「解き放たれた黒霧」
「解き放たれた黒霧」
アルフェラッツ遺跡。
「来い!! 剛鉄乃処女!!」
キリオが殴った地面から青い電光が瞬き、大きく広がる赤色の霧の真下で激しい音を立ててアイアンメイデンの錬成が完成する。
そして、アイアンメイデンの開いた蓋の闇から紫色に淡く発光する鎖が赤い霧を取り巻き、凄まじい速さで引きずり、飲み込んだ。
しかしその時、キリオの拘束具で動きを封じていたキメラ4体が次々に拘束具を破壊し自由になっていく。
「まずいキリオ……出し惜しみをしてる場合じゃないかもしれない……」
「……あぁ……俺もそう思ったところだ」
その瞬間だった。
アイアンメイデンから鳴り響いた嫌な亀裂の旋律が2人の全身に恐怖を走らせたと同時にアインメイデンが耐えきれずに凄まじい音と共に弾け飛んだ。
「なに!? アイアンメイデンが壊された!?」
そして、中から出てきた赤い霧が辺りを真赤に染め上げ、気づいた時には超重量級のありとあらゆるモンスターで掛け合わせられ、錬成された大型混合獣が悍ましく目の前に現れた。
「ド、ドラゴン!?」
キリオは混合獣を見てそう言った。
「いい例えをするじゃないかぁ!! そうさ! ありとあらゆる物をかき合わせて錬成されたナンバー178だ!! 残念ながら失敗作だけどね! でも! 力は本物だよ!! いけぇ!! そいつらを殺せぇ!!」
獣魔術師が命令と共に手を翳した瞬間、ナンバー178は喉元を赤く染め、膨れ上がる。
『咆哮が来る!?』
「水壁!!」
ジムは咄嗟に水魔法の防壁を張る。
『 ダメだ!! 水魔法じゃ防ぎきれない!!』
「ジム! 危ない!!」
「え?」
キリオはキメラの攻撃力を理解していた。
急いでジムに飛びつき、そのまま回避し真横を灼熱の炎が赤く染め上げ、余りの熱にジムの水魔法は蒸発してしまう。
「あっぶねぇ……」
「ありがとうキリオ」
キリオとジムは寸前の所で咆哮を躱し、態勢を立て直しながらキリオはジムに言う。
「ジム……俺に作がある。無理を承知で言うが……時間を稼いでくれ」
「……わかった」
キリオは無謀とわかって尚、ジムにその言葉を言い、ジム自身も無謀を理解して尚、承諾する。
「戒級強化!!」
「人体強化!!」
「行くぞ!!」
キリオの掛け声から右と左にキリオとジムは飛び出した。
「重力魔法!!」
ジムはキメラ4体を両手でも抑えきれなかったにも関わらず、片手で押さえ込む。
それを見て獣魔術師は笑う。
「無理とわかっててまたそれをやるか!! なんてバカらしいんだ!!」
「……っく!?」
『一瞬だけ抑えらればいい!!』
無謀とわかっていながらもジムは力一杯に重力魔法をかけ、魔法高魔力反動で皮膚に亀裂が入る。
そして、ジムはもう片方の手でナンバー178の牽制を行う。
「鉄乃槍!!」
土魔法で地面から突起物を作り、ナンバー178の顔面に向けて放った。
しかし、放ったアイアンニードルはナンバー178の硬い皮膚に傷一つつけられずに粉々になる。
だが、ジムは自分に標的を向けさせる事が目的。
ジムの思惑通りにナンバー178は長い尾でジムに向け反撃する。
「風脚!!」
更にジムは足に風魔法を使い、加速を加えて攻撃を躱す。
ジムは片手で重力魔法を瞬間的に何回も使用しキメラ4体を抑えながら、もう片方の手でナンバー178に物理攻撃魔法を使用し、脚では風魔法を使い、回避し続け、3種の魔法を即座に使い分ける。
少しでも判断を間違えれば取り返しはつかない。
だからこそジムは神経をすり減らし、慎重に、それでも最速に状況を判断し、適切な魔法を選ぶ。
