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第132話 想像を超えて来る ★ノルト侯爵 SIDE

 珍しく、陛下からリオ様を国王の執務室へお呼び出しなさった事で、王宮へ勤めている貴族達は騒いでいる様だ。恐らく、先日行われた御披露目パーティーで暴れた事を怒られるのだろうと。


「良く来たねリオ、早よぉ座りなさい。義父(ちち)に話しを聞かせておくれ?」


 実際には、暇で寂しがり屋の国王が義娘(むすめ)に話しを聞きたいだけだったのだが。ソラ殿やシルビー殿も一緒においでになったものだから、顔が緩みまくりだ。他の貴族達には見せられない顔をしておられる。


「は、はい、国王陛下。お邪魔致します」


「お邪魔な訳が無いだろう。それにリオよ、義父(ちち)とは呼んでくれないのか?」


 寂しそうな顔なのに、威圧的なのはどうなのだろうと思うのだが、こればかりは仕方ない。スキルが威圧系なので、穏やかで居ようと努力しないと威圧してしまうのだ。特に、自分の願いを叶えたい時には無意識に圧が強くなるので、(おど)しと(とら)えられても仕方ない。


「えっと、お義父(とう)様……?ご機嫌麗しゅうございます」


「うむ、ご機嫌麗しいぞ、可愛い義娘(むすめ)よ。今日も元気そうで何よりだな!ハッハッハ」


「陛下……リオが困っているじゃないですか」


「カミル!お前も身内のみの時は父と呼ぶのだぞ?」


「はぁ、構いませんが……」


 家族ごっこしたいんだろうなと思うが、余計な事は口には出さず大人しく様子を見守る。来年の春には本当の家族になられる予定ではあるし、問題は無いだろう。リオ様とカミル殿下の受けるダメージを除けば、だが。


「それでな、リオに聞きたい事があったのだ。我々には見えない『隠密魔法』のかかった『ネズミ』を捕らえておっただろう?ペンキの様な物を投げつけたのも、リオで間違い無いかな?」


「はい、その通りです。御披露目パーティーに相応(ふさわ)しい服を着ているとは到底思えない人達がウロウロしていたので、ソラに念話でカミルへ伝えて貰ったのですが、カミルにもデュークにも見えて居なかったのです。爺やは『監視カメラ』の方を担当していたので、見えるのは私しかおらず。前回試作したペンキマーカーが役に立ちましたね」


「まぁ、マーカーで(しるし)をつけたのに誰1人追い付けなかったけどね……結局はリオが全員を1人で取り押さえていたね」


「デュークは私が取り押さえた刺客を縛って『魔封じ』をつけたりしてたから仕方ないわね。まぁ、大した強さじゃ無かったし、後半に気付いた魔力で上から押さえ付けるやり方はもう少し改良の余地があったわよね!」


「ぶふっ!あはははは!相変わらずだな、リオ。そのマーカーとやらもリオが考えたのか?」


「あちらの世界では、コンビニ……小さな商店のレジ……お金を払う所に、防犯グッズとして必ず置いてあったのを思い出したので、デュークに作れるか聞いただけですよ」


 リオ様はとても謙虚(けんきょ)でいらっしゃる。まぁ、カミル殿下の周りにいる人間は謙虚な者が多いのですが。


「あちらの世界の技術はリオの考案した技術って事で良いと思うがなぁ?他2人の召喚者は何のアイディアを出す訳でも無いしな、宰相?」


「はい……穀潰(ごくつぶ)し……ゴホン、日々のんびりお過ごしになっておられる様です」


「仕事はやらせないのですか?」


「無理矢理呼び出しておいて働かせるのかと仰るのです。主に第二王子の元婚約者様が」


「働かざる者食うべからずですよ。あちらの世界でも働いていたはずなのですから、最低限は働かせて仕事の対価として給金を払うべきだと思いますよ?」


 その通りである。このままダラダラと生きて行かれても困るのだ。彼女達の生活費はデュルギス王国の国民から徴収(ちょうしゅう)した税金で(まかな)われているのだから。リオ様は以前考案なさった『車椅子』と『練習装置』が爆発的に売れ、王宮で悠々自適(ゆうゆうじてき)に過ごされたとしても老後まで余裕ある暮らしが出来るだろう。


