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第143話 真実と言う名の罪 ★ソラ SIDE

「あまりゆっくりはして居られないのよね。帝国の皇帝をジャン達が足止めしてくれてはいるけど」


 リオは時間を気にしている様だ。王国での出来事はジャンの使い魔であるドリーから報告を受けている。


「あ〜、それならジャンとリズが上手くやってくれたって〜。少なくとも数日は王国へ滞在するって皇帝に言わせたらしいよ〜」


「まぁ!さすがはリズね!かなり厳しいと思ってたのだけど。きっとジャンも上手く合わせてくれたのね」


「王国にはエイカー公爵や父上もいるから大丈夫だよ」


 カミルがリオに微笑みかけている。最近、身内の前では隠す事なくデレデレしているから、オイラはちょっと胸焼けしてるんだけどねー。


「り、リオ、リズとは誰だ?」


「私のお友達よ。可愛らしい女の子なの。いつか紹介するわね」


 バッ!と振り向いてリオを凝視(ぎょうし)した『吾輩』だったが、不安になったのか少し(うつむ)いて、オドオドしながらリオに話しかける。


「い、良いのか?吾輩はちゃんとした人では無いのに、お前……リオの大事な友達に合わせてくれるのか?」


「何言ってるの。既に『吾輩』くんも私の大事なお友達よ?」


 キョトンとした顔で、首をコテンと倒したリオを眺めているカミルのニヤケ顔が気持ち悪いなぁ。目を丸くして固まっている『吾輩』は、自身に起こっている急激な変化に戸惑っているのだろう。


「お、お前、本気で言ってるのか?」


「もぉっ。リオって呼ばなきゃ返事しないわよ?」


「わ、悪い。リオ……その、今まで友達なんて居なかったからどうして良いか分からなくて……」


 リオが言ってた通り『吾輩』は素直で、悪い子では無さそうではあるね。精霊側としての対応も考えないと。話しが終わったら、一度精霊界に行こうかなぁ。


「大丈夫よ。これから友達は増えるんだし、今に慣れるわよ」


「リオにそう言われると、本当にそうなる気がするな」


 リオには不思議な力があるからね。これまで、色んな事を現実にして来たのだから、きっとそうなるだろう。


「ねぇ『吾輩』くん、幾つか聞きたい事があるんだけど……」


「その言い方は聞きにくい事か?」


「そうね、少し聞きにくい事かしら。言いたく無ければ、言いたく無いと言ってくれて良いからね」


 首を傾げる『吾輩』が、なんだか可愛く見えて来た。なんで?なぜ?と疑問に思った事を一生懸命に聞いて来る子供の様に見えるからだろうか。


「何故遠慮(えんりょ)するんだ?」


「貴方が大事な友達だからよ。傷付けたく無いの」


「そうか……吾輩が質問される事で傷付くのが嫌なんだな?それが友達って事か……」


 ボソッと呟く『吾輩』は、少し口角が上がっている様に見えた。当たり前だけど、コイツも笑えるんだな。あまりにも殺気の様なものが気持ち悪くて、個として存在している事を否定していたのはオイラ達だったのかも知れない。


「リオの質問にはちゃんと答える。だから、吾輩の質問にも答えてくれるか?その、今だけじゃ無くて……これからずっと友達として……」


「勿論よ。『吾輩』くんが分からない事や知りたい事は私が教えてあげるわ。友達ですもの、当然の事だわ」


 ホッとした表情で『吾輩』はリオを見て頷いた。きっと、これまで友達が居なかった『吾輩』には、そんな質問も勇気がいるのだろう。


「そうか、ありがとうリオ。それで聞きたい事とは?」


「貴方の……大事な人の事。言いたく無ければ無理に聞かないけど……」


「…………母上だ」


「え?」


 サラッと教えてくれた事に驚いたリオが、その先をどう聞こうか悩んでいるのが分かった。『吾輩』もそれを感じたのだろう、リオの方を向いてぎこちなく少し微笑みながら話しかける。


「リオは何処まで知ってるんだ?」


「えっと…………」


「はっきり言ってくれて構わない。吾輩が一番良く分かっている。その……父親の事は寂しく思うだけで、恨んだりしてる訳では無いんだ」


 オイラもリオの様に、困った顔で苦笑いしながらも質問に答えようとする『吾輩』の味方になれたらと思い始めていた。過去は変えられないし、辛かった事は簡単には忘れられないだろうけど、前に進もうとしている彼の手伝いをしたいと思う。


「そう……私が知ってるのは、貴方の父親がコテツさんである事、何も知らないコテツさんに封印された事、」


「ちょっと待て。何も知らない?吾輩が憎くて封印したのだろう?」


 驚いた『吾輩』が、リオの話しを(さえぎ)って質問を返して来た。


「違うわ。貴方のお母様がコテツさんに内緒で産んだ子が貴方よ。コテツさんは、前の世界に置いて来てしまった奥方様に対して不義理なのは嫌だからと、この世界で決まった女性は作らなかったと聞いたわ」


「え?相手は作らなかった?吾輩は、母上が……?」


「お母様からは何か聞いて無いの?」


「父上は素晴らしい方だと……だから嫌わないでくれと」


 話しがすれ違ってるね。言える事は、『吾輩』の御母堂(ごぼどう)はコテツ殿を恨んだり嫌いでは無かったらしいと言う事ぐらいか。


「『吾輩』くんはコテツさんが嫌いなの?恨んでは無いと言ってたけど……?」


「知らない事が多過ぎて……何が本当なのだ?吾輩は人間の貴族に、『父親はお前を苦しめる為に準備しているから、魔道具を沢山作って売れ』って言われたのに」


 皆がバッ!と『吾輩』に視線を向けた。初めて聞く話しだから仕方ないが、どう言う事なんだ?悪いのは人間の貴族だったと言う事か?


