第130話 頼れる仲間 ★リオ SIDE
月日は流れ、お披露目パーティー前日となった。
「今日から数日間は王宮に居る事になると思うわ」
「そうなのねぇ。残念だけど、リオちゃんの晴れ舞台であるお披露目は見に行くからねぇ。楽しみにしてるわぁ」
「お披露目とは言え、ただ着飾って座ってるだけみたいよ?何か発言して欲しいとも言われてないし、形式的に行われるだけなのでしょうからね」
「あら、そうなの?何か言って来る人間がいたら、始末してやるって爺さんが張り切ってたわよ?」
「えぇ……爺やは何もしないでくれた方が良いのだけど……」
「本当にねぇ。無事に終わらせないといけないってカミルちゃんが言ってたのにねぇ」
「そうらしいんだけどねぇ……」
「なんだか他人事の様ね?ふふっ」
「うん、私が聖女とか……正直、凄い人間でも、そんなに優しい人間でもないし?未だに信じられていないのよね。祈る事で浄化したりして来てるんだけど、それも私が使えるスキルを使っただけだしね?」
「聖女だと言われるのは嫌なの?」
「もう慣れたけどね。出来るならば呼ばれたくはないわね。私じゃないみたいだもの。だから呼ばれても気が付かない事があるのよね」
「ふふっ、リオちゃんはそのままでいいと思うわよ?婆やはそのままのリオちゃんが楽しくて好きねぇ」
「そう言ってくれると嬉しいわ。聖女らしくいなければならないみたいで息が詰まるのよ。私は聖女になりたくてなった訳ではないのよね。他の召喚者に代われるなら代わっても良いと思ってるわ。権力なんてあっても使いこなせないしね」
「権力が欲しいと思うのが普通だと思うのですが……」
「リューは権力が欲しいと思うの?」
「あ、私は権力者の陰に隠れて暗躍したいですね」
「あはは、さすが元影ね。私も暗躍しようかしら」
「リオ様は表の方が合ってますよ。こっそりではなく、ド派手に暴れて欲しいですね」
「リューは常識人だと思っていたんだけど?」
「常識人ですよ?ここの男どもに比べれば可愛い方でしょう?ふふっ」
「比べる相手がおかしい気もするけど……私の周りって、普通の人間がいない気もして来たわ……」
「あぁ、確かにねぇ?賢者に賢者の弟子で魔導士団団長、王太子殿下、元影、元近衛騎士隊長、そして聖女。婆も元皇女だしねぇ?ふふっ」
「そうね……何気に皆んなが国を動かせるレベルの人間なのよね。戦力的にも国一つぐらい滅ぼせそうよね」
「余裕でしょうね。リオ様とサイラスだけでも余裕だと思いますけどね。前衛が居れば、リオ様は無双出来ますからね」
「リオちゃんなら前衛が居なくても、無詠唱で超級魔法を1発放てば小さな国なんて終わるんじゃ無い?」
婆やがとんでもない事を言い出したわ。元皇女なんだから、言っちゃ駄目な部類のお話しよね?
