「ナタの修行」
「ナタの修行」
「さぁ! 今日も張り切っていってみよう!」
キリオがそう言ってお店の看板をオープンに変え、その後ろでミィナがキリオに言う。
「キリオ様? そろそろ経営が危ないのですが?」
「……だよねぇ……」
ミィナの現実的な言葉にキリオは苦笑いを浮かべた。
「そろそろ広告をしっかり打ち出していくか……」
「まぁ……それでも無理でしょうね」
「だよね……なんで錬金術師はこんなにも蔑まれなきゃならないんだ?」
「初代の錬金術師が禁忌を犯したと言ってましたね。それで国が滅びかけ、戦争を引き起こしたと記述を見ました」
「初代は何してくれてんだ。でも錬金術がなかったら俺は美容師出来てないし、助かってはいるけど。でも……いやそれでもだよ」
「そうですね。分質を作る事が可能な職は錬金術でしか出来ないですからね」
「でも……魔力は腐るほどあるのに魔法が使えないって悲しいよな……せっかく異世界に来たって言うのに」
「キリオ様は錬金術で十分に凄い事をやってますよ?」
「そうか? でも俺はジムが羨ましいよ」
「そういえば最近は先輩来ないですね?」
「きっとアイツの事だ。冒険者ギルドで異世界ライフを送ってんだろうな」
その時、店の扉の鈴が鳴り、誰か来たのを知らせる。
「先生! 今日はお願いします!」
そこに居たのはゴブリンのナタだった。
「お! 来たか! じゃぁ早速始めようか!」
ナタの修行の準備をするキリオにミィナが言う。
「では、私は街に買い出しのついでに集客を試みてみます」
「申し訳ない……頼むわ」
そう言ってミィナはお店を後にし、キリオはゴブリンと戦闘準備を開始する。
そこでキリオがナタに聞いた。
「その長の戦いは素手の戦いなのか?」
「そうです! 悪いですが素手なら先生に勝機はありませんよ?」
キリオの体格に比べてゴブリンのナタはかなり大きかった。
「ん……武装錬金術無しでナタに勝には……やっぱりあれしかないか……」
「ほう? 作があるのですね? それは楽しみです!」
その瞬間、ナタがキリオに向かって走った。
「もう来るの!?」
突然の開始にキリオは驚いた。
「作があるなら虚を突きます!」
「戦い慣れしてんなぁ!」
ナタはキリオの顔面目掛けて殴りかかる。
しかし、キリオは体格差を利用して敢えて屈み、避けた。
更にそこからナタの右腕を掴み、腰を入れ、柔道の技「背負い投げ」を繰り出した。
キリオはナタを地面に叩きつけ、上からナタの顔面目掛けて殴りかかったが、寸前の所で止める。
「残念! 俺の勝ち!」
「さ、さすがです! しかし、私の体を持ち上げるとはいったい何をされたのですか?」
「これはね! 俺の故郷の武術で柔道って言うんだ!」
『高校の授業で柔道選択しといて正解だったな』
「柔道ですか?」
「そう! 体格差を埋める事のできる技なんだ! お前達と戦った時にみんな動きが単調だったからね! 殴り合うより崩し合うのも必要だよ!」
「なるほど! もう一本お願いします!」
その後、キリオはナタに故郷に伝わる武術で直ぐにでも使えそうな物を教える。
「ラスト一本! いくぞ!」
「お願いします!」
そして、その時だった。
「……土下座!!」
「グハァッ!?」
突如として、ナタは押し潰される衝撃を受け、地面に張り付いた。
「な!? 何が起きた!?」
キリオはナタに駆け寄り、瞬時に周りを警戒する。
「ナタ大丈夫か!? これは!? 重力魔法!? 誰が……いや!? まさか!?」
その時、森林の方から声がかかった。
「キリオ久しぶり! 危なかったね!」
キリオが振り返る。
そこに居たのは金髪の緑の目をした職業が魔法師のジムだった。
「やっぱりジムかよ! 道理でグラビティの奥に悪意を感じた訳か!」
「なんだよとはなんだ? 助けてやったんだぞ?」
「バカ! こいつは俺の客だ!」
「ほら! 刺客なんじゃん!」
「その刺客じゃねぇよ! お客様だよ!」
「え!? そうなの!? このゴブリンが!?」
「そうだよ! いいから早く魔法解けよ!」
「あ! ごめん!」
ジムは魔法を解除しナタに言う。
「ごめん……てっきり」
「あ! いいんです! 気にしないでください!」
ジムはその会話に驚いた。
「え? 随分礼儀正しいゴブリンだね? キリオ何したの? それに……このゴブリンから微量の魔力感じるけど?」
「名前あげた」
「え? キリオが? 魔法も使えないのにどうやって?」
「カルテで呪約書を作ったんだよ」
「え? すご!? そんなことできたんだ!?」
「うん! 出来たみたい!」
「ふーん……なるほどね」
『これはひょっとして……』
その時、ジムは怪しい笑みを浮かべて言葉を続けた。
「で? 今は何してたの?」
「あぁ……ナタの村で長を決める勝負があるんだと。こいつをそこの長にしようと思ってさ」
「へぇ……なんで?」
「ナタは俺にもう悪事はしないと誓った。だからナタを長にすればゴブリンの被害は減ると思ってさ」
「あ! なるほどね!」
『やっぱり! 面白くなってきた!』
ジムはまた怪しい笑みを浮かべ、何かを思い出した様に言う。
「あ! そうだ! 僕、用事があったんだ!
