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第108話 命の対価 ★リオ SIDE

 カミル達が王国へ帰り、私とデュークは話を進める事になった。例の魔導士は正気に戻り、入手経路を『憶えてない』と供述しているが、嘘では無いだろう。


「ジャン殿下、恐らく彼は本当に覚えていないのでしょう。ドリーも『イタズラ』した事を覚えていませんでしたから」


「聖女様、私の事は呼び捨てでお願いします。魔道具が関わると記憶が曖昧になるという事でしょうか?そうなると、この魔道具は面倒ですね……」


「あぁ、そうだな。人間であれば『覚えていない』と言えば済んでしまうからな」


「最悪、自白剤的な物って無いの?それでしか嘘を言って無いかが分からないじゃない」


「ねぇお姉さん、お姉さんが浄化?祈って『黒いモヤ』が出れば白、出なければ嘘吐きで良いんじゃ無い〜?」


「そうなんだけどね、かなり疲れるのよこのスキル。祈りスキルが聖女限定のスキルなら、恐らく私しか使えないスキルでしょうから、ちょっと厳しいと思うわ……」


「どれくらいの数があるか分からないから、それはさすがにキツいね〜」

 

 そうなのよ。精霊のドリーが大変さを分かってくれて嬉しいわ。


「デューク、魔道具の分析はどうだった?」


「色々分かりましたが、人間が作るのは難しいかと」


「どう言う事?」


「前に説明した通り、魔道具には『魔力』と『対価』が必要になります」


「えぇ、それは理解しているわ」


「この魔道具の『対価』は『生命』なのです」


「え?どう言う事?」


「この魔道具を持っているだけで、寿命が縮むと言う事ですね……」


「なのに何故、魔道具を手放そうとしなかったの?」


 私は正気を取り戻した魔導士に向かって声を掛けた。


「そ、その、最初は気付かない程度の体調不良でした。自分は魔道具なんて持っているとは思わなかったし、体調不良が魔道具の所為だと気付かなかったんです」


「それは仕方ないわね?」


「魔道具の存在に気が付いた時には、その魔道具を自分から少し離しただけで不満に思い、苛立ちを感じるぐらい……その魔道具は心地良いのです」


「依存性があるって事なのね?」


「なんて恐ろしい魔道具なんだ!お前は寿命が削られていると分かっていたのか?」


 ジャンはその魔導士の胸ぐらを掴み揺さぶる。


「はい、殿下……私はきっと、この魔道具に殺されるのだろうと理解しておりました……」


「なんて事だ……」


「貴方は今でもあの魔道具をもう一度手にしたいと思う?」


「うっ、今なら大丈夫な気もしますが、また欲しくなりそうだとも思います……」


 完全に全魔道具を滅する必要がありそうね。手に入れられなければ問題無いものね。あちらの世界にもあったわよね、人を駄目に……廃人にしてしまうモノが。


「そう言えば、同じ様な事が起きたと記録にあったわね……全く同じかは分からないけれど」


 ずっと考え込んでいらっしゃった皇女殿下がやっと顔を上げたが、今度は眉をハの字に下げて困った顔をしている。


「皇女殿下も、古文書を読まれたのですか?」


 ふと気になったので聞いてみた。暇だったから読解した古文書は、1ヶ月ちょいで読み解けた。ソラは古代語が難しいって言ってたんだけど、そうでも無かったのよね。


「ま、まさか、聖女様も読まれたのですか?」


「えぇ。ソラが難しいから止めときなよって言うのが、逆に面白そうで。カミルは全部読んだと言っていたし、何もやる事が無い日にコツコツ読んでいました」


「1192巻ですわよね?」


「えぇ、1192巻でしたよ?」


「聖女様、わたくしとお友達になってくださいませんか?」


「えぇ?はい、私で宜しければ……」


「では、わたくしの事はリアと呼び捨てでお願いしますわ」


「えぇ……では、私の事はリオと……」


「あぁ!ありがとうございます、リオ様!」


「えぇー!皇女様に様付けとか無理ですから、呼び捨てでお願いしますー!」


「いえいえ、わたくしなんかが更に雲の上の存在であられるリオ様を呼び捨てになんて、烏滸がましくて有り得ませんわ」


「…………呼び捨てにしなければ、お友達にはなりませんからね!」


「グッ……仕方ありませんね。リオ……で、宜しいですか?」


「えぇ、それでお願いします。私だけが呼び捨てとか、本当に心臓が痛くなるのでやめてくださいね……」


「あはは〜。リオって案外、小心者だよね〜」


「あら、おかえりなさいソラ。お疲れ様だったわね」


 ソラがフワフワと私の元に機嫌良く近付いて来た。


「ううん。お友達が名前と姿を貰ったし、オイラはカンムリョーだよぉ〜」


「難しい言葉を知っているのね、ソラ」


「王様が言ってたよ〜」


「たまに日本人っぽい発言をするのよね、王様って」


「カミルもこの前からそうだね〜」


「あぁ、それもあったわね……王様の所に、カミルとシルビーを連れて挨拶に行けばハッキリするかしら?」


「そうだね〜。それまでは考えても仕方ないから、魔道具をどうにかしなきゃね〜」


 本当にその通りだ。早く解決してのんびりしたい。魔道具の解決より先にスタンピードが来るのかなぁ?そうなると魔道具を見つけても八方塞がりでは?だって魔道具って危険物……


