銀河のカナタ
ボクたちが星を出てからしばらく経った。ルドロフィが言うに、ボクたちが巻き込まれたあのブラックホールのようなものはいわゆる時空を結ぶゲートのようなもので何億光年も離れたこの星とCN-1131を近づける目的もあったんだとか。けれど、そんな僅かな距離でさえ、今の支配されたアークの状態では時間がかかるようだった。
ウキウキとした様子でアークを操縦しているルドロフィだが、それに対するアークは今のところ支配が解けそうな気配はない。あと小一時間ほどでゲートには着いてしまう。しかし、動力室のメインエンジンにはアークアの魂の一片が入っている。この船の一番の動力であり、頭脳であり、AIの元だ。そんなアークが、ルドロフィなんかに負けるはずがない。唯一のボクの理解者だった、双子の妹、アークア。…絶対に、取り戻してやる。
「…ルドロフィ。お前にとっては今更な質問かもしれないけど…ボクが来世にもなってわざわざ復讐なんかしてどうするんだよ。憎いヤツはみんな、ヴィランが最初に消し飛ばしてるはずだろ…」
「そうなんだよネェ。ダカラボク悩んでて。ボクを追い出した、憎い星ごとまるっと消しちゃうか、ソレトモ___」
そこまで言いかけると、ルドロフィはぐるっとボクの方を振り返り、ニマリと笑った。
「なんだよ…」
「キミに選ばせるか」
「な…っ!……だから!ボクは憎い相手なんか…!復讐なんて…!!」
「いるハズダヨ?ヴィランが都市のヤツらを消し飛ばしたアノ後、キミは隣国へと逃げ延びた。ケレド、ソコでも、ソノ次の国でもキミは軽蔑され、仕事も、家も、家族も。全てを失ったキミは地下の基地に隠してあったアークをコッソリ連れ出して、星を出た。本当は憎いんじゃナイノ?アイツらが___」
「やめろ!ボクは…。ボクは自分の意思で星を出たんだ。あの国の人たちも…星のみんなも…関係ない…!!」
「じゃあキミの手の中のソレはナンダイ?」
ルドロフィに言われボクは掌を見ると、そこには先程ルドロフィがアークに流し込んだのと似たような電流がバチバチと掌から指先にかけて流れていた。
「……!!」
「もうキミは魔物ナンダヨ。我慢しないで、全部ぶつけようヨ。ボクと一緒に…」
「ウァァァァッ!!!!」
静かに歩み寄ってきたルドロフィは優しくボクを撫でるようにして触れると、頭の中から「理性」の二文字が抜き取られていくような感じがした。怒りのようで、反対にひどく冷静な感情がフツフツと湧き出してくる。
「……アーク…」
「ナニモ考えなくていいんダヨ。キミは、タダの魔物ダ。理性も、感情もナイ。ホラ、もう眠っちゃえ」
「…う…」
「__ワ。…ーク、……ガ、タスケル___」
「(…誰…。眠い…。アークを……頼んだ…)」
ボクは猛烈な眠気に襲われ、頭に響いた最後のその覚えのある声を聞き終わる前に深い眠りに着いてしまった。
深い眠りから覚めると、ボクは知らない場所にいた。夢で見た、雲の上のようなところでもなく、MHRA-224でもなく。そこは銀河の片隅のような、黒く、無機質な空間だった。
「…うぅ…」
ボクは強烈な眠気を振り払いながら、身体をゆっくりと起こした。すると、頭の中に再び先ほどの声が響いた。
「シナロワ。アーク、オレガタスケル。マモノ、シナロワニマカセタ」
低く響くその声と、ボクの目に飛び込んできたその姿は、ボクが星を追い出される直前に消滅したはずの、ヴィランの姿だった。