「仕返し」
「仕返し」
キリオとミィナは店内の片付けで追われていた。
しかし、キリオは錬金術師の為、お店の半壊と家具の破損、全て錬金術で簡単に直してゆく。
「異世界は夢の様だな! 錬金術なら片付けがこんなに楽ちん!」
キリオが錬金術で直した家具をミィナが風魔法で元の位置へと移動させながら言葉を返す。
「でも錬金術って凄いですよね。魔法より羨ましいです」
「俺からしたら魔法の方が羨ましいけどね」
キリオは更に言葉を続ける。
「でも、錬金術には感謝してる。錬金術は創造する為の材料さえ有れば、魔力を媒介に俺のイメージを作り出せるからな。それに、錬金術師じゃなかったら俺はこの世界で美容師も出来なかったしね」
「でもあんまり魔力を使い過ぎるとキリオ様でもバテちゃいますよ?」
「俺がバテると思うか?」
「そうですね! 確かに! あ! 魔力量と故郷に関係は無いのですか?」
「故郷には魔法は存在しないから魔力量が多い理由が俺にはわからないんだよな……でも異世界に転移したって事と、この魔力量の多さは何かしら意味はあると思うんだけど……」
「そうですね……無意味にそんなチートな事はないですからね」
「そんなことよりも……俺は早く髪の毛を切りたいよ……切ってお客様に喜んでもらいたいよ。俺は異世界美容師ライフを想像していたのに……ハァ……」
キリオはため息を吐き、更に言葉を続ける。
「異世界きてから修行の毎日になっちまったからな。もう……あんな地獄メニューはやりたくない……」
「シリスさんの修行は厳しかったですからね」
「あのクソ女! 俺の体が少し丈夫だからって調子に乗りやがって!」
「そんなこと言ってるとシリスさんに怒られますよ?」
「それもそうだな……こう言う話してる時に限って来たりするんだよなぁ」
その時だった。
店内の扉の鈴が鳴り、誰かがお店に入って来た。
「ま、まさか!?」
キリオは振り向き、確認する。
しかし、そこには扉の幅ギリギリの体格が良いゴブリンが体と同じぐらいの大きい鉈を持ち立っていた。
そして、キリオを見つけては怒鳴り声を上げる。
「てめぇらかぁ! 俺の部下を可愛がってくれたのはぁ!?」
それを見てミィナが口を開いた。
「おや? 今度のお客様は上級ゴブリンですね」
キリオは師匠では無いことに安堵し、口を開く。
「いらっしゃいませ……本日はどの様な御用件で?」
『シリスじゃなくてよかったぁ……でもこれ、さっきのゴブリンの仕返しか?』
キリオは美容師のプライドを見せ、一応お客様対応で言葉をかけたが、ゴブリンは白々しいキリオに対し怒りを表した。
「どの様な御用件か!? じゃねぇんだよ!!」
その瞬間、ゴブリンは右手に持つ鉈を壁に振り放ち、お店の壁を破壊する。
「あ……キリオ様? またお店が壊れましたよ」
「あぁ……ミィナさん? それは言わなくてもわかるよ? 今物凄く頭に血登ってるから……でもね、一応お客様だから……うん……お客様だからさ……」
キリオは腹の底から押し寄せる怒りを押し耐え、顔が引き攣った状態でゴブリンに向け言う。
「あ、あの……ゴブリン様? これ以上お店を壊さないで頂けますか?」
「ほう? そんなに店を壊されるのが嫌なのか?」
ゴブリンがその言葉を発した時だった。
その場で鉈を力一杯に振り抜き、お店を更に何度も何度も壊し始める。
「なんでこうなんだよぉ! オープンしたばっかなのに壊されるってどぉいぅうことぉだぁよぉお! やめろってっ! それ以上壊すのまじやめろってぇのぉ!」
キリオは頭を抱えて絶叫する。
しかし、キリオには目もくれずゴブリンはお店をどんどんと破壊していく。
それにキリオはもう耐えられなかった。
「良い加減にーー」
キリオは右腕を左手で掴んだ瞬間、皮膚に錬成陣が発光。
地面に手を叩きつけて錬成する。
「ーーしろぉお!」
木材で出来たお店の床が青い錬成光と共に形を変えてゴブリンの体より大きい拳を作り、力一杯に殴りる。
ゴブリンは外へと吹き飛ばされた。
「あ、兄貴ぃ!?」
