「御呪い」
「御呪い」
「おい! 待てよ!!」
気づけばジムはベットの上で叫んでいた。
「 く……懶神……」
「ジム様? 大丈夫ですか?」
ジムが声の方向に振り向くと、そこにはツルギが居た。
「あぁ……ツルギか……うん、大丈夫」
「そ、そうですか」
「キリオは?」
「まだ寝ています」
昨晩ーー
ジム達はボロボロの状態でエルフの村までなんとか帰り、余りの惨状に部屋を借りた。
「そうか……改めてごめんね。不甲斐ない所見せちゃったね……反省してる」
「いえ……とんでもない。わ、私も何も出来ませんでした」
「色々乃意味にごめん」
その時だった。
遠くから取り急ぐと伺える騒がしい足音が聞こえ、扉の前で止まる。
「どこなの!? ここ!? ここなのね!?」
「ここです!! ここに先生がぁ!!」
扉が勢い良く開き、激声が飛ぶ。
「キリオ様は!?」
「先生は無事なのですか!?」
そこにはミィナとナタが焦る形相で息を切らしていた。
それを見てジムが声をかける。
「やぁ! ミィナ! 久しぶり! 意外と速かったね?」
ジムとツルギはエルフ村で待機していた部下のゴブリンにナタとミィナへの伝令をお願いしていた。
「先輩!! キリオ様は無事なのですか!?」
「無事だよ……多分、学園の時のプロキオン国との試合にもあった現象だと思う」
「ま、またあったのですか!? 」
「うん……それでも……キリオに何が起こったのかわからない……だから無事とは言い切れない」
ジムはそう言って向かいのベットに寝るキリオを見てそう言った。
「な、何があったのですか…?」
「それは……キリオが起きてから話そうかな」
「そ、そうですか……今は待つしかないと?」
「いや……ミィナが来てくれて本当に助かった。キリオに目覚めてもらう為にミィナにしか出来ないことがあるんだよね」
ジムは真剣な眼差しでミィナにそう言った。
ミィナもジムの余りの真剣な表情に唾を飲んで聞き返す。
「そ、それは……な、なんですか?」
「前世に伝わる御呪いなんだけど……人を目覚めさせる儀式みたいなものだね」
「私やります! キリオ様の為なら私がやります!」
ジムはミィナの覚悟を理解し、そして、口を開いた。
「じゃぁ………キリオの唇にキスしてくれないか?」
「……へ?」
ジムの言葉にミィナは自分の耳を疑った。
「え? せ、先輩!? え!? はいぃ!? キ、キス!?」
「そう! キス! キリオの故郷の儀式では目覚めない男性に女性がキスをすると目覚めるって昔から決まってるんだ! だからお願い!!」
「でででで、出来ません!! そ、そんなこと! 私がキリオさんにキ、キス!? はぁぁっっ!?!!!」
顔を真っ赤にし、恥ずかしがるミィナ。
しかし、その中でナタが口を開く。
「ミィナさんが出来ないなら私がやります!!」
突然、その場の空気が固まった。
「……。」
しかし、慌ててミィナが激声を上げる。
「そ、それは!! ダッ…ダメです!! キリオ様にはわ、私が! や、やります!!!!」
それを見て、笑いを堪えるのに必死なジムが言う。
「ぶぶっ……じゃぁ……お、お願いククク……」
「は、はい!!」
ミィナはベットの上で涼しげに寝るキリオの顔を覗いた。
『キリオ様を目覚めされる為の……御呪い……そう! これは儀式なの! 必要な……とても必要な儀式!! はぁっ!! ダメ! 心臓が張り裂けそう!! でも頑張るのよ! ミィナ!! 私がキリオ様を助けるの!! わたしが!!』
頭が痛くなる程の自分の心臓の音が鳴り響く。
恥ずかしさで熱った全身。
そして、経験した事ない緊張。
ミィナはそれでもキリオの唇へと顔を寄せる。
そして、ミィナの鼓動がピークに達した。
その時だった。
「……起きてるよ」
「きゃぁぉぁぁあああ!!!!!!!」
