「困りますゴブリン様」
ここに足を運んで頂きありがとうございます!
異世界での美容師を描く小説になります!
しかし、美容師なのに超バトル系です!
楽しんでください!
そして、
挿絵をなるべく多く増やして行きたいと思っております!
挿絵は出来る限り追加して行きますのでそこも含めて楽しんでいただけたらなと思います!
よろしくお願いします!
「困りますゴブリン様」
街から離れた森の奥。
大樹と隣接した一軒家。
窓から差し込んだ朝日の光芒がいくつもの鏡の中を通り店内を明るく染める。
窓際に置いてある、名もわからない植物。
その葉に乗った水滴が虹色に輝き、今日の機嫌を教えてくれる。
そして、黒髪の男性がお店の扉に掛かる看板をひっくり返し、オー プンの文字に変わった。
「よし! 開店!」
異世界美容室が開店した。
男性は自分のお店に瞳を潤わせ言葉が漏れる。
「漸く……漸くマイサロンが完成したんだ……」
男性は長い過去の記憶を思い返しながら言葉を続ける。
「長かった……この道のりはとても長かったなぁ……」
その横で長い尻尾を揺らしながら見つめる猫の耳の女性獣人が言葉をかける。
「キリオ様? 急にどうしたんですか? なんか怖いですよ?」
「ミィナ……今日からは俺を店長と呼べ!」
ミィナはキリオが今までずっとお店を出したかったことを知っていた。
だからこそ喜んでミィナは言う。
「はい! 店長!」
「あぁ! なんて良い響きなんだ!」
キリオはその店長と言う響きを肌で感じ、感極まる。
「よしっ! 後は中で少し準備しよう! ミィナは鏡を吹いてくれるか?」
「かしこまりました店長!」
「あぁっ!! 良い響きっ!!」
2人は店内の準備を始める。
ミィナは鏡を拭き、キリオは鋏のメンテナンスをする。
しかし、その時だった。
扉に付いていた鈴が鳴り、お客さんが入って来た事に気づく。
「いらっしゃいませー!」
『 来たぁ!! 初めてのお客さん! 記念すべき第一号!! 俺の門出の初めてのお客さん!!』
キリオが振り向いたその時、そこには10匹程のゴブリン達が群がっていた。
「……へ?」
キリオは面を食らい思わず変な声が出る。
そして、その先頭の刀を持つゴブリンが口を開いた。
「なんだ? なんだぁ? この店は? お前達は俺らの縄張りで一体何をしている!」
キリオにとってはゴブリンだろうと記念すべきお客様。
ゴブリンでも大歓迎だった。
「あ! ここは髪を切るお店です! 異世界美容室へようこそ!」
「ん? そうか……じゃぁその髪とやらを切ってもらおうじゃねぇかぁ?」
先頭の隊長であろう刀を持つゴブリンは鏡の前にある椅子に勝手に座る。
それを見てキリオは恐る恐る口を開いた。
「あ……え、えっと……お、お客様?」
髪を切り始めないキリオにゴブリンが声を上げる。
「なんだよ! 早くしろよ!」
しかし、キリオは困っていた。
「いや……非常に申し上げ辛いのですが……」
キリオの余りの対応の遅さにゴブリンは怒鳴り声を上げる。
「なんだよ! 早くしろよ!」
そして、キリオはゴブリンに伝える。
「すいませんが……お客様には髪が……ありません……」
「……。」
その一言でその空間が静まり返った。
そう、下級ゴブリンには髪が生えていなかった。
そして、沈黙を置いてゴブリンは怒り始める。
「てめぇ! 俺をバカにしてるのかぁ!?」
「いや! ここ髪切る所だから! 髪が無いんだから切れないでしょうがぁ!!」
「それをバカにしてるって言ってんだ!」
隊長のゴブリンは仲間に指示を出す。
「おい! お前らこの店をぶち壊せぇ!!」
ゴブリン達は手に持つ木から作った武器で辺りの鏡や椅子、テーブルなどを壊し始める。
「……え? ちょ、ちょっと! 困ります! や、やめてください!」
急に暴れ出したゴブリン達にキリオは戸惑いながらも止めようとゴブリンの腕を掴む。
しかし、他の仲間のゴブリンに後ろから後頭部を殴られ、床へと転がった。
「キリオ様!?」
ミィナがキリオに駆け寄り状態を確認する。
「いってて……」
「キリオ様!? 血が出てますよ!?」
しかし、キリオは負傷よりもゴブリンに破壊されていくお店を見て絶望していた。
「また……壊れてく……」
現実世界でお店を出し、全焼した記憶がフラッシュバックする。
故郷でのお店は苦悩の末に手に入れたお店だった。
いつも後一歩の所で妨げられ、何度も何度も失敗し、それでも漸く手に入れたお店だったが、開店前に全焼。
そして、異世界に転移させられ、絶望していた。
しかし、異世界で苦悩を乗り越え、修行を乗り越え、手に入れた異世界美容室のはずだった。
「なんでいつも……こうなんだよ……」
また、キリオの目の前で積み上げてきた人生が崩されて行く。
「……クソ野郎……」
だが、キリオは異世界に来て、現実では無い力を手に入れた。
「……許さない……」
キリオは俯いたまま立ち上がる。
「……絶対に許さない……」
鋭い眼光をゴブリンに向け、そしてミィナに指示を出す。
「ミィナ……コイツら全員外に出せ」
「もっとお店が壊れますが、よろしいのですか?」
「構わない」
「わかりました」
ミィナは暴れるゴブリンに向かって手を翳し、詠唱を唱える。
