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58:ポルタリア王からの褒賞



「マリアちゃんに、ポルタリア王から褒章が授与されることになったの」



 放課後、ブレンダさんにギルバートと二人で呼び出されたかと思うと、驚きの事実を告げられた。

 ――ポルタリア王からの褒章? 私に? どうして? アバドの件で?

 驚きのあまりすっかり固まってしまった私に、ブレンダさんは苦笑を浮かべて続ける。



「アバド討伐において、マリアちゃんの功績はあまりにも大きいからね。自分の身を危険に晒しながらも、見事この世界の悪夢を断ち切ったとして、ポルタリア王直々に褒章を授けたい、と……」



 なるほど確かに、世界中の人々に恐怖と絶望を与えていた化物を“討伐”したと考えると、王様から直々に褒章を授かるのはおかしな話ではないかもしれない。しかしそれに対して私は恐縮するよりも先に、この先に待ち受けているかもしれない“もっと恐ろしいできごと”を想像してしまい、ぶるっと身を震わせた。

 ――ポルタリア王からの授与式。そんなの、王の暗殺を目論むレジスタンスにとって絶好の機会チャンスではないか!



「い、いつですか?」


「今月は魔力考査が控えているし……まだ詳細な日程は決まっていないけれど、再来月――ロイダの月あたりになると思う」



 やばい。今月の魔力考査もすっかり忘れていた。実技試験はともかく、筆記試験の勉強は最低限しておきたいが、そんなことを言っている暇はないかもしれない。

 私の斜め後ろに控えていたギルバートの様子をばれないように窺う。しかし彼はいつも通りの無表情で、眉すらぴくりとも動かさず、じっとブレンダさんを見つめていた。

 何を考えているのだろう。この後、どうやってレジスタンスに報告するべきか思考を巡らせているのだろうか――



「ポルタリア王直々にということは、姿を御現しになるんでしょうか」



 突然、ギルバートが動いた。明らかに当日の様子を探る問いかけに、私はぎょっとしつつも口を挟めないでいた。だって、どうやって問いかけを遮ればいい? 彼がレジスタンスだと知らなければ別段おかしな質問ではないし、ここで下手を打てば私がレジスタンス側に怪しまれる。



「それは、もちろん」


「出席者は? マリアだけですか?」


「マリアちゃんの功績を皆の前で讃えるために盛大に! ……といきたかったところだけど、今回はかなり特殊な授与で、大々的に世間に知らせることはしないみたいだから、多分学校内での授与になると思う。だから出席するのは一部の貴族と学院の生徒ぐらいかな」



 私が何もできずまごついている内に、ギルバートはどんどん情報を聞き出していく。

 ポルタリア王は姿を現す。授与式は大々的なものではなく、学院内で行う。出席者は一部の貴族と学院の生徒――

 聞けば聞くほど、レジスタンスにとって都合のいい授与式のように思えてならない。いや、多くの人が参加した授与式の方が混乱に乗じてことを運びやすかったり? それとももっと参加者は少ない方がいい? クーデターを起こそうと思ったことなんて人生で一度もないから、何が良くて何が悪いのか、全く分からなかった。

 ただただ焦りが募っていく。もしレジスタンスがこの授与式で動くようなことがあれば、私は――



「マリアの保護者は出席を許されるんですか」



 ギルバートの“一歩踏み込んだ”問いかけに、私は思わず彼を見上げた。

 私の保護者。それはつまり、レジスタンスのリーダー的存在であるローブおじさんことフォイセさんのことだろう。ギルバートは首謀者を学院内に招き入れようとしているのだ。

 心臓が嫌な音を立てる。耳鳴りがする。ギルバートはこちらを見ない。ブレンダさんはそっと笑って、そして。



「それは私たちの方から掛け合うよ。親御さんは当然、我が子の晴れ舞台を見たいだろうからね」



 ――ポルタリア王の前に、反逆者を招くと約束してしまった。



(どうしよう、レジスタンスは動くつもりだ)



 この後、ギルバートは報告を上げるだろう。そこで今回は実行を見送る指示が出される可能性もあるが、間違いなく検討されるはずだ。――マリア・カーガの授与式が、クーデターを起こす場に相応しいかどうか。

 どうしよう。どうすればいい。学院側に告発するにしても、レジスタンス側の動きをある程度把握してからの方がいいだろうか? それとも明日にも言ってしまおうか? ギルバートの目を盗んで、それで――

 瞬間、くらりと眩暈に襲われた。傾いた体を支えるためどこかに捕まろうと伸ばした手は、結果としてすぐ近くのデスクの上にあった書類を豪快に散らばらせ、ひらひらと宙に舞う書類を「やってしまった」と見つめつつ、私は咄嗟にしゃがみ込む。そうすることで倒れることは回避できたのだが、



「マリアちゃん、大丈夫!?」



 頭上でブレンダさんが慌てたように叫び、私の肩にそっと触れた。その指先が冷たい。――違う、私の体が熱い。

 しゃがみ込んだまま自分の額に手をあてる。――明らかに熱い。いつの間にか熱が出ていたようだ。

 じっと頭を動かさず大人しくしていると、眩暈はだんだんおさまってきた。おそらく熱は出だしたところで、これから上がっていきそうな予感がする。今日は安静にして、さっさと寝てしまった方がいいだろう。



「すみません、ちょっと熱っぽくて……」



 心配させてしまったことに謝罪してゆっくり立ち上がれば、下からふわりと体が持ち上げられるような感覚があった。浮いている訳ではないのだが、見えない何かに体重を半分以上支えてもらっているようで、立っているのも先ほどと比べてずっと楽だ。



「疲れが出たのかもしれない! 早く休んだ方がいいよ」



 今日はありがとう、とブレンダさんはおざなりに微笑んで、私を帰らせた。

 寮部屋までの道中、どんどん息が上がっていく。体がだるい。明らかに熱が上がってきている。ブレンダさんの言う通り、ここ数週間の心身の疲労が一気に出たのかもしれない。

 先ほどまであれほど気になっていたギルバートの様子も、熱のせいで全く見ることができなくなってしまった。今この時も、彼は今回のことをどうレジスタンスに伝えるか、思案しているかもしれないのに――

 足元がふらつく。瞬間、私の体を支えていた“何か”の力が強くなる。このときの私はもはや体重のほとんどを“何か”に預けていて、自分で歩いているというより運ばれていると言った方が正しいぐらいで。

 この“何か”の正体がギルバートの魔法だと気づいていつつも、お礼を言う余裕すらこのときの私にはなかった。



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