エトワール姫と流れ星の聖剣
むかし、シュテルン王国という星の形をした国がありました。
王様と王妃様は星のように人々の道しるべになり、王国を明るく照らしていました。
6才のエトワール姫は、困っている人や弱った動物に迷わず手を差し伸べる心優しいお姫様でした。
「シリウス! ヤケドが治ってよかったわ」
「ワンッ!」
「今日森に行きましょうね、あなたのパパとママがきっと探してるわ」
銀色の毛と青い瞳をもつ仔犬のシリウスは天を見上げると「アオーン」と鳴いて空に駆けていきました。
姫は驚きましたが、空に向かって「元気でね」と手を振りました。
◆ ◇ ◇ ◇ ◇
月日は流れ、エトワール姫は18才になりました。
今日はお城でエトワール姫の結婚相手が決まる大切な日です。
この国のお姫様は18才になると、国の宝である伝説の聖剣『流れ星の剣』を玉座の間にある台座から抜くことができる、心優しい勇敢な者と結婚することになっていました。
◇ ◆ ◇ ◇ ◇
玉座の間では多くの候補者が聖剣に挑んでいました。
「ベハハハハ!」
剣を引き抜くことができなかった99人目の候補者が邪悪な高笑いをすると、男はみるみるうちに姿を変え巨大な赤黒い蛇になりました。
「我が名はヒュドラー! 俺を選ばなかった罰だ!! お前ら全員喰ってやる!!」
怪物ヒュドラーはどんどん人を飲み込み、とうとう王様と王妃様も食べられてしまいました。
「美しいエトワール姫よ! お前が俺の妻になるというなら、城の外にいる国民の命だけは助けてやろう」
悲しむエトワール姫は頷くしかありませんでした。
◇ ◇ ◆ ◇ ◇
シュテルン王国は赤黒い暗闇に覆われました。
ルララ。どうか——
人々は昼も夜も関係なく働かされながら、流れ星が光るたび、エトワール姫の無事を祈りました。
ルララ。どうか——
エトワール姫もまた、流れ星が光るたび、お城の檻の中から人々の無事を祈りました。
互いの無事を祈る姿に心打たれた天は、皆の幸せを祈り涙をひとつこぼしました。
天の涙が流れ星となってエトワール姫のもとに届くと、青白い光が一層強くなり、パチパチと燃え盛る音とともに、青白い炎を纏った勇ましい犬が現れました。
現れたのは仔犬のときエトワール姫が助けたシリウスでした。
シリウスの青白い炎はエトワール姫の体についた傷を瞬く間に治しました。
「さあ! 背中に乗って! みんなを助けにいこう!」
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
シリウスは怪物ヒュドラーがいる玉座の間へエトワール姫を連れてきました。
大蛇ヒュドラーの腹は大きくでっぱっています。
「ヒュドラー! みんなの幸せを返しなさい! 人の幸せを奪う権利なんて誰にもない!! 私はみんなを苦しめるあなたを絶対に許さない!!」
エトワール姫がそう叫ぶと『流れ星の剣』が強く光り輝きました。
姫は剣に手をかけます。
「もういい! お前も喰ってやる!!」
次の瞬間エトワール姫は台座から『流れ星の剣』を引き抜き、大口を開けた怪物ヒュドラーに向かって振り下ろしました。
エトワール姫の一太刀はヒュドラーの腹まで切り裂きました。
すると中から、ヒュドラーに食べられた人たちが出てきました。王様と王妃様もいます。
シリウスは青白い炎で彼らの傷を癒しました。
「俺の傷も治るのに時間がかかる! 俺様にもその青白い炎をよこせ!」
ヒュドラーが勢いよくシリウスに尻尾を当てると、そこから青白い炎がヒュドラーの体に燃え移りました。
「ああ!! なぜだ!! あつい! あつい!!」
ヒュドラーは急いで海に逃げ込みます。
陸に上がろうとすると消えない炎が体を焦がすので、恐ろしい怪物ヒュドラーは一生海から出られなくなりました。
全てを見ていた天が祝福の涙をこぼし、幾千もの流れ星が降りそそぐと、人々はエトワール姫と英雄犬シリウスの幸せを流れ星に願いました。
ルララ。ルララ——
すると、シリウスは人へと姿が変わり、銀色の髪と青い瞳をもつ凛々しい王子様になりました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
王子様になってからも、シリウスは右手に宿した青白い炎で人々を癒しました。
エトワール姫はシリウス王子と結婚し、ふたりでともに国を守りながら、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
お読みいただきありがとうございました。
冬の童話祭2022参加作品です。
楽しませていただきます!
今日も皆さまにとって素敵な一日になりますよう、流れ星に願います。
寒い日が続きますので、どうぞご自愛くださいませ。