「我、理に触れ、主たる根源に至りし魔を拝頂せし……そして、今ここに我の名をもって戒現せよ! 微風!!」
ミィナの目の前に緑色の魔法陣が形成され、そこから音を立てて凄まじい風が発生し、家具など、お店の壁もろともゴブリン達を外に吹き飛ばす。
「何しやがる!」
ゴブリン達は起き上がっては怒鳴り声を上げた。
そして、半壊した入り口からキリオが出てきて言う。
「は? 何しやがるだと? お前ら覚悟は出来てんだろうな?」
「あ? 人間の分際で何言ってやがる!」
「俺の店をこんなんにしやがって……やっとの思いで手に入れたんだぞ? どれだけ大変だったか……お前らにわかるか?」
「そんなの知るか! 1番壊したのは今の魔法だろぉがぁ!? かまわねぇ! 全員でやっちまえ!」
刀を持つ先頭のゴブリンが指示を出し、周りのゴブリンがキリオに飛びかかろうとした。
その時、キリオは自分の右腕を左手で掴んだ瞬間に皮膚に錬成陣の文字が浮かび上がり、発光する。
そして、右手を地面へと叩きつけた。
「処理してやるよ!!」
その時、青い雷光を走らせ、触った地面が形を変えていく。
キリオが立ち上がった時には胸ぐらいまでの高さの大きい鋏、「鋏剣」が出来上がっていた。
「全員……歯食いしばれ!!」
攻撃を放ってきたゴブリンにキリオは鋏の片方のリングに手を掛け回す。
回した遠心力で鋏の刃が開き、ゴブリンが持つ木で作った武器に目掛けて開いた鋏が火花を散らして閉じる。
その瞬間、鋏剣の余りの斬れ味にゴブリンの武器は柄から先が無くなり、キリオに攻撃は届かない。
更にキリオはそのまま回し蹴りを繰り出し、ゴブリンを吹き飛ばした。
「まず1匹」
そして、幾度となくゴブリンの攻撃を回避しては武器を無力化し、打撃で吹き飛ばし、気絶させていく。
それを見ていた刀を持つゴブリンが驚いていた。
「な、なんなんだお前はぁ!?」
向かってきた中での最後のゴブリンを気絶させ、キリオはその一匹残ったゴブリンに答える。
「俺は美容師だ!! 錬金術使いのなぁ!!」
「美容師!? そんな職業聞いたことねぇぞ!」
「これから流行るんだよ!」
キリオは鋏剣を構え直し、笑ってそう言った。
「くそが! 死ねぇ!」
ゴブリンは突進し刀をキリオに目掛けて振り下ろす。
しかし、気づいた時にはキリオは消え、ゴブリンが持つ刀の刀身もいつの間にか無くなっていた。
そして、ゴブリンは切断面から斬られたことに気づく。
「い、いつの間に!?」
『み、見えなかった!? いつ俺は刀を斬られた!? いや!? そもそも何故刀を斬れる!?』
「知りたそうな顔してんな」
背後から聞こえたキリオの声にゴブリンは振り返り言う。
「な、なぜだ!? なぜ鉄の刀を斬れる!?」
「土の中には、鉄も、ナトリウムも、チタンも、炭素も普通の鍛冶屋では作れない物が俺には作れんだよ」
「そ、それを使ってその鋏を作ったと言うのかぁ!?」
「それとな!!ーー」
キリオは片足を軸に使い回転し、遠心力をつける。
「ーー美容師の鋏は世界で2番目に斬れ味がいいんだよ!!」
キリオは力一杯に回し蹴りを見舞い、ゴブリンは吹き飛び気絶する。
そして、最初に気絶させたゴブリン達が気づき、仲間を抱えて退散していく。
「次は髪の毛を生やしてから来いってぇの!」
逃げるゴブリンにキリオはそう声をかけ、ゴブリン達は森の中へと消えていく。
その時、後ろからミィナがキリオに言う。
「キリオ様? 下級ゴブリンには髪は生えないんですよ?」
「え!? そうなの!? それ……もっと早く言ってよ」
「てっきりキリオ様なら知っている物かと」
「俺の世界じゃゴブリンなんて居ないからな。やっぱりそう言う異世界の常識はまだ難しいなぁ」
「そうでしたか……ちなみに先程の……」
「ん? 何?」
「1番の切れ味はなんなんですか?」
「あぁ、それ?」
「はい」
「医療器具だよ」
「医療器具?」
「ん? あ! そっか! 異世界は治癒魔法があるから医療器具無いじゃん!」
「何ですかそれは?」
「俺の世界には魔法が無いんだ。だから体の皮膚を切って中の内臓を治したり、縫ったりして治す時に使うのが医療器具」
「キリオ様の故郷は大変なんですね」
「俺からしたら異世界の方が大変だよ。生きていく為に戦いが必要なんだしさ」
「故郷では戦いは無いんですか?」
「ん……ないわけじゃないかな……日本は平和を求めてる国だったから無いけど。それに俺は痛いのは好きじゃないんだ」
「……?」
「なに? どしたの?」
「キリオ様? 頭から血出てますがそれは平気何ですか?」
「え?」
キリオは自分の頭を触り、手についた血を確認した。
「え!? 痛い!? そうだ!? え!? 痛い!! 俺武装錬金するの忘れてた!?」
「い、今治します! じっとしててください!」
「痛いっ! 速く! 速く直して!! お願いっ!!」
異世界美容室の初日はお店の半壊からスタートした。
まず、ここまで読んで頂きありがとうございます!
「錬金術使いの異世界美容師」のスタートはお店の開店からお話を書かせていただきました!
詳しい転移してからの過去編は少し進んでから書く予定です!
美容師に冒険が必要な所まで書き、理解してもらい、過去の話へと移りたいと思いますのでお付き合いお願いします!