しかし、ナンバー178が苛立ちから喉元を赤く染めた。
『咆哮!?』
ジムは風脚に瞬発的に魔力を送り込み凄まじいスピードで回避し、咆哮は真横を通り過ぎた。
しかし、咆哮に邪魔されグラビティで抑えてた4体のキメラを防ぐ機会を狂わされる。
「……ちっ!」
ナンバー178の牽制を諦め、ジムは両手で4体同時に重力魔法をかけたその時、気づけばもう既にナンバー178は喉元を赤く染め、ジムに向けて口を開けていた。
「死ねぇ!! 魔法師!!」
獣魔術師は勝利を確信し、吠える。
「間に合わない!?」
ジムも直撃を覚悟したその時だった。
「 開けぇ!! 奈落五戒門!!」
突然、荒ぶる青い錬成発光と共にナンバー178の足元で地獄を連想させる鬼の口の黒き門が出現し、凄まじい音を奏でて開く。
ナンバー178は咆哮を吐きながら門の真暗な中へと落ち、重たい扉が一つ閉まり、更に二重、三重と計五重の扉が凄まじい音を立てて混合獣を閉じ込めた。
「な、何!? ナンバー178の規模を超える超大型錬成術だと!? だ、だが! そんなものナンバー178には効くわけがない! 直ぐに破壊し出てくるに決まっている!!」
その時ジムはキメラ四体を抑えるのが限界に来ていた。
「だ、だめだ……もた……ない……」
「あはは!! その前に終わりそうじゃないかぁ!!」
獣魔術師が嘲笑う中、ジムは四体のキメラを必死に抑え耐えていた。
しかし……
「ぅわっ!?」
ジムの重力魔法で抑えられていたキメラ四体がグラビティを打ち破り、ジムに牙を向ける。
「鋏剣錬成!!」
しかし、気づいた時にはキリオが先頭のキメラの頭を鋏剣で吹き飛ばした。
「な!? なんだと!? 僕のキメラがやられた!?」
獣魔術師はキリオの数々の所業に驚きを隠せなかった。
「確か……キリオの剣は効かなかったはずなのに!? どうして!?」
ジムは斬頭を見て驚いた。
「……チッ! これでも刃が欠けるのかよ……」
キリオが持っていたのはいつもとは色が違う黒い鋏剣だった。
武装錬金術「戒級強化」の出す超加速と力、更にダイヤモンドより硬い炭素で出来ている「ロンズデーライト」で作った黒い鋏剣がキメラの硬い皮膚を破り、頭を斬り飛ばす事を可能にした。
しかし、その剣ですら一刀で使い物にならなくなってしまう。
「なら! もう一個作るだけだ!!」
二匹目の向かってくるキメラに対し、右手の鋏剣を捨てると同時にキリオはもう片方の手に鋏剣を錬成する。
青い錬成光が尾を引き、あまりの速さに電光石火の如くもう一頭のキメラの頭を飛ばす。
「鋏剣の二刀流……す、凄い……」
『剣を一刀一刀切り替えるなんて……発想もしなかった……』
凄まじい戦いにジムは驚きの連続だった。
ジムの3種魔法の使い分ける魔法技術も並大抵のものではなかった。
しかし、キリオもまた戦いながらの次々の錬成は、ジムに匹敵する芸当を行っていた。
「三匹目終わり!!」
キリオが四匹目に差し掛かるその時、既に最後のキメラはキリオに向かい鋭い爪を振り上げていた。
「くっ!?」
『もうこんなとこまで来てんのかよ!? ど、どうする!?』
その時だった。
「雷鞭!!」
キリオの後方から突然に放たれた鞭の様な雷撃が最後のキメラを捉え、キメラは感電から筋肉の硬直により、動けなくなる。
「サンキュー! ジム!!」
その魔法はジムだった。
与えられたその隙でキリオは最後のキメラの頭を鋏剣で斬り飛ばした。
「なんとかなった……よかった……」
キリオは最後のキメラを仕留めて漸く安心する。
「キリオ? ドラゴンキメラは扉で大丈夫なの?」
