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27:アバドの正体?



 魔力考査までの時間は無情にもあっという間に過ぎていき――たった今、終了のチャイムが鳴った。

 ちなみに今回のテストは実技と筆記に分かれているが、当然ながら私は実技テストは免除になった。代わりのレポート提出もない分、筆記テストに全てがかかっている訳で――



(応用が全くできなかった……)



 魔術の基礎知識は必死に勉強した。魔法同士の相性だとか、この魔法陣はどういった魔法のものかだとか、そういった本当に基礎的な問題は教科書を丸暗記レベルで詰め込んだので自信がある。しかし少しでも応用的な要素が入ると途端に分からなくなってしまう。

 幸い記述問題は少なく、選択式がほとんどだったため、あとはもう自分の運を信じるしかない。



「マリアー、生きてるかー?」


「二つの意味でしんだ……」



 机に伏せっていたら、ルシアンくんが声をかけてきた。それに答えた自分の声が思っていたよりも低く、自分で自分にびっくりする。



「大丈夫だって、セシリアさんにも見てもらったんだろ?」


「あぁああ……夜遅くまで付き合ってくれたセシリーに申し訳ない……」



 ルシアンくんの言う通り、学年主席のセシリーに夜遅くまで付き合ってもらったのだ。マリアちゃんは応用が少し苦手だね、と赤ばかりの回答を見て若干驚いていた彼女の表情が忘れられない。

 セシリーは例年の出題傾向を抑えたお手製の問題集まで作ってくれたのに。あぁ、優しいルームメイトに合わせる顔がない。



「補修はあるけど落第はないから。安心しなって」


「うぅ……」



 ルシアンくんの言葉にほっとしてしまう自分が恨めしい。



「テストが終わればすぐ夏期休みだから、あと一踏ん張りだ」


「うん……」



 そう! テストが終われば夏休みだ。とは言っても予定としてはギルバートと一緒にレジスタンスに帰るだけで、何も楽しい予定は入っていないのだが。

 それでも長期休み、という響きに浮かれてしまうのは学生の本能みたいなものだ。

 終わったことをいつまでも引きずっていても仕方ない。しっかりと反省、復習をして、次に備えよう。補修は免れないだろうから、その予定もきっちり立てておかないと。

 ――なんて気持ちを入れ替え、荷物をまとめていたそのときだった。

 第五生徒の教室のドアが勢いよく開く。一体誰だ、とギルバートとルシアンくんが警戒態勢を取り――入口に立っていた人物に全員目を丸くした。

 そこにいたのは、肩で息をするブロンド髪の高貴な少女――リオノーラさんだった。



「マリアさん!」



 彼女は私の名前を呼ぶ。私は反射的に駆け寄る。そのとき彼女の後ろにモニカさんがいることに気が付いた。



「リ、リオノーラさん!? それにモニカさんも!」


「ここにいらしたのね」



 リオノーラさんの口ぶりからして、どうやら私を探していたようだ。

 一体何があったのだろう。ここまで慌てているのを見るに、緊急事態のはずだ。まさか、私の嘘が叔母様にばれたとか――

 顔から血の気が引いていくのを感じながら、私はリオノーラさんに恐る恐る問いかける。



「すみません、探されてました? あの、一体何が……?」



 リオノーラさんは上がった息を整えるために数度深呼吸をする。そして、私の目を真正面からじっと見つめた。

 蜂蜜色の瞳と数秒見つめ合う。やがてゆっくりと、リオノーラさんは口を開いた。



「――叔母様が、アバドに襲われました」



 彼女の口から発された言葉の意味を、私はしばらく理解できなかった。



 ***



 リオノーラさん――ではなく、彼女の兄・ウィルフレッド先輩に連れられて、私はその日の夜、叔母様のお屋敷にお邪魔した。赤の他人がこんな緊急時に、と遠慮したが、どうやら私を連れてきて欲しいと叔母様が望んだらしい。

 そう聞かされて、私は違和感を覚えた。私を召喚したローブおじさんから聞いた話では、アバドに襲われた人々は皆命を落としていたはずだ。だからこそ私はアバドに襲われたのに生きている貴重なサンプルとして学院に裏口入学できたのだから。

