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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
2章「過去編」
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「ジムの決意」

「ジムの決意」




ジムは左眼に魔力を送った。

この時の為に練習してきた魔力操作。

眼球からシナプスを渡り、視覚情報を処理する大脳皮質の後頭葉へ魔力をゆっくり送る。



『できた……』



ジムはゆっくり瞳を開ける。



「っ!?」



ジムはそれを見た時の驚きで息が詰まった。



「……な、なんだよ……これ……」



アンカー・ベガの背後から心臓に目掛けて突き刺さる紫黒色の槍。

更につかの方では無数にある禍々しい瞳がこちらをのぞき、瞳の中では数字が刻印され、何かを数えていた。



































挿絵(By みてみん)






アンカーは不気味に笑い言う。



「ねぇ……教えてよ……あなたには……何が見えてる?」



想像を絶する禍々しい物。

突きつけられた現実にジムは言葉を押し出す。



「……し、心臓に刺さる………これは時計……なのか?」


「……合ってる」



ジムは自分で言った言葉で更に理解した。



「……! まさか!? この時計は!? 命が終わるまでの時間か!?」


「ご名答……そうよ……私の寿命はもって後2年ってところね」



衝撃の真実にジムは驚きを隠せなかった。




「……こ、こんなの……」



目の前の真実にジムは驚きから苛立ちへと変わり、しかしその感情を必死で抑える。



「わかったらもう黙って……誰もどうする事も出来ないのだから」



アンカーは突きつけた現実に無謀だとわかりジムは帰ってくれるとそう思っていた。



「……まだ……」


「……え?」



「……無理だと決まったわけじゃない!」


「……ど、どうして……」



意味がわからなかった。

これだけ禍々しい怨念の呪いを見ても尚、まだ抗おうとするジムにアンカーは理解ができなかった。



「教えて欲しい! これはなんなの?」


「……。」



アンカーは迷う。

希望を抱いてしまえば裏切られた時の痛みを知っていたから。



「……教えて……」


「……ベ、ベガの名をぐ者の呪い……」



言ってしまった。

アンカーはその事実にスカートの裾を強く握りしめる。



「……でも師匠のペテルさんは生きて……」



自分で発した言葉でジムはまた理解し、言葉を綴る。



「……まさか!? の、呪いを……弟子へと移しているのか!?」


「……ええ……そうよ……それが治癒師ベガの名を持つ者の宿命」


「ベガの名を持つ者はそうやって今まで生きながらえて来たんだね……」


「……そう」




ジムは必死で考え、更に事実を見つけてしまう。



「……! ちょ、ちょっと待って……現五大選使は今ペテルさんだ……弟子に呪いを移していると言う事は……君に後2年で五大選使になって弟子を持つ事は……」



ジム自身その次の言葉を口に出すのを躊躇うも漏れてしまう。



「……ふ、不可能だ……」


「ええ……だから私は何にも期待はしない。この先ですら生きていたいなんて望んでいない。わかったなら帰って」



少なからず、ジムはアンカーを転生前むかしの自分に重ね理解していた為に言う。



「……そんなの……嘘だ……」



アンカーにはジムが何を根拠にそう言ったのかはわからない。



「嘘じゃない……私は今が幸せ……」



一呼吸置いてアンカー・ベガは話を続ける。



「……私の人生はもう終わっているはずだったの……孤児院で育ち、物心ついた時には親は居なかった……どこかの貴族に性奴隷として売り飛ばされるのをただ、ただ待っているだけの日々……」



それは自分の昔話だった。



「……でもそこへ来たのはペテルさんだった。少しでも常識ある人生に興味はないかと言われた。呪いの話を聞き私はそれでも承諾したの。私にとってそれだけでも救いだった……」




アンカーはジムを諦めさせる材料として話す。

しかし何故、自分の昔話を話し始めてしまったのかはアンカー自身わからなかった。



「……その先に少しでも幸せがあるならと私はペテルに着いてきた。だから私はもういいの……今が幸せだから……」



アンカー・ベガの話を聞き、ジムはアンカー・ベガの心を見つける。

見つけたその確信がまさに転生前むかしの自分と同じ物だった為にその確信と共に感情は苛立ちに変わり、苦しさを噛み締め、言葉を押し出して言う。



「……君は……笑えていないじゃないか………」


「……。」



アンカー・ベガ自身、暴かれていく気づかなかった自分の感情に服のすそを強く握る。



「……君は今言った……幸せを求めて来たと……」


「……。」

『……自分でもわからなかった。いや、忘れていた。違う、押し殺していたんだ……』



アンカーは見つけてしまった。

自分自身の理性で隠れていた感情を。

アンカーのその手は震え始める。



「……言えばいい……」



ジムに呪いを解除する方法の当てなどなかった。

しかし、ジムはアンカー・ベガ自身の自分の心に、想いに、嘘に、偽りに、気づいてほしくて感情が表に溢れ出す。



「……言えばいいじゃないか!! ただ一言言えばいいんだよ!! そのたった一つを言えよ!!」


「……。」



黙り俯くアンカーにジムは言った。



「……本当は助けて欲しいって!」



ジムは想いと感情を一杯に言葉に乗せて伝える。



「自分の気持ちを押し殺して毎日を過ごして何が幸せだって言えるんだ!! それは幸せとは絶対に言わない!! 師への思いはわかる!! 周りを遠ざけたい気持ちもわかる!! でもそれと自分の思いを天秤にかけるなぁ!! 命と事情が比較になってたまるかぁ!! 君は幸せを求めてここへ来たんでしょ!? 自分自身の本当の気持ちに既に気付いてるんでしょ!?」




そして、アンカー・ベガの溢れ出した感情が漏れ、服を水滴が濡らす。




「自分の心と向き合えよ!! そして! 一言言ってみろ!! 本当に助けて欲しいなら言え!!」



そして、ジムは感情から叫ぶ。



「僕が!! 君を!! 必ず!! 助けてやる!!」


「……。」



もうアンカーの感情は限界だった。

押し殺していた理性の蓋がジムによってこじ開けられ、ずっと深い、とても深い闇に居たアンカーの感情が溢れ出し言葉が漏れる。



「……た……助けて……本当はまだ……わ、私……死にたくない!!」



ジムはその言葉を聞き、力強くアンカー・ベガを抱きしめ言う。



「必ず! 僕が! 助ける!」



それは転生する前の過去にジム自身が誰かにそう言って欲しかった言葉だった。






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