第141話 教会の地下で ★ソラ SIDE
教会の地下は物凄い殺気の様な、淀んだ空気がまとわりついているようで気持ち悪い。リラックスしたくても緊張を強いられる感じだ。
「う~っ!これは一刻も早くここから退散したいところですが……」
デュークが苦しそうに呻き声を上げた。恐らく元々魔力の感知能力が高いが故に我々と同じ様に敏感なのだろう。
「デューク、防御膜を自分に沿わせて張ってみて?少しはマシになると思うわ。カミルは大丈夫?」
「うん、僕は平気だよ。一時期、スキル獲得の為に父上の『王の威圧』を散々浴びたからね。この殺気の様なものと威圧はとても似てるんだよ」
カミルが苦笑いしながら答えている。これが殺気に似たものだと直ぐに分かるのは、さすが王子だね。
「え?同じスキルなのに相殺されないの?あれ?スキル獲得?」
「そこに気がつくとは、さすがリオだね。一応、力の差が有り過ぎる場合も干渉は出来るんだけどね。まぁ、今回はまだ僕がスキルを得る前と言うか、スキルを得る為の洗礼を受けた時だから、普通に辛かったよ」
なるほど、王族のスキルは発動したスキルを受ける事でコピー出来るタイプなのか。このタイプは痛かったり辛かったりする『試練タイプ』だからオイラはやりたく無いなぁ。ニンゲンじゃ無くて良かったよ。
「王族だからと、全員が最初から『威圧スキル』を持ってる訳では無いのね」
「そうだね。王族で王に選ばれた人間は、必ず会得しなければならないスキルなんだ。王になる条件の一つだね」
リオはうんうんと頷きながらカミルの話しを聞いている。カミルも自分に興味を持って貰えて嬉しそうだ。
「リオも平気な様だのぉ?」
「そうね、私は何とも無いわ。元日本人だからか、ストレスや理不尽に強いからかも知れないわね。ただ単に鈍感なだけなのかも知れないけど。爺やも平気そうね?」
皆忘れているみたいだけど、リオも『威圧スキル』を発動してたよね?解析してる時間が無いから仕方ないのだろうけど。先ずは目の前の脅威をどうにかしないとだね。
「ワシも平気じゃのぉ。ギルは色々あって『王の威圧』を無理矢理覚醒させられてしまってな。その所為で人を殺せるレベルの殺気に近い『王の威圧』を抑えられなくてのぉ。そんな幼い頃のギルと行動を共にしてきたから、カミルと一緒で慣れとる」
「「なるほど」」
リオも同じく納得したらしい。ふふっと笑ってオイラを撫でてくれる。心配なのはデュークとシルビーだね。精霊は本来、殺気とは無縁な所で生きている。この殺気に似た状況の中に居るのは正直辛い。勿論、王子であるオイラもだ。
「ソラとシルビーは特に辛いんじゃ無いの?私が防御膜を張っておくわね。辛かったら避難して良いんだから無理しないでね?」
浮いているオイラとシルビーに防御膜が張られた。さすがと言うしか無いね。さっきの重苦しさがかなり軽減されたと感じる。ほんの少し気持ち悪いぐらいだ。
「わぁ〜!リオ、ありがとう〜!ボク、ちょっと辛かったんだけど、とっても楽になったよ〜」
かなり無理して我慢していたのだろう、シルビーも同じ様に感じた様で歓喜の声を上げた。
「えぇ?防御膜でそんなに変わりますか?私は辛いままなのですが……」
「私がやってみるから、デュークは防御膜を解除してくれるかしら?」
「はい」
デュークが防御膜を解除した瞬間にリオが防御膜を素早く張ったのが見えた。
「うわっ!ええ――!?」
デュークが固まっちゃったね。恐らく、リオの『聖女』のスキルである『浄化』が作用した結界を作れているのだろう。リオが『ソラやシルビーが少しでも楽になると良いな』という『想い』をのせて防御膜を張ったからスキルが発動したのだろうね。
「多分、『聖女』の浄化スキルが効いてるよ〜」
「な、なるほど。私の魔法がおかしいのかと思ってしまいましたよ」
「デューク、魔法がおかしいのは勘違いでは無さそうじゃぞ。皆、気を抜くで無いぞ!」
ぶわっ!と強い風が舞って、直ぐに落ち着いた。皆は不思議そうにキョロキョロと周りを見渡すが目には何も見えない。ジーさんとリオは魔力を感知した様だ。
「デューク!下がって伏せて!」
デュークは転がる様にその場から下がって伏せた。デュークが居た場所には『狭間』の様な空間が現れたのだった。
