。リオも参加するのであれば、僕が居てもおかしくないかなぁ?
「それは構いませんが…………場所などはこちらで準備しますので、私も同席してよろしいでしょうか?」
「あぁ、聖女様が心配なのでしたらどうぞ構いませんよ。リアが「女子会」と言う茶会を開きたいらしく、序盤で私に頼みがあるから同行して欲しいと頼まれたのです。カミル殿下もリアの味方をしていただけると助かります」
仲が悪いと聞いていたが、この数日で随分と蟠りが解けた様に見えるね。それにしても『女子会』かぁ。女の子だけで楽しむお茶会だとすれば、僕の存在は邪魔になるかも知れないね?皇帝陛下もいらっしゃるみたいだし、取り敢えず最初の方だけ顔を出そうかな。
「そうでしたか。それでは、私も序盤だけ参加して様子を見てからにしようと思います。昼食後で大丈夫でしょうか。リオと婆やには私から連絡を入れましょうか?」
「ええ、それでお願いします。娘とこうして話すのも緊張しますが、姉上と話す方が未だに緊張してしまうので……可能でしたらフォローをお願いしても?」
苦笑いする皇帝は、今では好々爺と言う方がしっくりくる感じだね。ほんの少し前は機嫌の悪い貴族みたいな雰囲気だと思ってたんだけどね。あ、不敬かな?ふふっ。
「ふふっ、出来る限りはフォローしますが、婆やが1番甘いのはリオなので、リオにお願いするのが得策かと思いますよ」
「あぁ、そうかも知れないなぁ。ではこっそりと、私が切に願っていたと伝えて頂けるだろうか?」
戯けた様子で僕を笑わせてくれる陛下は、息子の友達的な扱いをしてくれているのかも知れないね。2人で話している時まで堅苦しく無くて良いと思ってくれているのだろう。
「ふふ、かしこまりました。それでは昼食後に会いましょう」
「ええ、また後で」
⭐︎⭐︎⭐︎
★リオ SIDE
「リオ!来てくれて嬉しいわ。突然ごめんなさいね」
お茶会の為に用意された部屋の扉から顔を覗かせると、リアがとびきりの笑顔で迎えてくれた。美しい女性の笑顔って、とても迫力があるわよね。
「良いのよ、リア。明日には帰ってしまうのでしょう?とても寂しくなるわ」
リアの手を握り、ブンブンと上下に振りながら別れを惜しんでいると、婆やが微笑みながら近づいて来た。
「ふふっ。リオちゃん、リアちゃん、ごきげんよう。今日も可愛いわねぇ」
「叔母様、ごきげんよう。お褒めいただき光栄ですわ」
「ふふふ。皇帝陛下、婆や、ごきげんよう。婆やもとても素敵よ!そのアクセサリーは爺やからのプレゼントでしょう?爺やってセンス良いわよね!とっても素敵で婆やによく似合ってるわ!」
女の子が3人も集まれば、姦しいけどもやっぱり楽しいわよね。今度リズやニーナとも『女子会』したいわね。
「クックッ、3人共仲良しで微笑ましいな。聖女様、姉上、ごきげんよう」
微笑みながら陛下と目を合わせて軽く会釈をすると、陛下から優しい微笑みが返って来た。来たばかりの陛下とは別人よね。帝国の人は良い人が多いから大好きよ。リアやジャンともそうだけど、国同士でも仲良くしたいわね。
「そうなのよ、お父様。わたくしの1番大事な人達よ」
嬉しそうに自慢してくれるリアが可愛くて、婆やに賛同して欲しくて振り向くと、私とリアを見る目がとても優しい。相変わらず上品で美しく微笑む姿に、とても憧れるのよね。
「あら?リオ、今日はカミル殿下もいらっしゃるのではなかった?」
キョロキョロと周りを見渡したリアが私に向かって尋ねた。あ、そう言えば、カミルが居ないわね?はて?と首を傾げていると、ソラが私の腕に頭を擦り付けて来た。
「魔導師団の兵舎に寄ってから来るって言ってたよ〜」
ソラが答えてくれた事が嬉しかったのか、リアはとびっきりの笑顔でソラに挨拶をして来た。
「そうなのですね、精霊の王子様。真っ白の毛並みがとても綺麗でとっても可愛らしいですわぁ」
「リア、オイラの事はソラで良いよ〜。リオがとても懐いてるみたいだね〜。これからもリオをよろしくね〜」
「まぁ、まぁ!ありがたき幸せ!とても光栄ですわ、ソラ様。わたくしの元契約精霊ルゥーも良くしていただいたと聞いております。その節はありがとうございました」
リアがソラに向かって丁寧に頭をさげた。リアも精霊達が大好きだと、言動から分かって嬉しいわね。今後、精霊達の事で何かあれば、相談させて貰いましょ。勝手ながら、頼りになるお姉様みたいに思っているのよね。
「あ〜、フェレットの契約者だったね〜。今度バーちゃんも一緒に夢で会わせてあげるね〜。彼らが輪廻の輪に入るまでの間ならね〜」
「ありがとうね、ソラちゃん。婆もまたあの子に会えるのを嬉しく思うわぁ。でも、無理はしなくて良いからねぇ。気持ちだけでもとっても嬉しいわぁ」
婆やもリアもソラに向かって微笑み、感謝を伝えている。ソラ達精霊は仲間を大事にするのは当たり前で、記憶力が良いから一度心を許した者とは共に遊んだ内容もほとんど覚えているらしい。
「ソラ殿、その……よろしければ、私の精霊にも会わせて頂けないだろうか……」
「ん〜と、皇帝の精霊はどの子だっけ〜?」
「グレーの獅子の姿をした精霊です。シルビー殿に近い色でした」
「あ〜、獅子の子かぁ〜!あの子はオイラやシルビーと同じ王族だよ〜」
王族である精霊は少ないんだと勝手に思っていたわ。どうやら精霊の王族は白に近い色の様ね?ソラが真っ白の『純白』で、シルビーとその獅子の子はグレー。人間の魔力は金が1番で次が赤よね。精霊の外見と人間の魔力の色は少し違うみたいだけど、私は魔力が『純白』なのよね……何か深い関係があるのかしらね。今度調べてみようかしら?
