今日も俺はギャル風幼馴染彼女を支えてる
「短い小説大賞」に向けて書いてみました。
教室で多くの友人達に囲まれ、笑顔で会話をしている女子生徒がいる。
やや服を着崩していて、一見すれば遊んでいそうなギャル風の見た目だけど、彼女の周囲にはそういった類の友人達だけでなく、真面目そうな人や暗そうな人もいて、男女問わず誰もが笑みを浮かべて会話している。
「今日も川岸は囲まれてんな。俺もあれぐらい、人気者になりたいもんだぜ。なあ佑人」
「お前が囲まれたいのは、女子限定だろ」
話しかけられた俺、十六夜祐は中学からの友人である山田の発言の真意を汲み取り、呆れた表情で返す。
「ったりまえだろ。誰が好き好んで、男に囲まれたがるか!」
こいつはこういう奴だ。自身の欲望を隠しもせず、どうせ囲まれるのなら密着されて色々押し付けられたいとおおっぴらに言うものだから、教室内の女子達からは冷たい視線が向けられているっていうのに。
すると、友人達に囲まれて喋っていたギャル風の女子生徒が席を立ち、こっちへ歩み寄ってきた。
「ちょっと山田! 人の彼氏に変なこと吹き込まないでよ! そのせいでゆー君が歪んだ性癖の持ち主になったら、屋上から紐無しバンジージャンプして責任取ってもらうからねっ!」
腰に手を当てて勇ましく恐ろしいことを口にする、さっきまでクラスメイトに囲まれていた川岸梓。
今の発言が物語るように、こいつは俺の彼女だ。
「どんな責任の取り方だよ!? 紐無しバンジーって、それただの飛び降りじゃねぇか! 死んで詫びろってか!?」
「遠回しにそう言ってるのが分かんないの?」
「中学からの友人にひでぇっ!」
「私、ゆー君に馬鹿なことを吹き込む奴には容赦も遠慮もしないし、情けもかけないの」
腕を組んでそっぽを向く梓は、怒り心頭という様子。
これでもう決着はついた。そもそもクラスで人気者の梓と女子を敵に回しやすい山田じゃ、勝負になるはずがない。
「うおぉぉっ! 佑人、お前の彼女がひでぇよ!」
そんなこと言われても、今のはお前のアホ発言が悪い。
「梓はこれっぽっちも悪くない。梓の全面勝訴で山田の全面敗訴、控訴は棄却させてもらう」
「うおぉぉっ! 不当判決だぁぁぁぁっ!」
そう叫んで山田はどこかへ行ってしまった。
数分後には次の授業が始まるのに、どこへ行く気なんだ。
「やったー! さすがはゆー君! お礼にハグしてあげる、ギューッ!」
さっき山田が望んだように抱き着かれて色々押し付けられ、なんか良い香りがして、教室内からは冷やかしの声が上がる。
真面目で堅物そうな委員長ですら、やれやれって感じで苦笑しているくらい、梓のこうした行動はクラス内で許容されている。
これも梓の人徳あってこそだけど、抱き着かれている俺は気づいた。
しっかりと回された腕が微かに震えていることに。
「次は昼休みだ、なんとか頑張れ」
抱き着かれたことで近くにある耳へ、周囲へ聞こえないよう囁く。
「分かった……」
さっきまで陽気に喋っていたとは思えないほど、弱々しくて震えた声での返事。
周りは気づいていないようだけど、確実に限界が近い。次の昼休みで発散させないと。
「はい、席に着いてくだ……何やってるんですかっ、十六夜君、川岸さん! 年齢イコール彼氏いない歴の私に対する、当てつけですか!」
チャイムと同時に現れた若い女性教師がひがんでる。そんな事情は知らんがな。
なお、授業に遅刻した山田は授業後に職員室へ呼び出された。
昼休みが削られると、落ち込んだ様子で女性教師の後に続く山田を見送った後、弁当を手に梓の下へ向かう。
「梓、いつものとこ行くぞ」
「ん、分かった」
俺と梓は昼休みを二人きりで過ごす。
付き合っているから別に不思議じゃないけど、普段通りに見える梓の笑みは口元が僅かに引きつっている。
これは結構限界が近いと判断して梓の手を握り、クラスメイトのからかう声も気にせず教室を出て、いつも二人で昼休みを過ごしている屋上へ繋がる扉がある踊り場へ向かう。
