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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
1章「異世界美容室開店」
23/87

「わがまま」

「わがまま」





キリオはみなが待つ自室に戻り、そのキリオに違和感を感じたジムが聞く。



「キリオ? 何かあったの?」



その違和感にミィナも気づき声をかける。



「キリオ様? どうされました?」


「あぁ……実は今……」



キリオは皆んなに真縁の事、自律錬成の事、ノプス・アルタイルの事を説明する。

ジムはそれを聞いて少し安心していた。

キリオが自ら危険に身を乗り出す程の正義感が無い事に。




「なぁ? 俺達の世界の創作物の主人公ってなんで戦ってんの?」



キリオは最後に疑問をジムに投げかけ、それを聞いてジムが口を開いた。



「色々あるよね……正義感がおもだと思うよ? 守りたい、助けたい、間違いは正すとか! 他だと身近な大切な人を殺され、恨み、憎しみ、とかだよ……ね……」




ジムは自分で言ったその言葉で気づき、驚いた。




『も、もしかして懶神なまけがみの狙いって……』




深刻な表情のジムにキリオが疑問に思い聞く。




「どうした? ジム?」


「あ! い、いや! 他には降りかかる火の粉を払ってたら世界最強になる話もあったなって!」


「あぁ……そんな話もあったな……」


「キ、キリオはさぁ! その主人公みたいに身近な大切な仲間が死んだらど、どう思うの?」


「ザーコみたいにか?」


「あ、うん……」


「正直、ザーコの死に際は思い出したくないけど……俺、白い部屋でザーコと最後に会ったんだ」


「え!? なにそれ?」


「そこで、フールの事をお願いされたんだ。そんで約束した」


「そ、そうなんだ……んで? どうするの?」


約束それを果たす事が正義感なのか、ただの同情なのかよくわからない。そんな物、俺が簡単に脚を踏み入れては行けない境界線さえ思ってる。でもせめてザーコの想いはみ取ってあげたいとは思う」


「なるほどね。要するにきキリオは身の周りだけの主人公でいたいと?」


「そ、そんなんじゃ……」


「でもそれって自己満だよね?」




その言葉にミィナがジムに言った。






「先輩! それは流石に言い過ぎです!」


「あ、ごめん……少し言い過ぎた」


「いや、ジムは間違ってないと思う。俺の言ってる事は子供と一緒だ」



ミィナがキリオ聞く。



「どういう事ですか?」



キリオは自分の感情に気づき、ため息を一つ入れて言葉を続ける。



「自律錬成。つまりこのちからを「世界のことわり」に例えて話す。ジムにわかりやすく言うなら「社会」で例えた方が通じるだろうけど……社会そのどの世界でも生きていく為にはその社会ルールしたがわなきゃならない。それに対して、今の俺が言ってるのは、ルールは嫌だ、この現状は嫌だ、命をかけるのは嫌だ、かと言って自分の目の前で命が消えるのも嫌だ。しかし、自分は責任を背負う事が嫌でなにもしないし、行動にうつそうともしない。それでもって死者の想いは汲み取ってやろうって………俺は最低で都合の良いことを言ってるんだ。」





自分を自傷し、徐々に落ちていくキリオに対しミィナは聞く。




「……つまり?」





そして、キリオは悟る様に、単的に、言葉を述べる。




「俺は子供の様な我儘わがままを言ってるんだ」




しかし、ミィナから帰ってきた言葉ば思いもよらないものだった。




「……? それの何がいけないのですか?」




ミィナのその言葉にジムが言う。




「僕達の社会では我儘その考えは良く無いんだよ」



ジムの本心では、このままキリオが不甲斐ふがいないままでいてもらいたかった。

危険に身を投げ出さず、余計な事に首を入れず、今後も2人で楽しく過ごしたいからだった。

しかし、そのジムに対してもミィナは言う。



「……ん? それの何がいけないのですか?」


「……へ?」



会話が通じないミィナにジムは変な驚きを見せる。

その中、ミィナは言葉を続けた。



我儘わがままとは「が、まま」転じて「われまま」ですよね?言い換えれば、自分は自分自身のまま




ミィナはジムにそう言って、キリオに向き直り言葉を続ける。



「キリオ様の世界でもこの世界でも社会ルールがあってもそれを決めるのは自分自身なのに代わらないですよね? 自分が後悔しないように道を選び、自分が信じた道へと進み、自分の願いを追い求める。それの何がいけないのですか?」




ミィナは言葉を続けながら、ゆっくりとキリオに歩み寄る。



「キリオ様は先程、先輩に言ってましたよね? 「ダメでダメならしょうがない」と。それはその道に進む事で後悔したくないから、その道に足を向けたのではないんですか? 私には2人が何に対し脚を止めてるのかが不思議でなりません。自分自身がじぶんままに進む事がそんなにいけないのですか?」




