故郷のホシへ
地に手をつき、腰を抜かしていたはずのルドロフィは突如声を上げると、羽の隙間から何やら錠剤を取り出し、ゴクリと飲み込む。
「グゥッ…!!…アァッ…。ウァァァァッ!!!」
「一体何を!?」
「気をつけてください。ルドロフィは魔物化の薬を服用したようです」
「そんなものをどうして自分に…!」
「フフ…フフフフフ…フハハハハハ!!!!ボクはッ!ボクは今マデナニも見えていなかったんダネ…。ソウカ、分かったヨ…。ボクが…コノ全てを尽くして…。イノチも、カラダも…支配してアゲルヨォ!!」
「全てを尽くす」そう言った彼の身体は見る見る内に変貌していき、遂には悪魔の化身のような、悍ましい姿になってしまった。
「…!お前…何するつもりだ…!」
「モウキミに用はナイヨ」
ルドロフィはそう一蹴すると、ボクの首根っこを掴んでアークの鍵穴に直接ルドロフィの触覚を入れ込んだ。そして、今まで見たこともないような電光をアークに流し込む。
「アークーーーーッ!!!!!」
電光が流れた刹那、今まで一時も途切れることのなかったアークの通信は途切れ、ボクは操舵室の端の壁に投げ捨てられた。
「グアァッ……!…ッ。アーク…」
アークに何が起きたのか分からず、真っ暗な部屋の中ボクは悲しさや苛立ちを覚えていた。いくら頭の中で問いかけても何の返答も帰ってこない。ただ、まっさらな虚無の空気と無機質な空間だけが広がっているのだった。その時だった。突然、緊急用のブザーが鳴ったかと思えば、アークは突如離陸体制に入った。
「なんだ…!?何がどうなってる…!?」
「メインエンジン、点火。離陸準備、完了___マスターから信号が送られ次第、離陸します…」
「ヤッタゾ!成功ダ!」
「…!」
アークの離陸の合図と、ルドロフィの喜ぶ声にボクは顔を上げると、アークが船体を動かす光景があった。一体…なぜアークがルドロフィの言うことを…?ボクが疑問を抱いていると、頭の隅の方で小さくアークの声が響く。
「助けて…。シナロワ……」
ボクはその声にハッとし、痛む身体を無理矢理起こした。ボクの頭に小さく響くアークの声とは対照的に部屋に響き渡るルドロフィの甲高い笑い声。
「ルドロフィ…!やめろ…!!アークが…アークが苦しんでいるのが分からないのか!!」
「エー?分からないナァ。ボクはモニターでしかコイツの情報は得られないからナァ。マァトリアエズ。せっかく言うコト聞いてくれるようになったんだし、早速CN-1131に向かうことにするヨォ!」
ルドロフィは楽しげにそう答えると、操縦桿を強く引き、MHRA-224を飛び立った。
ボクたちが星を出てからしばらく経った。ルドロフィが言うに、ボクたちが巻き込まれたあのブラックホールのようなものはいわゆる時空を結ぶゲートのようなもので何億光年も離れたこの星とCN-1131を近づける目的もあったんだとか。けれど、そんな僅かな距離でさえ、今の支配されたアークの状態では時間がかかるようだった。