「ゴブリン村」
7「ゴブリン村」
翌日ーー
ミィナは自分の師匠のプロンの元へと行った為に、キリオはナタと共にゴブリン村に訪れる。
そこは決して大きくはない村。
ゴブリンが住む家も布と木材で作られた簡易的な印象が伺える。
そして、キリオは周りのゴブリンの視線と話してる会話に苛立っていた。
「人間? なぜ人間がいる…?」
「人間だと?」
「殺すか?」
「家畜にしてもいい」
「身包みを剥がそう」
そして、キリオはナタに問う。
「おい……ナタ」
「はい!」
「随分と物騒な言葉が聞こえてくるんだが?」
「すいません……派閥がある為に、私だけの力では部下だけしか制御できません」
「まぁ、そうだよな」
その時、後ろから声がかかる。
「キリオ先生!」
キリオが振り向いた時、そこにはナタリが居た。
「お! ナタリ! 髪いい感じで纏まってるじゃ……ん?……え?」
キリオがそう声をかけた時、ナタリの脚に纏わりつく子供ゴブリン達が5人居た。
それを見てキリオは苦笑いを浮かべて言う。
「え……ちょっと待って? ま、まさかじゃないよね?」
そのキリオの反応にナタが答える。
「はい! 実は盛り上がってしまって! つい頑張り過ぎちゃいました! アハハ!!」
頭の後ろに手を回し、顔を赤く染め、ナタは照れる。
「……え? ゴブリン怖!?」
「いやはや! そんなに褒めないでください! 照れちゃいますよ!」
「褒めてんじゃねぇんだよ!!」
ゴブリンに恐怖を感じた瞬間だった。
その時、キリオは遠くの方で歩く、凄まじい体格をした紫色の髪のゴブリンを見つけ、ナタに聞く。
「もしかしてあれか?」
「はい……我がライバル「ツルギ」です」
「見るからにめっちゃ強そうなんだけど」
「数日前までは特に普通だったんですが、名前を与えられあんな感じに」
「おいおい……名前与えたバカは誰だよ。あんなのに勝てるのか?」
「先生が教えてくれたのは基本的に体格差を埋める技ばかりでした。有効かと思います」
「確かにそうか。まぁ、当たって砕けろよ」
「はい! 当たって砕ければいいんですね!」
「待て待て待て待て! 今の絶対に誤解してるぞ!」
その時、紫色の髪のゴブリン「ツルギ」がキリオに気づき向かってくる。
「キリオと言うのはお前か?」
「ん? そうだけど?」
「ならここで死ね」
「は?」
気づけばツルギは右手に持つ剣を振りかぶっていた。
ツルギの行為にナタが間に割って入る。
「やめろ!! ツルギっ!? な、何をしているんだ!?」
しかし、ツルギは止まろうとはしなかった。
それを見てキリオは瞬時に動く。
「まずいっ!?」
キリオは右手に錬金術を使い、ツルギの振り下ろされた剣を右手で触れる。
その瞬間に青い電光が音を立てて走り、ツルギの剣は衝撃音と共に粉々に散った。
「なに!? な、何をしたぁ!?」
キリオの所業に驚くツルギ。
更にキリオはツルギの脚に目掛けて態勢を低くし、遠心力を加えて足で払う。
「錬金術師は創造だけじゃねぇんだよ!」
ツルギは態勢を崩され、地面に片膝を着く。
『くそ!? 立て直さねば!!』
しかし、キリオの方が速かった。
蹴りやすくなった顔面目掛けて足を払った遠心力を更に利用してツルギの顎に力一杯に蹴りを放つ。
「分解して破壊させてもらったんだよ!!」
キリオの蹴りは見事にツルギの顎を捉え、ツルギは脳を揺らされ、そのまま意識を失って倒れ、気絶する。
「……たく……なんだよ急に攻撃してきやがって……」
キリオは手についた土埃を取り、我に返る。
「ん? あれ? やべ!? 俺やっちまった!?」
キリオは長を決める大事な戦いがあるツルギを倒してしまった。
それを見ていた周りのゴブリン達がざわつき始める。
「おい! ナタ! なんとかしろよこれ!」
「そ、そう申されても……」
その時、周りを囲んでいたゴブリン達の奥から杖を着き、いかにも年齢を感じるゴブリンが現れた。
それを見てゴブリン全員が地面に片膝をつけ、頭を下げる。
「そ、村長……この様な事態になってしまい、申し訳ございません」
そう言ってナタも地面に片膝をつけ頭を下げた。
「よい」
村長はキリオを見て言葉を続ける。
「お主がキリオじゃな? ナタとナタリから話は聞いておる……世話になったそうじゃな?」
