第122話 胃袋を掴む? ★リオ SIDE
今日は朝からハイテンションなソラと、少し疲れが見えるカミルが付き添いで来てくれているが、向かったのは王国で1番安全だと言われている、この世界の我が家、爺やと婆やの住む屋敷だ。
「リオちゃん、やっと帰って来たのねぇ!今か今かと首を長くして待っていたのよぉ」
「ふふっ、ただいま婆や。私も会いたかったわ。また一緒にお料理しましょうね」
「えぇ、えぇ。そう言うと思って、爺さんに頼んで竈を作って貰ったわよぉ」
「えぇっ!竈を作ったの?米を炊くためだけに?そんな我が儘……」
「リオちゃん、これは爺さんとデュークが、出来立ての『オニギリ』と『ミソシル』をご馳走になる為の賄賂だと思って良いのよぉ。爺さん達の我が儘であって、リオちゃんは作らされるだけよぉ」
「え!リオがまた『オニギリ』を作ってくれるの?僕もご相伴にあずかりたいなぁ」
「カミルは駄目だよ〜。早くお仕事に戻らないとね〜」
「うっ……分かってるよ、早く仕事を片付けてから来るからね。リオ、亜空間に取っておいてね?」
「ふふっ。分かってるわよ、カミル。ご飯が出来上がるまで、それなりに時間が掛かるし、昼ご飯にするとしてもまだ早朝だからね。出来上がったらシルビーに伝えるから、お仕事頑張って来てね」
「うん、分かったよ」
「新婚みたい〜とか思ったよね、絶対〜」
「カミルのニヤついた顔を見れば一目瞭然だよね〜」
「うっ、人の心情を当てて遊ばないの!」
「あはは〜。シルビー、分かってるね〜?」
「うん、勿論だよ、王子様〜」
「あ、シルビー。そろそろ王子様呼びはやめよ〜?折角リオに『ソラ』って付けてもらったんだから、ソラで良いよ〜」
「それは……ボクで良いの〜?」
「うん、オイラはシルビーが良いよ〜」
「ありがとう、ソラ様!ボク頑張るよ〜!さぁ、仕事に戻ろ〜、カミル〜!」
「え?シルビー?うわ…………」
「あらまぁ。もう行っちゃったわ。シルビーはせっかちなのかしらね?」
「きっと急ぎの用があったんだよ〜。リオは侍女と護衛が着いてから動くでしょ〜?」
「えぇ、そうね。リリアンヌとマリーはリューが、サイラスはデュークが連れて来てくれるのよね?」
「うん、飛行魔法で移動するって言ってたよ〜」
「少し時間があるわね?じゃあ婆やの足を少し診てみようかしら」
「あら、ありがとうねぇ。もう随分良いのよぉ。膝の曲げ伸ばしも違和感なく出来る様になったしねぇ」
「うん、そうね。『歪み』があった場所も正常に戻ってるし、筋肉もついて来たから順調ね。良かったわ」
「本当にありがとうねぇ、リオちゃん。そう言えば、精霊王は元気だった?」
「あー……、私と婆やが帰ってしまって寂しいって、引き留められたわね。精霊王の元へ行く事になったのも、女神様が精霊王の所に私を連れて行く理由を作ったからだったし。婆やもまた遊びに行ってあげて?」
「あら、そうなのねぇ。精霊界は、もっと沢山の精霊が居たのよぉ。それもあって寂しいのかもねぇ。『精霊も生まれ難くなった』のであれば、大変な事だと王様が嘆いていたわぁ」
「えっ?そうなの?」
フッとソラの方を向くと、ソラは大きく頷いた。
「そうだね〜。オイラが生まれた時には、既に減少傾向にあったらしいけど、今の倍は居たと思うよ〜。精霊は真面目に小さなイタズラだけして生きていれば、1000年以上生きれるからね〜」
小さなイタズラは真面目に入るのね。精霊のイタズラ好きは、精霊の生き甲斐なのかも知れないし、ここはあえてスルーしてあげましょ。
「シルビーは1000歳超えてるって言ってたわよね」
「うん。オイラが生まれるまでは、シルビーが王子だったんだよ〜。オイラの方が強かったから、今はオイラが王子だよ〜」
「なるほどね。だからソラとシルビーは仲が良いのね」
「うーん、普通は仲が悪くなるんじゃ無いのかしらぁ?己の立場を奪われた訳でしょう?」
「バーちゃん、それはニンゲンに限った事だと思うよ〜?どんな動物も、強い者が群れのリーダーになるでしょ〜?」
「確かにそうねぇ。さすがは王子様ねぇ」
婆やに褒められたソラは嬉しそうに、フフンとドヤ顔していて可愛い。
「ねぇ、ソラ。じゃあ、シルビーも精霊が減っている事を嘆いているのかしら?」
「うん。元王子だったのもあって、シルビーは王子教育も終わってたからね〜。王様になったら何をしなければならないかも理解してるよ〜。だから、オイラのスペアだったんだよ〜」
「ねぇソラ、その間延びした話し方はワザとでしょう?」
「うん、そうだけど〜、それ今なんだね〜?」
