表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/210

第146話 ライと魔道具、そして塩! ★リオ SIDE

 お日様がカーテンの隙間から覗いている。いつも起きる時間より位置が上にあるわね。少し寝坊したかしら。


「おはよう、ソラ」


 私の横で丸まって寝ている可愛い精霊に声を掛ける。ソラは丸まって寝ている姿のまま、薄目を開けてこちらへ視線を向けた。


「おはよ〜、リオ〜……。オイラ、まだ眠い〜……」


 起きないソラの背を撫でていたら、頭を持ち上げて手のひらに擦り付けて来た。首元まで撫でてあげると、ゴロゴロと気持ち良さげに喉を鳴らす。


「ふふっ。今日は甘えたさんねぇ?私が抱いて連れてってあげるから、寝ていて良いわよ」


 私の前では無防備なソラが可愛くて仕方ない。


「ありがと〜、リオ」


「どういたしまして」


 私は泊まっていた部屋から、カミル達がいる部屋へ移動する事にした。ソラは、1日に何度も転移したり、夢へ繋いだりしたから疲れたらしい。この後もライの所へ行かなければならないから、休めるうちに休んで貰わないとね。


 ソラを揺らさない様に気をつけながら、ゆっくりと歩いていると目的地についた。コンコンとカミル達の部屋の扉をノックする。朝食の時間には少し遅いぐらいの時間だから、誰かは起きているだろう。


「はい、どうぞお入りください」


 返事をして、慌てて扉を開けに来てくれたのはデュークだった。補佐官や侍女を連れて来ていないから、デュークがドタバタ動く事になるのよね。


「おはよう、デューク。昨日は良く眠れたかしら?」


「あ、はい……良く眠れました。正直に言いますと、教会の地下でウトウトしていた記憶はあるのですが、気がついたら朝でして……」


 あら、幸せなヤツね。子供の頃、ウトウトしてる最中に、お布団へ抱っこして連れてって貰えると嬉しかったアレと一緒よね。まぁ、抱っこではなくて(かつ)がれてたけど……


「あぁ、爺やがデュークを(かつ)いでこの部屋へ運んでたわ。寝たら起きないタイプなのかしら?」


「あ、いえ、昨日は……誰か1人だけでも、ちゃんと休んでいる人間がいなきゃ駄目だからと、シルビー殿に無理矢理寝かされたのですよ」


 デュークは苦笑いしながらも説明してくれた。寝てる自分を運ばれると言うのは、男性にとってはあまり嬉しくないのかしらね?それとも爺やに運ばれたのが嬉しく無いのかしら。


「あぁ、なるほど。精霊が寝かしつけた時って最低でも5時間は起きられないみたいだもんね」


「その様です。寝かしつけた精霊が起こしてくれた場合には直ぐに起きれるらしいのですが、帰ったらそのまま寝るだけだったから放置したと言われまして……」


 遠い目で放置された事にショックを受けているデュークは、丁度朝食を食べ終わったタイミングだった様だ。


「さすが精霊ね……まぁ、良く眠れたなら良かったわ。ソラも疲れ切ってるみたいだし、心配してたのよ」


「少しお待ちください。師匠とカミル殿下を起こして来ましょう」


 少し考えてから首を横に振った。


「私は大丈夫だから、ゆっくり休ませてあげて?彼に話しを聞くのは、私とデュークだけでも問題無いでしょう?」


「しかし、聞きたい事が他にもあるかも知れませんし」


「ライは逃げないわよ?いつでも話しは聞けるのだから、取り敢えずは私達でざっと終わらせましょう?更に聞きたい事が増えるでしょうし、その時にはカミル達の考えも聞きたいわね」


 デュークは頷きながらカミルに負担が掛からない様に色々と思案しているようだ。


「あぁ、そうですね。一度では終わらないでしょうね。その……『ライ』殿がもう起きてるなら、先に話しを聞いておきたいですね」


「でしょ?あぁ、彼は『ライト=タイラ』って名前を付けて貰ったから、ライトって呼んであげてね。それじゃあ、ソラが起きたらライの所へ行きましょうか」


 腕の中のソラへ視線を向けると、ソラがムクッと首を上げた。そして近くの椅子に飛び移ると、ググ――――ッと全身で背伸びをした。


「連れてくだけなら行けるよ〜。着いたら寝てる〜」


「ええ、着いたら寝てて良いわよ。眠いのに、申し訳ないわね。よろしくね、ソラ」


 本当にソラは気が利くわよね。精霊なのだから、本来なら一日中のんびりしていても良いのにね。


「ううん、大丈夫だよ〜。デュークとリオだけ?一応、カミル達も移動させとく?ライトは起きてるみたいで、ベッド使って良いって言ってる」


「あら、念話出来るの忘れてたわ。それじゃあ2人も一緒に、起こさない様にそーっと運んであげて?」


「りょ〜か〜い!ホイっ!」


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 教会の地下……とは言え、半地下なので真っ暗では無くて、光が筋のように差し込んでいる、幻想的な風景の場所へ転移した。昨日は夜だったから、こんな場所だったとは全く気が付かなかったわね。