「ああ! 絶対大丈夫! ここら辺にある炭素をほとんど使って作った5層のロンズデーライトの箱だ! あの規模を作るのに術式の展開が難しくてちょっと時間かかっちまった! わりぃ!」
キリオは手を立てて申し訳ない顔でジムに謝罪を入れ、言葉を続ける。
「あ! それはそうと! あんな雷魔法あるなら始めから使えよ!」
「僕も時間もらえたからできたんだよ! 元々雷魔法は水魔法の派生なんだ! 術式を作るのに少し応用が必要なんだよ!」
その時。
「な、なんだと……僕の混合獣達が……なんなんだよ……」
獣魔術師は声を荒げて言葉を続ける。
「お前達はなんなんだよ!! おかしいだろ!? たかが魔法師1人に使えない錬金術師が1匹!! 五体のキメラを相手に勝っただって!? 僕の混合獣が負けるはずない!! 早く戻って来いよ! ナンバー178!! そんな扉早く壊して今すぐ僕を助けろよ!!」
しかし、その場には静かな沈黙が続き、キリオが言う。
「無駄だよ……もうあのキメラは出てこれやしない……お前の負けだ」
「くぅ……そがぁ……」
そして、ジムはゆっくりと歩き出し言う。
「黒い鏡を破壊させてもらうね」
「だめだ!! 絶対にだめだ!!」
獣魔術師は黒い鏡へ続く祭壇の階段で両腕を広げて叫ぶ。
「キリオお願い」
ジムの指示の元、キリオは獣魔術師を錬金術で作った拘束具で縛り上げ、2人は祭壇の階段を登る。
それでも尚、獣魔術師は必死で止める。
「やめろ!! お前達は黒鏡が何かを知っているのか!? あんな物を壊したら大変な事になるぞ!?」
「知ってる……あれはこの世界にあってはならない物だ……僕の大切な仲間が今も苦しめられているんだ……そんな物、僕がぶっ壊してやる」
「な、何を言っているんだ!? やめろ! やめっ……」
ジムはその場から魔法使う。
「剛鉄乃槍!!」
ジムが放った土魔法の槍は一直線に黒い鏡へと放たれた。
「……やめろぉぉお!!!」
獣魔術師の叫びが響く中、黒鏡は無残に破壊され、破片がガラスの様に飛び散った。
「これでアンが助かる……後は、君には眠ってもらおうかな」
ジムは獣魔術師の所へと移動し、手を翳す。
「お前達はとんでもないことをしでかした……もう終わりだ……」
「僕は仲間を助けたかっただけだ……もう君とは会うことはないだろう。さようなら」
ジムは治癒魔法を応用し催眠効果を使って獣魔術師を眠らせた。
「さて! ここからどう帰ろうか!」
キリオが帰る算段を言ったその時だった。
壊れた鏡から真黒の霧が立ち、膨れ上がる。
「な、なにが起きているんだ!?」
黒霧を見てジムもキリオも驚き、身構える。
黒い霧はどんどん増え続け、艶めく丸い球体になり、そして四方から魔法陣が箱のように形成され、光を強めてそして消えた。
「な、なんだったんだ今の……」
「わ、わからない……けど呪いが浄化されたって事なのかな?」
「なら……い、いいんだけど……」
キリオとジムは警戒を解き、この後の算段をキリオは始める。
「ここからの脱出なんだけど、トンネルでいいか?」
キリオの錬金術で地上まで抜けるトンネルを作る案を理解し、ジムは答える。
「良い案だね! それで行こう!」
ここまで読んで頂き、本当に嬉しく思います!
ささいな感想やレビューでもとてもはげみになります!!
それと、もし良かったら厳しい評価でもかまいません!
今後成長していく為にも必要なので是非よろしくお願いします!
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