「話しの途中はハッキリとスパッと話してたりするからそうなんだろうなーって気になっただけよ」
「王様になったら、さすがにちゃんと話すけどね〜。オイラはシルビーと違って短気?せっかち?だから、シルビーが語尾を延ばしたら少し柔らかくなるって、お手本見せてくれた〜」
「あぁ、だからシルビーも間延びした話し方なのね」
「うん。シルビーはオイラの兄であり、親であり、お姉ちゃんなんだよ〜」
「頼りになる味方って事ね。それだけ信頼してるなら、いつも側に居たいわよね。精霊に側近とかって制度?システムは無いの?」
「それは一種の番になるね〜。夫婦の様でもあり、側近でもあり、唯一無二の相棒だよ〜。1番身近な王様の半身となる関係だね〜」
「あぁ、そっか。ソラは王様になるんだもんね」
「うん。その時には、リオも精霊界においでよ〜?カミルとリオのお家を建ててあげるよ〜」
「それも良いわね。私達が次世代に王位を譲った後になるんだろうけど、王様もまだ元気そうだし、人より長く生きる精霊だから、人間の私達が引退する方が先でしょうしね」
「多分そうなるね〜。リオの相手がカミルで、カミルも精霊と契約してるから、お互い好きに精霊界を行き来できるから良いよね〜」
「ふふっ。ソラは寂しがり屋さんよね。大丈夫よ、いつまでもソラの側に居るからね」
「うん!オイラが王様になったら、リオとカミルの子に祝福と加護をしてあげるからね〜。今は既に王様が祝福もしてくれてるから、子供は絶対にオイラがやるよ〜」
「それは嬉しいわね。子供の前に結婚しなきゃね……ダンジョンの事も爺やに相談しなきゃだし、コテツさんにも一度聞いて見ましょうね。そろそろ昼ご飯を作りながらお話ししましょうね」
私は勝手知ったる屋敷のキッチンに移動した。婆やと一緒に作る予定だが、ソラも見学するみたい。精霊はお腹が減らないから良いわよね。私は作ってるのを見てるだけでお腹減るから、作った後に直ぐ食べれないと辛いわね。
「リオお嬢様、お久しぶりでございます。竈はこちらに。使い方を見学させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ごきげんよう、料理長。私もあまり手際が良い方では無いけど、私で良ければお手本にしてちょうだいね」
「ありがとうございます。材料はリオお嬢様がお持ちだと言う事で、こちらは材料を入れる為の器などをご用意させて頂きました」
「ありがとう。婆やに聞いたの?どんな物か分からないから大変だったでしょう?気にしないで適当でも良かったのに」
「いえいえ、リオお嬢様の祖国の食事だと伺いました。ソウルフードは大事です!お手伝い出来る事がありましたら、何でも申し付けてくださいね」
「えぇ、ありがとう料理長。それじゃあ、今日も米を炊いておにぎりを作るから、『米』を水に浸して置いて……お味噌の具はどうしようかしらねぇ?」
「リオちゃん、『トウフ』を料理長に見せてあげてくれない?後は『ショウユ』もねぇ。トウフにショウユをかけた『ヒヤヤッコ』は美味しいのに、トウフ単体だとイマイチなのは面白いわよねぇ」
「あぁ、婆やは冷奴を気に入ったのよね。作り方教えておこうか?面倒だけど、難しくは無いからね」
「後でレシピを頂ければありがたいです。正解だと分かる実物があれば、後は研究しますので」
「大豆も渡しておくわね?この豆は普通に手に入るのかしらね?」
「デュルギス王国では見かけませんね……おい、お前達!この豆を知る者はいるか?」
「『ダイズ』ですか……」
「あ、もしかしたら、枝豆なら分かるのかしら?」
「エダマメ?」
「緑色の豆なんだけど、未成熟だと『枝豆』、成熟させると『大豆』、大豆が発芽すれば『モヤシ』になるのよね」
「へぇ!では『ダイズ』は種子なのですね。なるほど、我が国では種子を食べる文化がありませんから、『エダマメ』ならあるかも知れませんね」
「あの、あっしは農家の出なので種子を見れば分かるかも知れないので見せて貰えますか?」
「えぇ、良いわよ。どうぞ手に取って見てちょうだい」
農家の出らしい男が大豆を手に取り、マジマジと観察して最後に大きく頷いた。
「あぁ、ミドリマメですね。これなら種子も手に入りやすいですよ」
「それは良かったわ。メインは『米』なんだけど、醤油や味噌にも大量に使うからね」
「リオ〜、多分だけど〜」
「うん?どうしたの、ソラ」
「作るのは王様の楽しみだから、奪っちゃ駄目だと思うよ〜」
「そういえば、言ってたわねぇ。元契約者のコテツさんを思い出す度に作るから、亜空間がいっぱいになるらしいわよぉ。調味料まで作っていたのねぇ?」
