第131話 御披露目の日 ★国王ギルバート SIDE
諸々の準備も終わり、国内の御披露目パーティーの当日となった。リオは綺麗な青色のドレスを翻し、物凄い勢いで猛ダッシュしている……な?
「何が起こっているのだ?」
「あぁ、陛下までいらっしゃいましたか……」
パーティー会場へ続く道の途中、王宮の中庭には何本ものナイフが芝の上に落ちている。既に下級貴族から中級貴族は会場に入っているから問題は無いが、誰かが狙われたのであろう事は確かだろう。
「見ての通り、聖女様が『隠密魔法』をかけた『ネズミ』を見つけてしまわれて、捕縛しようとなさってる様ですな……」
「何故誰も止めんのだ?」
「追いつかないからでは?」
「あぁ…………」
リオはドレスを着ているはずなのに、周りでワタワタしている騎士達とは違い、キレッキレの動きでドンドン見えない敵を倒している様だ。『魔封じ』をした『ネズミ』は見えるようになるらしいな?あぁ、見えないから背中にペンキかな?色をつけているのか……
「騎士達ですら追いつかないのですから、敵は手強いのでしょうな」
「既に5名捕まえたと報告が来ました」
公爵達が集まって来てしまった。まぁ、公爵家は身内みたいなものだから問題ないがな。
「リオはレディなのだから、もう少し頑張れよ男ども」
「『身体強化』などの基礎魔法が恐ろしい程お強いので敵わないのですよ、陛下。聖女様の初級魔法は魔導士団の団員が放つ上級魔法より威力がありますからね」
「本人が気付いていないのが幸いか……どんどん人外になってるよな?」
「元々の能力が高いのに努力家ですからな。当然の結果と思われますが、知らない者には恐怖の対象にもなり得ますな……」
「うーむ、どうするかなぁ?『ありのまま』で過ごして欲しいとは思うんだがなぁ。あの能力ではさすがに難しいか……」
あれでリオは自分が普通だと思っているらしいから不思議な子だよな。こちらでリオの心を傷つけないようにフォローしてやらんとな。
「本当に惜しい人材ですなぁ。王太子妃で無ければ、密偵としてでも、女官としてでも優秀でしょうに」
「リオの事だから、魔導士になるとか言い出しそうだが?」
「否定出来ないのが聖女様らしいですな……」
ん?見えない『ネズミ』をどうやって見つけたんだ?この疑問にはまだ誰も気が付いてないな?あとでカミルに報告させよう。何かしら面倒が潜んでいる気もするしな……
「さて、決着が着いたのか?『魔封じ』を輪投げの様に腕に掛けられる人間を初めて見たな」
「えぇ、初めて見ましたね。ネズミは8匹の様ですな」
「この前は10匹居なかったか?」
「おりましたな。後2匹は何処かにおりましょうが顔は割れておりますし、直ぐに捕まるでしょう」
今回はリオの考案した『監視カメラ』があるからな。リオのお陰で、城の警備が厳重になったのは嬉しい誤算だったがな。やはり、人の手だけでは難しい所はある。何時間も同じ集中力で警備出来る訳ではないのだからな。
「大半を聖女であるリオが捕えたらしいんだが、守られるべき人間って誰だろうな?」
「陛下とカミル殿下の事も守る気でいらっしゃいますからね、聖女様は。あれだけ激しく動いたはずなのに、ドレスも元通りですか……」
皆が驚くのは当たり前だな。リオはあれだげ動いていたのに汗すら掻いてないし、メイクやヘアスタイルも崩れていないのだから。
「ドレスに防御膜を張っておいたのか?あの程度、何とも無いとでも言いたいんだろうな……」
「恐らく、侍女達の苦労を慮っての行動でしょう。聖女様御自身は、目立つ事を良しとされませんからね」
