ラベンダーの香る部屋で
「……。」
「……ここは一体?」
私は、目を覚ました。白く、暖かなこの部屋で。
うっすらとラベンダーの匂いがする。久しぶりに嗅ぐいい匂いだ。いつもなら嗅覚に意識などしないからいつもより実感する。深呼吸をする。肺が軽い。空気がたくさん入ってくる。とてもいい気分だ。こんなにいい気分は一体いつぶりだろうか。
確か学生の頃、自分の体はこんな感じだった。叩けば鳴るというか、脳で考えたことが体がしっかりと反応して動く感じ。実に懐かしい。いつの間にか、毎日仕事、飲み会、仕事、飲み会というような毎日になり、泥人形のような体になってしまった。
それがここではどうだ?脳のフィルターがかかっていたような感覚も泥人形のような体もないのだ。素晴らしい感覚だ。
しかし、なぜいきなりこのような場所にいるのか見当もつかない。項垂れ、両手を見る。ちゃんと自分の手だ。両手にますかけ線がある自分の手だ。
だめだ。思い出せない。というより思い出そうとすると、激しい頭痛に見舞われる。
私は、藤原優。三十二歳。妻の鈴香と二人暮らしだ。そうだ、記憶はまだ正常だ。私と妻は三年前に結婚式をあげ、まさに幸せの絶頂期である。生活資金や将来の不安は多少あるが……。
……だいぶ落ち着いてきた。
なぜここに来たのかさえ思い出そうとしなければ頭痛はしない。だったら考えなければ良いのだ。私は痛いことが嫌いなのだ。
落ちつてくると周りの情景が気になり始める。大きなガラス窓。その大きなガラス窓からは、暖かい命の源流を感じる日が室内に溢れてきている。外にはイングリッシュガーデン、色とりどりの花が咲いている。私はガーデニングの知識が疎いため、咲いている花からこの世界の気候詳しくを知ることはできなそうだ。
元いたところは冬。ここには明らかに花が咲きすぎている。南半球なのかそもそも世界が違うのか……。
「……カチャン」
「ようこそ。私の屋敷へ。楽にしてください。何か飲みますかな?最近ハーブティーに凝っていまして、最近買ったこちらのハーブティーはいかがでしょう?ラベンダーティーです。今、用意致します。少々お待ちください。」
カウンターキッチンに目をやると黒い影……。いや、影というより全ての光を飲み込む黒。遠近感がうまく掴めない。
「私はあなたと話したかった。ずっと。」
お茶の用意が始まった瞬間に話しかけられた。
「ずっと……とは?私とあなたは今日が初対面でしょう?」
「いいえ、影になってよかった。こうしてお話ができるのだから」
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