「物騒な話題になって来たわね……」
「それぐらい力を持っている事を忘れないでって事よ、リオちゃん。力は憧れにもなれば、羨む対象にもなるから、今後は敵も味方も一気に増えるわぁ」
そうなのよね。考えない様にしていたけど、私は『聖女』であると公表する事で、注目されて狙われる可能性もある事は理解している。カミルに散々謝られたしね。
「そう考えると、怖いわね……まぁ、やると決めたからには全力でやるけども」
「リオちゃん、辛い時は帰っていらっしゃいねぇ?逃げたって隠れたって良いのよ。婆や爺さんが守ってあげるからね?無理はしちゃ駄目よぉ?」
婆やは皇女だったからこそ、この重圧を理解しているのだろう。とても心配してくれているのが分かる。
「うん、ありがとう婆や。私が逃げ込む場所はここしか無いのだから、必ずここに帰って来るわ」
「えぇ、えぇ。ここは必ずリオちゃんを暖かく迎え入れると約束するからねぇ」
さっきまでの緊張が霧散して、何となくホコホコ暖かい気持ちになる。もう、あちらの世界の家族の事すら思い出せないけど、私を包み込んでくれる暖かさがここにある事を嬉しく思うわ。
「カミルが呼んでるけど、行く〜?」
「えぇ、行きましょうか。明日の事かしらね?婆や、お披露目パーティーが終わったら帰って来るわね」
「えぇ、気を付けて行ってらっしゃい。頑張ってね」
私とソラはカミルの居る場所に転移した。私は当然、執務室だと思っていたのだが……
「きゃっ!」
目の前のカミルは上半身裸だったのだ。ソラのイタズラね。ソラを睨むと、シルビーと2人で笑っている。
「もう!ソラ、シルビー!こんな日にイタズラするんじゃ無いの!」
「今日だからだよぉ〜」
「カミルがガチガチなの〜」
「え?」
「あー、その、少し緊張してたんだけど、今ので吹っ飛んだかな……」
それなら良かった……のかしら?コテンと首を倒す。
「んんっ!リオ、今日も素敵だね。僕はリオの為なら何でも出来そうな気がするよ」
「リオの場合は狙ってないのが凄いよね〜。カミルは目を離せなくて大変だろうけどね〜」
「本当にね〜。まぁ、オイラも見守ってるから大丈夫だと……言い切れないけど見守るね〜」
「ソラ、そこは言い切ってくれないかな?僕も周りを牽制するのは大変なんだからね。今の所、味方に出来たのはジャンぐらいかな……」
カミルは思い出したかの様にシャツを着始めた。明日が本番だから、今日まではきっと忙しくて疲れてるのかもね。
「カミルが平常運転に戻ったね〜。これからどうするんだっけ?」
「明日の予行練習があるのではなくて?私は夕方から夜にかけて磨かれると聞いているわ」
マッサージを受けるのは気持ちが良いから大歓迎なんだけど、パックしたりと至れり尽くせりが何時間もあるのは辛いのよね……私は横になってるだけだから、贅沢言ってるのは分かってるんだけどね。
「そうそう。明日のリオは、僕が1日中エスコートするから問題無いんだよ。移動すべき時には必ず隣にいるから迷わないと思うよ」
「そう。それなら安心だわ。こういった行程って、何故か覚えられないのよね……」
「リオって興味無い事には全くの無関心だもんね〜」
「ふふっ、良く分かってるわね、ソラ」
明日はカミルに任せておけば大丈夫って分かっただけでも気が楽になるわね。
「可哀想なぐらい、スルーされてる人間も見て来たからね〜。リオに悪気は無いんだろうけど、見ていて可哀想になる時があるんだよね〜」
「えぇ〜?全く記憶に無いわ……そう言う時は教えてよソラ。さすがに申し訳ないわ」
「いや〜、言い出しにくいよね〜?念話で話すには大袈裟過ぎる気もするし〜?毎回悩むんだよね〜」
「ふぅ〜ん。まぁ、カミルがいれば、何とかしてくれるでしょ?明日は座ってるだけらしいし?」
「カミルも相手がリオに気があるって分かってると、あからさまにスルーしたりするからなぁ〜。リオの事だけには心が狭いんだから〜」
「それは困ったわね?誰もフォロー出来ないじゃない」
そんなに私の周りって動けない人ばかりだったかしらね?