外に出るとそこには先程の下級ゴブリン達が武器を構えて上級ゴブリンを守る。
「……チっ! クソめんどくせぇな!」
キリオは地面に右手をつけ、また錬金術を使用する。
そして、地面から腕の形をしたコンクリートを作り出し、10匹程の下級ゴブリンを捕まえ、動けなくさせた。
「くそがぁ! 何しやがる!」
上級ゴブリンが怒鳴り声を上げながらキリオをに鉈を構え、キリオは言葉を返す。
「何しやがる! じゃないんだよ! 俺の店をまた壊しやがって! 逆にお前らは何がしたいんだよ!」
キリオの問いにゴブリンが言葉を返した。
「小鬼達のやる事など決まってるだろぉがぁ! 生きる為に奪い! 破壊し! そして、家族を守る!」
「おいっ! 最後だけかっこいいじゃねぇかよ!?」
「うるせぇ!」
上級ゴブリンが鉈をキリオに向け振り上げる。
キリオは防ごうと瞬時に地面から鋏剣を錬成したその時。
キリオは違和感に気づいた。
「あ!?」
ゴブリンが鉈を振り下ろし、キリオは鋏剣で受け止め、鬩ぎ合いになった所でキリオはゴブリンに話しかける。
「なぁ!? ゴブリン様よ! この勝負で俺が勝ったらどうする?」
「はぁ!? お前が勝つなど有り得ない!」
「いいから! 俺が勝ったらどうするよ?」
「ふんっ! その時はなんでも言うこと聞いてやるよ!」
「いいねぇ! 言ったかんな? 今! 何でも言うこと聞くって言ったかんなっ!」
キリオはゴブリンから承諾を貰ったことで一気に闘気が上がり、本気になる。
「武装錬金術……戒級強化!!」
その瞬間、キリオは凄まじい動きを見せる。
ゴブリンと鬩ぎ合いの中、一歩後ろに後退し、後方で力一杯に踏み込む。
しかし、その間ゴブリンは動かない。
その現象はキリオの余りの速さに時間が遅れ、停まって見える現象だった。
キリオはそのままゴブリンの鉈に目掛けて鋏剣を振り抜き、鉈を切断する。
そして、ゴブリンが気づいた時には鉈の中元から先が無くなっていた。
「…何!? これか!? 部下が言っていた見えない斬撃は!?」
ゴブリンは驚きの余りに聞いてしまう。
「なぜだっ!? なぜ鉄の鉈を斬れる!?」
「俺の身体能力は異世界の住民より格段に上なんだよ! 更に加えて武装錬金術は体内部の物質変換させる事によって身体能力を更に上げることが出来る!」
『まぁ……転移してからのチートの理由はわかってないんだけどな』
そして、キリオはまた地面に錬金術を使い、コンクリートでドライヤー型のデザインされた大きいハンマーを作る。
「やべ! 重っ!? ちょっと大きく作り過ぎたか? でもまぁ……いっか!」
キリオがハンマーに魔力を送ると、ハンマーの中にあるファンが激しく回転する。
「これで俺の勝ちは決定するけどどうする? 降参するか?」
「人間ごときに降参などありえんわ!!」
ゴブリンは雄叫びを上げ、キリオをに殴りかかろうと突き進む。
それに対し、キリオはハンマーを大きく振り上げた。
「俺の勝ちだぁ!!」
ハンマーを振り上げたと同時にキリオは魔力を更に込め、ハンマーの反対側から爆風が音を立てる。
目では捉えられない速度でハンマーは地面へと叩きつけられ、凄まじい衝撃音と共に辺り一体にクレーターを作った。
「……な、何が……はっ!?」
ハンマーはゴブリンの目の前に叩きつけられゴブリンはキリオの凄まじい攻撃に一瞬何が起きたのか分からなかったが、辺りの惨劇を目の当たりにし、殺されなかった事を理解した。
「お、俺の……負けだ」
「認めたな? さっき何でも言う事聞くって言ったよな?」
キリオはそう言いつつハンマーを分解し、地面に戻す。
「あぁ……」
「へへ……じぁ……」
キリオの怪しい笑みにゴブリンは唾を飲み、そして、キリオは言った。
「その髪! 俺に切らせてくれないか?」
上級ゴブリンには髪が生えていた。
「……え?」
キリオの拍子抜けたお願いにゴブリンは目が点になる。
そして、頭の整理がついて口を開いた。
「散髪事でいいのか?」
「散髪でいい! いや! 散髪がいいんだ!」
キリオは異世界で初めてのお客様を勝ち取った。