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69:出迎え



 空に浮かぶポルタリア城の下、私たちを出迎えてくれたのはイルマだった。



「ようこそー。裏切り者のギルバートと、役に立たなかった救世主サマ」



 語尾にハートがつきそうなほど甘ったるい声。鮮やかな朱の瞳は形こそ細められているものの、その奥は氷のように冷え切っていた。

 ――イルマにかつて、なぜレジスタンスにいるのかと問いかけたことがある。そのとき彼女は「親がレジスタンスだから」と、そう答えた。

 イルマは今も、親がレジスタンスだったからフォイセに従っているのだろうか。それとも世界に絶望して、自分の意志でここに立っているのだろうか。

 この世界に逃げ場はないと言い放った彼女の低い声が、鼓膜の奥に反響していた。



「マリアが来れば、フォイセは城を降ろすように約束したらしいが」



 隣に立っていたギルバートが数歩前に出る。するとイルマは笑みを深くしてそれに応える――と、その瞬間、彼女の足元に大きな魔方陣が現れた。



「うーん、そうなんだけどぉ、その前に周りの奴らはご退場くださぁい!」


「マリア!」



 くるりとギルバートがこちらを振り返ったかと思うと、そのままこちらに覆いかぶさってきた。

 地面に二人して倒れこむ。何が起こったのか分からず、鼓膜を揺さぶる轟音と全身に浴びせられる熱風に、ただ目をぎゅっと閉じて耐えることしかできなかった。

 しばらくして私に覆いかぶさっていたギルバートの体が離れていく。ゆっくりと目を開け、上半身を起こし、視線を巡らせると――あたりの木々はなぎ倒され、私たちを取り囲むように円を描くような形で多くの人々が倒れていた。



「まったく、油断も隙もあったもんじゃない」



 忌々しくイルマは吐き捨てる。

 おそらくだが周りに倒れている人々は、対レジスタンスの刺客だろう。ポルタリア城が降ろされた際、隙を見て突入するつもりだったのかもしれない。――イルマに呆気なく見抜かれてしまったけれど。

 すっかり焼け野原になったあたりをぐるりと見回したイルマは、清々とした表情で笑った。



「さぁ、どうぞ。お城へお連れしまぁす」



 彼女の言葉が合図だったかのようにポルタリア城がゆっくりと降りてくる。

 ――生きて帰れるだろうか。城もろとも攻撃でもされたらどうしよう。フォイセに用済みだと会うなり始末されたら?

 城が近づいてくるごとに不安が大きくなっていく。次から次へと嫌な想像が脳裏を過る。けれど不思議と、逃げたいとは思わなかった。それはきっと、隣で強く手を握ってくれているギルバートのおかげだった。



 ***



 王城はとても質素な内装をしていた。目に痛い赤い絨毯も、豪勢なシャンデリアもない。人影が全くないことも関係しているだろうか、石の煉瓦で作られた壁が無機質な冷たさを感じさせ、物寂しい印象を受けた。

 これでは魔法学院のほうがよっぽど“王城”らしい――



「ゲホッ、ゴホッ」



 大きなエントランスホールの真ん中で、前を行くイルマが突然激しく咳込んだ。咳はなかなか止まらず、彼女はとうとうその場に蹲ってしまう。



「だ、大丈夫!?」


「触らないで!」



 思わず駆け寄ろうとしたが、鋭い声に私は足を止める。しかし隣のギルバートは制止の声も聞かずイルマの右肩を掴んだ。

 イルマは素早くギルバートの手を振り払う。その際かなり勢いをつけてしまったのか彼女の体はバランスを崩し、半分こちらを振り向くような体勢でどしゃりと地面に尻餅をついた。



「イルマ、お前……」



 イルマの顔を見てギルバートが息を飲んだ。数瞬遅れて私も言葉を失う。

 ――イルマの口元には血がついていた。口元だけでなく、彼女の右手にもべったりと血の跡が見受けられる。

 血を吐いたのだと、すぐさま理解した。

 体調不良だろうか。けれどただの風邪で血を吐くなんてありえない。体のどこかが悪いのか。そんな体で魔法を使って、更に悪くしてしまうのでは――



「なぁに、その目。あたしのこと、憐れんでるワケ?」



 血が滲んだ口元を歪に持ち上げるイルマ。

 私もギルバートも何も言えなかった。



「そんな目で見ないでよ。あんたはあたしと同じでしょ。憐れまれる側の人間でしょ。なに一人だけ“そっち側”にいるつもりになってんの?」



 イルマの瞳には私の姿は映っていないようで、ただ一心不乱にギルバートを見つめていた。

 ――きっと彼女とギルバートは“同じ子ども”だった。レジスタンスの親の元に生まれて、逃げ出すことすら許されなかった二人。けれど今、ギルバートとイルマが立っている場所は決定的に違う。

 私の位置からではギルバートの背中しか見えないため、彼がどんな表情でイルマを見ているのか分からなかった。けれど、



「イルマ……」



 彼女の名前を呼んだギルバートの声は、悲痛な響きを含んでいて。

 ――瞬間、イルマはカッと瞳を見開いた。



「そんな目で見るなぁ!」



 イルマを中心に現れた大きな魔方陣。見えない力で私は魔方陣の外に突き飛ばされ、目前で大きな爆発が起きた。



「ギルバート! イルマ!」



 煙が邪魔をして二人の姿が見えない。私はすぐ近くの柱に身を隠しつつじっと目を凝らした。

 ゆっくりと煙が引いていく。徐々に二つの人影が見えてくる。――と、蹲っていた人影がゆらりと立ち上がった。



「残念でしたぁ! フォイセ様の許に行けるのは救世主サマだけ! あんたはあたしが、ここで殺す!」



 イルマはそう高らかに宣言したかと思うと、ギルバートに向かって目にもとまらぬ速さで突っ込んだ。



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