 しかし叔母様はアバドに襲われたものの、そこまで大きな怪我を負っていないらしかった。奇跡かそれとも必然か、どちらにせよそれは喜ぶべきことだ。



「マリアさん、来てくださったのね」



 部屋に入るなり、叔母様は笑顔で私を出迎えてくれる。私は連れてきてくれたウィルフレッド先輩を一度振り返り、彼が頷いたのを見てからベッドに駆け寄った。



「叔母様、アバドに襲われたって、ご無事なんですか!?」



 叔母様は優しく頷いて私の手を取った。

 生きてる。温かい。よかった――

 突然すぎる報告に叔母様がアバドに襲われたという実感が今の今まで湧いておらず、不思議な話だが元気そうな彼女の姿を見てようやく状況を飲み込むことができた。それと同時に、どっと押し寄せた安堵感からじわりと涙が目尻に浮かぶ。



「幸い命に別状はないわ。……魔力の多くは失ってしまったけれど」



 魔力は失ったが命までは奪われていない。それは“マリア・カーガ”が置かれている状況と酷似していた。

 アバドの狙いは魔力なのだろうか。いや、そもそもアバドに狙いはあるのだろうか。私のイメージの中では話の通じない化物の姿をしているアバドだが、実際はどんな姿をしているのだろう。

 脳裏を過った疑問は、しかし叔母様の無事を確かめることに比べれば些細なことだ。私は彼女の手を握り返した。



「よかった……」


「心配をかけてごめんなさいね。それと、こんな遅くに私の希望できてもらって……」



 いいえ、と首を振る。それと同時に叔母様はなぜ私を呼んだのだろう、という疑問が私の中でむくむくと首を擡げ始めた。

 叔母様はお優しく、思いやりのある方だ。なんの用事もないのにこんな遅くに屋敷まで来て欲しいなんて言うとは考えにくい。――つまり叔母様が私を呼んだのには、今すぐに私に伝えなければならないと彼女が判断するに至った“何か”がある。

 それを聞くのは恐ろしかったが、私は恐る恐る問いかけた。



「あの、どうして私を呼んだんですか……?」



 叔母様は私の問いかけに俯いた。それから何かを躊躇うようにあたりに視線を泳がせる。

 意を決したようにバッと顔を上げる叔母様。そして口を開く――が、言葉にならず、彼女は口をぱくぱくさせるだけだ。そして再び俯き、考え込んでしまう。



(一体何を言おうとしてるの……?)



 その様子からして、かなり深刻な話なのだろう、と安易に想像が付いた。それだけに急かすなんて真似はしたくなくて、私は口を開かずじっと待つ。

 おそらくは、だが、ユーリの話なのだろうという察しはついている。叔母様と私を繋ぐ存在はユーリしかない。ユーリの安否が分かったのだろうか。もしかして、彼女は既にアバドに襲われて――

 叔母様の言葉を待つ時間は、まるで永遠のように感じられた。

 口を開いては、閉じる。そして俯き、考え込む。それを何度か繰り返し――とうとう、叔母様の声が私の鼓膜を揺らした。



「マリアさん、どうか気を強く持ってね。いえ、そもそも私の見間違いという可能性もあるのだけれど……むしろ、そうであって欲しいわ」



 言ってしまえば回りくどい前置きに、私は頷いて応える。そしてじっと次の言葉を待つ。



「貴女に伝えるか、迷ったの。でも貴女には知る権利があるわ。知らなければならないと思うの。でも、これは正しい選択なのかしら。貴女を傷つけてしまうかもしれない――あぁ、ごめんなさい、混乱していて……」



 叔母様は早口で捲し立てる。本人の言葉通り、ひどく混乱している様子だった。

 私は彼女を落ち着かせるためにもぎゅっと繋いだ手を強く握る。そうすれば叔母様ははっと私を見つめて――数秒見つめ合った後、彼女は深く息を吐いた。

 そしてゆっくりと、叔母様の美しい唇が動き出す。



「マリアさん。アバドの正体は――ユーリかもしれないわ」



 ――告げられた事実は全く予想していなかったもので。

 私の脳裏に浮かんだのは、叔母様に見せてもらった、幸せそうに笑う黒髪の少女の写真だった。



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