「リオ様から彼女達に話しをして頂けるとありがたいのですが……」


「構いませんけど、第二王子のパートナーは塔に出入りしてると聞きましたが、そちらが片付く前に話しをするとややこしくなるのでは無いでしょうか?」


 先を見て行動なさるとは流石(さすが)でいらっしゃる。あの2人は害にしかならないクセに、口ばっかり達者で困るのだ。


「確かに……『ネズミ』も、最後の1匹が中々尻尾(しっぽ)を出さないですからね。そのタイミングで第二王子を北の塔から地下牢(ちかろう)へ移しますか」


「それが良いと思います。犯罪者であると、はっきり示してから沙汰(さた)を下さないと後々面倒な事になりそうですしね」


「なるほどな。王家の恥だからと隠しては駄目だと言うのだな?」


「身内の犯罪は特に、隠して良かった事ってほぼ無いですよね。罪を揉み消すつもりが無いなら、(おおやけ)にした方が、王家は隠し事をしないと言うアピールにもなるので」


「なるほど。今は多少の痛みを負うが、後々の事を考えると、はっきりしておいた方が得だと言う事だな?」


「はい。現在の王国なら、多少不利な事が起こったとしても耐える事が出来ると思われますので、(おおやけ)にするなら早めが良いかと」


 確かに、今のうちに発表しておくなら余裕で耐えられるだろう。後継者も決まった事で、デュルギス王国は安定している時だと言えるだろう。


「なるほどな。リオの考えは分かった。会議の議題にしてみようか。それでな、スキルの話しだ。もしかして、最後の隠れスキルが現れているのでは無いか?」


「まだ見ていないのですが、可能性は高いと思います。お義父(とう)様、今スキルで鑑定しようと思うのですが、爺やかデュークを呼んでも宜しいですか?」


「おぉ、そうじゃな。爺さん、そこにおるか?」


 リオ様がいらっしゃる時は、必ずと言って良い程『隠密魔法』をかけてひっそりといらっしゃる『賢者』様も過保護な保護者の1人ですな。


「ワシはここじゃー。リオはワシに気づいておったのに、()えてお伺いを立てるなんて本当に優しい子じゃのぉ」


「シルビー、デュークも連れて来てくれる?」


 カミル殿下がシルビー殿にお願いしている。精霊が居る生活は楽しそうで羨ましいと思ってしまう。独り言や小言を隣で突っ込んでくれる精霊が欲しいですな。


「りょ〜か〜い!」


 ポンっ!と消えてから直ぐに、またポンっ!とデューク殿とシルビー殿が現れた。


「リオ殿のスキルを再確認すると言う事でよろしかったでしょうか?」


 デューク殿が丁寧(ていねい)にカミル殿下に(たず)ねている。さすが、仕事の出来る男は違う。


「デュークよ、急に悪かったな。リオのスキルを知っておきたいかと思って、呼んで貰ったのだ」


「はっ!リオ殿のここ最近の行動や功績などを(かんが)みれば、(のち)の王太子妃をサポートする為にも把握しておきたく思っておりましたので、お心遣いありがたく存じます」


