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プロローグ

 やっと仕事から解放される、金曜の陽も落ちた頃。

 私、神木莉央は買い物袋を下げて帰宅した。

 40歳を過ぎ、日々の疲れが蓄積されていると感じる。


 そんな私の楽しみと言えば、ラノベや漫画で癒される事ぐらいだろう。元々読書は好きだったが、爽快なザマァ系や魔法を使える世界はストレス発散になった。何冊もの本を持ち運んで好きな時に読めるスマホは、1時間半という通勤時間すら癒しに変えてくれる。


 就職して早20年。周りにはキャリアウーマンと言われ、バリバリ仕事を片付けて来た。仕事も私生活も計画的で、他人に邪魔をされるのを嫌い、1人で集中して物事を熟す事に達成感を感じるタイプだ。


 何処にでも(くち)さがない者はいるが、全く気にならないマイペースな性格なので、それなりに日々を楽しんで生きて来たとは思う。


 ただ、何でも1人でやろうと頑張ってしまう性格の為、最近では体調不良を感じる様になっていた。まぁ、寝れば回復するだろうと思えたのは30代半ばまでだったなぁ……なんて、遠い目で物思いに耽る。


 やっと新刊のラノベを心ゆくまで読める!と、スマホ片手に軽く食事を終わらせて、ぬいぐるみだらけのベッドでゴロゴロする。


 吊り目がちで、第一印象がちょっと怖いと言われる私だが、手触りの良いコロコロしたぬいぐるみが大好きで、ベッドの壁際には沢山のぬいぐるみが並んでいる。シングルベッドでは狭過ぎて、冬のボーナスでセミダブルに買い替えたのだが、なぜダブルにしなかったのかと少し後悔していた。


 そのぬいぐるみ達に埋もれて寝るのが、何よりの癒しだったりする。心地の良い自分だけの空間で微睡んでいると、寝落ちしてしまったようだ。


「いらっしゃい、莉央」


 ふと目を開けると、真っ白な世界が広がっていた。あぁ、これは夢だなって瞬間的に察する。


「そう、ここは莉央の夢の世界よ」


 目の前に、ふわりと美しい女性が現れた。俗に言う『女神様』の姿だ。私の夢だから、私の女神様のイメージがこんな感じなんだろう。風がないのに裾がヒラヒラしていて、白のシンプルだけど艶っぽいワンピースの様な服を着ている。


「えぇ、その通り。長年女神をやってるわ」


 女神様が私に何の用でしょう?起きたらラノベの新刊を読みたいんだけど……


「残念なんだけど、莉央は数時間後に過労死しちゃうのよ。だから貴女をここに呼んで、適性があるなら私の手伝いをして欲しいの。適性が無かった場合は、輪廻の輪に入る事になるわ」


 要は、お手伝いするための面接って事だろうか?私は寝てたのだから、苦しまずに逝けるならばどちらでも良いんだけど。ラノベの新刊が読めない事ぐらいしか後悔は無いしね。


「そうね、面接のようなものだと思って貰えば良いわ。私からの質問は3つ。その後に適性があれば、多少の希望も聞くわ。先ずはひとつ目の質問ね。莉央は責任ある者が傀儡にされて、責任ある者より力の弱い者達を苦しめていたらどうする?」


 ぶっ飛ばすわね。物理的にではなく、正攻法で理論的にやっつけちゃいたいわ。計画を立て、状況を把握して、ここぞというタイミングでザマァしたいわね。


「ふふっ、面白いわね。では、ふたつ目の質問。言葉も分からず、何も分からない状況で、知らない場所に居たら、莉央は先ず何をする?」


 言葉も分からないって事は、異国かしら?何も分からない状況って事は、拉致られた感じ?知らない場所で会話が成り立たないのであれば……うーん、取り敢えず近くの人に身振り手振りして助けを求めるかしら?信じるに値する人かを見極める事は重要だろうけど、取り敢えず保護してくれるなら、その間に状況を把握して……


「あぁ、そこまでで大丈夫よ。次はみっつ目の質問ね。莉央は魔法とか使ってみたいと思った事はある?使えるなら何の魔法が使いたい?2つ答えて」


 そうねぇ……1つ目は即答出来るわ。回復魔法よ!疲労回復とか出来たら最高よね。怪我しか治せなかったとしても、自分だけでは無く、誰かを助けられるかも知れないしね。魔法が使える時点で、それなりに戦闘とか冒険とかありそうだし。


2つ目は……んー、隠密行動出来るような魔法があればそれかなぁ?やっぱり最強は、忍者みたいにひっそり行動出来る事よね。1人になりたい時にも使えそうだし。影の中に潜むとかも面白そうだけど、影から出て来れなくなったら怖いからヤダな。


「ぶふっ!面白い子ねぇ。頭の回転も速いし、莉央に決めたわ。これから莉央は、魔法のある世界へ行って貰う事になるわ。私とのここでの会話は、ある条件を満たすまでは思い出せないようにする決まりだから、その世界へ着いたら一旦は忘れてしまうわ。でも、私はずっと見守ってるから安心してね。加護も授けるわ。何か希望があれば、多少の事なら聞くけど……」


 希望?何処まで大丈夫か分からないけど……昔からモフモフと暮らしたかったのよね。今までは仕事が忙しくて面倒見れないからぬいぐるみで我慢してたけど。私に懐く、可愛いモフモフがいたら嬉しいなぁ。


「えぇ、それくらいなら叶えてあげられるわ。一定の条件……そうね、その世界で信用出来る人が見つかって、莉央の気持ちが落ち着いたら、解放されるようにしておくわね。最初から無双は出来ない仕様なの。世界のパワーバランスが一気に変わると、面倒な事になるのよ」


 なるほど、何と無くだけど言わんとする事は分かる。


「それじゃあ、お手伝いよろしくね、莉央。早く私を思い出してくれると嬉しいわ」


 女神様がフッと消え、白い空間だけになった。これからどうしろと?そう思ったのも束の間、


『こちらへ!手を伸ばして!』


 頭に声が響く。周りをキョロキョロと見渡すと、右斜め前の空間が白く輝いていた。光っているのとも違う。白く輝いていて、眩しくは無い。キラキラしてる。


 何と無く気になって、その白く輝く場所へ手を伸ばし触れようとした瞬間、何かに引きずられる様にして、その場から消えたのだった。白く輝く靄に吸い込まれた先は、薄暗い場所だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 空さん、見つけました。 これから、ゆっくりと読ませてもらいます。
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