屋上は基本的に立入禁止だから、ここに来る人はまずいないし、下を通る人も滅多にいない。誰にも気づかれず二人きりになるには絶好の場所だ。
そこにある壁に身を隠すようにして座った途端、梓は限界を迎えて爆発した。
「うわーん! ゆーくーん! 私、もういやー! こんなにたくさん人がいるところ、もうやだー! おうち帰るー!」
涙目になって抱き着いてくる様子は、前の休憩時間のように明るい様子はまったく無く、いっぱいいっぱいな精神状態が限界を迎えたかのように泣いて震えている。
だけど、これが本当の梓の姿だ。
力強く抱き着いてくるから柔らかいものが当たっているのは気になるけど、今はそれどころじゃない。
「大丈夫、大丈夫だから」
子供を安心させるようにゆっくりとした口調で優しく囁き、背中をスローテンポで軽く叩いてやる。
「ちゃんと傍にいるから、まずは落ち着こう。なっ?」
「う~」
いくら人が滅多に通らないとはいえ、大声で泣かれたら誰かが来るかもしれないから、そうならないよう努めて冷静に梓を静める。
「ゆー君、もっとギュッてして」
「はいよ」
求められるがまま腕に力を入れて、しっかり抱きかかえる。
当たっている柔らかいとの接地面が増したけど、そっちを気にしている場合じゃないと自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着けながら胸元に顔を埋めてぐずる梓をあやす。
「大丈夫、大丈夫だ。今は俺しかいないから」
「ゆー君……」
こんな姿をクラスメイトが見たら、どんな反応をするだろうか。
クラスの人気者なギャル風の陽キャが、実は極度の人見知りでコミュ障なのを必死に隠して、明るく振る舞って見せているだけだなんて。
「……ゆー君。もう大丈夫、緩めて」
「分かった」
望まれるがまま腕の力を抜くと、梓はまだ涙が薄っすら残っている顔を胸元から離した。
「いつもごめんね。なんとか克服しようと頑張ってるんだけど……」
しゅんと落ち込む姿からは、陽キャというクラス内における印象は全く無く、むしろ陰キャと言われてもおかしくないほど暗い。
「気にするなって。梓が頑張ってるのは、いつも傍で見てるから」
梓が人見知りでコミュ障なのは、今に始まったことじゃない。
マンションの部屋が隣同士で同い年ということもあって、赤ん坊の頃から家族ぐるみで交流しているんだけど、人見知りが激しくて他の子達と上手く話せたり遊んだりできず、その度に俺がフォローしてきた。
赤ん坊の頃からの付き合いとあってか、俺や俺の家族とは問題無く交流できるんだけど、他の人に対してはどうしても駄目なんだ。
「だけど無理はするなよ。駄目なら駄目でいいんだから」
本人がどれだけ頑張っても、頑張り過ぎて無理をした挙句に心を病んだら本末転倒だ。
そもそも、学校のように人が多く集まる場所ですら苦手なのに。
「うん。ごめんね、こんなハリボテ陽キャが彼女で」
「謝る必要は無いって。今の本当の梓も、ハリボテだろうが人見知りを克服しようと頑張る梓も、両方含めて好きになったんだから」
俺達が幼馴染から恋人になったのは中学に入ってからだ。
いつまでも人見知りでコミュ障なのが嫌になった梓が、進学を機に自分を変えようと明るく振る舞い、他の人達とも上手くやっていこうとしだした。
でも、表面上はなんとか取り繕っていても、無理をしているのは明らかだった。
幼馴染だからこそ見抜けた些細な変化に気づいて、人気のない場所へ連れて行って気持ちを爆発させたのが、こうした時間の始まりだ。
だけどそれでも梓は諦めず、休み時間は誰かしらと交流を持とうとして、また限界が近くなったら俺が爆発させてやる。そうした奇妙な二人の時間を過ごすうちに、関係は幼馴染から恋人へと変わって現在に至る。
こうして昼休みに爆発させたり、できるだけ一緒にいてやったりする意味でも、関係が変わったのは良い意味での変化だった。
お陰で学校内で今みたいに二人きりになっても、放課後の誘いを断って二人で帰宅しても、周囲からはまったく不自然に思われていない。せいぜい、仲が良いのはいいけどほどほどにしておけと、教師から指摘されるくらいだ。