「あ……いえ……そこまででは」
「キリオよ?」
「な、なんですか?」
「錬金術師と見受けるが……姓は何を名乗っておる?」
「アルタイルですが?」
その瞬間、村長の眉で隠れた瞳が大きく見開かれた。
「アルタイル……そうか」
「……?」
「ナタよ。この者と話がしたい……家に案内するのじゃ」
「御意」
キリオはナタに村長の家へと案内される。
骨組みは木で繋ぎ止められ、布がかかった家、テントや何処かの民族の家の様だった。
「先生……中でお待ちください」
ナタにそう案内され、キリオは中に入る。
その時、キリオは目の前に居た者に驚いた。
「やぁ! キリオ!」
「……はっ!?」
キリオは一瞬フリーズし、すぐに我に戻る。
「ジム!? お前こんな所で何してんの!?」
座布団に座り、お茶をすするジムがそこには居た。
「えへへ」
『あの中身は果たしてお茶なのか? いや!? そもそもお茶が異世界にあるのか? 俺は絶対飲まないぞ』
そして、怪しい笑みを浮かべるジムを見てキリオは全てが繋がった。
「あっ!! もしかして!? お前の仕業だな!!」
「正解!!」
「ツルギって名前! 剣持ってたからか!?」
「お!? 正解! なんでわかったの?」
「言いたくない!!」
「あ! わかった! ナタは鉈か!?」
「うるせぇ! そもそも何を企んでやがる!!」
「あはは! 実はさぁ! ゴブリン村討伐の依頼があってさ!」
「ゴブリン村の討伐? それってここのことか?」
「そうなんだよねぇ……」
その言葉を聞いてキリオはジムに眼光を飛ばして言う。
「……お前……ここを戦場にする気か?」
「……ふふ……」
また怪しい笑みを浮かべるジム。
しかし、しばらく沈黙が流れ、キリオはあらゆる想定を頭で考えて答えを出し、口を開く。
「……いや……お前がその気ならもう事は終わってるわな」
「だよねぇ!」
「でも読み切れねぇ。なんでツルギに俺を襲わせたんだよ!! 危なかっただろぉ!?」
「これからわかるよ!」
その時、村長が入ってきた。
「キリオ殿。座りたまえ」
「あ……はい」
キリオは言われるがままジムの隣にあった座布団に座り、向かいに村長が座り、口を開いた。
「ジム殿? キリオ殿に話はしたのかのう?」
「いいや! してないよ!」
「そうですか。ではわしから話すとしましょう」
一呼吸置いて村長がキリオに話す。
「今日は大事な長を決める日なのはご存知か?」
「はい」
「して……キリオ殿は先程何をした?」
「祭を妨害してしまいました」
『結局、村長は何が言いたいんだ? 確かに祭りを台無しにはしたが、俺の所為ではないんだが』
「ツルギとナタのどちらかが長の座に着く予定でした。しかし、ツルギは敗れナタはあなたの弟子と言う……これは困った事ですね」
「はっ!?」
『おいおい! ちょっと待てよ! この流れ読めたぞ? まじかよジムのやろう。仕組みやがって……』
村長の会話は続く。
「村の者も敗者が長になっては納得はしないでしょう。キリオ殿? ワシが何を言いたいかはお分かりかな?」
村長は眉で隠れる眼光を飛ばしてそう言う。
「……ええ」
『村長もグルかよ!!』
「ほう? 話が早くて助かりますな。では改めて、キリオ殿をここのゴブリン村の長にーー」
「絶対に嫌ですっ!!」
「ーーへ?」
キリオのあまりの大声と帰ってきた返答の違いに村長は目を丸くし、変な声が出てしまう。
そして、隣でジムは笑いを堪えるのに必死だった。
「ぶぶ…ぶ……くく」
間を空けてキリオが話し始める。
「村長はジムから話は聞いていますか?」
『見てろよ? 絶対にジムにやり返してやっかんな?』
「ええ。もちろん……その結果あなた様を長にする事となりました」
「では……御言葉ですが、私はツルギと手合わせして確信に至りました」
「ほう? どの様な確信かな?」
「ナタより遥かに力を感じました。あのまま祭りがあった場合……間違いなくナタが敗れていたでしょう」
その時、隣にいるジムがキリオの思惑を理解し、騒ぎ始める。
「うわ!? キリオ!? それはずるいよ!?」
『めっちゃ! 擦り付けるじゃん!』
しかし、キリオは言葉を続ける。
