「美容師をする為に」
「美容師をする為に」
「今から錬金術の基礎を教える!」
ジムの髪を切る為に鋏が必要となり、シリスから錬金術を急遽教わることになった。
「私が名前を授けた事で錬金術の力が使える様になっている! 錬金術を使う上で簡単な理論は円を作る事だ!」
「円?」
「この世界で戒現値、所謂、実体化させる力が少なくても唯一出せる方法が錬金術の円だ! それを錬成陣と言う!」
シリスが紙に描いて見せる。
「これが錬成式を組み込んだ錬成陣だ!」
『あぁ……嫌な予感する……まさかあの漫画と同じ理論なのか?』
「そして、この錬成陣の上に例えばこの外で拾ってきた小石を置き、錬成陣に魔力とイメージを送る!!」
シリスが手を翳し、錬成陣が発光。
光が小石を包み込み、形が徐々に変化した。
「じゃんっ! 小鳥の置物の完成!」
小石は形を変え、シリスのイメージから作り出した小鳥の石像へと変わった。
『錬金術はどの世界でも一緒なのか……って事はまさかシリスが錬成陣を使わないでプロンの家の壁を直した理由が少しわかったかも』
キリオはそう思いシリスに聞いた。
「シリスが錬成陣を使わずにプロンの家の壁を直したのは頭に錬成式が入ってるからなのか?」
「おお! 察しがいいなぁ! でも! 少し違う!」
「なに!?」
「そこまでの知識量を頭に叩き込む事は難儀だ! でも昔の文研で見たが、方法もあると聞く! それは「叡智乃超越」! それを手に入れれば可能らしい! しかし、それは御伽噺の話だ! 私の場合はこれだ!」
シリスは腕を見せ、少し魔力を送る。
徐々(じょじょ)にシリスの皮膚に錬成陣が浮かび上がった。
「体に錬成式を刻み込むんだ! あたしの場合は指を輪っかにし、ここで円を作り、そして、指を鳴らすと発現する様に組み込まれてる」
『それって漫画の手の平でパンも同じ原理やん……絶対やっちゃダメな奴……』
「キリオは魔力量はある! だからかなり高い錬成が可能だ!」
シリスはプロンの家にあった黒板を持ち出し、絵を交えて色々説明する。
「そして、魔法は何も無くても発現できる。しかし、錬金術はその物から物しか作れない。物質があって物質を作る。それと分からないものは錬金出来ない。自分で感じて、構造を理解して、分析した物しか作れない。例えば……そうだな……取り敢えず剣を作ってみろ!」
シリスは先程の紙に書いた錬成陣の上に鉄の鉱物を置いた。
「まず、キリオが思い描く剣を作ってみな!」
「え? どうやんの?」
「手を出して魔力を送るだけでいいんだよ!」
「だからその魔力はどう送るんだよ!」
「たく! しょうがねぇなぁ! 目を閉じろ!」
シリスがキリオの背中に手を置いた。
「今、お前の中にある魔力を循環させる……その循環を感じろ」
『うお!? な、なんだこれ!? 血液の流れ? いや……何か体の中で回ってる!? こ、これが魔力!? これを右手に集めるのか?』
鉄の鉱物に手を翳し、その流れる魔力を右手に集中した。
その時、輝きと共に鉄の鉱物がキリオの思い描く剣へと姿を変えた。
「おお!! で、できた!!」
自分でも驚く出来に嬉しさが込み上げた。
「悪くない形だ! しかし……」
シリスがキリオの作った剣を手に取りコンコンと叩いたその瞬間、意図も容易く剣は折れてしまった。
「え!? な、なんで!?」
「お前は今ビジュアルイメージだけで作った。でも確かにイメージは大事だ。イメージする事で具現化を手助けしてくれる。だが、イメージだけではダメなんだ」
シリスは折った剣をテーブルに戻し話を続ける。
「剣という物は高温で熱され、叩かれ、恐縮され、硬さがでる。錬成する上にあたって熱を加えたり、そのイメージを送らなきゃならない。キリオは圧倒的に知識とイメージ不足だ」
「な、なるほど……」
「更にイメージをより膨らませる為に名前やタイトル、技名などあったほうがいいぞ」
「なんで? なくても出来るだろ?」
「確かに低物なら名前はなくても問題ない。しかし、大掛かりな錬成は名前がかなり重要になってくる。イメージと共に名前は思いや気持ち、願いなどが組み込まれる」
シリスはまた絵を交えて説明する。
「親は子供に思いと願い希望を乗せて名前を与えるだろ? それと同じだ。名前があるからこそ、そこに思いや願い、希望が入り、それが力と変わる。だからクオリティをあげるなら名前は必要なわけだ」
「そう言うことか……なんとなくわかった。じゃぁ……うん! 尚更問題ない!」
「はぁ? 出来てないのに問題ないわけがあるか?」
「いいから! シリス! 早く鉄をくれ!」
「どうせ失敗して終わるんだろ?」
シリスはそう言いつつも錬成陣の上に鉄の鉱物を置いた。
キリオは同じように手の平を翳し、さっき理解した魔力の流れを感じ取る。
