第140話 いざ、帝国へ? ★カミル SIDE
御披露目パーティーの挨拶もほぼ終わり、後はエイカー公爵が挨拶に訪れるのを合図とし、精霊達が帝国へ『転移魔法』で転移させてくれる事になっていた。
エイカー公爵の挨拶を受けて、デューク達から移動を開始し、僕達も帝国へ移動した。場所は、前以て取っておいた貴族用の宿のスイートルームだ。今回同行してくれる、全員が部屋に入っても余裕があるくらいには広い。
「デューク、御披露目式の開始前にリオが使った、魔封じを砕いて入れたマーカー『魔奪マーカー』は、ちぃっと威力が弱かったんじゃ無いかのぉ?」
「そうですか?犯人とは言え、気を失うレベルだったと思うのですが……」
「倒れるまでに数秒耐えたじゃろう?」
「いや、あれは身じろぐ暇も無く気を失ったから、あの様な動きになったのでしょう!あれ以上強くしたら、数人に1人は死者が出ますよ……」
「それは困るのぉ。リオやワシが使う事になるからの。リオは優しい娘だから、例え相手が犯罪者だったとしても、とても悲しむだろうからのぉ」
「ええ、とても悲しまれるでしょうね。それに殺人は犯罪ですから!絶対、聖女様に罪を犯させる様な真似はしないでくださいよ?」
「そうじゃな。魔道具の誤作動では言い訳としては弱いかのぉ。まぁ、可愛いリオを犯罪者にはしたく無いから強さはあれくらいにしておくかのー」
「もう少し弱くした方が良いとは思いますが……」
「隠密魔法を使える程の人間が犯罪を犯すとしたら、やられる前にやるぐらいの気概がないと危険じゃぞ?」
「まぁ、確かにそうかも知れませんが……」
先に到着していたデュークと師匠が、先日リオが考案した、隠密魔法をかけている者を見える様にする魔道具『魔奪マーカー』の威力について話し合っている様だ。
「ふふっ、2人とも仲良しね」
「おぉ、リオ。もう移動して来たんじゃのぉ?とてもスムーズに進んだ様で良かったのぉ」
リオに気付いた瞬間、師匠の顔がデレデレになったね……婆やにしかデレた所を、それもちょっとだけしか見た事が無かったから、違和感が半端ないね。
「ええ。エイカー公爵達が頑張ってくださいましたわ。それでは、諸々を確認してから教会へ向かいましょうか」
「リオ〜。教会への移動は、オイラが全員を送るんで良いんだよね〜?」
リオの腕に抱かれていたソラが、ふわっと浮いて空中でクルンと1回転した。最近気が付いたんだけど、ソラってちゃんと聞いて欲しい事があると、クルクルと自身が回転して見せる事で注目を集めてるんだよね。ソラも精霊の王子だけあって、とても賢い精霊だよね。
「ええ。先にデュークと爺やに安全そうな地下の入り口の近くに転移して貰う事になっているわ。危険が無いか確認後、何分かしてからかしら?私達も全員そちらへ移動する予定になってるわね」
「あぁ、そうだった~。一応王太子と大聖女様だもんね〜。王様からの命令で安全を優先する事になったんだっけ〜」
「そうなのよね。私もカミルも強いし、防御膜を張れるから問題無いとは思うんだけどね。教会に行く許可を出していただけただけでも感謝しなきゃよね……」
僕は大きく頷いた。今回の敵はスタンピードの元凶である可能性が高いからと、許可を少し出し渋っておられたんだよね。まぁ、さすがの国王陛下もリオの上目遣いでの『お願い』には屈するしか無かったってだけで。
「それじゃ〜、取り敢えずデュークとジーさんから移動するけど、2人とも準備は良い〜?」
師匠はコクンと頷き、気合いを入れていた。それを見て、デュークがソラに頭を下げた。
「ソラ殿、大丈夫です。よろしくお願いします」
ソラはリオの方をチラリと見てから頷いた。猫の姿だけど、ソラの行動や仕草はカッコ良い事が多いんだよね。隙や無駄が無いと言うか……ソラが近隣国の王子じゃなくて良かったと何度思った事か。賢くてカリスマ性があって、情報も我々より手に入りやすいなんてね。どう考えても勝ち目が無いから敵に回したくないよね。
「それじゃ、お願いねソラ」
「オッケ〜」
ソラの転移魔法でデュークと師匠が移動した事で消えると、シルビーが僕の肩の上にスタッと上手に着地した。そしてシルビーには珍しく、スリスリしながら首に巻きついて来たのだ。
「シルビー?」
「カミル、ソラ達は吾輩くんの気配を前から嫌がっていたわよね。その所為ではないの?」
あぁ、そう言えばそうだったね。帝国近くの町に行った時も、珍しく自分達から待ってるって言ってたよね。