 

「リオ!待ってたぞ!」


「おはよう、ライ。昨日ぶりね」


「お、おはようリオ。昨日はありがとう」


 あら?私、昨日何かしたかしら?コテツさんやお母様とお話しした事ぐらいしか覚えて無いわね。


「ん?何かしたかしら?あぁ、カミル達にベッドを貸してくれてありがとうね。まだ眠いみたいだから、起きるまで私とお喋りしましょう?」


 優しく微笑むライは、昨日より少し大人になったみたいね?落ち着きと言うか、心に余裕がある様に見えた。


「あぁ、分かった。何か聞きたい事があるのだろう?」


「ええ、そうだけど……」


「父上が、全面的に協力してあげなさいって。吾輩の所為で、この世界が壊れたんだって言ってた。知らなかったとは言え、人類が滅亡するぐらいの悪い事をしたんただって……」


 それを知らなかった事が怖いんだけどね?この世界を壊そうと思って魔道具を作った訳では無いっていうのだから。


「そうね、ライは何が悪かったのか良く分かって無かったものね。まぁ、人間に騙されてたのもあるから……」


 仕方が無かったわよね、と続けたかったのだが、ライが真面目な顔で首を振って話しを割り込ませた。


「騙されたのも、吾輩が無知だったからだと……力を持つ者が無知なのは罪だと言われた」


「コテツさんが?」


「母上も言ってた」


 やはり、ライのご両親は素晴らしい人格者ね。言ってる事もまともだし、(しか)るべき所をしっかり押さえた上でライが分かる様に説明もしてくれていた。


「そう……素晴らしいご両親ね、ライ。そんなご両親から生まれたライは、きっと賢くて強い子。だから罪を償う為にも、作った『人を魔物にする魔道具』を全てこの世の中から消滅させるわよ」


 女神様にはこの世界を救って欲しいとは言われたけど、どうしたら救えるのかまでは聞いて無いのよね。取り敢えずは元凶(げんきょう)であるだろう『魔道具』を消して、無かった事にすれば良いと思うのよね。


「吾輩の作った魔道具がこの世から無くなれば、世界は滅ばないのか?」


「絶対にとは言い切れないけど、取り敢えずの危機は回避出来た事になるんじゃないかしら?これからライは勉強をして、やって良い事と悪い事を学んで行きましょうね。先ずは魔道具を壊すのが優先だけど」


 魔道具を壊してから女神様や精霊王に話しを聞きに行けば良いわよね?ライの事もあるし、近々ライを連れて精霊界へ行こうかしら。コテツさんも一緒が良いわね。


「うん、分かった。魔道具は手のひらより少し大きいぐらいで、残り107個かな。1個は王国にあるだろう?」


「ええ、分析する為にデューク達が持って帰ったわね」


 あの箱は数個しか作れなかったと聞いた。纏めていくつか入れたら良いんじゃないかとは言ってたけど、107個と数も分かってるし、何とかなりそうね。


「壊すのは簡単だ。塩を掛ければ良い」


 塩……?感覚的に浄化しそうではあるけど、塩を魔道具全体に振り掛けるの?この世界では砂糖も塩も値段はそこまで高く無かったわね。キロ単位で集めないと駄目かもね。


「全部で108個の魔道具に塩を掛ける……(まぶ)す?()り付ける?あぁ、バケツなどで()けるのであれば塩水でも良いのかしらね?そうすれば、塩の量はそこまで多く無くて済むわよね」


「塩水なら確実に使えなくなるな。魔道具は水は平気なのだが、何故か塩が混ざると直ぐに壊れるんだ」


 機械と同じ感じなのかしらね?海辺にある機械って、直ぐに錆びて動かなくなったりするもんね。


「ふぅーん?まぁ、壊して使えなくすれば良いだけだからね。壊した魔道具は1箇所に纏めて、私が焼却するわ」


「そこまでするのか?」


 ここはしっかりと言っておかなきゃよね。ライは作れる側なんだから、作っちゃ駄目な理由にもなるもんね。


「そうよ、ライ。あの魔道具は、1つでも残してしまったら、それを手本として作れる人間がいるかも知れないしね。たとえ作れなかったとしても、何かしらの(わざわい)になる可能性が高いわ」


「そうか。吾輩も、もっと色んな世界を見てみたいからな。皆が怯えて過ごさなくて良い世の中にしたいぞ」


 嬉しい事を言ってくれるわね。でも、昨日ご両親と話しただけで、そんなに考えって直ぐに変わるのかしらね?元が賢いから、吸収するのも早いのかしら?