「じーちゃんに頼めば〜?」
「1番アテにしちゃ駄目な気がするわ……」
「間違って無いと思うよ〜」
ソラまで賛同してくれたわね。爺やも最近、ちょっと大人気ない行動を起こす事が多かったりするのよね。
「ソラも辛辣だねぇ……」
「リューが隠密で警護するんじゃ無かった〜?」
「近くにはサイラスも控えるんでしょ〜?」
「あぁ、あの2人ならフォローしてくれそうね」
「そうだと良いね〜」
そうであってくれないと困るのだけどね?後でリューとサイラスにはしっかりお願いしよう。
「それじゃあリオ、もう明日の本番まではお互い準備で会えないと思うけど、無理はしないで精一杯頑張ろうね」
「私は磨かれるだけだから問題無いわ。カミルが張り切り過ぎて、無茶しそうで心配ね。シルビー、ちゃんと休憩する様に言ってね?」
「りょ〜か〜い!ボクに任せといて〜」
「ふふっ、シルビーに任せるわね」
「それじゃ〜、また明日ね〜」
「またね〜」
ポンっ!とソラは私の王宮の私室に転移した。目の前にはズラッと侍女達が並んでいる。
「本当に転移して来たわ……」
「あの猫が精霊なわけ?」
ボソボソと話してる声が聞こえる。これは聞こえない様に小声で喋っているのに、私やソラには聞こえちゃってるヤツね……だから、リューやリリアンヌ達には聞こえていなくてとても良い笑顔だわ。
「それではリオお嬢様、軽くこれからの流れを説明させて頂いてもよろしいでしょうか?」
リリアンヌが細かく予定の書かれた紙を見ながら説明してくれる様だ。
「えぇ、お願いね」
「お風呂でもパックやオイルで綺麗に磨いた後、マッサージをします。そこまで約2時間掛かると思われます」
「なるほど、その後は夕食後に再開するのかしら?」
「はい、その予定……」
「食事など取っている場合ではありませんでしょう?貴女はこれまで庶民で磨かれて来ていないのですから、そんな余裕があるとは思えないけど?本当おかしな人ね」
「貴女、名前は?」
「あんたに名乗る名前なんて無いわよ。私が殿下の婚約者になる予定だったのに、何故あんたの世話なんてしなきゃならないのよ!」
「そう。じゃあ出て行ってくれる?」
「はぁ?あんたにその権限なんて無いでしょう!」
「はぁ、権限?あるわよ。私はカミル殿下の婚約者であり、『聖女』の称号を持つ者よ。一応、陛下の次に偉い立場になるらしいわよ?」
「嘘ばっかり!殿下より偉くなれる訳無いじゃない!あんたに何が出来るって言うのよ?」
「そうですわね、貴女を首にする事ぐらいは簡単に出来るわね。社交界から追放する事も出来ると思うわよ?わたくしがリオの親友である事は有名ですしね?ふふっ」
扉の前にはリズが居た。私の親友だって言ってくれたわ!私もリズが大好きだから、とても嬉しいわね。
「え、エイカー公爵令嬢……」
「リズ、どうしたの?今日、会う予定だったかしら?」
侍女は、私がリズを呼び捨てにした事に驚いたのか、私を親友だと言った事に驚いたのかは不明だけど、ポカンと令嬢らしからぬ顔をしている。
「ふふっ、カミル殿下がリオの事を心配して、わたくしを寄越したのよ。殿下の勘は当たってたようね?」
カミルが呼んでくれたのね!ありがたいわ。知らない人と対話するのは疲れるのよね……リリアンヌやマリーの様に、己の立場を理解してくれていると良いんだけど……
「相変わらず殿下は過保護でいらっしゃるのですね」
リューも私をフォローしてくれる様だ。やっぱり何かあったらリューに助言して貰おう。あ、今日からはリズにも相談出来るのね!これで安心だわ。
「そうね。過保護なのは否定しないけど、わたくし今日からリオの側近に指名されたの。未来の王妃様の側近になれるなんて、恐悦至極に存じますわ」
リズはわざとらしく、丁寧なカーテシーを私に向かってして見せた。
「リズ、受けてくれたのね!ありがとう。とても心強いし嬉しいわ。今日からなのね?明日からと聞いてたけど、カミルが早めてくれたのかしら?」
「えぇ。わたくしにも『権限』が必要な事もあるだろうからと仰って、本日付けでって話しになったのよ」