「ここには身内しかおらんのだから、もっと肩の力を抜いて良いのだぞ?デュークは昔から真面目だな」


「あ、はい……」


 真面目な者が周りに多いカミル殿下には当たり前なのだろうが、ご自身が不真面目……あまり真面目では無い陛下にはとても真面目に映るのだろう。


「ふふっ、デュークはやっぱり昔から真面目だったのね。魔法に関する事には誰よりも詳しいもんね。さすが団長だわ」


「あ、いえ、それは、カミル殿下に遅れず着いて行きたかったからで……」


「凄いわね。カミルと同等に着いて行こうとした時点でデュークも只者(ただもの)では無いわよ?」


「そうなのじゃよ、もっと言ってやってくれリオ。なのに此奴(こやつ)は……」


「し、師匠、その話しは長くなるので。リオ殿のスキルの話しを優先するべきでしょう」


 デューク殿が聞かれたく無い話しだった様だ。それとも『賢者』様の愚痴に付き合いたく無かったのか……


「あぁ、分かったわ。女性に消極的だと言いたいのね」


「何故分かったのですか!?」


 やはり聞かれたく無かった様だ。それにしてもリオ様は、内容まで良く気が付かれたものだ。


「リオは人の事に関しては目敏(めざと)いよね〜」


「自分の事に関してはポンコツなのにね〜」


 相変わらず辛辣(しんらつ)な精霊様達に苦笑いしつつ、何故(なぜ)自分がダメージを受ける羽目になったのだと言いたげなリオ様に気分転換して貰おうと新しい紅茶をお出しした。


「ありがとうございます、宰相様。それでは話しを進めましょうか。今から私が自分に鑑定スキルを使いますね」


 リオ様はご自身に鑑定スキルをご利用になり、目の前にあるのであろうステータスボードに目を通して驚いた顔をなさった。


「か、カミル……私、良くて『賢者』だと思ってたのよ」


「ん?そうだね、僕もそう思っていたよ?」


『賢者』の上と言えば……数千年に1人と言われる、あの称号しか無いはずなのだが。


「『大賢者』なんて称号があるの……?」


 あぁ……その称号ですな。この世界で1番レアな称号と言っても過言(かごん)では無い。それどころか、国王陛下より身分が上になるのだが……


「ま、幻の称号ですな。まさかお会い出来るとは思いませんでした。大賢者様」


「宰相様!大賢者は嫌です!まだ聖女の方がマシ……」


 遠い目をしてから項垂(うなだ)れたリオ様を、カミル殿下が肩を抱いて(はげ)ましている。


「ホッホッホ。ワシをも簡単に超えて来たのぉ。それで、スキルは何か書いてあるかね?」


「えっと、『観よう』としなくても隠密系魔法を(あば)く事が出来る。物事の答えを……え?」


 そう。『大賢者』が国王陛下より身分が上になると言われる所以(ゆえん)である。禁書庫の書物には、『予知能力に近いスキル』とあるのだ。当たり前だが、王族に関係する人間しか知らない内容である。


「リオ、それ以上は言うで無い。それは国を(ほろ)ぼす事すら出来るスキルかも知れんからな」


 国王陛下が慌てて止めに入られた。こう言う時に1番早く動けるのはさすが国王だと思う。国王として日々判断する事が多いからこそ、判断力があるんだろう。


「は、はい。私も出来る事なら知りたくありませんでした……私、本当に人の形をしてますよね?」

 

 さすがのリオ様も、ちょっと嫌だったらしい。強過ぎる力は、仲間すら傷付ける事があるのだ。


「リオ、大丈夫だよ。どんなリオでも僕がずっと一緒に居るからね?将来、精霊界に隠居(いんきょ)したら気にならないと思うし、僕もリオに近付くみたいだよ」


「カミルよ、リオに近付くとは?」


「父上、僕はリオと結婚して共に居る時間が長くなると、精霊とも同調するらしいのですが、リオとも同調するらしいのです。ですので、リオと同じ様な存在になると思われます」


「えぇ……カミル、ごめんなさいね?私の所為(せい)で普通では無くなるって事よね?」


「ん?謝る必要は無いよ?僕は人と同じより違う方が面白いと思ってるし、リオと同じなら嬉しいからね」


「カミル…………」


 リオ様は泣きそうな表情をなさっていたが、ソラ殿が念話で何か仰ったのだろう、少し落ち着かれた様だ。この世界には心の支えとなる人物が少ないと心配していたが、公爵令嬢を含め頼りになる仲間が増えて本当に良かったですな。