「あの子がそう言っていた記憶があります。精霊と契約したばかりの、私が幼い頃の話しですが」
「あの子は賢いんだけど、おっちょこちょいなところもあったからね〜。考え事をしてると壁にぶつかったり、人に突っ込んで行ったりしてたね〜」
えぇ……?そんな精霊もいるのね。おっちょこちょいってだけでは済まない様な気もするけど……まぁ、大雑把な精霊達からすると、その程度の事なのかもね?
「あぁ……その子が間違い無く、私の契約していた精霊ですな。止まって考えなさいと何度か伝えたのだが、止まるとその日のうちに目的地まで辿り着けないから困ると言っていたな……」
遠い目で懐かしみながら獅子の精霊を語る陛下は、その子の事を何より大切にしていたのが分かる。あの魔道具の所為で獅子の精霊の命を奪われたのであれば、陛下も被害者なのでは?と思ってしまうわね。
「変わった精霊さんですね。私のイメージだと、精霊は皆んな要領が良いんだと思っていました」
まぁ、私の場合は周りにいる精霊、ソラやシルビーが賢いからそう思うのかも知れないけどね。
「あぁ、その認識で合っているよ。あの子だけが独特だったと言うか……そんな違いも大事な個性だから、私は可愛いと思っていたのだが、本人は大変だったみたいだね」
獅子の精霊を語る皇帝の表情は、どんどん崩れていってるわね。孫を想う祖父の様にデレデレと言うか……皇帝陛下という立場の人がしちゃ駄目なお顔をなさっているわね。まぁ、可愛い精霊達を考えるとそうならざるを得ないとは思うけど。
「ふふっ。その子の事が大好きだったのですね」
「あぁ。あの子が居たから、私は皇帝と言う重圧に耐えようと思えたんだ」
「そうだったんですね。ソラ、お願いを聞いてあげては貰えないかしら?」
膝で丸まっているソラを撫でると、甘える様に頭を掌に擦り付け、上目遣いで私と視線を合わせてからドヤ顔をした。ソラのドヤ顔、すっごく可愛いから癒されるわー。
「リオが願うのであれば、もちろん叶えてあげるよ〜。まだ輪廻の輪に入って無ければだけどね〜」
「ありがとうございます、聖女様、ソラ殿。これが最後でも構わない。私はあの子にちゃんとした謝罪をしていないのです。だから、たった1度で良いから会ってしっかりと謝りたいとずっと思っていたのですよ」
悲しそうに話す陛下は一気に年を取った様に見えた。帝国の皇族は、愛する精霊と離れてしまった悲しみからまだ抜け出せずにいる様ね。私がその立場であったとしても、きっと前を向くには時間が掛かるわよね。
「ん〜、精霊は謝罪なんて要らないんだけどね〜。何をされても、自分の契約者が儚くなるまで側にいるだけだからね〜」
そう聞いてはいるけど、例外は無かったのかしらね?
「途中で契約破棄とか?そんな事例が起こった事はこれまで無かったの?」
「精霊の王子に必要な勉強の中でも聞いた事が無いから、多分無かったんだと思うよ〜。契約中の精霊が……精霊側が消える事すら想定外だったはずだよ〜。ニンゲンの方が、寿命短いからね〜」
確かに人間の方が先に逝ってしまうでしょうからね。前にシルビーが、精霊にとっては数百年なんてあっという間だって言ってたもんね。
「へぇー、そうなのね?ふふっ、ソラはやっぱり賢いわね。これから結婚式などで大変になるとは思うけど、いつも近くに居てくれたら嬉しいわ」
ソラをモフりながらお願いしていると、ポン!っとシルビーとカミルが現れたのだった。
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