「シルビー、辛いならここで留守番していても良いんだよ?」
「ううん。今回はソラ様も行くって言ってるから、ボクも行く事にしたんだ〜。ちゃんとソラ様と話し合ったから大丈夫だよ〜」
話を聞いていると、ソラとシルビーは何かを決める時、必ずちゃんと相談してるみたいなんだよね。まるで人間の様だと思う。情報量が人間より多いだろうから、僕達の計画よりも内容が濃さそうだよね。
「へぇー、そうなのね。ねぇシルビー、お願いがあるの。今日だけじゃ無くてこれから先、何かあった時にはソラを無理矢理にでも連れて帰ってくれるかしら?精霊界でも、私の私室でも、婆やの所でも良いからね?」
「ソラ様はご自身の意思で無ければ嫌がりそうだよ〜」
シルビーが少し困った顔でリオを覗き込んでいる。
「ええ。分かっているわ。だからシルビーにお願いしてるの。私にとっても、シルビーにとっても、ソラは特別でしょう?」
「まぁ〜、そうだけど…………」
「シルビーが怒られそうになったら、私に無理矢理約束させられたと言って良いからね。貴方達にはこれからも仲良く、ずっと一緒に、楽しく暮らして欲しいのよ」
リオの気持ちが凄く良く分かってしまった。僕達人間の手伝いをしてくれているのはとてもありがたいけれど、やっぱり大好きな精霊達には自由に生きて欲しいとも思うからね。人間の為に自分達を犠牲にして欲しくないんだ。
「そうだね、リオ。シルビー、僕からもお願いするよ」
「えぇ〜。カミルまで……」
「大丈夫よ、シルビー。ほら、私もカミルも、人類最強だと思わない?」
リオは腕を上げ、ふんっ!と力こぶを作る仕草をして見せたのだ。ブッ!グッ!と、吹き出しそうになったのを必死に堪えたよ……間違ってはいないと思うけど、不意打ちでその言い方と仕草は笑えるよね。
「まぁ……火力だけだったとしても、それは間違いないと思うけど~。ボク達は転移魔法があるから少し有利というか、危なければすぐに逃げて再度体制を整えるだけの時間を確保出来るってだけだからね~」
「ふふっ、そうでしょう?私達もちゃんと強いの。だから、何も心配する事はないのよ。必ず貴方達の所へ帰るからね」
シルビーは大きく頷いて、リオの瞳をしっかり見つめてから口を開いた。
「うん、分かった~。リオ達の邪魔になりそうな時と、ソラ様やボク自身が危ない時はその場から離れるね~?」
「ええ、そうしてね。シルビー、約束してくれてありがとう。とっても安心したし、嬉しいわ。勝手ながら私は貴方達精霊も、私達の家族だと思っているの。愛してるわ」
リオは凄いね。シルビーの心が激しく動いたのを感じたよ。シルビーは元王子だったからか、基本的に感情が一定なんだよね。そんなシルビーの心まで動かしてしまうのは、リオの優しさや偽りのない愛情を普段から感じているからだろうね。
「お待たせ~」
「ソラ、遅かったわね。何かあった?」
「ううん。近くにいるのは感じるんだけど、ちゃんとした位置が特定出来なくて~。探るのに少し時間が掛かったんだ~」
普段のソラ達精霊は、僕達人間よりも優れた魔力感知能力と聴力などで、下手すると近くまで行かなくても相手の居場所や状態が分かるんだって。最近ではリオも感知能力を上げる練習をしているみたいだけど、きっと精霊には敵わないよね。
「ソラでも分からなかったのかい?」
「うん、多分だけど教会の地下はあいつのテリトリーなんだと思う~。時間や場所を少し歪ませるくらいは簡単に出来るんじゃないかなぁ~」
「なるほど~!それじゃあ私の出番ね!」
リオは両手をグッ!と握ってやる気満々の様だ。
「カミル~。今日のリオは、今が一番嬉しそうだね~」
シルビーがひっそりと話し掛けて来る。恐らく、さっきまでの御披露目式やパーティーではつまらなそうだったと言いたいのだろう。
「ふふっ、そうだねシルビー。着飾ってお淑やかにしているリオも美しくて素敵だけど、元気に走り回っているリオの方が僕は好きだなぁ」
「ボクも~。リオは貴族がやりたがらない事を率先してやるから面白いよね~。一緒に居て飽きないね~」
シルビーとおしゃべりしていると、ソラが漸く動き出すみたいだ。
「デュークから連絡が来たよ~。移動するよ~」
僕達はしっかり大きく頷いて、ソラの転移魔法で教会の地下へ向かうのだった。
ブックマークや評価をありがとうございます!
励みになります!今後ともよろしくお願いします!