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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
2章「過去編」
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「自分への怒り」

「自分への怒り」






その瞬間だった。


突然、トゥランスプラントの所で凄まじい衝撃音が鳴り響き土煙を立て、気付けば空中に投げられたシリスの姿は何処にも見当たらなかった。



「……し、シリスさんが……し、死んだ……」



ジムも何が起きたのか分からなかった。

しかし土煙が少しずつ晴れてゆくにつれ、衝撃音の正体の大きいクレーターが見え、更にその側面には風に揺られなびく白いワンピースの女の子が立っていた。



「……え?……」



ジムは自分の眼を疑がったが、同時に余りの嬉しさに目に涙が溜まる。

そして、その女の子はジムに気付き振り返って笑顔で言う。



「……ジム……お待たせ……」



そこには間違いなくアンカー・ベガの姿があった。



「いてぇじゃねぇかぁ! なにすんじゃわれぇ!!」



アンカー・ベガに一撃をもらったトゥランスプラントはアンカーに向かってクレーター中心から跳躍し、上空から拳を放つ。

しかし、アンカーは簡単に後方へと避けジムの所へと着地する。



「……本当に……アンだ……」



目の前でアンを確認し、ジムは驚きと喜びを同時に感じていた。



「……もう……呪いは大丈夫な……の?」



ジムは感情の整理が遅れたが、1番心配していた言葉を押し出しそう聞いた。

その瞬間、アンは突然ジムに力強く抱きついた。



「え!? ア、アン!? ど、どうしたの急に!?」


「ありがとうジム! 私の為に頑張ってくれてたって話を聞いた! 本当に嬉しかった! 本当にありがとう!」


「え? あ、う、うん……もう本当に呪いは大丈夫なの?」


「うん! もう大丈夫みたい! 本当にありがとう!」



その言葉を聞きジムもアンカーの背中まで手を回し、しっかりと抱きしめ言う。



「良かった……本当に……良かった……アンが無事で本当に良かった……」



ジムは余りの嬉しさに涙が溢れ出る。

その時、トゥランスプラントは苛立ちから激声を放つ。



「いちゃついてんじゃねぇぞコラァ!? 今! お前らを殺してやらぁぁああ!!!」



勢いよく地面に両手をついて四足歩行の態勢から力を入れた瞬間、背中が赤く染まり一気に膨れ上がる。



「死ねぇぇええええええ!!!!」



口を大きく開けて放たれたのはサラマンダーのブレスだった。



「……憩乃時間じゃまをするな……」



しかしジムが手を翳したその時、ブレスはジムが張った魔法防壁に阻まれ、かき消される。



「僕の大切なこの一瞬を壊す事は絶対に許さない」



ジムは凄まじい殺気を放ち、殺意の眼光をトゥランスプラントに向け飛ばし、そう言った。



「何だと!? サラマンダーのブレスを防いだだと!? このやろぉぉおおお!!!!」



トゥランスプラントは先程よりもっと強力なブレスを溜める。



「これで終わりだぁぁぁああ!!!」



トゥランスプラントが口を開けたその時だった。

突然トゥランスプラントの頭が首から切断され、上空へと飛んだ。



「……は? なんで俺の頭が飛んでんだよ……」



その廻る視界でトゥランスプラントは自分の残された体の後ろに立っていた赤い錬成光を瞬かせるキリオを見て自分が死んだ事に気付き、そして沈黙した。



「……キ、キリオ?」

『……は、速すぎて何も見えなかった……』



ジムはそのキリオの違和感におぞましさを感じた。

漂う殺気、俯いたまま力強く立つその背中からはいつものキリオを感じなかった。



「ジム……これってまさか……」


「まさか……かも……」



アンカーもキリオの異変にトーナメントの暴走を重ねジムと警戒をする。

その時、キリオが口を開いた。



「シリスがぁ……死んだ……」



その言葉を聞きジムはキリオが意識を保っていることを理解した。



「キリオ!? 意識があるの!?」



しかし、振り返ったキリオの左眼には黒目に赤く光る錬成陣が描かれ、鋭い眼光を飛ばし、右眼だけは悲しく泣いていた。



「……くっそぉ……」



トゥランスプラントへの怒り。

戦争への怒り。

シリスが死ななければならなかった運命への怒り。

守れなかった自分への怒り。

キリオはその全ての怒りで体が震えるほどりきむ。



「……守れなかった……」



赤い錬成光が雷のように音を立てて瞬き、キリオの周りで空間が歪み始める。



「……俺が……弱い所為で……」



キリオが自分を責めれば責めるほど錬成光の光は激しさを増し、小石などが宙を浮き始めた。



「キリオ! 落ち着いて! 怒りに飲み込まれちゃダメだ! 僕達2人だけじゃ暴走した君を止められない!」



ジムは必死でキリオに残る理性に語りかける。



「なんで……こうなった……なんで……」



しかし、キリオにジムの言葉は届かない。



「……俺がもっと……強ければ……」



その言葉を言い放った瞬間、キリオの周りは激しい乱気流を起こし始めた。



「アン……僕達でキリオを止めるしかなさそうだ……」

『……本当に僕らだけで……あのキリオを止められるのか……』



ジムは不安だったが、キリオを助けたい思いから覚悟を決めた。





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