「ナタと手合わせした私が、ツルギと手合わせしたからこそ、力を評価するにはこれ以上無いと存じます。そして、ジムが受けたギルドからのこの依頼はジムなら一人でこのゴブリン村を壊滅できるでしょう。しかし、ジムはそれをせず、敢えてゴブリン村に話を持ちかけた。それはこのゴブリン村を思っての事だと思います。更に、そのジムがツルギの師匠であるのなら、ジムが村長になるのが必然かと思いますが?」
「ほう? 一理ある。ジム殿? どうじゃ?」
村長の気の変わりようにジムは答える。
「え? ちょっ、ちょっと! 村長! それは話が違う!」
『くそ! すぐ手の平返しにきた!?』
「ほっほっほぉ……なら仕方がないのう。村長を御二人にやっていただくとしよう」
「は!?」
「え!?」
村長の言葉に二人は耳を疑い、キリオが理由を聞く。
「待った! なんでそうなるんだよ!?」
村長は先程までの柔らかい雰囲気を切り替え、刺すような視線で言う。
「由緒あるこの儀式は正規な物。それを二人は水を刺した。責任は取っていただかないといけませんのう……」
「…。」
『村長初めから……』
「…。」
『うわ……これは一杯食わされたな……』
二人は返す言葉が出なかった。
しかし、キリオはすぐに切り替える。
「わかりました」
「おお? 引き受けてくれるか? それは良かっ……」
「しかし! 村長は名目でツルギにします」
「ほう? どう言うことかな?」
「村長とは村の為を思う者で間違いないですよね?」
「そうじゃが?」
「ならツルギに任せ、ナタをうちで預かるのはいかがでしょう?」
「ほう? して小鬼村にどの様なメリットがあるのじゃ?」
「私達がゴブリン村の村長になればゴブリン村の制御が可能にはなりますが、結果ゴブリンが街に出て働くことはできません。ジムは冒険者業をしてますし、村にいるよりは出稼ぎして貰った方が村の為にもなります。今後の状態、更に先々の状態、このゴブリン全員が今後生きていくメリットにはなると思いますが?」
「ほう? そこまで考えていただけているとは……これは任せてよさそうじゃのぅ」
そして、村長は続けて口を開く。
「では……ナタ! ツルギ! 入ってまいれ」
ナタとツルギはずっと話を聞いていた様子だった。
キリオはそれを見て理解する。
『なるほど。本当に全て村長の掌の上だったか』
そして、改めて村長はツルギとナタに言った。
「話は今の通りじゃ……二人とも良いな?」
ナタ、ツルギは地面に片膝をつき、頭を下げる。
「御意」
こうして、2人はゴブリン村の管理者となり、その後は今後の話へと移った。
生きていくために近くの村、畑、略奪、強盗、色んな悪事をしてきたゴブリン達。
その所為でギルドからの討伐要請が出た。
もう悪事はしてはならないと言うルールに基づき、自給自足を中心に事は運ぶ。
知識、方法、手段、など、キリオとジムで提案し、必要な物はキリオが錬金術で作り、食料は狩りなど、ツルギを中心にチームが編成され、ナタは人間に害を与えない象徴としてキリオの美容室の手伝いと言う形で事は収まった。
そしてジム、ナタ、キリオの3人での帰りの道中だった。
「ジム! てめぇの所為で余計なことになっただろうがぁ!」
キリオがジムに怒っていた。
「いやぁ……キリオが村長になったら絶対面白いと思ったんだよねぇ……ごめんって」
次に、ナタも言葉を口にする。
「しかし、キリオ様がゴブリン村を見てくださるとは非常に嬉しく思います」
「あんまり期待しないでくれぇ……でも確かに俺とジムの知恵があればかなり発展はさせられるなぁ。いっその事……国でも作るか」
その言葉にジムが言った。
「え!? いいねぇ!! やろうよ!!」
「いや……冗談だったんだけど……」
ナタも大賛成の様子だった。
「おお! 国ですか!? キリオ様大きく出ましたな?」
「だから……冗談だって」
『コイツらマジで始めそうなんだけど……』
その頃、3人を見送ったゴブリン村の元村長は1人、自室の壁に掛けられた紋章を眺めていた。
「……ノプス様……また、貴方様にお支えさせて頂く日が来るとは……」
昔の思い出に浸り、言葉を続ける。
「ついに……貴方様が仰っていた未来が動き始めたのですね」
涙が一粒、床を濡らした。