第148話 魔道具の謎 ★カミル SIDE
黙々と『人間を魔物にする魔道具』を浄化していたリオが、大きな溜め息を吐いた。
「ふぅ――――、やっと半分くらいかしら?」
「そうだのぉ……次が50個目かのぉ?」
ここには全部で107個あるはずだから、残り57個。まだまだ遠い道のりだね……
「ここには107個あったのよね?記録は……デュークのノートと録画水晶があるから大丈夫かしらね」
「あぁ、そこは浄化が終わって王国へ帰ったら直ぐに確認するから大丈夫じゃよ。数が足りなければ、探せば良いだけじゃ。これだけの数を一気に片付けられる事と、全体の数が分かってるだけ楽じゃからのぉ」
あぁ、数が足りなかった時の事が心配だったんだね。リオは自分が大変な時にも、他の人や他の事を気にしてしまう。本当に女神様の様に慈悲深いよね。僕の婚約者は女神様だと世の中に自慢したいよ。
「ええ、そうね。ライが手伝ってくれたお陰で、1日でほとんどを浄化する事が出来るものね。助かるわ」
「それにしても、魔道具はたったこれだけの数で、あんなに沢山の魔物が生まれるものかのぉ?」
魔道具は全部で108個なのに、魔物は何十万単位で倒してきたよね?たった108個の魔道具から、凄い数の魔物を作り出した事になるのか。師匠の言いたい事も分かるね。
「確かにそれはおかしいわね?魔道具の数と魔物の数が違い過ぎるわ。魔道具を作ったのは、ここ数十年程度だったわよね?」
「あぁ、それは近くにいた者も影響を受けるからだ」
制作者のライトが説明してくれるから、謎は全て解けそうだね。それにしても、持っていたものだけではなく近くにいた人間も被害を受けるとしたら……貴族で使用人を雇っている家なら、ひとつの魔道具でもかなりの人数が被害を受けた事になるよね。
「え?魔道具は1人に1つでは無いの?」
「いや、違うぞ。流石の吾輩でも、その数を作るのは骨が折れる。そもそも1000年前は強制的に作らされてたから作っていたが、今は母上の生命維持以外の使い道が無いからな」
その、魔道具を作らせていた貴族は何者だったのだろう。精霊の素直な性格などを知っていたのであれば、皇族の可能性が高くなるんだよね……本当にそうだったとしても、皇帝に退いてもらえば済む話しではあるか……?ジャン達と相談しないとだね。
「もしかして、1000年前から動いている魔道具もあるって事?」
「あぁ、あるぞ。確か85個だったが、キリが良い数字が良いと90個作らされたんだったかな」
ひとつ幾らで売っていたのだろうか。90個でも十分に利益が出る金額で売っていたのか?もしくは……考えたく無いが、持っている人物が最終的にこの世からいなくなると理解していて、邪魔な相手に渡していたとか?それをカモフラージュするために、ライトに販売させたとすら考えられるな。
「封印が解けてから作ったのは18個って事?」
「そうだ。1000年も動いていたからか、生命力を吸う力が衰えている個体があってな。母上が苦しそうだったから、10個追加で作ったんだ。それでも足りなくて、結局は108個になった」
やはり、ライトは全てご母堂の為に魔道具を制作していたんだね。こんなに素直な精霊と同じ性質を受け継いでいるライトを犯罪に加担させるなんて……やっぱり、僕はその貴族は許せそうにないね。
「1000年の間も魔物は集めていたのじゃろう?魔物はどうやって集めていたのじゃ?」
確かに1000年の間も魔物を集められるシステムがあれば、あれだけの数の魔物でも納得出来るよね。
「吾輩が『狭間』を作れるのは知っているな?空間を歪める事で、教会の何百倍も広い空間を1000年前には作れたんだ。そこへ魔物になった人間が勝手に転移する様に魔道具自体に仕込んである」
「なるほど……」
師匠はどんな回路を作ればその様な魔道具が出来るか考えてるんだろうね。まぁ、『狭間』を人間は作れないから、思いつきもしない内容ではあったよね。
「ただ、命令が『魔道具の近くにいる魔物』だから、魔道具で作られた魔物だけではなくて、そこら辺に生息している魔物も入ってたと思うぞ」
昔は今ほど整備されていなかったから、魔物の数もかなり多かったと考えられる。自然に生息していた魔物もそれなりの数が『狭間』に入ってしまったのだろうね。
「人の脅威である魔物を、知らずうちに減らしてくれてた可能性もあるのか……1000年間、90個の魔道具は動いていたんだもんね?」
「あぁ、そうだ。ただ、周りにも影響を及ぼす事は、吾輩も最初は気が付かなかった。魔道具を売れと言った貴族は魔道具を持っていなかったはずなのに、途中から言動がおかしいと思ってはいたんだけどな」
魔道具を制作しているライトの近くにいた事で、その貴族も影響を受けてしまったのだろうね。快楽に抗えず、自ら依存してしまった可能性はあるけど……それは自業自得だもんね。
「そもそも、その魔道具の作り方はどうやって知ったのかね?」
「古い言葉で書かれた本があったらしいが、吾輩には全く読めなかった。絵本程度であれば文字は多少読めるんだがな。それをアイツ……あの貴族が読んで聞かせたんだ。だから作る事が出来た」
「な、なんだって?古語を読めるとしたら、王族や皇族か、それらに近しい者達だよ。皇族の関係者だったのか?」
