第139話 御披露目パーティー ★エイカー公爵 SIDE
聖女様の御披露目式が終わり、祝いのパーティーが開かれる会場へ移動して来た。今回の帝国にある教会の地下へ侵入する計画は、私を含め信用できる者全てに知らされているからね。
勿論、私とリズもその計画を手伝わせて貰っている。先程の茶番劇も、カミル殿下達と打ち合わせた計画の一部である。
皇帝陛下御一行には出来るだけ長く王国へ滞在していただき、その間に帝国の問題を解決するおつもりでいらっしゃるのだろう。計画が全て終わってから御帰還願いたいとお考えの様だ。
出来るだけスムーズに帝国へ向かえる様にするのも我々の役目である。パーティーの終盤には、精霊達の力を借りて転移魔法で移動なさる予定だが、移動するメンバーも、隠密行動と言うには人数が多いからね。聖女様、カミル殿下、デューク殿、賢者様。あぁ、後はソラ殿とシルビー殿もだね。
聖女様の護衛騎士であるリュー殿とサイラス殿の2人は、残る事になったそうだ。2人が王宮に居れば、『聖女様は王宮に居る』と勝手に思い込んでくれるからね。ただ、護衛の2人はとても不満そうだったよ。
さて、お色直しの終わった聖女様を、カミル殿下がエスコートして入場なさっている。先程までとは違い、歓迎する様な大きな拍手の音と歓声は、まるで最初から歓迎していましたと言わんばかりである。
リズが聖女様の側近となってから、我が家に文句を言ってくる人間が多かった。内容としては、召喚された異世界の者の側につくのかと。我が公爵家がつくのは王国である事をハッキリと伝えたら帰ってくれたが。
国王陛下とカミル殿下がお決めになった事に異議を唱えるのであれば、それなりに行動してからにして欲しいね。私やリズは聖女様とお話しをして、信用に足りると思ったから味方するのだ。
聖女様と仲睦まじく入場なさるカミル殿下を見ると微笑ましい気持ちになる。これまで何にも誰にも執着なさらなかった殿下が、誰にも譲れない相手が出来たのだ。幼い殿下を知っている我々からすると、自分の子供の様に嬉しいものだね。
パーティーは、本日の主役がダンスを披露する所から始まる。勿論、聖女様とカミル殿下が手を取り合いながらホールの真ん中に移動していらした。
先程お召しになっていた式典用の少しかしこまった衣装から、華やかで美しいブルーのドレスへお色直しなさった様だね。カミル殿下も、上着と胸ポケットのチーフの色が変わっていた。チーフには、ドレスと同じブルーを使っており、仲良しアピールしている様だね。
美男美女のカップルが、綺麗な衣装で美しいダンスを踊っている。微笑み合いながら踊る2人を見てショックを受けたからか、ひっくり返ってしまう人が続出してる様だ。ん?男性もいる様だね?聖女様のファンかな?
ダンスが終わり、聖女様は王族の休憩席に移動する様だ。リズに視線を向けると軽く頷き、聖女様の元へ歩いて向かって行った。パーティーの半ばから帝国へ移動なさる予定だから、全力でサポートする必要があるのだ。
聖女様の左右……周りには、カミル殿下、賢者様、隣国の元姫、デューク殿、護衛騎士の2人、側近のリズ、後は見えてないが『隠密魔法』をかけた精霊達がいらっしゃる。誰にも手を出せないメンツが勢揃いしていて近づき難いね。
私はふらふらとホール内を彷徨い、情報を収集して行く。あちらには精霊がいるから、私が聞き出した情報は、逐一殿下達の耳に入るだろう。
聖女様の事は、ほとんどの人が受け入れる様だ。部分的には反対してる人間もいるが、急な事で困惑していると言った方が正しいかな。少しずつだが、聖女様が表に出る機会を増やす事で、徐々に馴染んで行って貰うしか無いだろう。
聖女様への挨拶が終盤の様だね。さぁ、私も挨拶に行かなければだ。それを合図として、移動を開始するのだから重要な役回りだったりする。そうだなぁ、あと4組の挨拶が終わったぐらいに動こうかな。
それにしても、リズと聖女様のツーショットは癒されるね。美しいだけではなく、性格も良くて賢い。なにせ、公爵令嬢として教育を受け育ったリズも、人を見る目が素晴らしい私の妻も認めたのだ。2人ともが同時に興味を示した、初めての女性なんだよね。
お?4組目の人達の顔色が少し悪いな?何か失礼な事でも言って、返り討ちにあったのだろう。聖女様に喧嘩売るなんて、命知らずだとしか言えないよね。さて、4組目も下がった事だし、そろそろ私の出番かな。
「『大聖女様』、この度は誠におめでとう御座います」
「公爵閣下、ありがとうございます。こちらこそ、愛娘のリズを私の側近につけて下さった事、とても感謝しておりますわ」
「それは本人の意思で、本人が決めた事にございます。末永く仲良くしていただけると、私も嬉しいです」
「えぇ、勿論ですわ。この国で初めてのお友達ですし、私は勝手ながら大親友だと思っておりますのよ」
「なんと、それはありがたき幸せに存じます。我が公爵家は、カミル殿下と大聖女様を全力でお支えして参りますので今後ともよろしくお願いします」
「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」
スッとデューク殿が消えた。精霊達が移動を始めたのだろう。最初に1番大きくて厳つい……目立ちやすい……デューク殿から始めるとは、精霊達はチャレンジャーですな。セットで賢者様も移動なさった様だが、彼は『隠密魔法』が上手くて誰も気が付かないからまだ居るかも知れないし、もう行ったかも知れない。消えた事しか分からないんだ。
聖女様の席に向かって来ている人達の全てに話し掛けて時間稼ぎしながら彼らの移動をサポートする。一気に全員消えるとさすがに目立つからね。最終的には賢者様の奥方様と聖女様の護衛騎士2人、そしてリズが残る事になるのだ。
聖女様にとても近しい人間が、まだその場に居るというだけで、少し席を外しているだけだと思い込ませる事が出来るからね。お陰でスムーズに移動が完了した様だ。私はリズの耳元に顔を近付けて「完了」と手短に伝え、またホール内で情報を集めるのだった。
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