「夏のトライアングル」
「夏のトライアングル」
「……こんなの……悲しすぎる……」
キリオは自分の感情を口に出して明確な殺意を戦地に向ける。
周りではアルデバラン兵士がキメラと戦い、武器の消耗が激しく、苦戦していた。
「……俺達が終わらせなきゃ……」
キリオは何処かで傍観者で居た。
いずれ来る終わりを守りたい人だけ守り時間が立てばいつかは終わりが来るとそう思っていた。
しかし、胸一杯に膨らんだこの行き場の無い全ての感情がキリオ自身を戦地へと駆り立てる。
「もう……誰にも……死んでほしくない……」
キリオは力一杯に魔力を溜め、その影響で周りの空間が歪み始める。
「キリオ!? 何する気なの!?」
突然、暴走した時に似た力を使い始めたキリオを見て驚き、ジムはそう聞いた。
「この戦争を一刻も早く終わらせるんだよ……」
溢れ出た青い錬成光が音を立てて空間を瞬き始める。
「もう……こんなに悲しいのは……嫌なんだよぉ……」
感情を、思いを、願いを、希望を力に変えて込めれば込めるほどキリオの周りでは空間が歪んでいく。
「……いや……違うな……誰にも死んでほしくないじゃない……」
そして、キリオは間違っていた自分の考え方を正す。
「……もう……誰も……死なせやしない!!」
決意と同時に溜まり切った魔力が溢れ出し一層に青い雷光が増す。
「武器が足りないなら俺が全て造ってやる!!」
その言葉と同時に掌を地面へと力一杯に叩きつけ叫ぶ。
「 鋏牙卍象!! 」
その瞬間、夥しい膨大な青い錬成光が広範囲に音を立てて広がり、轟音を鳴らし地面から次々と鋏剣が錬成されていく。
その鋏剣は戦地で果てた者の血が混ざり赤く染まりその数およそ数百本は創られて行く。
「……な、なんて魔力量なんだ……」
余りの光景にジムは興奮と驚きで苦笑いを浮かべる。
「まだだぁぁああ!!」
しかし、キリオはそれだけでは終わらなかった。
更に力を目一杯に注ぎ込み、鋏剣の錬成はまだ続く。
キリオの魔力は思い、怒り、感情に共鳴し膨れ上がる。
気づけば鋏剣は数千本は超え、辺り一面に真っ赤な鋏剣が地面に突き立てられた。
「……スゥ……ハァァ……」
大きく深呼吸を一回吐き、近くにあった2本の鋏剣を手に取りキリオは言う。
「ジム、アン……行くぞ……」
そして、キリオはキメラの群れへ向けて走り出した。
「戒級強化」
バッファーを加えて能力を上げ急加速し、凄まじい勢いでキメラの群れへと飛び込む。
幾度なくキメラを斬りつけ、その一振り一振りに思いと感情が鋏剣に乗る。
『もう誰も!』
キメラの頭を飛ばし。
『殺させやしない!!』
腕を斬り飛ばし。
『こんな!!』
足を斬り飛ばし。
『悲しい思いを!!』
両断し。
『誰にもさせたくない!!』
キリオは立て続けにキメラを斬り伏せてゆく。
その度に鋏剣はキリオの力に耐えきれず、キメラの剛皮にも耐えきれず欠けたり、折れたりする。
その都度キリオは近くで突き立てられている鋏剣を斬撃の過程で手に取り、止まることなくキメラの数を圧倒する。
この戦争を機に恐ろしく強くなるキリオにジムはあまりの驚きで笑い出す。
「……あっははは!!」
アンカーはその横で突然、笑い出したジムの心が理解できた。
「ジムの魔力量もおかしいレベルだけど……キリオはそれを更に超えているね」
「……はぁ……そうだね!」
興奮と呆れと驚きの感情の忙しさで出た笑い涙を拭いジムは言葉を続ける。
「本当つくづくキリオが仲間で良かったって思うよ!」
「うん……この戦争でキリオは恐ろしい程、心が成長した……」
「日本人達は戦争や人の死に慣れてないからね……戦争での経験がキリオを成長させてしまったんだろうね」
「ジムは平気なの?」
「うん……僕は自分の頭のネジが足りないことはわかってるから……」
一瞬、寂しそうな表情を見せるジムにアンカーは気づく。
