「身勝手な道」
「身勝手な道」
キリオはツルギに案内され、フールがいる部屋の扉を開ける。
部屋は暴れたと伺える程に荒れ果て、虚な瞳で窓から外を眺めるフールがベットに座っていた。
そして、キリオはフールに歩み寄り呼びかける。
「……フール?」
「……。」
フールの顔は余りにも酷かった。
髪は乱れ、瞳に光はなく、ただただ外を眺め、心を閉ざし続けている。
その時、後ろにいるツルギがキリオに話しかけた。
「戻ってきた時にひどく暴れ……漸く落ち着いたのですが、それからずっと外を眺めているのです」
「……そうか」
その時、ドアのノック音と共にエルフの村長が現れ、キリオに言う。
「キリオ殿……起きられたと伺いました。詳しい話はツルギ殿から聞いております。しばし2人で話しをよろしいですかな?」
「はい」
キリオはフールの部屋を後にし、村長に案内されたテーブル席へと移動した。
そして、エルフ族の村長が話しを始める。
「今回は孫も助けていただき、大義でありました。まずは感謝を」
そう言って村長はキリオに頭を下げる。
「いえ……俺たちは何も出来てません」
「おや? キリオ殿が助けたと伺っておりますが? まぁ、どちらにせよ命があっただけまだ良かったと言えるでしょう」
「その様ですが、助けたのは俺で合って俺ではないんです」
その時、村長が驚きの一言を言った。
「もしやそれは自律錬成ではありませんか?」
「は!? 何でそれを!?」
村長の言葉にキリオは耳を疑った。
そして、村長は話しを続ける。
「この話は帰ってきてからと思い、伏せておりました。」
「……ど、どういうことですか?」
「自己紹介が遅れた事、深くお詫び申し上げます……私の名前は「シンエン」と申します」
「あ、はい」
「実は、私の名には漢字と言うものがあるのです」
その言葉にキリオはまた驚いた。
「……え? 今なんて言いました?」
「漢字です」
久しく聞いていなかった聞き慣れた単語にキリオは懐かしさと同時に驚きを感じる。
「な、なぜ……あなたが漢字を知っているのですか?」
「私は知りません。しかし、私に名をくださった方が知っていたのです」
「どういう事ですか?」
「私は初代錬金術師「ノプス・アルタイル」にお仕えしておりました。その方から私は真の縁と長い寿命を生かして長い縁を伝える者として、ノプス様から「真縁」と名を頂きました」
「初代錬金術師は日本人? 名前が日本語じゃないってことはジムと同じ転生者?」
「ほう? ジム殿も転生者でしたか?」
「あ! やべ!」
「いえ……隠さなくて結構。我々は恐らく、同じ敵と戦わなければなりません」
「敵?」
「ええ……我々は仲間である必要があります。その為にノプス様は自律錬成を作られたのですから」
その瞬間にキリオは何故か白い空間で出会った男を思い出した。
「……もしかして彼奴が……ノプス……」
「なんと? ノプス様に会われたのですか? どこで!? いつ!?」
「わかりません。俺が死んだ時に真っ白い空間に居ました」
「まさか! それはガフの間ではないですか!?」
「ザーコがそう言ってた様な……」
「そうか……やはり……」
「すいませんが、俺にも分かる様に説明してください」
「はい……私も詳しい話はされておりません。しかし、ノプス様はこの世界の終わりが来ると言ってました。その為に自律錬成を作ったと……そして、ガフの扉は魂思意の行き着くところの様でした。所謂死にゆく場所だと私は解釈しております。ノプス様は未来を次に託す為に、自らの命を錬成しお亡くなりになりました」
「自分を錬成した? それはどういうことですか?」
「それは私にもわかりません。自分を錬成したことで何をなしているのか。しかし、私はノプス様の考案された自律錬成はこの世界の希望だと考えています。ノプス様は最後に我々にこう言いました……「刻を待て」と。」
「そ、そうですか……」
キリオは困惑する。
真縁の言い方だと、キリオが世界の希望としてかがげられている。
異世界で良くある転移者の運命をそのまま感じ、それを踏まえてキリオは言う。
「すいませんが、俺がこの世界を救いたいと思ってると思いますか?」
「っ!? キリオ殿!? それはどういうことでしょうか!?」
キリオの言葉に真縁は驚いた。
待ち侘びてた「刻」が来たと喜びさえ感じていたにも関わらず、キリオから出た言葉は思いもよらないものだった。
そして、キリオは口を開く。
「俺はこの世界の人間ではありません」
「異世界人だとは思っておりました! しかし! 何故ですか!?」
「では、あなたはどうでもいい人の為に死ねと言うのですか?」
「なっ!?」
更にキリオは言葉を続ける。
「俺は勇者でもなければ、救世主でもない。ただの人間だ。しかも、この世界より甘ったるい日本で育ったんだ。俺に命などかけられる度胸も、責任も、使命も、ましてや恩すらこの世界の人間に対してあるはずがない」
「……。」
キリオの言葉に真縁は何も言えなかった。
そして、キリオは言う。
「すいませんが、失礼します」
キリオはその場の空気に耐え切れず、真縁を残しその場を離れた。