「既にその行動が目立ってると思うがな……これからどうやって隠れるつもりなんだ?」
「お気づきになられていないのですから、黙っていてください。まだ御自身は目立ってないと思って居られるのでしょう」
そんな事があり得るのだろうかと思うが、現にリオはお澄ましして会場に入る準備をしているようだ。
「天然が故、なのか?」
「恐らくは」
「まぁ、そんなリオも可愛いから良いか。早くカミルと結婚して安心させておくれ」
「本当に、その通りで」
「私の政治では不安だと?」
「可もなく不可もないので問題ありませんが?」
「グッ!自分で蒔いた地雷を踏んだ気がするな……」
「いつもの事でございます」
「今日も執事兼宰相が厳しい……」
まぁ、私に意見出来る人間は少ないからな。はっきりと意見を言ってくれるから宰相なんだろうけども。
「…………何を2人でやってるの〜?」
「おっと、シルビーかい。どうなされた?」
「王様〜、リオが捕まえた『ネズミ』にすらなれなかった『ゴミ』はどうしたら良い〜?ってカミルが聞いてる〜」
小動物から無機質で役に立たない『モノ』扱いか……それも『ゴミ』って、クックッ。
「あー、リオの祝いの席を邪魔するヤツらが許せなかったのだろうな。好きにして良いと伝えておくれ」
カミルはリオを中心に物事が動いているから仕方ないな。きっとかなり我慢しているのだろう。
「好きにするなら、サクッと処分しちゃうよ〜って言ってる〜。なんならこの場でって言ってるけど〜?」
おっと、カミルは完全にキレてるな。まぁ、私はちょっと楽しんでしまったけれど、リオを狙ったのであれば許せないもんな?
「頼むから、人に見えない所でやってくれと伝えてくれるかい?一応、聴取はしておいておくれよ?」
「面倒そうな顔をしないのって、リオに怒られてるみたい〜。うん、だから大丈夫だと思うよ〜」
「ぶふっ!そ、そうかい。それなら良かったよ。シルビー、伝言をありがとうね」
さすがリオだな。カミルをしっかり操縦出来ているなんて、素晴らしい女房だな。
「えへへ〜、またお願いされたら来るね〜。バイバ〜イ」
いつも私の前まで来て、挨拶してくれるのが嬉しくて笑顔で手を振り返していると、周りのおっさん達も同じく手を振っていた。精霊達は皆の癒しになりつつあるな……
「陛下、そろそろ入場のお時間ですが」
「公爵達が入場していないじゃないか」
「えぇ。ちゃっちゃと皆さん入場して貰えますか?最後にリオ様をカミル殿下がエスコートして入場なさいますので」
「それは申し訳なかったな。ほれ、公爵達が先に入場しなさい」
「直ぐに参ります。エイカー公爵が最後でよろしいな?」
「畏まりました。アナウンスを」
やっと皆が入場し、国王陛下である私が奥の王族用の入り口から入場して玉座に座れば、準備完了だ。
「それでは、この度『聖女』になられたリオ=カミキ様と、王太子カミル殿下の入場です」
宰相がいつもより厳かに、声を少し低く出しているのが笑える。リオに良い所を見せたいのだろうか。最近仕事の関係上、よく話しをするようになったらしいんだよな。カミルの敵が増えそうだな?クックッ。
先程王宮の庭を全力疾走していたとは思えない『聖女様』が開いた扉の前で微笑んでいる。カミルに言われたのだろう、何を言われても微笑んでいれば大丈夫だよ、と。周りの反応を見るに、それは正解の様だ。
ゆっくりとカミルのエスコートで私の前まで進んで来る2人はとても美しい……神々しいとすら言える姿に恍惚としている貴族達。デュークやキース達も惚けていないか?