「私もゆー君大好き。ゆー君がいてくれるから、私は壊れずにいるんだもん」
そうだな。こうして人前から離れて気持ちを爆発させてやらなかったら、どこかで壊れていたかもな。
「壊させないよ、これからもずっと」
「ゆー君がそう言ってくれるから、また頑張れちゃう」
「ほどほどにな」
「もっちろん」
やっと自然な笑みが戻ってきた。
辛そうな様子は消えて、心底安心した様子で胸元に頬ずりされると、つい頭を撫でたくなるから撫でてやったら凄く気持ちよさそうな表情になった。
「にゅふふ~。やっぱりゆー君に撫でられるのは気持ちいいね」
「それはなによりだ」
付き合いだしてから毎日のように撫でてきた日々は伊達じゃない。どれくらいの力加減と速さで、どの辺りを撫でてやるのがいいかはとっくに把握済みだ。
「これはお金を払ってでも、撫でてもらいたくなるね」
「彼女から金なんて取れるか」
「だよね。だから代わりと言ってはなんだけど……、お尻撫でる?」
「……はっ?」
突拍子もないことを言い出すから、一瞬理解が遅れて頭を撫でる手が止まる。
「だから、私のお尻撫でる? なんなら揉んでもいいよ」
「いや、待て待て、なんでそうなる」
「だってゆー君、子供の頃に私が抱き着いた時、毎回どさくさ紛れにお尻ガッシリ触ってたじゃない。むしろ掴んでた? 揉んでた?」
いや確かに触っていたけれども! いつの話をしてるんだよ!
あれは幼いなりのエロ心が働いたというか、なんというか、というか何も言われないから調子に乗って触り続けてたけど気づいてたんかい!
「……ナンノコトカナ?」
「ゆー君、誤魔化すの本当に下手だよね。言葉はカタコトになるし、視線は必ず右斜め上を向くし、眉もピクピク動くし」
はっ、しまった!
「ついでに指がソワソワ動くから、背中がちょっとくすぐったい」
癖あり過ぎだろ俺って奴は。
しかも分かりやすいから、梓でなくとも気づくものばかりだ。
「私の胸の谷間を覗いていた時とか、着替えようと上着をまくり上げてお腹を晒している時に部屋へ入って来ちゃった時とか、靴下を脱ごうとしてスカートの中が見えちゃいそうになった時とかも、そんな風だったよね」
やめてくれ。周りに誰もいないとはいえ、そういう情報は公開しないでくれ。
「ごめんなさい……」
「駄目、許さない。有罪判決で処罰を受けてもらいます。被告人は私を背中から抱いて、お弁当を食べさせるの刑に処します」
なんかお礼の話から、いきなり罰を受けることになった。
でも反論できないから受け入れるしかない。
「……はい」
というわけで、大人しく処罰を受けることにした。
座った状態で梓が背中を預けたらしっかり抱き、梓の弁当を俺が食べさせる。
「ん~、ゆー君が食べさせてくれるだけで三倍美味しいよ」
「それはなによりで。次はどれを御所望かな?」
「ミートボール」
「はいよ」
言われるがままに梓へ食べさせる。
俺はまだ昼を食べてないけど、今は我慢だ我慢。それにこの状態も悪いものじゃない。
だって梓のシャツは上の方のボタンが開いているから、この位置だとほどほどにある胸の谷間が見えるんだもの。
今日の下着は水色か、と思いつつ視線を谷間と弁当の間で行き来させて罰を続ける。いや、これは罰とは言い切れないか、いいものが見れてるし。
「ふう、ご馳走様」
「俺が作ったわけじゃないけど、お粗末さま」
「では続いて、またも私の胸の谷間を覗き込んでいたエッチな彼氏さんへ、新たな罰を与えます。異議は認めません」
気づかれてたー!
だったら何か反応しろよ、何か言えよ!
「そ、それは不当判決じゃないか?」
「今日の私の下着の色は?」
「水い……ごめんなさい」
やられた、というよりやっちまった。
「犯人が自供したので罰を言い渡します。被告人は被害者より、食事をあ~んで食べさせられるの刑に処します」
……いや、それって罰じゃなくね? むしろご褒美ですけど!?