『よし……この流れは掴めた。後は俺が最も愛用し、ずっと共にしてきた相棒をイメージする。形も覚えてる。手の馴染みさえ忘れてない。仕組みも、切れ味も、理解している……来い……来い……来い……』
キリオは無意識に魔力を目一杯送り込んでいた。
錬成光が激しく発光し、衝撃音まで飛び交い、先程とはまるで違う錬成にシリスは驚いた。
そして、光が更に強くなった瞬間、弾ける様な音を奏でてキリオの右手には鋏が完成していた。
「……で、出来たぁ!!」
「ちょ、ちょっと見してみろ!!」
シリスはキリオの放った余りの錬成光に、直様キリオの鋏を確認した。
「な、なんだ……このデザイン……洗練された形……強度……光沢……錬成度がか、かなりた、高い……」
そして、キリオに鋏を返し、シリスは言った。
「……ま、まぁまぁの出来だな! よくやったぞ!!」
それを見ていたプロンが言う。
「あら? シリス? もしかして負けた?」
「バカ! そ、そんなことなんてあるもんかぁ! まぁ……そりゃ……素晴らしい出来過ぎて驚いたけどよ!!」
「そう……素直でよろしいわ」
そして、ジムが口を開いた。
「鋏も出来た! 美容師もいる! じゃぁ! 早速切ってよ!!」
そして、庭へと出てジムの髪を切ることになった。
椅子にジムを座らせ、シリスに作ってもらったクロスをジムの首に巻き、コップをに水を入れジムの髪を濡らした。
「キリオはどのぐらい美容師やってたの?」
準備してる最中にジムが聞く。
「高校卒業してからだからもう9年になるかな?」
「お!? 安心できる! 取り敢えず形を変えずに長さだけ短くしてくれないかな?」
改めてジムのスタイルを確認するとボブスタイルが伸びきった形だった。
「ボブ気に入ってるの?」
「うわ! ボブってワード懐かしい! キリオが来るまで日本の話出来なかったからさ! なんか新鮮!! そうだね! 前世ではボブなんて出来る顔立ちじゃなかったからね! 今は結構気に入ってるんだ!」
「わかった! 任せて!」
そして、キリオはジムの髪の毛の束を切っていく。
一回一回しっかり切りながら鋏の状態を確認する。
『いつものステンレス銅じゃないから少し重いけど……大丈夫……よく切れてる……』
そのキリオのカットを物珍しそうに、シリス、プロン、ミィナは食い入る様に見ていた。
そして、余りの興味にシリスがキリオに話しかける。
「な、なぁ? キリオ? 髪を切るのにこんなに髪を小分けにする必要あるのか? 大束でガッツリ切っちゃダメなのか?」
「そうすると髪の重なりがうまく繋がらないんだ。ボリュームを出すところには髪を重ねて、ボリュームが要らないところは髪の重なりを避けなきゃならない。全て切る位置には意味があるんだ」
「いやぁ……お前らの日本は凄いなぁ!」
師を司る者達は日夜研究を重ね、国へと情報を提供しなければならない。
それ故に師の全ては勉強熱心だった。
そして、次にプロンが口を開く。
「ねぇ? 先程ボブと言っていたけれども、他には何かあるの?」
「ボブはスタイルって言って髪型の名前を指しています。他にはワンレングスとか、レイヤーとか色々ありますよ」
「……決めたわ! 次は私の髪を切ってちょうだい!」
その言葉にシリスが割って入ってきた。
「おい! 次は師匠であるあたしだろぉ!?」
「あなたはいつでも切ってもらえるでしょ? 私に譲りなさい!」
「はぁ!? そんなの関係ないだろぉ!?」
「あら? うちの壁を壊したのは誰だったかしら?」
「それはもう元に戻した! チャラだ!」
「では! 魔法師権限の恩恵をもう要らないと言うことでよろしいのかしら? 今まで食べ物や、その他に至る物、全てもう要らないと?」
「ずるいぞぉ! プロン!!」
「ええ! 私もそう思うわ! しかし、譲る気はなくてよ?」
「……く、くそ……このやろぉ……ちっ! わ、わかったよ!」
その後、キリオはミィナも含めて全員の髪を整えた。
「ふぁー! スッキリした!」
「ええ! 少し切ってもらうだけでこうも違うのね!」
「私まですいません。」
シリス、プロン、ミィナはご満足の様子に対し、キリオはまだ不満の様子だった。
それを見てジムがキリオ聞く。
「どうしたのキリオ?」
「本当はシャンプーとかもできたらいいんだけど……」
「あ! たしかに! 錬金術で作っちゃえばいいじゃん!」
「俺もそう思う。けど、おそらくシリスでは作れない。構造、素材、全部含めて俺にしか多分作れない。でも、今の俺にはもっと作ることが出来ない……だから……」
「だから?」
「俺には錬金術が必要だ。この異世界で美容師をするには錬金術が必要不可欠だ。俺、覚えるよ。錬金術しっかり覚えてこの世界に美容室を作る」
「いいね! それ! 絶対いいよ!」
「その時はまた髪を切らせてくれよ!」
キリオは笑ってそう言った。
説明。
ジム、シリス、プロン、ミィナの髪を切っても変化は起きません。
元々高魔力を保持している為、キリオの魔力の影響を受けないからです。