「そうなのね?リズに任せておけば安心ね。私にはまだ分からない事も多いから、これからよろしくね」
「勿論よ、リオ。早速権限を使おうかしらね?そこの侯爵令嬢……確か、シャーロット嬢よね?貴女には退出して貰うわ」
「な、何故ですか!私は本当の事を言っただけです!」
「それが本当の事だったとしても、王太子妃を侮辱する事は、王太子を侮辱するのと同義なのよ?知っていらして?」
「まだ婚約者でしょう!?婚約を解消される事だってあるわ!」
「あったとして、カミル殿下に不利になる事を、陛下がお許しになるとは思えないけれど?」
「はぁ?何故、殿下が不利になるのよ。もっと権力の高い女性なんていくらでもいるでしょう!?」
これが居ないらしいのよね。この前、婆やに教えて貰って初めて知ったんだけど、私は陛下の次に偉いんだって。権力なんて要らないのにね……
「いないわよ?この国で、1番高貴な女性はリオよ。そして次が王妃様、その次はわたくしの母、そしてわたくし。貴女は何番目だったかしら?少なくとも、カミル殿下の婚約者にはなれないわね」
「何を!このっ!」
シャーロット嬢がリズに襲い掛かるが、リューがあっさりと止めると跪かせてリズに判断を仰ぐ。
「ふんっ。わたくしに手を出そうとした時点で終わりだとご存知無かったのかしら?スコット侯爵家に早馬を出すわ。覚悟しておいて?」
リズは扇子でリューに外を示す。シャーロット嬢は引き摺られる様に外に連れ出された。
「そんな!痛い目を見るのはあんた達よ!」
捨て台詞を吐いたようだが、遠ざかって行くものだから、後半は聞こえなかったわね。
「リオ、ごめんなさいね?時間が押してしまったから、急いで取り掛かりましょう!気を取り直して、よろしく頼むわね、貴女達。頼りにしているわ」
リズは美しく微笑むと、侍女達はほんのり頬を染めて「はいっ!」と返事をした。リズって侍女キラーね!
「リオ……そんな目でわたくしを見ないで?何を考えてるか分からないけど、きっと違うわ」
うっ、何故違うと分かるのかしらね?リズはエスパーなのねきっと。いや、エスパーじゃ無くても凄いと思うわ。あの侍女を追い出しちゃったんだもんね。私なら無理だわ……
「リオ、ああ言った事はしょっちゅう起こるけど、リオじゃ対処出来ないだろうから、わたくしが呼ばれたのよ。だから気にしなくて良いからね?」
「リズは何でも分かるのね。ありがとう。素直に今後もお願いするわね。私はああ言う駆け引きはどうしても苦手だわ……」
服を脱ぎ、浴槽に浸かると、侍女達が薔薇の香りのするオイルを浴槽へ入れて行く。
「仕方ないわよ。幼い頃から社交界に居たわたくし達とは場数が違うもの。でも、それで良いのよ。わたくしに出来る事ならいくらでも手伝うわ。リオは、『聖女様』なんだから、本来なら別に何もしなくても良いのよ?」
「え?そうなの?」
「そうよ。だから、頑張ってくれているリオには殿下も陛下も感謝しておられるのよ。それが分かっているから、公爵家の令嬢であるわたくしがリオの側近になれたのよ?」
公爵家の令嬢が側近になるなんて、前代未聞だと言っていたもんね。私が頑張ったからなのであれば、それは素直に良かったと思うわ。
「そうなのね。それは感謝しなきゃね。側近って1番大事な気がするのよね。ジャンを見てると特に」
「あぁ、帝国の皇太子でしたわね。噂ではまともになったと言われているみたいよ?リオのお陰でしょうね」
「私は何もして無いわよ……何でも私の功績にするのはやめてよね?出来るだけ目立ちたく無いんだから」
「ふふっ、それは無理だと思うけどね?まぁ、良いわ。そろそろ本気で始めるからね、お風呂も1時間ぐらいは入るだろうから、寝ていても大丈夫よ」
「なら、寝させて貰うわね。この前、女神様達と話しをしたから、ちょっと寝不足で疲れが……」
侍女達がギョッとした目で私を見ていたが、もう眠くて仕方が無かった私は、直ぐにウトウトしたのだった。
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