「あ!デューク、あの箱……魔道具をしまってた箱!」


「あぁ、『黒いモヤ』を閉じ込めてた箱ですね。そう言えば、ありましたね」


「あれと同じ物を作れないのかしら?スタンピードとどちらが先になるか分からないから、出来る限り準備をしておきたいわね」


「あ〜、確かに。あの箱が無いと、例え見つけたとしても持って移動出来ないよね〜?」


「魔道具の周りに居るだけでボーッとしちゃう可能性もあるし、そのまま持って歩くのは難しいでしょうね」


「その通りですな!師匠と急ぎ調べて製作します」


「悪いわね、デューク。また無茶振りしちゃうわね」


「いえいえ、リオ殿からの無茶振りは、世の為人の為ばかりですからな。いくらでも頼んでくだされ」


「ふふっ、ありがとう。とても頼りにしてるわ」


 今回は魔道具の事も気にしなければならない状況になってしまったが、スタンピードの打ち合わせを終わらせなきゃだわ。


「り、リオ、わたくし達の為にありがとう」


「気にしないで、リア。兎に角、スタンピードの事から決めてしまいましょう?スタンピードの日は魔導士達が防御壁で『狭間』から半径20mぐらいの場所を囲めるって事で良いのよね?テオ?」


「はい!『狭間』の位置さえハッキリ分かれば、それで大丈夫です」


「正直、スタンピードって防御壁をしっかり張ってくれたなら勝ったも同然なのよね……」


「それはリオだからでしょ〜。物足りなくても、双剣で突っ込んじゃ駄目だからね?」


「うっ……わ、分かってるわよ。今回は2回ともデュークも居るみたいだし、王国じゃ無いんだから、少しは自重するわよ」


「リオ殿とソラ殿の会話を聞いていると、大変な事が近々起こるとは思えないから不思議ですな……」


「デューク様、わたくしもそう思いますわ。とてもありがたく、心強くて安心致しますわ」


「皇女様……」


「デューク様、わたくしの事はリオと同じく、リアとお呼びくださいませんか?」


「か、かしこまりました。り、リア様……」


「呼び捨てで構いませんわ」


「さ、さすがにそれはマズいです。私はただの魔導士に過ぎません。隣国の皇女様に敬称なしは無理です」


「リア、愛称呼びしてくれるだけでも良しとしないと。欲張ると碌な事にはならないものよ?」


 リアの耳元でヒソヒソと囁いたら、ボン!っと顔を真っ赤にしていた。愛称呼びを許した事に気付いて無かったのね、きっと。


「あ、あ……ありがとう、リオ。わたくし、欲張っている事に気が付かなかったわ……」


「そうだと思ったわ。デュークは押し過ぎても駄目だと思うわよ?当分はデュークも連れて来るから、頑張って口説いてね」


「え?リオは反対しないの?」


「え?リアはデュークが好きなんじゃ無いの?」


「す、好き……だけど……」


「王国に嫁いで来るんでしょ?それなら構わないわ。デュークが王国に居てくれるなら、私は問題無いもの」


 私の無茶振りで色々作って貰ったり、今は魔道具の解析とか専門分野はデュークが居ないと困るのよね。カミルが信用してるのも大きいわ。安心して任せられるし。


「そう……なのね。が、頑張ってみるわ。リオも手伝ってくれる?」


「忙しい時は無理だけど、帝国に来る時はデュークを連れて来るし、王国へ来たら魔導士団を案内してあげるわよ」


「充分よ!ありがとう、リオ!」


「どういたしまして。それより、フェレットちゃんに会いたいと思う?私、夢に呼べるみたいなんだけど……新たな情報とか持ってるかも知れないから、会いに行こうと思うんだけど、一緒にどう?」


「え……?あの子にまた会えるの?」


「あー、見えるかは分からないわ。ソラは声は聞こえるけど姿は見えないって言ってたわね……話は出来ると思うわよ?」


「あぁ、ありがとうございます!あの子を身近に感じられるだけで充分です……」


 リアはひっそりと泣いていた。皇女は泣いちゃ駄目なんだっけ?私はリアの顔が周りから見えない様に抱き締めたのだった。

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