魔物はマモノ
やっと自分の好きなように過ごせるようになったから気分が良いのか、ルドロフィは調子良くペラペラ話すようになった。
「なぁ、とりあえず早く直してくれよ。ボク、端末ないと本当に何も出来ないし。いいの?ルドロフィのご飯だけ消費する居候になっても」
「エッ…。コマリマス…」
「じゃあ早く直して?」
「ハイ…」
端末を直してもらったボクは、それからというもの、部屋に篭ってチップの解析に勤しむことが増えた。しかし、以前と一つ違うのは魔物化した影響なのか、頭の回転スピードが早くなり、ロックの解除も段違いに早くなったことだった。
「アノ…シナロワサン…」
ロックの解除も一通り進み、あともう一息というところまで進んだところでルドロフィが申し訳なさそうに部屋にそっと顔を出した。
「ん?どうしたの?」
「…シナロワサンは…ソノチップはワタシが作ったのをゴゾンジデスヨネ…?ナゼ、ワタシにカイジョを押し付けないのデス…?」
「あぁ。そんなの、簡単な理由だよ。ボクがこの自分の手でアークを助けたいからだ。そりゃあお前が協力してくれるって言うなら、なおさら助かるけどな」
「シナロワサン…」
「それと。お前いい加減敬語やめろよ。ボクの事魔物化させようとした時、堂々と見下すようにタメで話してたじゃんか。流石に見下されるのは嫌だけど、全然タメで話してよ」
「エッ…!?ソレ…ナニカのウラミだったりシマセンカ!?コノアトワタシ、校舎裏に呼び出されてボコられる…!?」
「何の恨みもないし、ボコらない。そもそも校舎裏とかねぇだろ…。だから、いいよ。タメで。それに、読み手側の都合上、その方が助かるしな」
「…ウン、ワカッタヨ!テカ…メタいヨ…シナロワ…」
そして、ボクたちは共にチップの解読を進めることとなった。
その翌朝。遂に解読が完了し、この手のウイルスの解除、兼、排除ができるチップが完成した。ボクたちは操舵室に向かい、チップを改めてアークに入力するとアークはやっとのことで深い眠りから目覚めた。
「おはよう、アーク。だいぶ寝坊したな」
「…シナロワ?その姿は…」
「あぁ…。まぁ色々あったんだ」
「…解析した所、魔物を上回る知能、身体能力、精神力、エネルギーの分泌量があります」
「相変わらず仕事早いな…」
アークは淡々とそう述べると、モニターにボクの身体の解析情報を次々と映し出した。そこには、身体中を流れる不思議な力のことやそれによって作り出せる、光の玉や光線のこと、羽根のことも書いてあった。
「そして、可能性と致しましては___」
「アッ…!アークサンッ!?ヨロシケレバお茶…デハナク、オイルでもイカガデス!?」
「私の給油は動力室でシナロワが既に行ってくれていますので、お気持ちだけ受け取っておきます」
「ナッ…!」
「続けます。シナロワの身体には___」
「ソーウダァ!シナロワ!ミセタイモノがアルンダ!!コッチ!ボクの基地にキテヨォ!!」
「おっ…おう…。あ、アーク、それに関しては端末に送っておいてくれ」
「はい」
「……ッ」
基地に着くと、久しぶりのその景色はだいぶ研究室らしく変わり果てており、ボクの知っているルドロフィの「基地」とは程遠くなっていた。
「だいぶ研究に没頭してたんだね」
「…キニナルモノがアッテネ。デモ、モウ研究は終わったカライインダ」
「因みに、なんの研究?」
「…魔物の、ダヨ」
ルドロフィは一瞬戸惑ったような表情をしたが、すぐにいつもの笑顔でボクに答えた。そして、机や棚の研究道具を片付けていった。
その晩。ボクはベッドに寝転がりながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。この星の景色はどこまでも無機質で、唯一綺麗だと思えるのが空だけだ。ボクはそんな空を眺めながら、とあることを考えていた。
あの時。あの事件以来、ルドロフィはボクのことをどう考えているのか。ボク自身だって未だによくわからない。ルドロフィのこと。彼の本性がどこにあるのか、彼が「魔物化」したボクのことを恐れて従っているのか。それとも、全部フリなのか。一人で考えていたって答えが出てこないのは分かっているけど、アークは起きたばかりであの時だってウイルスの影響で何も情報は入ってない。今考えられるのはボクしかいない___
「ルドロフィの解析が完了しました」
「うぉぉっ!?ビックリしたぁ…なんだよ、今の…盗み聞きしてたのか…?」
「頭脳が一体化している以上、盗み聞きも何もありません。あなたが考えてることは私にも自然と伝わってきます。しかし、そう設計したのはシナロワです」
「うっ…うっせぇ。で?ルドロフィの解析終わったって?」
「はい。彼は経歴、種族、共に偽っています。全てが偽りの塊です」
そう言ってアークがボクの端末に映し出してきたデータは全て信じられないものばかりだった。
「嘘…だろ……?」