キリオまたね!」
そう言ってジムはその場を後にした。
「アイツは一体何しにきたんだ?」
その時、ナタはキリオに聞く。
「先生? あの方は?」
「あぁ……アイツは「ジム・デネブ」五大選使の国師候補者だ」
「五大選使とは?」
「そうか! こっちの人間事情を知らないんだもんな?」
キリオはナタに説明する。
五大選使
聖騎士
剣士
守護士
魔法師
治癒師
過去に世界を救った英雄の職業が5大選使である。
更に、そのありふれる職業の中で国から選ばれた者を国師と呼ぶ。
「職業の育成学園があってな。ジムは魔法師で飛び抜けてたんだ」
「そうでしたか……して先生の錬金術師が入ってませんが?」
「その中でも錬金術師は底辺の更に底辺……末端なんだよ」
「どういう事ですか?」
「初代錬金術師が禁忌を犯したらしく、錬金術師は忌み嫌われてんだよ。こんな森の奥でしかお店を開く事を許されなかったし、お客も来てないだろ?」
「先生も大変なんですね……しかし、あのジムさんには嫌われてない様に見えましたが?」
「アイツは異世界の常識に嵌らないからな! アイツが居て俺は本当に助かったよ」
「仲がいいんですね?」
「俺とアイツは同じだからな」
「と言いますと?」
「その話はまた今度な! どうする? 最後の一本やる?」
「是非お願いしたいです!」
「いいね! その体育会系精神! 好きだよ!」
二人は改めて構える。
「本気で来い!」
「はい!」
辺りは静まり返り、二人は読み合いを幾度となく行なう。
そして、動いたのはナタだった。
キリオに向かって態勢を極限まで下げて突き進む。
「いいねぇ! 隙がねぇじゃん!」
しかし、その時だった。
突如として、ナタの足元の地面が形を変え、拳の形になり、ナタを殴り飛ばす。
攻撃は良くキリオが攻撃で行う錬金術だった。
しかし、キリオは錬金術を一切使用していない。
だからこそキリオは驚いた。
「こ、これは!? まずい!?」
すぐにキリオは錬金術で地面からドーム状の壁を作り、防壁を張り、自分の身を守った。
「久しいなぁっ! キリオ!!」
その激声と共にその者は空中で拳を構えてキリオが作ったドーム状の壁に一撃を入れる。
凄まじい衝撃音と共に半壊させ、キリオは吹き飛ばされ、地面を転がり、その者に怒鳴り声を上げる。
「急に出てきて何すんだよ!! いてぇじゃねぇかよ!!」
そこに居たのは黒髪の女性。
キリオの錬金術の師匠「シリス・アルタイル」だった。
「かわいい弟子との戯れ愛だが?」
「合いを変えるな!!」
「しかし、危なかったなぁ? ゴブリンに攻撃されるところだったぞ?」
「なら! なんで俺まで攻撃してんだよ!? しかもあれは俺の客だ!」
『あ! 言った手前……嫌な予感する……』
「ん? だから刺客だろ?」
「その刺客じゃねぇよ!!」
『やっぱり……同じ件来ちゃったよ』
キリオは言葉を続ける。
「散髪客だよ!」
「はぁ!? 笑わせんな! どこにゴブリンの髪切るバカが……」
「んだコラァ!? なんか文句あんのか? 」
「……あ……確かにお前ならやりそうだな。ゴブリンに怨みを持つ人間が多いと言うのにお前はまったく」
「うるせぇわっ! 俺は髪切って喜んでくれればそれでいいんだよ!」
「フン……お前らしいな」
シリスは優しく微笑んだ。
そして、吹き飛ばされたナタが帰ってくる。
「いたたたた……」
キリオがナタに声をかけた。
「今日お前災難だな?」
「ええ……どうやらそう見たいです……いたた……ちなみに先生? こちらの方は?」
「あぁ……紹介するよ。俺の錬金術の師匠シリス・アルタイルだ」
「今、紹介されたシリスだ! よろしく! しかし、随分礼儀正しいゴブリンだな? お前何かやったのか?」
「またそれかよ? 髪切って名前与えただけだよ」
「はぁ!? お前が名前を!? どうやって!?」
「もうそのくだり終わったから説明は今度するよ」
「おい! 随分と師匠を安く扱うじゃねぇかよ!」
「あんたの取り扱い説明書が有れば考えるわ……で? シリスは何しにきたの?」
「あ! そうだった! プロンにミィナを連れてきてくれって言われてたんだ!」
「プロンさんに?……何の用があったの?」
「分からん!」
ナタが間に入りキリオに聞く。
「その……プロン様とは?」
「あぁ……ミィナとさっきのジムの師匠で国師の人だよ」
「な!? なんと!?」
「相変わらずシリスは適当だな! とりあえずミィナは今出かけてて居ないよ」
「そうか! なら明日プロンの所に来る様に言っといてくれ! 私は帰る!」
「はいはい……おつかれ」
『さっさと帰れ帰れ……お前が居たら地獄メニュー組まされちまう』
「たまには帰ってこいよ!」
シリスはそう言って帰る。
「しらけたな」
シリスの背を見送り、改めてキリオそう言った。
「私は構いませんが?」
「でどう? ツルギには勝てそう?」
「勝機は見えた気がします! 私も体格はいい方ですが、ツルギには負けますので、柔道部と言うのは打ってつけかもしれません」
「なら楽しみだな。んで? その祭はいつあんの?」
「長を決める決勝戦は明日でございます!」
「明日かよ!」
明日にキリオはゴブリンの村へ行くことになった。