ミィナは驚きの余りに思わずキリオの頬を力一杯にビンタしてしまった。
「あ! キ、キリオ様!? す! すいません!!」
「……いてて……」
その時、ミィナは目に涙を溜めて言う。
「……キ、キリオ様……ご無事で本当に良かった……」
そのミィナを見てキリオは謝った。
「ごめん……心配かけたみたいだね」
そのキリオの反応にミィナは少し違和感を覚えた。
いつものキリオなら騒ぎ、敢えて元気なフリをする物だった。
しかし、今のキリオはどこか少し、闇を抱えている様にミィナは感じていた。
そして、その時ジムが言う。
「キリオ? いつから起きてたの?」
「御呪いの所……と言うか逆だろ? 眠る女性に王子がキスな」
それを聞いたジムが怪しい笑みを浮かべ、キリオに聞いた。
「それはそうと……何ですぐに起きなかったの? あ! わかった! ミィナのキスが欲しかったんだ?」
ジムのその言葉にキリオは目を逸らしてジムに言った。
「ちげぇよ……お前に……何て謝れば許してくれるのか……ずっと悩んでたんだ」
キリオはマグリとの戦いで、余りの恐怖でジムを置いて逃げ出したことを気にしていた。
「あぁ……裏切か………で? 答えは出たの?」
「めっちゃストレートに聞いて来るのな?」
キリオは一呼吸置いて言葉を続ける。
「謝り方なんて何もねぇよ……ただ、ちゃんと謝りたい……それでダメならダメでしょうがないと思ってる」
そして、キリオは改めてジムの名を呼んだ。
「ジム……本当にご ーー」
「いいよ!!」
キリオが謝り終える前にジムが遮った。
「ーー え? い、いや! ちゃんと謝らせてくれよ!!」
「良いんだって! 結局最後にはキリオが助けてくれたんだから!」
「え? それ……ど、どういう……あぁ……確かに言われて見れば……俺達助かったんだな」
キリオは改めて思い返した。
キリオの最後の記憶では謎の男と話した所で途切れている。
あの大惨事の状況で今ジムとツルギが生きていた事に助かった事を理解した。
そしてその時、ミィナがジムに聞く。
「では、先輩教えてください。何があったのですか?」
「ツルギ話してくれ」
「御意」
ツルギがジムに代わり、重要な所まで話す。
「………そこでキリオ様……あなたは確かにあの時「マモン・グリード」と言う者に殺されました。その後もう1人の女性が現れ、そして守護獣が現れ、マモングリードと女性は消えた。しかし、気づいた時にはキリオ様は蘇り、守護獣を糸も容易く倒しておりました」
そして、キリオが口を開いた。
「そんな事になっていたのか……やっぱり記憶が全くないな」
改めてツルギがキリオに聞く。
「キリオ様? あの力はいったい?」
「……以前にも俺は暴走しているんだ……そして、今回は前とは違った。」
ジムがキリオに聞く。
「どういうこと?」
「俺はその時、白い空間で謎の男に会ったんだ。そこでそいつが……自律錬成って言っていた…」
「自律錬成? 錬金術は全くわからないけどそんな物あるの?」
「そんな物聞いたこともなければ……あったらかなりまずい話だ」
「なんでまずいの?」
「……俺の意識とは関係なく発動し、そして行動していた……俺達の地球からしたらAIとかプログラムみたいなもんだぞ」
「その危険性が今一わからないんだけど……」
「……自律錬成が仲間を敵と判断したらどうする?」
「あ……それはやばいね」
「いったい……何がどうなってんだか」
「まぁ、何はともあれ。みんな無事だったんだからとりあえず安心して良いんじゃない?」
その言葉にキリオはフールを思い出し、更にザーコのお願いを思い出した。
「そういえば……フールは?」
「あ……うん……」
ジムの反応にキリオは疑問を感じる。
「ご自分で見られた方が早いでしょう」
ツルギはそう言ってキリオをフールの部屋へ案内した。