「カミル、ご苦労であった。さぁ、『聖女様』はこちらへ」
「リオ=カミキ参上致しました」
美しいカーテシーを行い、ふわっとドレスを翻したリオは……蹴りを……入れちゃったよねー。カミルが何事も無かったかのように見えていない『ネズミ』の手首?を掴んで捻り上げている。
慌てたのは宰相とリオの護衛達だな。落ち着いてるのはカミルやその補佐官達、そして保護者の爺さんとデューク、公爵達も落ち着いてるな。いい加減、リオの行動に慣れて来たのか?この前なんて子供まで救出してたもんな……
「陛下、続けて頂いて大丈夫です」
カミルはサイラスに見えない『何か』を引き渡した。リオから『魔封じ』を受け取り、見えない『何か』につけると『オッサン』が姿を現した事で、会場が沸いたな。
「うぉっほん。本日皆に集まって貰ったのは、デュルギス王国へ現れた『聖女』のお披露目の為である。デュルギス王国の国王である私、ギルバート=デュルギスは、召喚者リオ=カミキが『聖女』である事をここに認める」
公爵家の人間が拍手をし始めたので、他の貴族は拍手せざるを得ない。文句があるなら早めに揉めて欲しいな。今のデモンストレーション?を見て、リオが普通では無い事に気が付いた者は多いだろうか。それでも文句を言うのであれば、話しを聞いてやろうな。
「へ、陛下!よろしいでしょうか?」
「うむ、かまわぬ」
「彼女が『聖女』であると、何故分かるのでしょうか?」
「私の夢枕に女神様が立たれたからだ。リオ=カミキは『女神の愛し子』でもあると仰った。故に、国王としての義務で『聖女』のお披露目をしているのだろう?」
「そ、そうでしたか。失礼しました……」
その度胸だけは褒めてやりたいけどな?残念ながら、我が国の国王から公爵家までの上流貴族の人間がリオの味方になりつつあるからな?
「『聖女』は政治や社交界に疎いと指摘があった。なので、公爵令嬢であるエリザベス=エイカーに側近となって活躍して貰う事になったから、そちらも問題あるまい?」
それでも文句があるならどうぞ?と煽ってみる。公爵令嬢は綺麗なカーテシーをしている。彼女は社交界でも発言力があるし、彼女の母は女傑と言われる程の豪快な女性だからリオの味方に引き込みたい所だな。この後の挨拶で初対面となるだろう。
「それでは、公爵家の方々から『聖女様』への挨拶をどうぞ」
宰相がエイカー公爵家の人間がいる方向へ向かって声を掛けた。すると、エイカー公爵と公爵夫人、そして側近を命じられた公爵令嬢と令息がリオの前に進み出た。
「『聖女様』先程振りでございます。私は今後とも、『聖女様』のお力になれたらと存じます」
「公爵閣下、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いしますね」
公爵はニコニコしながらリオと会話をしている。公爵夫人はリオをジッと見ていたが、急にニッコリと笑った。
「『聖女様』初めまして。わたくしはソフィア。公爵の妻で、エリザベスの母にございます。娘を側近へ取り立てて頂き、ありがとうございます。我が公爵家はこれから先、カミル殿下と『聖女』リオ様をお支えして行く事を誓いますわ」
「公爵夫人、ありがとうございます」
「『聖女様』、よろしければ、ソフィーとお呼びくださいませ」
「では、私の事もリオとお呼びくださいね、ソフィー夫人」
会場内がざわざわと騒々しくなった。まぁ、当たり前か。エイカー公爵家は『聖女』とカミルを支持すると公に発表したのだからな。そして愛称呼びもあっさりと許されてしまった。どうやらリオは、公爵夫人のお眼鏡にかなったらしいな。
カミルが物凄く良い笑顔でニコニコしているな。まぁ、これで決まったようなものだから分からんでもないけどな?もう少し控えめに喜んでくれないだろうか。
「わたくしもリオ様をお支え出来るように精進致しますわ。実務は明日からになりますが、よろしくお願いします」
「えぇ、リズ。聡明な貴女を側近に迎えられて嬉しいわ。明日からよろしくね」
可愛らしい女の子が2人、微笑み合っているのを見ると癒されるよな。初々しい感じがまた良い……私の子供は全て男だったからな。一人ぐらい女の子が欲しかったなぁ。まぁ、だからこそ義娘のリオが可愛くて仕方ないんだけどな。
その後も挨拶は順調に進んだ。途中、婆さんが感極まって泣き出してしまったのには驚いたが、爺さんも目頭が光っていたから2人して涙腺が緩んでいるのだろう。
下位貴族まで挨拶が終われば、リオとカミルがダンスを踊ったのを見てから退出可能となる。先程、会場にも『ネズミ』が出たからなぁ?宰相が部屋に訪ねて来るんだろうけど、仕方ない。リオの為にも頑張らねばな。
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