ミィナの言葉にジムは何も言い返せず、キリオは自分気付きもしなかった思想に考える。




「自分自身の想うがままにか……この世界は俺達の世界と違って自己満足それでもいいのかな……俺達の世界とは随分と違う価値観が必要なのかも……」



そして、キリオは自分の中での落とし所を見つける。



「……命をくすこの世界で迷いは後悔に繋がる……」



ミィナの言葉に、キリオは救いを感じた。

常識が当てはまらないこの世界で故郷の常識は通用しない。

キリオは自分がやりたい事を、思った事を、そうしたいと思った事をおこなっていいと悟った。




「ありがとうミィナ……とりあえずは後悔しない事から始めてみるよ」




キリオはそう言って立ち上がった。



「え? キリオどこ行くの?」



立ち上がったキリオにジムはそう聞いた。



「ザーコの汲み取り……フールにとりあえずザーコの言葉を伝えないと」




そう言ってキリオはフールの部屋へともう一度向う。



「フール?」


「……。」



キリオは優しく呼びかけるが、フールはまた無言のまま、空の瞳で窓から外を眺めていた。



「ここ……座るぞ」



キリオは近くにあった椅子に座り、またフールに話しかける。



「聞いても聞いていなくてもいい……俺はただここで独り言を話す」



キリオはただ話し始めた。



「俺は殺された後……白い空間に居たんだ。そこにザーコが居た……」



ザーコの名前にフールが少し反応を示す。



「そこでザーコは俺にこう言ったんだ……「フール様を助けたい」と……これの意味がわかるか?」


「……。」


「自分が死んでるのにザーコは死んでいても……お前を助けたいって彼奴あいつはそう言ったんだ」


「……。」


「愛する人を命を引き換えにしてでも助けたいって……でも引換それも叶わなかったと彼奴あいつは悔やんで泣いてたよ……もうフールに会えない悲しみよりもうフールを助けられない事にザーコは泣いていたんだ……」


「……。」


「実は、そこにザーコ以外にもマナークウルフの子供が居たんだ。そんでザーコが言うんだ……「このウルフは幸せの未来よりあなたに会いに来た」って……」


「……。」


「人と動物を比べていいのかはわからない……けど、同じ魂思意に、同じ思いの重さに変わりはないとザーコは俺に言っていた」


「……。」


「俺も、フールも、この命は助けられた命だ……本当はあの場所で全員が終わっていたかも知れない……」


「……。」


「恐らく、俺はザーコとマナークウルフの魂思意たましいを代価に生き返った……だから、俺にはザーコのこの思いをフールに伝えなきゃならない……」


「何が言いたいの?」




その時、フールが初めて言葉を口にした。

キリオは少し微笑み、言葉を続ける。




「ザーコはこう言ってたよ……「自分の命を犠牲にしてでも…愛する人には生きてて貰いたい」って……」


「……。」




フールからの返答はなかった。

しかし、どこか少し肩を揺らしてる様にも見え、キリオは更に言葉を続ける。




悲哀こういう時って……結局はいつも時間が全てを解決してくれる……長いかもしれない、もしかしたら短いかもしれない……それでも俺はそんなにあせらなくても良いと思う……時間が必要なのは十分にわかる……」



そして、キリオはザーコの思いを込めて言葉を綴る。



「けど……ザーコの思いに対してお前は時間で解決していいのか? 本当にそれを待ってていいのか? ザーコの思いが、時間と比べ物にならない事ぐらい……お前が一番わかってるよな?」


「……。」




しばらく沈黙が続き、間を見計らってキリオは立ち上がり、ドアノブに手を掛け、去り際に言う。




「俺は伝えたからな」



その時。



「……あなたは……」




フールが口を開いた。




「あなたはどうなの? 命と引き換えに助かった命に対してあなたはどう思ってるの?」


「……俺は……」




キリオは振り返り、口を開く。




我儘じぶんのままに進もうと思ってるよ」


「……そう……」


「……立ち直れたら……俺んとこ来いよ。そのボサボサの髪……俺が直してやる。ちょっとは気持ちもスッキリするんじゃないか?」


「……。」


「……じゃな」




キリオはフールの部屋を出て行った。

その足で真縁の所へと向かい扉をノックし、部屋へと入り言う。



「伝えたい事がある」



村長の席に座る真縁はキリオを見て聞いた。



「どうなされた」


「意思表明しとこうと思ってね」


「もしや? 考えを改めて頂けたのですかな?」


「違う……」


「では? なにしに来られた?」


「俺の考えは変わらない。世界を救うとか、ノプスの願いとか……どう考えても俺には関係ない……けど……」




キリオは一呼吸置いて言葉を続けた。

その瞬間。

真縁の目には何故か、キリオとザーコが重なって見えた。





「「俺は俺の想うままに進むと決めた」」




真縁は驚いた。

確かにキリオが言ったはずだった。

しかしその面影にザーコが重なる違和感に真縁から言葉が漏れる。




「魂思意の……錬成、ゆえか……」


「は?」




真縁の言葉はキリオには理解できなかった。



「いや、すまない……して? キリオ殿は今後どうするおつもりか?」


「やりたい様にやるさ。その過程で……ノプスの願いが入ってたとしても……」


「っ!?」


「それだけだ……」




キリオは部屋を出て行き、残された真縁は独り言を呟いた。





「……刻は……来ているのだな……」



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