「絶体絶命」
「絶体絶命」
マグリがキリオの頭を両断した。
「……ん? 手応えがなさすぎる……興醒めにも程があるぞ。少し期待をしてしまったか? 神が考えることは理解出来ん」
「………キ、キリオ? お、おい……う、嘘だろ?……」
ジムは一瞬何が起きたか分からなかった。
そして、マグリがまるでゴミの様にキリオを剣から振り払った。
「……う、うぁぁああああああ!!!!」
無惨に殺され、転がってきたキリオを見て、初めて友達が死んだ事にジムは気づき、絶叫する。
「 なんで!! なんで!! なんでだよぉ!! 異世界のチート生活じゃなかったのかよ!! 何でこんな!! 嫌な思いばっかしなきゃいけないんだよ!! 何でも上手く行くのが異世界だろう!? 何で!! あぁあ!! 何で!! なんで!! 何でこうなったんだよ!!」
そして、ジムは否定した。
地面に拳を何度も何度も叩きつけて目の前の現状を否定した。
自分の心を守る為に目の前を否定し続ける。
しかし、数秒黙り込み理解してしまった。
「 あぁ……そうか。僕の所為か……きっと僕がこうなる様に誘導してたんだ……これが全て懶神の思惑通りで……僕は踊らされていたのか?」
気づけばジムから涙が溢れていた。
「ご、ごめんキリオ……ご、ごめんね……僕が君を殺した様な物じゃないか……キリオ……」
ジムは錯乱し、自分自身も何を言っているのか分からなくなっていた。
そして、その時マナークウルフの子供がマグリに向かって雄叫びを上げる。
「おぉぉ小さき者よ……我に向かって捕食者を使うか……主人を殺された怒りか? 弱い主人を持つ事は何と皮肉なことか」
そして、マナークウルフの子供は弱いながらにマグリの足へと一生懸命噛みついた。
「そうか……共に逝くか……すぐに主人に会わせてやろう」
マグリはマナークウルフの首へ向けて剣を振り抜き、首は一瞬で刎ねられ、無惨に転がる。
息絶えるその寸前でキリオを見つめ、重たい瞼に必死に抵抗するが、思い叶わずその瞼は閉じてしまった。
「 この乱れ溢れる感情の中で……主の魂思意が一番……清らかとは歩兵とは何と罪深いのだろうな」
フールはずっと笑い、ジムは俯き自分自身を責め続け、ツルギはマグリの圧倒的な恐怖にただ見ている事しか出来なかった。
それは生物学上の弱気者の習性だった。
マグリは残る3人に向き直り、歩き出す。
「後、3食……フフ……大分、甘味が増しているな」
マグリはジムの目の前で足を止め剣を振り上げる。
「おぉぉ……感じた事のない旨味を頼むぞ? お主には期待しておるのだからな」
しかし、ジムはそれに気づかずキリオの死体を虚な瞳でずっと見つめている。
「おぉぉ……この魂思意!! 我が頂く!!」
しかし、その時だった。
「あらあら……随分と妬ましいわね……ゾクゾクするわ。この表情とても羨ましい。どんな気持ちだったかわかるわ。この表情は愛故の表情……何と素晴らしい……私も死に際を拝見して見たかったわ」
気づけばレヴィエンがザーコの頭を持ち上げ、とても羨ましそうに眺めていた。
マグリはそれに気づき、手を止める。
「……おぉぉ……お、終わってしまったのか?」
「ええ……残念だけど終わってしまったわ」
「おぉぉ……後、3食まっ……」
しかし、マグリが言葉を言い終えるその前にレヴィエンのフードで隠れた瞳が蒼く光、透き通る声で言霊を使った。
「……強欲のマモン・グリード……」
「っ!?」
レヴィエンのその言霊にマグリは瞳孔を狭める。
そして、レヴィエンはマグリに凄まじい嫌悪を向け、言葉を続けた。
「私があなたと何故一緒にいるか、おわかりかしら?」
「……おぉぉ……り、理解……した……」
「行くわよ」
「……して此奴らはどうする?」
「大丈夫よ。生かして帰す気はないわ……ちゃんと調律してきたもの……あら、そろそろね」
その時だった。
沈黙していたマナダンジョンの声が鳴り響いた。
「 −αを確認。Δ%を元に排除を実行します」
その時、突如として激しい揺れが襲う。
壁に敷き詰められていた結晶が激しく崩れ落ち、更に結晶で出来ていた亀の像の中から巨大な亀が奇声と共に現れた。
「おぉぉ……あれが霊亀」
マグリの言葉にレヴィエンは答える。
「ええ……この森地最強の四聖獣にして、マナダンジョンの守護獣……霊亀。このままにしていれば食われて終わりよ」
「おぉぉ……これは此奴らにとって絶体絶命であろう」
「あら、いい表現をするじゃない? マグリにしては妬ましいわ。それでわ帰りましょう? 早く帰らないとルシプラがうるさいわ」
「おぉぉ……わかった」
レヴィエンとマグリは霊亀の奇声を後ろにマナの門を通り過ぎ、消えていく。
そして、レヴィエンとマグリが居なくなった事でツルギがジムに呼びかけた。
「ジ、ジム様!! お気を確かに!!」
「…キ、キリオ……キリオ……キリオ……」
ジムは錯乱状態のまま、ツルギの言葉は届いていなかった。
そして、霊亀はツルギ達に気づき、攻撃態勢を取り始めていた。
「ま、まずい!? ジム様!? 逃げますぞ!?」
「……キリオ……」
「失礼します!!」
ツルギはジムを担ぎ上げ、フールを見た。
「…ハハハ…アハハ……」
精神が壊れ、笑い続けるフール。
それを見てツルギは思うところがあった。
『ジム様達を裏切ったコイツを助ける必要があると言うのか? 此奴を囮にすればジム様とだけなら確実に逃げれる』
ツルギは迷っていた。
フールを助けるか否か。
しかし、霊亀は刻々と近づく。
「くそっ!!」
ツルギはフールも担ぎ上げ、2人を背負いマナの門まで必死に走った。
『くそ! くそ! 私は何をやっているだ!? ゴブリンだぞ!? ゴブリンが他人を助ける!? 聞いたこともないぞ!? 自分達の事しか考えない、悪事の塊のゴブリンが!? くそ!!』
ツルギは必死に霊亀から逃げながら自分が命令以外の自分自身の意思で他人を助けた事に驚いていた。
しかし、霊亀は逃げるツルギを見て口を大きく開ける。
それにツルギも気づいた。
『っ!? 何か!? しかけてくる!?』
霊亀は口に魔力を溜め始める。
唸るような音を轟かせ、魔力が凝縮し、耳が痛くなるほどの甲高い音を響かせ、霊亀の口の中で魔力の光量が増していく。
「くっ!!」
2人を担ぎ、全力で逃げるツルギ。
しかし。
その瞬間、辺りは無音になった。
「まずい!? 逃げきれない!?」
霊亀の咆哮が放たれた。
凄まじい衝撃音を轟かせ、高魔力の熱線がツルギに迫る。
『ジ、ジム様……すいませんでした』
霊亀の高魔力により辺りは真っ白に染まり、凄まじい衝撃音が鳴り響き、爆発した。