「二秒という期限内に控訴申請がなかったので刑が確定しました。さあゆー君、黙ってお弁当を差し出しなさい、私が食べさせてあげます」
「くっ、そういうことなら仕方ない」
控訴申請の期限が短すぎるのはスルーして、今はこの展開に乗ってやろう。
判決に則って弁当を差し出し、向き合いになって食べさせられる。
うん、こんな判決ならいくら出ても構わない。
そう思いながら食べ進めていき、やがて弁当箱は空になった。
「ごちそうさま」
「私が作ったわけじゃないけど、お粗末さま」
時間を確認すると、昼休み終了までまだ時間はある。
だけど教室に戻ったらまた梓は囲まれるから、ギリギリまでここで二人で過ごす。
特になにかするでもなく、梓の心の平穏のためにただ二人の時間を過ごすだけ。
仮に見つかっても何も変なことはしてないし、立ち入り禁止の屋上へ立ち入ってもいないから無罪判決は確定。せいぜいからかわれるか、見つかったのが教師なら注意されるくらいだろう。
「さて、そろそろ戻らないとね。ゆー君のお陰で、午後も乗り切れそうだよ」
スッキリした表情で体を伸ばす様子からして、本当に大丈夫そうだ。
「それは良かった。放課後はどうする?」
「いつも通り、放課後デートの方向で」
「了解」
ハリボテ陽キャとはいえ、多くの友人ができた梓は放課後によく遊びに行こうと誘われる。
だけど行き先は大抵が人が多い場所ということもあり、それから逃げる口実に放課後デートを利用したことは何度もある。
口実とは言っても、梓が大丈夫な範囲であっちこっち寄ってるから実質デートしてるようなもので、決して嘘じゃない。
「行き先の希望はあるか?」
「通いのネカフェを希望」
「分かった」
梓は割とネカフェが好きだ。
漫画が好きということもあるけど、他にお客がいても壁に囲まれた個室で過ごせる上に、絡まれることもそうそう無く、俺と一緒にペア席に座ることもできるからだ。
そこでやることは飲み放題のドリンクを飲みつつ、二人で気になる動画を見聞きしたり、漫画を読んだり、周囲へ迷惑を掛けない程度にイチャついたり。
ビリヤードやダーツも併設されてるけど、他の人が同じ空間にいる上に万が一にも絡まれたくないと梓が言うから、やったことは無い。
「今日は気になる漫画を読み漁るんだ~」
だったら俺も、読んでいる漫画の最新刊が何冊か出る日だから、取られていなければ読んでおこう。
「すう……はぁ。さて、教室に戻ったら陽キャタイムだからよろしく」
「オッケー」
一つ深呼吸をした梓は、自称ハリボテ陽キャとなって教室へ歩きだし、その後に続く。
自身を変えるためにこうして頑張る姿は、見る人によっては痛々しく見えるかもしれない。
でも幼い頃から梓を知る俺からすれば、贔屓混じりの素人判断だと言われようとも、支えてやりたい努力する姿だ。
だからこそ気持ちの限界による爆発を受け止め、頑張り続ける姿に幼馴染の友情が恋心へと変化した。
例えやり方が間違っていると非難されても、俺はこれでいい。これが俺なりの梓との付き合い方だから。
それに、俺にしか見せない本当の姿がなんだか特別な優越感があって気分が良いし。
「あっ、そうだゆー君。今日の午後からおばさんいなくなるんだよね?」
「ああ、そうだけど」
「だったらおばさんが帰ってくるまで、世話しに通ってあげるよ」
うちは両親共働きで、父親は去年から単身赴任中、母親も一ヶ月の出張で今日の午後から家を空ける。
そういう環境で俺は一人息子だから、ある程度の家事は仕込まれている。
だけど可愛い彼女が通って世話してくれるのを、断れるはずがない。
「分かった。よろしく頼む」
「任せといて。あっ、泊まりはしないからエッチなことは期待しないでね」
「するかっ!」
実はちょっと期待したのは秘密だ。
少し残念に思いつつも教室へ戻ったら、その後は午後の授業を受けて放課後デートでネカフェへ寄って帰宅。
さて、梓が来るのを待とうか。
住んでいるマンションの部屋の前でゆー君と別れて、隣の部屋へ入ったのを見届けたら部屋に入る。
お父さんはまだ帰っきててないし、お母さんも買い物に行っているのか誰もいない。
そのまま自室へ直行したら、外でしているハリボテ陽キャの仮面とは別の仮面を外す。
「……アハッ、今日もゆー君にギューッて出来て良かったなぁ」
