ハンギャクには鉄槌を
ルドロフィは迫ったボクを壁に押し返すと、どこから取り出したのか、以前とはまた別の液体が入った注射器をボクの首筋に近づけた。
「させねぇよッ…!」
しかし、その時の薬のお陰で力を手に入れたボクは、ルドロフィを押し返し、注射器を跳ね除ける。
「…イイノカナァ。ソンナ身勝手な行動取って…。コイツがどうなってもいいのカイ?」
そう言ってルドロフィは奥にあった担架を引っ張り出すと、その上に被さっていた布を取った。すると、その中に横たわっていたのはアークの元となったボクの妹、「アークア」がいた。
「アークア…!なんで…。コイツは…アークの心臓部にいるはず…。アークが守ってるはずなのに…!」
「アッサリ入れたケドナァ?アンナザル警備じゃ、ボクには敵わないヨ」
「テメェ…ッ!!」
「オット!コノ子がどうなっても良いのカイ?コノ子をブジに返して欲しいのナラ、キミはボクの言うことを大人しく気くコトダネ」
ルドロフィは目を細めてニマリと笑うと、ボクの首筋に注射針を刺し、少しずつ薬を注入していく。すると、段々と意識が朦朧としていき、遂にはボクは気を失ってしまった。
「___ロワ。…シナロワ!」
「…うぅん…。ここは…?」
ボクはやっとのことで目を覚ますと、そこは雲の上のような、ふわふわとした不思議な空間だった。
「ボク…死んだのか……?」
「バカ!シナロワがそんな簡単に死ぬわけないでしょ!」
「…えっ!?お前…アークア!?なんで…お前が…」
「シナロワが大変そうだったからわざわざ励ましに来たんじゃない。感謝してよね」
「えっ…。どういう…」
「詳しいことは話せないの。とにかく、シナロワは私のことなんか気にしないで、ルドロフィを止めて。アイツは本気でシナロワを…CN-1131を消滅させようとしてる。それを止められるのはシナロワしかいないの!だからお願い。私の、最後のわがまま…」
「アークア!待って!!」
「お兄ちゃん…みんなを、お母さんを、よろしくね…」
アークアはそれだけ言い残すと、光の粒となって消えていった。
それから気がつくと、ボクはアークの操舵室にいた。ボクの身体の原型のほとんどは失われ、頭からは怪獣のような鋭く曲がった角が二本生えている。そして、船内にはボクが放ったと思われる無数の光線の跡と、傷だらけのモニターや壁があった。多分、理性を失って魔物化したボクがルドロフィに命令されてやったことなんだろう。
「(…なんなんだ…コレ…。う…。言葉もまともに話せないのか…)」
身体だけが完全に魔物と化してしまったボクは上手く動かせない口や身体にまどろっこしさを感じながらも、アークに現況を伝えた。
「アハハハハハハ!!!コレでボクが最強ダ!コノ世界は、コノボクのモノダァァ!!」
アークの操縦桿を握ったルドロフィは高らかにそう宣言すると、アークの操縦桿を強く引く。しかし___
「私はシナロワの宇宙船です。シナロワの操縦、又は、シナロワが命じた人物でない場合には動きません」
「…ナ…ッ…ンダト…!?」
ボクが手を出すまでもなさそうだ。
「小癪ナ…!ソレナラバ…コレでドウダ!」
ルドロフィは閃光をナイフのように尖らせ、気絶したフリをしているボクの胸に突き立てた。
「コイツが!コイツがどうなってもイイノカ…!死んで欲しくないダロウ?オマエの主人を救うタメにも、ボクの言うコトを___」
「いちいち姑息なんだよ。オマエは」
突き立てられた閃光のナイフをそのまま突き立てられた胸でルドロフィを押し寄せるようにして吸い取ると、目の前に迫ったルドロフィの瞳を睨みつけ、床に放るようにして離した。そして、当のルドロフィは、ボクが死んでいると思い込んでいたのか、放られてもなお、腰を抜かして震えていた。
「…フンッ。よし。そろそろ出航の準備も整って来た頃だし、支度が整い次第出航するか!」
「了解です」
「マダダ…。マダ…オワラサナイヨォォッ!!」