「そ、そうなのね?きっと御両親と色んな話しをしたのね。私も平和な世の中にしたいと思っているの。色んな事があると思うけど、ライも手伝ってね」


勿論(もちろん)だ。吾輩に出来る事ならいくらでも手伝うぞ。父上と約束したのだ。父上も、母上も、吾輩も救ってくれたリオに、3人分の恩返(おんがえ)しをするって」


 えぇ――――?そんなの要らないわよ……恩返しして欲しくて助けるなんて、そんな器用な事は出来ないし。ありがとうって言って貰えれば、それで充分なのに。


「えぇ…………そこまで恩を感じなくても良いわよ?」


「ははは、父上の言ってた通りだな。リオは『(ひか)えめ』で『謙虚(けんきょ)』だから、無茶や無理は言わないし遠慮するって」


 コテツさんは分かって言ってるわね……まったく。


「仕方ないわよ……私、日本人だもの。それに、無理矢理じゃ無くて、ライには友達として手伝って貰いたいと思っているしね」


「そ、そうだな。吾輩とリオは友達だもんな。上手く友達の距離感と言うものが(つか)めないが、色々教えてくれよな」


 難しい言葉も知ってるのよね……大人と話してる感じなのに、話してる内容はズレてるって言うか……まぁ、これから色々勉強するだろうし、大丈夫よね。


「ええ、分かったわ。取り敢えず、魔道具を探して壊したいんだけど、ある場所は分かる?」


「あぁ、全部分かるぞ?」


「え?全部?108個?」


「そうだ。吾輩の生命も含まれてるからな。集める様にイメージすれば、全部目の前に集められるぞ?」


 私はゾッとした。全ての魔道具にライの生命が使われているの?デュークがこの魔道具の対価は生命力だと言っていたし、聞いて理解したつもりでいたけど……


「なんて事…………」


「ん?どうした、リオ?」


「ライ!貴方の生命力が使われているのね?!貴方の体は大丈夫なの?!」


 前のめりに質問する私の肩を押さえて、目を丸くしたライが少し考えてから首をコテンと倒した。


「ええ?もしかして吾輩を心配してくれているのか?」


「当たり前じゃない!どんなに寿命が長くても、体に良くない事は分かるわよ!」


 感情が一気に(たかぶ)ったのが分かる。頭が、カ――――ッと血が上った様に熱を持った。

 

「わ、悪かったよリオ……直ぐに戻すから、怒らないでくれよ、な?わ、わっ!な、泣くなよ、リオ!」


「グスッ…………」


 良く分からないけど、涙が止まらない…………私もライも、訳がわからない状態になっている。


「誰だ!リオを泣かせたのは!」


 ブレないカミルは、私が泣いている声で目覚めたらしい。誰にも泣かされた訳では無いと説明しなきゃ……


「カミル、違うの……グスッ。ライが生命力を使って魔道具を作ってたって知ったから……グスッ」


 カミルが私を抱きしめて、頭を軽く撫でてくれている。ほんの少しだけ落ち着いた気がした。


「あぁ、リオ。ライトの事が心配で泣いてしまったんだね。リオもここ数日、御披露目の準備などでもバタバタしていたからとても疲れているんだろう。そう言う時は余計に気持ちが(たかぶ)りやすいからね」


 そうなのかしら…………確かに疲れてる気がして来たわね?カミルの腕の中、とても落ち着く…………眠くなって来たわね…………


「リオは疲れてるから泣いているのか?ん?寝そうだな?」


「あぁ、少し難しいよね。人間は、普通に見えていても、心や体が極端に疲れていたりすると感情が揺れたりしやすいんだよ。恐らく、リオはとっても疲れてるのを自分では認めてないから動けていただけで」


「あぁ、ソラやお爺さん達ですら今朝は疲れて寝ていたもんな。リオは、凄いんだな」


「そうだよ。リオは凄いんだ。僕なんかじゃ足元にも及ばないぐらい素晴らしい人なんだよ」


「そうか……」


「ライト、魔道具のある場所が分かるんだよね?壊し方は聞いたから、塩を集めないとね。取り敢えず、リオとソラを部屋に戻して休ませようか」


「分かった。吾輩が部屋に送ろう。朝、リオが寝てた部屋に置いてくれば良いんだろう?」


「そっか、ライトもリオの位置が分かるんだね。その部屋のベッドに寝かせてあげてくれるかい?僕はシルビーに塩を集めて来て貰うよ」


「あぁ、分かったぞ」


「よろしくね。それじゃあ、また後で」

ブックマークや評価をありがとうございます!

励みになります!今後ともよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