他人が怖いのは本当、教室でやってるような陽キャを装うのも本当、そしてそのせいで不安に染まった気持ちをゆー君に抱きついて解消するのも本当。
だけどゆー君に抱きつく理由は、他にもある。
付き合っているんだから当然だけど、ゆー君のことが大好きだから。
大好きなゆー君へ抱きつけるなら、多少の無理をしてでも人見知りとコミュ障を克服するために被る、陽キャの仮面を被るのも頑張れる。
だって本当に大好きなんだもん。この世にはゆー君一人がいればいいくらいに。
「ふっふーん、早く着替えよっと」
クローゼットを開けたら、そこにはこれまでに撮った過去のゆー君がいっぱいの楽園。
ここだけじゃなくて机の引き出しにも、タンスの中にも、ベッドの下にも過去に撮ったゆー君がたくさんいる。
勿論、スマホやタブレットの中にもゆー君との画像は山のようにあるし、最近は余計なものを消せるアプリがあるから、わざわざ塗りつぶす必要は無いのがいいよね。
これだけ好きなゆー君から告白された時は、もう天にも昇る気持ちだったなぁ。
「夕飯は何作ってあげようかな。ゆー君辛いのが好きだから、マーボー豆腐かな? マーボーならナスか春雨でもいいかな?」
初デートをした時に遊園地で撮影してもらった、特にお気に入りの一枚を眺めながら夕飯のメニューを考える。
映り込んだ余計な人達は全部塗りつぶして、私とゆー君の二人だけにしたものはこれだけでなく、まだまだたくさんある。だって、余計な人達が邪魔なんだもん。
本当になんで、世の中にはゆー君以外の余計な人があんなにたくさんいるのかな。
私にはゆー君さえいればいい。弱い私の傍にいつもいてくれて、支えてくれて、好きになってくれたゆー君がいれば、他の人達がどうなろうと全く気しない。
ああでも、私とゆー君を産んで出会わせてくれた両親と、おじさんとおばさんはちょっとだけ気にしてあげるの。
「泊まらないとはいえ、ちょっとくらいお色気アピールしてもいいよね」
ゆー君へ見せるためだけに買った薄着を手に取って、アピールのために着崩した制服から着替える。
今日もゆー君、バッチリ見てくれたなぁ。
やっぱりこういうお色気アピールをしつつ、ハリボテ陽キャを装うにはギャル風のファッションが向いてるよね。
それで欲情して襲ってきたら、それはそれで構わないよ。ゆー君になら、私は何をされても許しちゃうもん。
他の女に現を抜かさなければね。
「んふふ~、ゆー君喜んでくれるかな」
ゆー君の気を向かせて離れないようにするためなら、私は何だってやるよ。
邪魔をする余計な人は排除するし、奪おうとするなら相応の報いを受けさせるし、害そうとするなら害される前に害す。
だって私にはゆー君しかいないんだもの。
もしもゆー君がいなくなったら、いなくなったの意味次第で行動は微妙に変わるけど、道連れっていう結末は変わらない。
だってゆー君のいない現世に興味は無いんだもん。だったら来世ではずっと一緒にいられるように、道連れにするしかないよね?
「さてと、そろそろ行こうっと」
おっとその前に、ゆー君の前でだけ付けている仮面を被らなくちゃね。
昔と変わらない人見知りでコミュ障だけど、それを頑張って克服しようとしている、昔の通りを装っている私の仮面をね。
「……アハッ。待っててねゆー君」
この世で一番ゆー君を愛してる私が、今から会いに行くからね。
そして私を支えるため、いっぱいイチャイチャラブラブしようね。
おばさんが帰ってくるまでの一ヶ月で、もっともっとゆー君を虜にしてあげるんだから。
ウキウキしながらゆー君の部屋のインターフォンを押して、言葉を交わしたら扉が開かれる。
「おう、待ってたぜ」
はぁー! ゆー君ゆー君ゆー君ゆー君ゆー君ゆー君ゆー君!
大好きすぎる愛しのゆー君との二人だけの時間、誰にも邪魔されない至福の時。
こんな気持ちにさせてくれたゆー君は絶対に誰にも渡さない、私だけのものにしてみせる。
私達の仲を引き裂こうとするのなら、群がる有象無象だろうと教師だろうと親だろうと排除して、世間や世界を敵に回そうともゆー君との関係は守ってみせる。
あっ、優しいゆー君は、ぜっっっっっったいに裏切らないよね?
私が世界を敵に回しても、傍にいて支えてくれるよね?
私のゆー君。