「リオの亜空間にある材料は全て、王様が作った物なんだよ〜」
「凄いわね!あの姿で作るのかしら?可愛らしいわね」
「リオ〜、精霊は魔法を使うのも得意だからね〜?あの狐の姿に擬態した手で混ぜたりしてないからね〜?」
「え?そうなの?じゃあ、どうやって作ってるのかしら……」
「今度、見学に行くと良いよ……また寂しがってるだろうから、ついでにね〜」
「説明が面倒になったわね?もう、ソラったら」
「えへへ〜。ニンゲンは、精霊が何を何処まで出来るかすら知らないでしょ〜?だから余計に説明が面倒なんだよね〜」
「あぁ、確かにね。転移魔法も亜空間も、人間だけでは出来ない魔法だって言ってたもんね」
「そうそう〜。だからね、言っちゃいけない事もあると思うんだよね〜?王様と一緒なら、きっと大丈夫だから教えてあげられると思う〜」
「ソラ……王様、言っちゃいけない事をしょっちゅう言ってるわよね?女神様も同じく、ね……」
「あ〜、そうだね〜?う〜ん、まぁリオなら良いと思ってるんじゃないかなぁ〜?」
「それなら良いんだけど……さて、『お米』も水に浸して30分経ったから、炊いて行くわよ」
「リオちゃん、婆がやるわぁ。『ミソシル』の具は決まったの?」
「折角だし、お野菜と海藻を見せて貰おうかしら?今度おあげも作って貰おうかしらね」
料理長達が、屋敷にある野菜と海藻を持って来て並べてくれた。どれも見た事の無い物ばかりの様だ。
「こちらになります」
「これ、海藻なの?テカテカしてるからそうなんだろうけど。あ、これは『めかぶ』っぽいわね?」
「あぁ、申し訳ありません。これは捨てる部分です」
「ヒラヒラした『ワカメ』の部分だけを食べるって事かしら?」
「はい、その通りです。上の部分の柔らかい所だけを食べます」
「コレはもう要らないのね?じゃあ私が貰うわ」
「何かに使われるのですか?」
「食べるのよ?」
「それはジャリジャリしますし、ネバネバで食べられた物では……」
「あぁ、下処理をしてないからね。ついでだから下処理して見せるわ。お湯を沸かしてくれる?」
「かしこまりました」
「めかぶは汚れが落ちにくいから、しっかりと流水で擦り洗いをして、泥が落ちたら茎の部分と外側のヒラヒラがしてる『ヒダ』の部分に切り分けるのよ」
「お湯が沸きました」
「ありがとう。沸騰したお湯に、先に茎を入れて大体20秒って言うわね。私は茎の色が緑に変わりそうって時にヒダの部分を入れると丁度良いと思うわ。ほら、綺麗な緑色になったでしょう?そしたら氷水に入れて粗熱を取るの」
「あらまぁ!とても綺麗な緑色になるのねぇ」
「ふふっ、そうでしょう?これを微塵切りにしても良いし、千切りにしても良いんだけど、私はご飯にかけたいから微塵切りにしようかしらね」
「あ、あの……少し味見してもよろしいですか?」
料理長が申し訳無さそうに前に進み出て来る。美味しかったら、今度から捨てずに食べられるのだし、とても良い事だから喜んで味見させてあげるわよ。
「醤油を少しだけかけて、良くかき混ぜて食べてね」
私は他の料理人さん達の為に小皿へ少しずつ分けてあげた。最初は眉を寄せたりと、最初の一口が中々難しい様だったが、料理長が「美味い!」と叫ぶと、皆んなで食べ始めた。
「コリコリしていて美味いな!」
「酒のツマミに良いんじゃ無いか?」
「こんなに美味い物を捨てていたとはな……」
「お嬢様が仰っていた、『下処理』が大事なんじゃないか?」
「確かにそうだな。俺らは『捨てる物』としか認識していなかったから、綺麗に洗って下処理するなんて思い付きもしなかったな!」
「お嬢様、こちらの『メカブ』はいただいてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、勿論よ。自分達で下処理からやってみると良いわ。きっと、ゴミも減って環境にも優しいわよ」
「ゴミが減ると環境に優しいのかい?」
「あら、カミル。もうお仕事終わったの?」
「午前の仕事も、午後の仕事も、殆ど終わらせて来たけど、別件で行かなければならないから、お昼過ぎまではゆっくり出来るよ」
「そうなのね。お昼までまだ少し時間があるし、あちらで少しお茶でもしましょうか」
「あの海藻の話しも聞きたいな。目新しい事は楽しくて良いね」
お互いに視線が絡み合う。ふふっと笑いあいながら、ゆったり座れるソファまでの距離も、カミルの優しいエスコートで誘われるのだった。
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