「懶神」
20「懶神」
「……また嫌夢か」
そこは真っ白な空間、そして、孤独を感じる程の無音の世界。
不思議とジムは冷静だった。
『キリオが生きてたからかな……死んでたら立ち直れなかっただろうな……』
しかし、その無音を破る者が後ろから声をかける。
「やぁ! ジム! 今回は随分と危なかったね!」
余りの元気あふれるその声と言葉にジムは振り返り、その人物に言う。
「ふざけないで……あなたには聞きたい事が山ほどある……懶神……僕をはめたのか?」
そこにはジムと同じ様相をした懶神がいた。
「おいおいおいおい! ちょっと待てよ! 怒ってるの? 俺の所為じゃ無いよ? 考えてもみろよ! キリオのマナダンジョンに着いて行けば、チートの武器が手に入るってのは本当だっただろ?」
軽々しく言う懶神にジムは怒りを露わにする。
「あんな大惨事になるなんて聞いてない!! 仲間が死んだんだぞ!! ふざけるな!」
「そこまでの未来を俺が予想できるとでも思ってるいのかい?」
「神なんだろ? そのぐらいやって見せろよ」
「神って言ったってねぇ? 俺まだ見習いみたいなもんだから! そこは無理言っちゃいけないよ! ジム君!」
「今まで懶神の言う通り来て、確かに助かっては来た……けど今回は度を超え過ぎてる! どういうことだよ!」
「だから! あんな事になるなんて俺にもわからなかったんだって! 本当にごめんって!」
「本当は何か企んでんじゃないのか?」
「 何も無いって! 友達のキリオ君は生きてたんだからさ! いいじゃん! 死んだ仲間だって裏切った仲間でしょ? なら死んで当然じゃん? 何がいけないのさ? 強い武器も手に入って! 1番の友達も死ななかった! 何が不満なのさ!」
「懶神が言ってるのは結果に過ぎない……その過程が危険なら教えてほしい。僕はもう友達を危険に会わせたくない」
「ジム君? ここは異世界だよ? 死と隣り合わせの世界だよ? 君が居た日本とは違うんだよ? おわかり?」
「どの創作物の話でも、転生者にはだいたい神が語りかけてくるけど……お前は一番最低だ」
「いやいやいやいや! もっとひどいのなんてゴロゴロゴロゴロいるって! 俺なんてかなり優しい方だよ? 運が良いって言っても過言では無い!!」
「もういい……お前を信用した僕がバカだった。利用できるなら利用しようと思ってたが、ここまで僕が利用されるならまっぴらだ」
「ジム君? 今更過ぎないか? お互い利害が一致したのは確かだろ? 君が言ったんじゃないか?「悪魔とだって契約する」って」
「わ、わかってる」
「しかし、ジム君も熱いよね? なんだっけ?「アンカー・ベガ」ちゃんだっけ? 好きな女の子の為に神と契約するなんて! 楽したいって気持ちが伝わってくるよ! 自分では頑張ろうとしないで俺に頼って来るんだもん!! それはもう怠惰の感情に近いんじゃ無いかな?」
「僕は僕なりに頑張ってきた……その言い方やめてくれないか……でも、あの子を救ってくれた事は感謝してるよ。僕もこの契約に不満があるわけでは無い……けど危険は教えてくれ」
「はいはいはいはい。任せてよ!」
「それで? 次は?」
懶神は自分のこめかみの所に人差し指を突き刺し、抉る様に掻き回し、そして、考える。
「んんん……そうだなぁ……これかなぁ? 多分キリオ君達と…」
そして、見つけた様に言葉を続けた。
「あ! もうこれからずっとマナダンジョンの旅になりそうだよ? そして、次に向かうのがマナの地「氷京」に行くんじゃないかな?」
懶神のその言葉にジムは驚く。
「……え? 今なんて言った? これからマナダンジョンの旅だって?」
「ん? なんかおかしなこと言った?」
「ちょ、ちょっと待ってよ……ま、また危険があるんじゃないのか?」
「そうだね! 危険ありありだとおもうよ? 絶対誰か死ぬし!!」
「は? 誰が死ぬんだよ……」
「いやいやいや! それを言っちゃうと俺の言霊が反応して40%の確率が80%になっちゃうよ!? いいの!?」
「じゃなんでアンの時は教えたんだよ!!」
「あれは俺が助けることができたからさ!」
「……ってことは……今回……助けられないって事?」
「そうなるね!!」
「ふざけないでよ! そ、そんな危険な所に行けない……もうあんなのは嫌だ」
「ジム君? 君は行かなくたっていいんだぁ!」
ジムはその言葉に驚き、言った。
「ど、どういう意味だよ……それ?」
そして、ジムと同じ様相の懶神はジムの顔で不気味な笑みで言葉を返す。
「キリオ君だけでも結局は向かっちゃうから……へへへ」
その懶神の言葉にジムは理解した。
「お、おい……なんだよそれ……まさか!? お前!?」
「おっと!? そろそろそろそろ時間だね! またね!! ジィムゥ君!!」
「お、おい! 待てよ!! 待てぇ!!」
その時。
「おい! 待てよ!!」
気づけばジムはベットの上で叫んでいた。