「リオ、この後は婆さんの所へ行くのだろう?デュークとカミルも連れて行ってくれんか?」


「はい、分かりました」


「カミル、デューク、婆さんによろしく言っておいておくれ」


「「かしこまりました」」


 リオ様の御心を落ち着かせた方が良いと判断なさった様だ。こう言う時の判断が早いからこそ、あの時はギルバートしか国王には向かないと思ったのだった。他の王族がポンコツ……求心力が無かったのもあるが。


「またね〜」


 シルビー殿が陛下に愛想を振り撒いてお戻りになられた瞬間に、陛下と『賢者』様は深い溜め息を吐かれた。


「リオにはちゃんと詳しく説明して、目立ちたく無いなら『賢者』である事は隠し切れないだろうから、あくまでも『賢者』であるとするか?」


「恐らくじゃが、リオはまだ『未来予知』をした事は無いと思われるからのぉ。あのスキルは、人が狂ってしまう事もあると言うでな……大事な人を助けられないと知った時、助ける人を複数人から選ばなければならない時。きっと心が耐えられなくなるじゃろう」


 お優しいリオ様ならあり得るか……あれでとてもお強い一面もお持ちだから心配し過ぎも良くない気がするが。


「スキルを使わない様には出来ないのでしょうか?」


「強いスキル程、己や大事な人の危機に反応して発動するんじゃ。例えば、カミルが危険に遭えば必ず発動するじゃろう」


 それは……逆を言えば、大事な人のピンチも(あらかじ)め分かると言う事では?助けられるなら、誰でも助けようとするリオ様には救える可能性が高くなるとも取れるかと。


「厄介なスキルよな。それを持つのがカミルなら耐えられただろうが……」


 2人とも心配し過ぎて後ろ向きになっていらっしゃる。陛下は元々は前向きな方なのだが、身内が絡むとポンコツ……使えない……駄目人間……うぉっほん。そう言う時は大人しくしていて貰った方が仕事が(はかど)るのは間違い無い。


「我々が……未来に危うさを残さず王位を(ゆず)れば良いのです。『大賢者』はなりたくてもなれませんからな。凄い事だと褒めて差し上げなくてはなりません。このままでは、また迷惑を掛けるなどと悲観的な事を仰る可能性もあります」


「はっ、そうだな!リオは凄いのだ。凄過ぎて少し困る事もあるが、基本的には選ばれし素晴らしい人間なのだからな」


「そうじゃの。宰相の言う通りじゃ。帰ったらちゃんと褒めてやらねばな」


「私からも手紙を書くから持って行ってくれ」


「文字で残してはなりません」


「分かっておる、宰相。私からは『賢者』と言う素晴らしい称号を得た事を褒める手紙とする。盗まれてくれた方が現実味があるか?何枚か書いてばら()くか」


「あぁ、それは良い案じゃのぉ。褒美も出しておいた方が現実味あるのではないか?」


「リオ様は何も欲しがられませんから……」


「あれじゃ、禁書庫の鍵を貸し出す事を褒美にすれば良い。自分のスキルを知りたいじゃろうからな。カミルも禁書庫に入れるのだから、一緒に探させたら多少気持ちも落ち着くかも知れんぞ」


「それは良いですね。こちらで禁書庫の鍵を貸し出す手続きはしておきましょう」


「仕事が早くて助かるよ宰相。それでは正式な手紙は2通書こうか。1通はちゃんと届けてくれよ?もう1通は、エイカー公爵に噂をばら撒く様に渡してくれ。あそこの奥方ならあっという間だろう」


「かしこまりました」


 結局は皆、リオ様が好きなのだ。自分の事以上に一生懸命になって、彼女が生きたいと思っているであろう方向へ生きて行ける様に手伝う事が光栄であるとばかりに働こうとする。まぁ、私もその1人なのですがね?フフッ。

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