「教会の地下では魔法は厳しいわね。でも、上に移動しては大事になるからそれは避けたい。仕方ないわね。カミル、2人が戦える大きさの結界を張るから剣で戦いましょう。爺やとデュークはサポートね。ソラとシルビーは周りの空気の変化に気を付けてね。辛くなったら下がっていてね」
「「「「了解!」」」」
狭間は目の前にある。普通のニンゲンなら恐怖で動けなくなるだろう。それを剣で倒すと断言し、皆への指示も早い。その行動によって、誰一人として不安になっていないのだ。
まぁ、あの『練習装置』の飛んで来るスピードと、これから魔物が湧くスピードなら、『練習装置』が早いだろう。ついこの前に改良された『練習装置・改』は真後ろ以外からの攻撃もして来るからね。
「やっと実戦出来るね。王族ともなると、実戦なんてほぼ出来無いからね。練習した成果を知る、良い機会だ」
カミルが楽しそうに剣を抜いた。日々の努力で更に自信がついたのだろう。王国の者達は、努力を惜しまないから好きだよ。手本となる『聖女』と『王太子』のお陰だろうけどね。
「ソラ、どれくらい出て来るか分かる?」
「今のところは20万匹ぐらいだと思うよ〜」
「出て来るスピードによるけど、『狭間』を突けば2時間って所かしら?」
「リオ、魔物の湧くスピードは師匠に任せよう?僕達は目の前の魔物を斃す事に専念しよう?」
「そうね、それが安全ね。爺や、頼めるかしら?」
「任せなさい」
頼られて嬉しいジーさんは胸をドン!と叩いて請け負っている。女神に愛されるリオは、偏屈なジーさんにも溺愛されるんだから凄いよね。
「全く出て来ないわね?爺や、少し突いてくれる?」
「そうじゃのぉ。数匹出て来ればと思っておったが、これでは進まんからの。どれ、少し突こうかのぉ」
ジーさんが『氷矢』を『狭間』へ打ち込んだ。一気にバババッと勢いよく魔物が向かって来た。全てがリオに向かっているか?
「リオ!」
カミルが心配そうに声を掛けるが、リオはサクサクと魔物を倒して行く。『練習装置』で例えるならば、初級から中級程度の難易度だからね。リオには余裕過ぎる。
「カミル、全く問題無いわ。私が『練習装置・改』の『最』をクリアしてるって知ってるでしょう?」
「頭では分かってるんだけど、心配なんだよ……」
「ふふっ、ありがとうカミル。ちゃんと気を付けて戦うわ。危ない時は助けてね」
「…………分かったよ」
納得し切れないけど、リオのお願いだから仕方なくって感じで頷くカミルはニンゲンらしくて良いね。やっぱり好きな人を自分が守りたいって気持ちは、ニンゲンも精霊も変わらないよね。
「ソラ、残りは分かるかい?」
そう言えば随分倒したね。もうそこまで多くはない様だが、大きな気配が近づいて来てるか?リオは魔物退治に集中してるから、シルビーに念話もしとくかな。
「そうだね〜、後2万匹って所かな〜」
『シルビー、大きな気配に気付いている?』
『はっきりした位置までは分からないです』
『気付いてるなら良いよ。カミルにも伝えて、リオは集中してるから内緒で。デューク達にはオイラが念を飛ばすから』
『了解』
『デューク、大きな気配に気付いてる?気付いて無ければバレない様に探しておいて』
『ソラ殿、了解です』
『ジーさん、気配感知してるね?』
『勿論じゃ。リオも分かってるぞ?だから残数を聞いたのじゃろう。準備は出来ておるから安心せい』
『分かった。デュークには念話で伝えたよ』
『おぉ、手間が省けたわい。ありがとうな』
『あちらが動いたらオイラも容赦なく動くよ。リオは話し合いたいと言っているから、動かなければ何もしないからそのつもりで』
『そうかい、了解した。何か動けば指示してくれい』
ジーさんに視線を向けて頷いた。ジーさんの表情は明るく、この状況を楽しんでいる様だ。
さて、今回の目標は『話し合い』だ。ニンゲンとも精霊とも言い切れない『コテツの子』がどう動くか。魔物をいくら放っても、リオが相手では勝てる訳が無いと分かっているはずなのにね?優しいリオの為にも、アイツの目的をしっかりと探らなきゃだね。
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