「…………『吾輩』くん、その貴族に言われて稼いだお金はどうしたの?何か欲しかった物でもあったの?」


「その貴族に全て渡した。『必ずお前を助けてやる。お前を助けられるのは私だけだ』と言われたからな」


「その人間の貴族は……もう生きて無いわね?」


「そうだな。吾輩が封印されてる間に天に召されていたらしい」


 これは一概(いちがい)に『吾輩』が悪いとは言えないな。どちらかと言うと彼は被害者に変わったね?


「そう……『吾輩』くん、お母様に会わせて貰えないかしら?私なら、少しはお母様の苦しみを軽くしてあげられるかも知れないわ」


「会わせるのは良い。でもリオだけな?吾輩の初めての友達だから、ちゃんと紹介したい」


「ありがとう。治療はさせたく無いのね?」


「本当はな、母上は精霊だし元精霊の王女だし、数千年生きる事は分かってたんだ。でも、アイツに振り向いて貰えないなら生きていても仕方ないと……吾輩を置いて……自ら死を選ぼうとした」


「…………お母様が少しでも元気になって、話せる様になった時に、昔の話しを聞くのが怖かったのかしら……?」


「そう……なのだろうな。吾輩は要らない子だからな。そうだと母上に断言されるのが怖かったのかも知れないな……」


「そうなのね。お母様を延命(えんめい)したのは貴方?治癒魔法も使えるの?」


「少しだけだ。人間の部分の吾輩は、光魔法を少し使えるからな。精霊の部分の吾輩は、浮く事も精霊の姿を取る事も出来ん……半人前なんだ」


「それは違うよ〜。転移魔法は使えてるでしょ〜?少なくとも、精霊の姿と言うか、動物の姿にはなれるはずだよ〜。王様に教えて貰うと良いよ〜」


 シルビーが怖がりながらも伝えようとしていた。リオが仲間だと……友達だと決めたから、皆はそれに従うまでだからね。


「お前達は吾輩が怖いのでは無いのか?」


「怖いよ〜。でもね、怖いのは君そのものでは無くて、その撒き散らしてる『殺気』の様なものだよ〜」


「は?何だって?アイツが他の貴族や精霊は敵ばかりだから自分を守る為にこうしてろって……そうすれば、優しい良い人だけが寄って来るからって……」


「あいつ?もしかして、お金を持って行った貴族かしら?」


「そうだ。アイツは裏切り者だったのか?」


「聞いてる限りでは、そうなるわね……」


「そうか……それが知れただけでも良しとするか」


 ふぅ――、と溜め息を吐いた『吾輩』の周りから、『殺気』の様なものが消えた。これまでの息苦しさも無くなったのだ。


「これでお前達も吾輩に近付けるのか?」


「うん!全然怖く無いよ〜」


 シルビーが『吾輩』に近付いて、彼の(てのひら)に頭をグリグリ押し付けている。凄いなシルビーは。オイラにはまだ無理だ。体があの殺気の様なものを感覚で覚えている。


「そ、そうか…………」


『吾輩』の瞳からは一筋の涙が流れていた。これまで得る事の出来なかった精霊の仲間が出来た事もだろうけど、避けられたり怖がられない事が何よりも嬉しいのだろう。


「ねぇ、『吾輩』くん。この際だから、御両親とお話ししてみては?」


「は?アイツはとっくに……吾輩を封印する時に、吾輩が暴れて酷い怪我を負わせた所為で、死んでしまったらしいからな……」


「会えるわよ?本人から聞かなきゃ分からない事も多いし、私も立ち会うから会いましょう?」


「どうやって会うんだよ」


「夢の中で会う事が出来るのよ。普通の人は亡くなった人達の姿は見えないらしいから、もしかしたら姿は見えないかも知れないけど。ソラ達は声しか聞こえなかったみたいなのよ。会話は出来るから安心してね。ソラ、お願い出来る?」


「良いよ〜。一緒に行くのはリオだけで良いの〜?」


「その方がコテツさんにも色々聞きやすいでしょ。私は立ち会うけど、基本的には見守るだけで何もしないからね」


「分かった〜。取り敢えず、リオが横になれる綺麗な場所はある〜?」


「あぁ、吾輩の部屋へ移動しよう。悪かったな、ずっと立っていたから疲れただろう」


「大丈夫よ。皆鍛えてるから、問題無いわ。お気遣いありがとう」


「あ、あぁ」


 ふいっと視線を外してお礼を言われた事に照れる『吾輩』は、リオの言う様に悪い者では無いとオイラも今なら思う。無知である事は罪だと思うが、そんな環境にしたのはニンゲンの貴族だと言っていた。ニンゲンだから、もうこの世には居ないらしいけど、騙して従わせるなんて酷いヤツが居たもんだね。

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