しかし、すぐに明るく振る舞うジムに一変しジムは言葉を続ける。
「さぁ! そろそろ僕たちも行こう! キリオに置いていかれちゃう!」
「う、うん!」
アンカーはその違和感をそのままにジムと一緒に走り出す。
そしてキリオ、ジム、アンカーの3人はここに至るまで連携が安定を見せてなかった。
フロウ・ドーマンの奇襲による負傷で当初はアンカー・ベガは戦争には不参戦。
3人での連携を訓練してた為に、ジムとキリオの2人では上手く事が運べない状況。
更に、ジム・デネブのフロウ・ドーマンへの不信感からの仲間割れ。
キリオ・アルタイルの戦争への覚悟。
アンカー・ベガの突然の力の消失。
しかし、その全てが解消された今、3人の連携は安定を見せる。
「黒衣乃処女会!!」
キリオは負荷が大きい高魔力量を込めたアイアンメイデンではなく、素材のダイヤモンドより硬いロンズデーライトを使って魔力消費を格段に減らし、数多くのアイアンメイデンを創り上げ、キメラの動きを封じにかかる。
「酸素紛失!!」
どれだけ防御力が高くても、生物であれば酸素が無ければ生きていけないことに気づいたジムは炎魔法の応用でアイアンメイデンの中の酸素を無くす。
「無慈悲亡力!!」
その間、アンカーはジムの人体強化とキリオの戒級強化に更に身に余る力の影響で攻撃時の反動を治癒魔法で瞬時に癒す事で爆発的な攻撃力を生み出していた。
「キリオ!! ジム!! 気をつけて!!」
アンカーは先に見えたトゥランスプラントを見つけてキリオとジムに注意を呼びかける。
「おっけぇ!!」
キリオはアイアンメイデンではトゥランスプラントの速さに追いつけないと理解して両手で地面に触れ錬金術を使う。
「以遠錬金術!!」
キリオはトゥランスプラントの死角から錬金術を地面に伝わせ飛ばす。
「ジム!! アイアンニードルをたくさん頼む!!」
「え?!」
「いいから! 早く!!」
「わかった!!」
その時、トゥランスプラントは足元の地面が捲れ覆い被さる事に気づくのに遅れ逃げられず、そのままドーム状の壁に囲まれ身動きが取れなくなった。
「いけぇ! ジム!!」
その言葉にジムはキリオのドーム状の壁面に穴が開いてることに気づき理解する。
「これは! そう言うことかぁ!! なら! 命名はこれしか無い!!」
ジムはアイアンニードルに手を翳して魔力を注ぎ突風を溜め、力一杯に掌を勢い良く握り叫ぶ。
「黒髭!! 危機一発!!」
その瞬間、爆発的な速度でアイアンニードルはキリオの作ったドームの穴へと突き刺さり、トゥランスプラントの悲鳴が鳴り響いた後、沈黙する。
3人は連携に合わせてそれぞれ大技を繰り出し、数多くのキメラを討伐し、苦戦していたトゥランスプラントさえ的確に撃退し、活躍する。
更に、キリオの造った数多くの鋏剣が武器の補充となり、アルデバラン兵士に使われ戦況は一気に逆転していく。
一時的にミラク国のキメラ投入によりアルデバラン国は押され劣勢を見せるも、とても危険な状態だった。
しかし後半、3人の活躍から勢いを取り戻し、アルデバラン国は優勢へと変わった。
陽は既に夕刻を迎え、夏の終わりの涼しい風がこびり付いた汗と血を乾かす頃、戦争は終わりを告げ、アルデバラン兵士の目に焼き付いたキリオ・アルタイル、ジム・デネブ、アンカー・ベガの3人の脅威にアルデバラン兵士達は冬のトライアングルであるシリス、プロン、ペテルに重ねてこう呼んだ。
「夏のトライアングル」
その頃、戦場を見渡せる離れた崖で逃げ延びたフロウが膝をつき頭を下げて言う。
「お待ちしておりました……我が主、怠惰乃悪魔様」
ここまで読んで頂き、本当に嬉しく思います!
ささいな感想やレビューでもとてもはげみになります!!
それと、もし良かったら厳しい評価でもかまいません!
今後成長していく為にも必要なので是非よろしくお願いします!
是非またのお越しをお待ちしております!!