「んー……、ちょっと面倒な事になりそうねぇ?皇女であるリアや皇帝、そして婆やの精霊も消滅してるし、帝国の皇族に関係があるだろうとは思っていたけど……」
リオの勘も良く当たるからね。少なからずとも皇族が関係しているのだろうね。
「そちらはジャン達と、国同士の話し合いをするよ。個人で何とか出来る範疇を既に超えてるからね。魔道具を浄化すれば、皇帝も正常な考えになるんだよね?」
「そうだ。影響を受けていた周りの人間もだな。ただ、完全に正常に戻るまでに掛かる時間は分からない。これまでに正常に戻った人間は、少し体調の悪くなったリオや公爵、王国の町の人間ぐらいのはずだからな」
魔道具を受け入れない事で体調が悪くなるのは魔力のある人間で、魔力が無い平民達は暴れたからね。リオが浄化のスキルを発動出来る様になったから、今ではそこまで脅威ではなくなったけど、浄化スキルはとても疲れるらしいからね。
「ね〜、リオ~。急ぐなら、取り敢えず皇帝だけをリオが浄化すれば〜?ジャンやリアが居る場所でやれば問題無いかも〜?ばーちゃんも立ち会えば、悪い様にはならないと思うよ〜」
シルビーが皇帝の浄化を提案したね。精霊達も早く終わらせたいのだろうか?まぁ、シルビーは早くライト達と遊びたいのかも知れないね?ふふっ。精霊達が遊ぶ様子は、とても微笑ましいのだろうね。
「そうねぇ。これだけ魔道具を浄化した後だから、きっと浄化が上手くなってると思うわ…………」
苦笑いしながら答えるリオの笑顔に、少し疲れが垣間見える。
「大丈夫〜?リオ、少し休憩したら〜?」
ソラも疲れているリオを心配している様だ。我々は誰も浄化スキルを持っていないから、リオに頼る事になってしまうのが心苦しいよね。まぁ、このスキルを持つのは『聖女』のみ。だからこそ、リオがこの世界に召喚されたのだろうけどね……
「少しでも早く、ジャン達が帝国へ帰れる様にしてあげないとでしょう?明日までには終わらせたいわよね」
「効率が悪くなるし、体を壊したら元も子もないのだから、少し休憩した方が良いとは思うよ。リオが頑張ってるのは、ジャン達も分かってるから焦らなくても大丈夫だよ」
リオとしっかり目を合わせて話す。ソラも心配してくれているから、ここらで終わらせて続きは明日でもいいだろう。
「そうね…………浄化を初めてから5時間ぐらい?もうすぐ暗くなるだろうし、後10個だけ浄化したら明日の午前中に終わらせられると思うのだけど、どうかしら?」
「あぁ、それが良かろう。軽く何か食べてから10個だけ頑張ってくれるかの」
師匠が無理をしがちなリオの案を受け入れる事にしたようだ。10個でも、とても疲れるはずなんだよね。帝国にほど近い町で町人を浄化した時も、狂った8人とおかしい言動をしていた2人を浄化して、あのリオが疲れを隠せないぐらいグッタリいたのだから。
「ええ、任せて。軽食とは言えないけど、おにぎりがあるから皆んなで食べましょう?」
「リオが作ったおにぎり?嬉しいなぁ!」
久しぶりにリオの手料理が食べられるのも嬉しいが、『オニギリ』や『ミソシル』が大好きになったんだ。僕の魂はコテツさんの記憶を持っているから、味の好みも一緒なのだろうか。
「ライも普通に食事は摂るのよね?ライのご両親と、私の故郷の食事を作ってあるから、一緒に食べましょう?」
「え?吾輩も食べて良いのか?」
ライトが食事を摂っているところを見た事が無いから、食事をするのかが不明だったね。ライトの事はもう少し知る必要があると思うけど、きっとリオ達聞き出してくれるだろうから後で報告を待とう。ライトはリオに懐いているし、精霊達もいるから任せた方が良いだろう。
「もちろんよ。食事はね、皆んなで食べた方が美味しくなるのよ?ふふっ」
リオは困ってる者をほおっておけないだけなのだろうけど……あんな笑顔を向けられたら、惚れられてしまいそうで怖いなぁ。リオの婚約者は僕なのに。リオの事となると、やっぱり僕は狭量だなぁ……
「ご相伴にあずからせていただく……ぞ?」
「ライは相変わらず、難しい言葉を知っているのね。凄いわ」
確かに。貴族の話すような言葉も知っていたり、ぶっきらぼうではあるが、話し方も優雅なんだよね。
「吾輩が生まれてから30年ぐらいは、母上が一生懸命勉強を教えてくれたのだ。あの貴族が現れてから、母上は病んでいった気がする……」
「そう…………」
もしかすると、あの魔道具の影響がライトに出ない様に、ご母堂がすべて引き受けてくれていたのではないか?生命力を注がれていたにも関わらず、長い間目を覚まさなかった理由が分からなかったんだよね。確かにこれだけの魔道具を制作して来たのだから、ライトに対してそれなりの反動があってもおかしくないよね。
「さぁ、皆食べましょう?ライ、お味噌汁は熱いから気を付けてね!」
いきなり『ミソシル』に口をつけようとしたライトにリオは慌てている。初めて食べる異国の味……異世界の味か?ライトはどう感じるんだろうね。
「美味しい……」
「それは良かったわ。まだ沢山あるから、足りなければ言ってね?ほら、カミル達もね」
笑顔で『オニギリ』を勧めるリオが可愛い。浄化で疲れているはずなのに……リオはリオに出来る事を全力でやってくれる。僕も王太子として、僕に出来る事を全力でやろうと思っているよ。
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