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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
2章「過去編」
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「肯定と否定と矛盾」

「肯定と否定と矛盾」








「今日はアンカー・ベガに接触してみようかな」



ジムは次の授業の為、訓練場へと移動していた。

しかし、その時だった。




「アンカー様! ご一緒してもよろしいですか?」


「構わない……そして、私を呼ぶときはアンでいい」


「あ、ありがとうございます!」


「敬語も禁止……私はそんな人じゃないから」


「じゃ……アン? ありがとう!」


「どういたしまして」


「実は聞きたかったんだけど、次の授業の内部的治癒の魔力操作が分からなくて……ここの部分を教えてくれないかな?」


「ここは外的損傷による内部の損傷なのか、内部からの損傷なのかをまず見極めないと先が理解できないんだよ」


「……ってことは、最初に魔力操作で探知が必要ってこと?」


「そう言う事」


「なるほど! アンやっぱり凄い!! もっともっと教えて!!」


「私で良ければ全然構わない」




目の前には友達と楽しそうに歩く、アンカー・ベガが居た。



『……え?……』



ジムはその気さくなアンカー・ベガを見て、花園はなぞのの時の印象と雲泥の差に驚いたがしかし、すれ違う最後の最後までアンカー・ベガが笑う事はなかった。




『……あんな小さな体にいったいどんな重い呪いを背負っているんだろう』



そして、1日の授業と訓練を終え、ジムは1人自由時間を使い、アンカー・ベガがいた花園へ来ていた。



『やっぱり……ここに居た』



花を一望出来るベンチに1人で座るアンカー・ベガを見つけ、ジムは声をかける。



「こんにちは! アンカー・ベガさんだよね?」


「……。」



何も言わず彼女はただ無言で光の無い瞳をジムへと向けてきた。



『やっぱり……昼間とは印象がまるで違う』

「隣り……座ってもいいかな?」


「……お帰りください」


「そう固いこと言わないでよ! 師匠同士も仲いいんだからさ!」


「ええ……知っています。だからお帰りください」


「それどう言うこと?」


「あなたには関係ありませんのでお帰りください」


「……呪いと関係が?」


「師匠から聞かれたのですか?」


「……違う。僕はただ友達になりたくて声をかけた分けじゃないんだ」


「呪いが目当てですか?」


「その解釈には語弊ごへいがあるけど。僕はきっと君の手伝いがしたいんだと思う」


「無理です」


「どうして?」


「あなたには不可能だからです」


「そんなの僕が判断する事でアンが決める事じゃないよね?」


「気安く私の名を呼ばないでください」


「……。」

『………やっぱり似てる……』


「もう……受け入れているので」


「……。」

『……重なる……』


「だからもうお帰りください」


「……ごめん……悪気は無いんだ。けど、君を放っては置けない」


「その言葉……随分と自己中心的ではありませんか? そこに思想わたしが入っていませんが?」


「そうだね。自己中心的に考えるなら……僕からしたら君が悪いんだ……」


「は?」


「……君がそんなに寂しそうな顔をするから……僕は君を放っては置けなくなる」


「では、やめます。それで満足ですか?」


「じゃ……君は今、ここで笑うことが出来るの?」


「……。」

『何も知らないくせに……』



アンカー・ベガはうつむき、スカートの裾を握りしめた。



「 僕は昔、全てが嫌いだった。自分がこの世に産まれた理由が本当に存在したのか疑っていた」



ジムは自分を語る。



「 報われる事のない毎日。やるせない毎日。多分、努力が正解だったんだ。でも……」



ジムは遠くを見つめ、昔の自分を思い返し言葉を続ける。



「……僕はそれを見つけられず、壊し続けた。自分を、家族を、社会を、友人を……他にも色んな物を。それでも時間は流れ、すぐに希望と言う名の物がまた作り上げられる……それを見ていてまた壊す日々……」


「それがどうしたと言うのですか?」


「どうもならないよ。ただそれだけ……」


「意味がわかりません」


「……どんどん沈んでいくんだ……」


「……。」


「……御伽噺おとぎばなしのように誰かが助けてくれるわけでも無い。いや……もしかしたら声をかけてくれた人がいたのかもしれない。けど……その時の僕には気づけなかった……鬱陶うっとおしかったのかもしれない」



ジムは視線をアンカーへと戻し言葉を綴る。



「……ごめん……君と重ねる気は無かったんだ。ただ……あの時の僕は放って置いて欲しかった……君と同じように……でもだから僕はその未来さきを知っている」


「……。」


「それだけ……」


「……私が間違っていると言うのですか?」


「そうは言ってない……」


「期待は壊れた時にはかなさに変わります。結果、自分を苦しめる」


「そう……だから全てを否定して自分の心を守っているんだ」


「……!」



アンカーはジムの言葉に当てはまってしまった事に今初めて気づき言い返す。



「あなたはなんなんのですか! 否定もしなければ肯定もしない! いったい何がしたいですか!?」


「……君を放って置けないんだ……」


「そんなのただの矛盾むじゅんじゃないですか」


「そう……これは矛盾だ……でも……矛盾が正しい」


「は? 何を言っているんですか?」


「昔の僕は矛盾を作らず、結果を取った。その先に未来は存在しなかった。でも……多分、矛盾があるから悩み、考え、ようやく導き出した結果ならどうなっていたんだろうと思う」


「……。」



アンカーはいつの間にかジムの言葉に耳を傾けていた。



「……そして、その矛盾を考える時……1人より2人、2人より3人の思想があればもっと変わっていたのかなって。例えて言うならほこだけしか持たない物は誰も守れない……たてが必要になる。だが、盾は矛がないと攻撃できない。だから矛と盾の矛盾むじゅんが正しいんだ」


「そんなのただの言葉遊び……」


「……君が否定し、身を護り、盾となるなら僕は君を肯定しほことなるよ……」


「……。」



気づけばアンカーはジムの言葉に納得している自分が居た事に気づいた。

しかし同時に現実を理解させようとも思い言葉を綴る。



「……好きにすればいい……それでも私は期待しない……あなたには不可能だから」


「……ありがとう……今から君を魔眼で調べさせて貰うね」



ジムは左眼に魔力を送った。

この時の為に練習してきた魔力操作。

眼球からシナプスを渡り、視覚情報を処理する大脳皮質の後頭葉へ魔力をゆっくり送る。



『できた……』



ジムはゆっくり瞳を開ける。



「っ!?」



ジムはそれを見た時の驚きで息が詰まった。



「……な、なんだよ……これ……」




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