プロローグ
1
人は、死の間際に何を思うのだろうか?
恐怖?
苦痛?
安らぎ?
それとも、もっと何か別の感情?
私が殺してきたヤクザやマフィアの連中は、みんな怯えきった表情をしていた。恐らくは死に対する恐怖か、私が向けたナイフや銃口から放たれる弾丸が、これから引き起こすであろう未来への絶望だろう。
なら私は?
『私』という存在を壊す未来に直面した時、私は何を思うのだろう? この世界から突き放される刹那に感じるのは絶望か? 希望か?
いつかソレは必ず訪れる。それもそんなに遠い未来ではない。仕事上、そこいらのサラリーマンよりかはよっぽど死に身近な存在だから。
殺し屋をしている私が言うにはあまりにも皮肉に聞こえるだろうが、この職業に就いてから、裏の世界を歩き始めて感じたことは、『天使が生きるには、汚すぎる世界だった』だ。誰かの言葉だ。もう忘れてしまったけど。
あの日、あの雪が降りしきる冬空の下で、私は自分自身を殺し、深い暗闇の奥へと封印してしまったのだった。
『もう戻れなくてもいい』、そんな自虐的な思考が、私の脳内で静かに反響していた。